ざーやんのマンション暮らし

ざーやんのマンション暮らし
『ざーやん』(ニックネーム)は、団塊世代で、昭和46(1971)年4月から35年間、地方公務員を務めました。この間、平成5(1993)年7月に、県都で中古マンションを購入し、以来経年劣化が進むつマンションに30年近く住み続けています。平成23(2011)年3月11日の東日本大震災では、外壁が一部崩落しましたが生活に大きな支障もなく、津波被害で避難を余儀なくされた両親のマンションでの介護生活を経験しました。そんな住み慣れたマンションが永住の終の棲家となればと願っています。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う制限と義務が課されてから2年半以上たち、多くの人々がパンデミック(感染症の世界的大流行)の終わりを知らせる公式の宣言を切望していますが高齢者にはハードルが高く、巣ごもり状態の暮らしが続いています。これまであれば情報難民になるところ、ITやICTの進展で高齢者のインターネット熱が高まっていることに勇気付けられ、マンション暮らしに必要な知恵を改めて学ぶべくホームベージを開設いたしましたので、よろしくお願いいたします。

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ゼロから学ぶマンション会計 マンション管理組合の財政状況が知りたい? 会計学と複式簿記の初歩的な知識



ゼロから学ぶ
マンション会計
マンション管理組合の財政状況が知りたい?
会計学と複式簿記の初歩的な知識を学びます。
 国土交通省は、「今後のマンション政策のあり方を議論する検討会」の初会合を令和4(2022)年10月31日に開きました。我が国で進行する高経年マンションの増加や居住者の高齢化(2つの老い)に加え、近年みられるマンションの大規模化等のマンションを取り巻く現状を踏まえて課題を整理するとともに、区分所有法制の見直しの動向も踏まえたうえで、管理・修繕の適正化や再生の円滑化の観点から今後進めるべきマンション政策について、幅広く検討することを目的とし、有識者等による検討会を設置したものです。
国土交通省によると、築40年以上の高経年マンションは、昨年末で全国におよそ116万戸となっていて、建物の老朽化と、その居住者の高齢化が進んでいます。こうしたことから、有識者らによるマンションの管理や修繕、建て替えについて議論する「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」を立ち上げ、初会合を開きました。検討会はオンラインで行われ、マンションをめぐる現状と課題や、建て替え条件を緩和するため、法務省の法制審議会で議論が始まっている「区分所有法」の見直し状況などについて確認しました。現行の区分所有法では、マンションの建て替えに所有者の5分の4の同意が必要となっていますが、所在が不明の所有者がいるなど意見がまとまりづらく円滑な決議ができない状況が課題となっています。検討会では、マンションを巡る全ての課題を洗い出し、来年夏ごろに内容のとりまとめをする方針です。
 ※出典/転載/引用:住宅:今後のマンション政策のあり方に関する検討会 - 国土交通省 (mlit.go.jp)

マンション管理組合の経理とは? 
 筆者は、団塊世代の高齢者で、かつ高経年マンションに住んでいることから「2つの老い」を踏まえた様々な課題の解決が必要となっていることは痛感しています。しかし、老朽化したマンションを適切に管理するための管理組合の大切な「お金」である管理費や修繕積立金の収入は潤沢とは言えず、修繕費や管理業者等への委託費などの支出も増加傾向にあります。国土交通省は『マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針』(令和3年9月28日)の「(4)管理組合の経理」で、以下のとおり指摘しています。
(4)管理組合の経理
 管理組合がその機能を発揮するためには、その経済的基盤が確立されている必要がある。このため。管理費及び修繕積立金等について必要な費用を徴収するとともに、管理規約に基づき、これらの費目を帳簿上も明確に区分して経理を行い、適正に管理する必要がある。また、管理組合の管理者等は、必要な帳簿類を作成してこれを保管するとともに、マンションの区分所有者等の請求があった時は、これを速やかに開示することにより、経理の透明性を確保する必要がある。
 また、同基本方針別紙二の管理計画の認定基準の「3管理組合の経理」では、次のように規定しています。
3 管理組合の経理
(1)管理費及び修繕積立金等について明確にに区分して経理が行われていること
(2)修繕積立金会計から他の会計への充当がなされていないこと
(3)直前の事業年度の終了の日時点における修繕積立金の三ケ月以上の滞納額が全体の一割以内であること
 以上のとおり、管理組合の経理については、管理費や修繕積立金の徴収と区分経理を行い、経理事務の推進と透明性の確保(説明責任)を指摘しています。
※出典/転載/引用:住宅:マンション管理について - 国土交通省 (mlit.go.jp)
マンション管理組合の経理に必要な複式簿記の知識とは?
 管理組合の収入と支出を管理するのが「経理事務」であり、マンション管理組合の運営の中で、極めて重要な役割を果たしています。日々の経理事務の積み重ねが、月々の会計報告や年度の決算報告としてとりまとめられます。年度の決算は、翌年度の予算案や事業計画案を作成するための基礎データを提供します。これらの決算案、予算案及び事業計画案は、理事長が通常総会に提出し、総会の承認を得ることとされています。こうしたことから日々の経理事務が適切に行われるためには、実際に経理事務を担当する者とそれを監督する者が相互のチェックアンドバランスが有効に機能することが大切です。管理業者への所謂「まる投げ」は、様々な問題を発生させる原因となりますので、そうした事態を避けるためにも、経理事務担当者は勿論、監督する立場の役員も管理組合の経理に関する知識を心得ておくことが必要です。
マンション管理組合の経理事務は、複式簿記の知識が必要であると言われていますが、管理組合の組合員がやるのは負担が大きいため「管理業者」に委託するケースが多いと言えます。とは言え、自分たちでやろうと自主運営を考えている管理組合もあるようです。そこで、今回は、マンション管理組合の経理に必要な複式簿記の知識とは何かについて解説します。
●複式簿記の歴史
 複式簿記がいつ、どこで誕生したかについての意見は諸説あります。 最も広く受け入れられているのは、14世紀頃のベニスの商人が採用し始めたのが最初であるという説です。
中世の貿易船は、一航海が終わると収支を調べて財貨を分配する習慣がありました。これは「ベニス式簿記法」と呼ばれており、その基本原理は現在の複式簿記にもほとんど形を変えずに残っているとされています。ベニス以外の商人や一般の人々にも複式簿記が広まるきっかけとなったのが、イタリアの数学者ルカ・パチョーリの著書「ズンマ」です。「ズンマ」は当時の算術・代数・三角法などの知識を集大成した数学書で、その中の一部に「計算及び記録要論」として複式簿記が記述されています。パチョーリはさらに数学者としての自身の哲学に基づき、商売を継続するための条件として、「現金」「帳簿」「複式簿記」の3つが必要不可欠と説いています。こうして年月の経過とともに、複式簿記の優位性は広まっていきます。「ズンマ」出版からしばらく経ったイタリアでは「証拠の二重性」という概念から複式簿記の客観性や信頼度が非常に高くなり、複式簿記による帳簿記録がそのまま法廷での審理の際に証拠として採用されるほどでした。さらに時が経過すると、複式簿記はヨーロッパの他の国にも定着し始めます。1660年頃大恐慌に見舞われたフランスでは、倒産する会社が続出しただけでなく、資産を隠すために偽造倒産する会社も多く現れました。このためルイ14世は「倒産時に会計帳簿を裁判所に提示できなかった者は死刑に処する」という法律を制定しました。これにより、倒産する会社が減少しフランス経済も復興し始めることとなりました。そしてこれをきっかけに「複式簿記」はヨーロッパ全体に広まることとなり、18世紀から19世紀のイギリスの産業革命においても合理的で健全な会社経営を助ける存在として活躍しました。
 複式簿記が日本で本格的に採用されたのは、明治時代に入ってからでした。日本では、大蔵省の招きにより銀行簿記の講義をしたイギリスの紙幣頭書記官アレキサンダー・アラン・シャンドが明治6年12月に刊行した「銀行簿記精法」が、日本に初めて紹介された複式簿記とされています。そして翌年、福沢諭吉がアメリカから持ち帰った専門学校のテキストを翻訳して「帳合之法(ちょうあいのほう)」を出版します。この2つが、日本への複式簿記伝播の経緯とされています。その後明治政府は、明治9年に大蔵省へ「簿記法取調掛」を設置し、明治11年には「太政官第42号通達」にて複式簿記を採用しました。明治政府は、地方の予算執行の全面にわたり一貫して複式記帳を行っていましたが、明治14年に日本銀行が創立され中央銀行による国庫金の集中管理が可能となってからは、複式簿記から現行の官庁会計に改めています。会計の記録における一つの技術に過ぎない複式簿記が世界中でこれほど普及し認められてきたのは、次のような利点を持つ非常に優れた会計手法であるからです。
①複式簿記の最大の利点は試算表にあるとされています。借方と貸方は必ず一致する性質を持つことから、双方の合算結果を比較することで、自分の帳簿に間違いがあればすぐに把握することができます。とてもシンプルなことではありますが、単式簿記や他の方法では不可能なことです。
②普及した理由の2つ目は、複式簿記の理路整然とした仕組みによって取引を漏れなく記録できたことです。商人にとって、記録の間違いや失念による記録の欠如は信用に大きく影響しました。 複式簿記によって適切かつ理路整然と記帳していくことで間違いや漏れのない記録を作成でき、商売に対する誠実さを表すこともできたのです。
 このようにして、数ある記帳方法の中でも複式簿記が「正確で誠実な、良い簿記」として認知されるようになり、「複式簿記を使っている=道徳的に誠実な仕事をしている」と認識され、広く普及する理由になったとされています。商品ごと、事業ごとの利益を算出できることは複式簿記の特に大きな利点です。 ウォードハフ・トンプソンの著書「会計士の託宣」(1777年)では、次のように述べています。「複式簿記によれば、商品ごとの損益がわかるだけでなく、商売の中で注力すべきところとそうでないところを判断できる。これは商人に不可欠なことで、これがないと商売は勘と経験のみに頼らざるを得なくなる。」冒頭で述べたように、複式簿記は人類最高の発明の一つと言われています。 そのように称賛したのは、18世紀の文豪・ゲーテでした。正確にはゲーテ自身が自分の考えとして表明したのではなく、著書「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」という教養小説の中で登場人物に次のように語らせた言葉です。「商売をやってゆくのに広い視野をあたえてくれるのは、複式簿記による整理だ。整理されていればいつでも全体が見渡される。細かしいことでまごまごする必要がなくなる。複式簿記が商人にあたえてくれる利益は計り知れないほどだ。人間の精神が産んだ最高の発明の一つだね。立派な経営者は誰でも、経営に複式簿記を取り入れるべきなんだ。」あくまで小説の一編ではありますが、これは複式簿記がいかに素晴らしい会計技術かをシンプルに表現している言葉と言えるでしょう。 そしてゲーテ自身も、文豪であると同時に実務家であり教養人でした。簿記の重要性を高く認識しており、ワイマール公国の大臣であった時に学校教育に簿記の授業を義務付けたとされています。
  自分が務めている企業や団体の財務書類を見て「内容を理解できる」日本人はそう多くないと言われています。日本人の多くは、一般教養としての複式簿記の知識を身につけておらず、会計の原理原則と複式簿記3級程度の知識は、知っていた方がいいのですが。会計とは、お金の出入りや財産を記録するためのもの、その記録から様々な情報を得ることができます。国や地方自治体、上場企業であれば.財務書類は公開されており、誰でもインターネットで簡単に閲覧できるのです。
会計学とは何か?
①企業の取引・活動(仕入、生産、販売、給料支払いなど)を帳簿に記入することとそのルール
②帳簿を世間一般の人(銀行、税務署、株主など)に見せることとそのルール
③企業内での様々な管理のために用いられる数値データを計算することとそのルール
 以上を総称して「会計」と呼んでいます。学問としての「会計」は、企業内でつけている帳簿に関する学問で『会計学』などといいます。 一般家庭でも『家計簿』という帳簿をつけますが、家計簿をつけないと、お金が余るのか、それとも足りないのか、何にお金を使ったのかを把握することができません。それと同じで、企業も帳簿をつけないと、企業がどのようなものにどれだけ使い、またいくらお金が余るのか、それとも足りないのかなどを把握できません。一般家庭と異なるのは、帳簿をつけることが原則で、全世界で共通のルールに基づいて帳簿をつける必要があることです。この帳簿をつけることを扱った技術が『複式簿記』です。『複式簿記』では、帳簿のつけ方・共通ルールを学びます。
複式簿記とは?
 『家計簿』と『企業の帳簿』とを比較することで、簿記の特徴を説明します。
家計簿
日   付 摘   要 入 出 金
11月20日 給与振込 200,000
11月22日 クリーニング代支払 3,000
11月22日 スーパーで食料を購入 5,000
11月25日 クレジットカードで洋服購入(1万8千円)
11月28日 クレジットカード代金引落 30,000
11月30日 家賃支払 60,000

企業の帳簿
日 付 勘定科目 金 額 勘定科目 金 額
11月20日 普通預金 200.000 売上金 200,000
11月22日 清掃費  3,000 普通預金  3,000
11月22日 食料購  5,000 普通預金  5,000
11月25日 衣料品費 18,000 未払金 18,000
11月28日 諸口 30,000 普通預金 30,000
11月30日 支払家賃 60,000 普通預金 60,000

 『家計簿』は「摘要」と「入出金」のセットが1個、『企業の帳簿』は、「勘定科目」と「金額」のセットが2個あります。このように、企業の帳簿は、左と右に分けて記帳します。この仕組みは『複式簿記』と呼ばれています。『複式簿記」は、全世界共通のルールで、簿記の大前提の一つです。企業の帳簿は、左右で一組の様式(複式)になっています。左側を『借方』(かりかた)、右側を『貸方』(かしかた)と呼びます。初めての方は、『借方』のひらがなの2画目の「り」は左側に、『貸方』のひらがなの2画目の「し」は右側にはらっていますので、左側は『借方』、右側は『貸方』と覚えてください。
借方と貸方の覚え方
 英語読みでは、右側が「ライアビリティ&キャピタル(負債と資本)、左側を「アセット(資産)」と言います、右側が入ってくるお金で、どのように変わったのかを左側で見るのが複式簿記です。お金の流れには、常に2つの側面があり、仮に、洋服を買ったとして、そのお金はどこから来たものなのか。自分で稼いだのか、人から借りたのか、「お金の出どころ」があり、そのお金を「洋服」という形に変えたことになります。複式簿記では右側と左側とで、「1つのお金の取引」を表し、例でいえば、クレジットカード(未払金)は右側、それで得た洋服(衣料品費)は左側に記帳するのです。財務書類を読む知識を身に着けていくうえで、この「複式簿記」の基本を覚えましょう。また、特に「誰の」貸借対照表(バランスシート=BS)なのかは、常に注意してほしいと思います。
  複式簿記であること以外で、家計簿と企業の帳簿で異なる点は、帳簿に記載されている用語です。企業の帳簿に書かれている用語は、〇〇費などと、初心者には馴染みのない用語が多くて戸惑いますが、これらの用語は、「勘定科目」と呼ばれもので、勘定科目名は本来自由に設定できますが、例えばビルや家屋は「建物」、パソコンや机は「備品」、洋服は「衣料品費」、お金は「現金」というように、事実上統一されています。借方/貸方という複式簿記のスタイルが生まれたのは今から500年以上前のことで、イタリア人数学者が考案したと言われています。現在では、簿記と言えば複式簿記のことを言います。かの詩人や小説家で有名なゲーテは、複式簿記を人類最高の発明の一つとであると絶賛したそうです。
 簿記では、帳簿に記入する際、複式簿記の原理に従い、左右に分けて記入していきますが、借方(左)に何を記入するか、貸方(右)何を記入するかを判定するルールがあります。


簿記には、資産、負債、純資産、費用、収益という5つの概念があります。

資産 = 負債 + 純資産
そして費用と収益

 『しさんイコールふさいタスじゅんしさん そしてヒヨウとシュウエキ』と暗記します。
 簿記では、企業が金銭的な価値で持っているもの・背負っているもの・負担するもの等は、すべてこれら5つの概念のうちのどれかに分類して帳簿につけます。金銭的な価値がないもの・不明なものは簿記の対象ではないので帳簿にはつけません。夢、希望、運、評判、従業員の生活などは、どんなに企業が持っていても、また背負っていても簿記の対象外です。

資産とは?
資産 = 負債 + 純資産
費用     収益

 企業にとって資産とは、財産や権利などです、「持っているとプラスになるようなもの」というイメージです、例えば、現金、預金、債権(売掛金、未収入金、貸付金など)、商品。株式、土地、建物、備品(机、パソコンなど)は資産に含まれます。売掛金(うりかけきん)とは、商品をツケで売ってまだ代金を回収していない段階の「ツケ代金を請求できる権利」のことです。「金」が付きますがお金ではなく債権です。未収入金もお金ではなく債権です。商品以外のものを販売したときのツケ代金を回収できる権利です。

負債とは?
資産 = 負債 + 純資産
費用     収益

 企業にとって負債とは。マイナスの財産や義務などです。「持っているとマイナスになるようなもの」というイメージです。例えば、借入金(借金のことです。)や買掛金や未払金などが負債に含まれます。買掛金(かいかけきん)とは、商品をツケで購入してまだ代金を支払っていない段階の「ツケ代金を支払わなくてはならない義務」のことです。これも「金」が付いていますが、お金ではなく、債務です。未払金もお金ではなく債務です。商品以外のものを購入したときのツケ代金を支払う義務です。借入金自体もお金ではなく法律上の債務です。

純資産とは?
資産 = 負債 + 純資産
費用     収益

 『純資産は、資産と負債との差額である』と簿記のテキストでは説明されています。確かに定義はそうですが、それではなかなか理解できないと思います。純資産とは、『企業が企業のオーナー(株式会社では株主)に対して負っているもの』若しくは『企業財産に対するオーナーの取り分』とでもいえるものです。例えば「資本金」がそうです。この概念は、簿記の学習をすすめていくと解りますので後述します。

費用とは?
資産 = 負債 + 純資産
費用     収益

 費用とは、経費イメージのものです。例えば家賃の支払い(支払家賃)、電気料金(光熱水費)、電話代(通信費)、給料などが費用の例です。

収益とは?
資産 = 負債 + 純資産
費用     収益

 収益とは、収入イメージのものです。例えば売上高、手数料収入、配当収入などが収益に該当します。
 簿記では、すべての企業活動を
①『どの勘定科目で表現するか』を考え
②『勘定科目は、5つの概念のうちどれに該当するか』を考えます。
③『増加するか・減少するか』を同時に考えます。
 例えば、『お金を受け取った』を簿記で考えると
①お金を表す勘定科目は『現金』です。
②『現金』は『資産』に分類します。
③受け取ったので『増加』です。
④『現金という資産の増加』です。
 ちなみに、資産・負債・純資産については『増加』『減少』と表現することが多く、費用。収益については『増加』『発生』と表現することが多いようです。
<練習1>『1000万円の土地を現金で買った』という取引を簿記的に分類してみます。
①土地の勘定科目は『土地』です。
②土地は『資産』です。
③資産を買ったので『増加』です。
④『土地という資産の増加』です。
 しかし、増加したり減少したりしたのは、土地だけではありません。現金も増減しました。そこで、現金についても考えます。『現金という資産の減少』です。この取引では土地の増加と現金の減少が同時に起きます。
<練習2>『電気代10万円を現金で支払った』を簿記的に分類します。
①電気代の勘定科目は『水道光熱費』です。
②水道光熱費は『費用』です。
③費用が『発生』しました。
④『水道光熱費という費用の発生』です。
 その一方で『現金』という『資産』が『減少』しました。

正しい仕訳をしてみよう!
資産 = 負債 + 純資産
費用     収益

 これは、増加したときに帳簿の借方欄に記入するのか、貸方欄に記入するのか表しています。この式の左辺には『資産』があります。資産が増加したときは、帳簿の借方に記入します。また、式の右辺には『負債』と『純資産』があります。負債や純資産が増加したときには、帳簿の貸方に記入します。資産の減少は貸方に記入し、負債が減少したら借方に記入します。『費用と収益』については、費用が増加(発生)したら借方、収益が増加(発生)したら貸方に記入します。
 前述した<練習1>『1000万円の土地を現金で買った』はどのように記帳するかというと、
土地という遺産の増加は
借方へ
現金という資産の減少は貸方へ
以下のように勘定科目と金額をセットで記入します。
(借)土地10,000,000(貸)現金10,000,000
このような『借方貸方』をセットにしたものを『仕訳』(しわけ)といいます。仕訳を帳簿に書くことが簿記です、正しい仕訳ができるようになることが、簿記をマスターすることです。なお、仕訳の借方の金額と貸方の金額は必ず一致します。借方への記入と貸方への記入の両方が必ずあり、借方のみ、貸方のみの記入はないことに注意してください。『資産=負債+十純資産』という等式、所謂貸借対照表等式で覚えることが大切です。
 『仕訳』は、「
習うより慣れよ」で、以下例題を提示しますので、やってみて、答えと解説を見て理解し。覚えてください。
<例題1>『8百万円のビルを購入した(引渡しも受けた。)代金は現金で支払った。』
(借)建物8,000,000(貸)現金8,000,000
(建物という資産が増加し、現金という資産が減少した。)
<例題2>『8百万円のビルを購入した(引渡しも受けた。)代金は月末払いとしたため、まだ払っていない。』
(借)建物8,000,000(貸)未払金8,000,000
(建物という資産が増加し、ツケ払いの債務(未払金)という負債が増加した。)例題1と異なるのは、代金を払ったのかどうかという点です。)なお、ビルは『商品』でないため、ツケ代金支払債務は『未払金』という勘定科目を用います。『商品』の場合は貸方に『買掛金』という勘定科目を用います。
<例題3>『月末になったため、上記例題2の代金を普通預金から支払った。』
(借)未払金8,000,000(貸)普通預金8,000,000
(普通預金という資産が減少し。その結果、未払金という負債が減少した。)
<例題4>『5百万円の土地を購入した(引渡しも受けた)。代金のうち2百万円は現金で支払い、残額は月末払いとしたためまだ払っていない。』
(借)土地5,000,000(貸)現金2,000,000
              (貸)未払金3,000,000
 このように、借方・貸方の勘定科目が複数になっても、合計では貸借は同じ金額です。なお、複数の勘定科目がある場合。記載順序のルールはありませんので、自分のわかりやすい順序で仕訳することができます。また、端末によっては、上記のように貸方側に複数の勘定科目がある場合に、2つ目以降の勘定科目の位置がズレて表示される場合がありますので、可能な限り以下のようなフォーマットで表示します。
借方 金額 貸方 金額
土地 5,000,000 現金 2,000,000
未払金 3,000,000

<例題5>『取引先に現金100万円を貸し付けた。期間1年、1年後の返済時に利息も支払う約束です。』
(借)貸付金1,000,000(貸)現金1,000,000 
<例題6>『例題5の貸付から1年が経ち、取引先から利息2万円及び元本100万円の返済を受けた(普通預金口座に振り込まれた)』
借方 金額 貸方 金額
普通預金 1,020.000 貸付金 1.000,000
受取利息 20,000

 貸方は、『買付金』という資産の減少と『受取利息』という収益の発生です。
 企業の帳簿は、このような複式簿記の形式で記入されています。なお、企業の取引を仕訳していくことが簿記ですが、世間一般で使われている「取引」と、簿記での「取引」とは、少し異なります。簿記の「取引」とは、5つの概念の増減を伴うものを言います。「現金が盗難された」は、現金の減少を伴うので「取引」として仕訳しなければなりません。「取引先と売買契約を交わした」だけでは取引ではないのです。その後実際に売買を行えば、それが取引ですので仕訳しなければなりません。「倉庫が火災で焼失した」も資産の減少ですので取引で、仕訳が必要です。簿記会計では、資産、負債、純資産、費用。利益の5つの概念の増減が伴う事象を取引と呼び、仕訳をすることにしているのです。単式簿記ではなく複式簿記の形式を採用している理由は、単式簿記では。記帳できる情報が少なすぎるため、一つの勘定科目に絞って記帳せざるをえないのです。複式簿記を採用すれば、一つの勘定科目に絞る必要がなく、様々な勘定科目の増減を記帳できるのです。確かにこれを発明した先人なスゴイと思います。かのゲーテが複式簿記を人類最高の発明の一つとであると絶賛したというのは頷けます。
商品売買を仕訳しよう!
 企業の活動は、商品販売が中心です。商品は毎日何万以上も仕入・販売が行われていますので。その記帳方法も。より簡便な仕訳、より管理目的に適った記帳方法が考案されています。ここでは、商品販売に関して、代表的な二つの記載方法を解説します。『分記法』(ぶんきほう)と『三分法』(さんぶんほう)です。分記法は商品以外の売買仕訳で基本となる考え方です。商品販売の仕訳では、三分法がメインです。両者の相違を例示します。
<例示>
11月21日『商品1個を80円で購入し。代金は現金で支払った。』

11月28日『上記商品を100円で販売し、代金は現金で受け取った。』
 まずは確認します。『商品』の販売です。『商品』の販売を、どのように記帳するか、記載方法を検討します。
●分記法で仕訳する場合
11月21日『商品1個を80円で購入し。代金は現金で支払った。』
借方 金額 貸方 金額
商品 80 現金 80

(商品という資産の増加、現金という資産の減少)
11月28日『上記商品を100円で販売し、代金は現金で受け取った。』
借方 金額 貸方 金額
現金 100 商品 80
商品売却益 20

(商品という資産の減少、現金という資産の増加、その差額が収益)
 11月28日に20円の収益(儲け)が発生しました。分記法は商品の売買W『商品』『商品販売益』という二つに分けて記帳する方法です。
●三分法で仕訳する場合
11月21日『商品1個を80円で購入し。代金は現金で支払った。』
(借)仕入80(貸)現金80
11月28日『上記商品を100円で販売し、代金は現金で受け取った。』
(借)現金100(貸)売上100
となり、シンプルです。三分法は、商品の売買を『仕入』『売上』(及び『繰越商品』)の3つに分て記帳する方法です。『繰越商品』は決算の時のみ使用する勘定科目です。商品を買ったときは『仕入』を用い。売ったときは『売上』を用い、決算のときには『繰越商品』を用います。『商品』という勘定科目を用いず、手元にある商品が増加しても資産の増加とはしません。分記法は、20円の儲けをすぐに算定できますが、三分法は、すぐには算定できません。このことだけを考えると、分記法がすぐれていると思われるかもしれませんが、分記法で仕訳するには、『仕入れたときの原価がいくらなのか』を常に把握している必要があります。上記例示で言うと、11月28日になって、『11月20日に仕入れた際、いくらで仕入れたのか』と忘れてしまった場合、いちいち調べなければなりません。この例示で商品は1個だから簡単ですが、商品が何千何万となったり、同じ種類の商品でも仕入れる日によって単価が異なったりした場合、それぞれの仕入値(原価)を把握すことが困難です。ここに分記法の限界があります、商品を販売したときに単に『売上』と記載すればよい三分法に利点があります。商品販売の記帳方法には分記法、三分法以外にもいくつかあり、それぞれメリット・デメリットがあります。通常、最初は分記法を習ったとしても、商品販売に関しては三分法しか使わなくなります。なお、週品以外の備品や株式などの売買には分記法を用いますので注意してください。
 三分法による『5万円も商品をカケで仕入れた』ときの仕訳をしまします。

(借)仕入50,000(貸)買掛金50,000
『5万円で仕入れた商品を7万円でカケ販売した』の仕訳をします。
(借)売掛金70,000(貸)売上70,000


決算とは?

 決算は、企業が1年間でいくら儲けたのか、決算日現在で、資産や負債等をいくら持っているか・負っているかなどを把握するためのイベントです、経理部門では、仕訳をして、そのすべてが帳簿に記帳します。仕訳は。各勘定科目の増減を表していますが。合計(残高)は1年間の仕訳を集計しないと残高がわからないのです。また、普段はつくらずに決算の時のみ作成する仕訳(決算整理仕訳)もあります。その他『棚卸』を行って商品等の在庫状況をカウントするのも決算作業の一つです。カウントした結果と、帳簿上の数値が一致するか確認を行います。つまり、日常業務で把握していない残高を計算したり、日常業務では記帳しないような仕訳を記帳することが決算の作業です。
・1年間で収益がいくらあったのか
・1年間で費用はいくらあったのか
・その結果1年間でいくら儲けたのか
・決算日時点で、資産や負債などはいくらあるのか
 決算では、これらを把握するために1年間の仕訳を集計し、貸借対照表や損益計算書と呼ばれる表を作成します。これらの表は。まとめて財務諸表と呼ばれています。財務諸表を作成するために日々の仕訳をし、1年間の集大成が財務諸表なのです。


貸借対照表とは?
 貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)は、決算日時点の資産・負債・純資産それぞれの残高を一覧にした表です。貸借対照表は大きく左右に分かれていて、左側(借方)には資産が、右側(貸方)には負債と純資産の項目が羅列されています。英語でBalance Sheet=バランスシートといいますのでBS(ピーエス)と言われています。

損益計算書とは? 
損益計算書(そんえきけいさんしょ)は、前年度の決算日の翌日(=今年度の初日)から今年度の決算日までの1年間(例えば4月1日から翌年3月31日までの1年間)の間に、収益の累計がいくらだったのか、費用の累計がいくらだったのかを一覧表にしたものです。その結果として算出される収益と費用との差額が損益です。費用<収益であれば利益(黒字)、費用>収益であれば損失(赤字)です。英語でProfit and Loss statementといいますのでPL(ピーエル)と言われることがあります。収益合計から費用合計を引いた差額が利益(もうけ)で、『当期純利益』といい、収益が費用より少ない場合には『当期純損失』といいます。貸借対照表と損益計算書の名称は必ず覚えてください。また、『資産、負債、純資産は貸借対照表の記載され、費用と収益は損益計算書に記載される』ものと覚えてください。貸借対照表はストックの情報、損益計算書はフローの情報であり、『貸借対照表はとある時点の財政状態を明らかにする表で、損益計算書は、とある期間の経営成績を明らかにする表』ということになります。個人に例えると、「どれくらい資産家なのか・どのくらいローンがあるのか」を表すのが貸借対照表で「どれくらい年収があるのか、どれくらい年間支出があるのか」を表すのが損益計算書です。財務諸表は、最低1年に1度作成する必要があります。税務署に提出したり、銀行に見せたり、経済ニュース等で世間に公表して自社株を買ってもらう判断材料にしてもらったり、社長が見て経営判断したり、と様々な用途に使われます。
 経理部門では、日々仕訳がおこり、その集大成として決算のときに2ッの財務諸表を作成します。(3月31日までの仕訳を集計するので、4月1日以降に作業を行います。)
キャッシュフロー計算書とは?
 キャッシュフロー計算書は、お金がどのように流れているのか、現在のお金の状況はどうかといった企業のお金の増減を示す書類のことで、財務諸表のひとつです。キャッシュフロー計算書は英語でCash Flow Statementといいますので、CF(シーエフ)と呼ばれています。キャッシュフロー計算書の「キャッシュフロー」とは、会社の資金の流れのことです。
キャッシュフロー計算書の作成義務は、いわゆる大企業といった一部の企業に限られています。証券取引法におけるディスクロージャーの対象となっている企業に作成義務があり、対象になっていない中小企業のほとんどは、キャッシュフロー計算書の作成義務はありません。企業がキャッシュフロー計算書を作成する目的は、次の通りです。
・損益計算書などと異なる視点で資金の流れや状況を把握する
・資金の流れや状況を把握し、それを経営に活用する
・資金の流れや状況がどのようになっているのかを、株主や従業員、取引先といったステークホルダーに明示する
 以上で、第1話は終了です。「複式簿記は習うより慣れろ!」です。
※出典/転載/引用:ホントにゼロからの簿記3級 『ふくしままさゆきのホントに』シリーズ Kindle版
※出典/転載/引用:『世の中の真実がわかる!明解会計学入門』(高橋洋一著)
※出典/転載/引用:『マンション管理組合会計の手引き』(公益財団法人マンション管理センター著

ゼロから学ぶマンション会計 マンションの経理事務とは(1)


ゼロから学ぶマンション会計
マンションの経理事務とは(1)
はじめに
 マンションを管理するうえで切り離せないのがお金です。区分所有者から徴収する修繕積立金や管理費などの収入、専門業者への修繕費やマンション管理業者への委託費などの支払、管理組合の収入と支出を管理するのが会計で、日々の日常事務が経理業務です。
そんな経理業務は、複式簿記の知識が必要で、管理組合だけでやるのはなかなか負担が大きいものです。そのためマンション管理業者に委託するケースが多いと言えます。しかし、近年のデジタル化の進展に伴い自主管理を目指す管理組合もあるといわれています。そこでここでは、経理の業務内容など、最低限押さえておくべき予備知識について解説していきます。なお、マンションの管理業務をマンション管理業者に委託する場合については、「ゼロから学ぶマンション管理組合の会計とは?(第10話)マンションの管理委託契約とは?」で解説していますので、再読ください。また、会計担当理事についても「ゼロから学ぶマンション管理組合の会計とは?(第7話)マンションの会計担当理事とは?」で解説していますので再読ください。
1 収入
(1)収入の計上方法
① 発生主義に基づく仕訳
 収入は、基本的に発生主義に基づいて計上します。発生主義で収入を処理する場合の原則的な仕訳は、毎月の管理費収入を受け取った分だけではなく、入金しなかった分についても未収入金を相手勘定として計上します。当月分ではなく、翌月分の管理費が入金した場合は、前受金に計上し、その月になったら、前受金から振り替えて、未収入金を減らす仕訳を起票します。このように。収入の原則的な勝利は、毎月、未収入金を相手科目として計上し、入金の都度、入金額だけ未収入金を取崩すことですが、例外的な処理方法としては、期中の各月は未収入金勘定を用いず、入金額を直接管理費収入へ計上し、決算月のみ、決算日現在未収となっている管理費を集計して、未収入金に計上するこも考えられます、
② 管理費等の徴収
 国土交通省のマンション標準管理規約第60条第1項で、管理費等の徴収については、「管理組合は、第25条に定める管理費等及び第29条に定める使用料について、組合員が各自開設する預金口座から口座振替の方法により第62条に定める口座に受け入れることとし、当月分は別に定める徴収日までに一括して徴収する。ただし、臨時に要する費用として特別に徴収する場合には、別に定めるところによる。」と規定しています。「口座振替」については『ゼロから学ぶマンション管理組合の会計とは?(第5話)マンションの会計とは?』の豆知識で詳細に解説していますのでご覧ください。当月払か前月払かは、管理組合の判断に委ねられていますが、資金繰りを考えると前月払が得策でしょう。
◆前月払の原則的処理方法
 管理費等が前月払の場合は、管理費が入金した時点で、前受金に計上し、翌月の管理費収入の計上と同時に、前受金から未収入に振替えるのが理論的です。入金分の未収入金が計上される前に前受金を未収入金に振り替えると、その分だけ、未収入金が過少表示されてしまうためです。前受金の振替時期についても、管理組合の会計実務においては、月初などのタイミングで振り返る場合も見受けられます。
                        (単位:円)
取引区分 借方 貸方
科 目 金 額 科 目 金 額

翌月分管理費が入金
預金 70,000 前受金 70,000

×月分収入を計上
未収入金 100,000 管理費収入 100,000

前受金を未収入金に振替
前受金 70,000 未収入金 70,000
◆前払の場合の留意点
 管理費を前払で納める場合でも、未収入金を計上するのは、その月になってからです。管理費を納める期限が前月×日であっても、収入を計上してよいのは、その月がきてからになります。例えば、1月分管理費の納入期限が前年12月25日である場合には、収入を計上するのは、前年12月26日から末日までの間ではなく、1月になってからであり、12月末では、まだ未収入金とはなりません。
                        (単位:円)
取引区分 借方 貸方
区分 科目 金 額 区分 科目 金 額
A 
×月25日
翌月分の管理費が入金
預金 70,000 前受金 70,000
B
翌月1日
今月分の管理費収入を計上
未収入金 100,000 管理費収入 100,000
C
翌月1日前受金を未収入金に振替
前受金 70,000 未収入金 70,000
D
×月△日
今月入金した管理費を未収金へ充当
預金 20,000 未収入金 20,000
(注)区分欄の【管】は、管理費会計に計上する仕訳を意味しま す。
 発生主義で処理すると、×月末で区切った×月分の管理費が、
10,000円(=BーCーD)入金していないことがwかります。現金主義で処理した場合には、未収入金・前受金といった勘定科目を用いず、お金が動いた分だけを起票するため、帳簿から未収入金がいくらあるかを把握することができません。この点からも発生主義の考え方で仕訳すべきです。
③ 滞納状況の管理
 収入については、仕訳を起票するだけではなく、管理費等の滞納がどのくらいあるのか、増えているのか、減っているのか、未収入金残高を見て管理することが大変重要です。滞納状況を管理するためには、帳簿とは別に住戸別・年月別の台帳を作成しておくことが大切です。
        未収入金明細表
住戸番号
氏名
内 訳 ×年△月 ×年△1月 ×年△2月 ×年△3月
101号 管理費 ××× ××× ××× ×××
××△△ 修繕積立金 ××× ××× ××× ×××
  〇〇収入 ××× ××× ××× ×××
(2)マンション管理適正化法に基づく資金移動
 管理費等が入金された後の資金の流れについては、管理業者に会計業務を委託する場合は、マンション管理適正化法施行規則第87条第2項で規定している方式を採用することとされています。平成22(2010)年5月1日以降に管理委託契約を締結したものから、管理業者による管理組合の金銭の取扱いが見直されました。それまでの管理組合の金銭の取扱いについては、毀損リスクがあり改善の余地があったことから、より被害を受ける可能性の少ない以下のような管理方法に改めました、また、マンション管理適正化法では、管理業者による不正行為で管理組合の財産が毀損するリスクについて、保証対象を明確にした保証制度を管理業者に締結することを義務付けました。
①改正の要旨
1)修繕積立金と管理費等を、徴収義1カ月以内に、収納口座から保管口座へ移し替える
2)管理組合名義の保管口座については、管理業者による印鑑とキャッシュカードの保管管理を禁止
3)管理業者に翌月末までの月次報告(会計区分ごとの収支報告と収納状況報告)を義務付け

4)管理費等の保証額を、修繕積立金等の金銭の1ヵ月分相当額以上にする
◆マンション管理適正化法施行規則第87条第2項イの方式
 イの方式は、一たん管理費等と修繕積立金を収納口座に入金し。そこから管理費用に充当する金銭から管理費用を支払った残額と修繕積立金を翌月末までに保管口座へ資金移動します。収納口座については、マンション管理業者による管理費用の出納業務の事務の効率性に配慮して、管理業者が通帳と印鑑等を同時に保管してもよいことになっています。このため、管理組合の預金が実際に毀損した場合に、管理組合の預金を保護するため、管理業者に修繕積立機+管理費用に充当する金銭の合計額1カ月分以上を保証する保証契約の締結を義務つけています。保管口座にちては、取り崩して支払に充当することはに日常的だはなく、専ら預金を積み立てるための口座であり、残高も高額となることが多いため、管理業者は印鑑やキャッシュカードを管理してはならないことを規定しました、
 区 分 内   容
保  証  額  管理業者に(修繕積立金+管理費用に充当する金銭)1カ月分以上を保証する保証契約の締結を義務付け
収 納 口 座  管理業者は、通帳と印鑑を同時保管できる
保 管 口 座  管理業者は、印鑑・キャッシュカードを保管できない
資 金 移 動  修繕積立金と管理費等から、管理費用を支払った残額を、翌月末までに保管口座へ移し換える
◆マンション管理適正化法施行規則第87条第2項ㇿの方式
 ロの方式は、イの方式とは異なり、修繕積立金は収納口座を経由せずに、直接、保管口座へ入金しますが、それ以外はイの方式と同じ流れです。修繕積立金が収納口座に入らないため。保証額が管理費用に充当する金銭の1ヵ月以上となります。
 区 分 内   容
保  証  額  管理業者に、管理費用に充当する金銭の1カ月分以上を保証する保証契約の締結を義務付け(修繕積立金は、直接保管口座へ入金するため保証契約の対象から除外)
収 納 口 座  管理業者は、通帳と印鑑を同時保管できる
保 管 口 座  管理業者は、印鑑・キャッシュカードを保管できない
資 金 移 動  管理費等から、管理費用を支払った残額を、翌月末までに保管口座へ移し換える
◆マンション管理適正化法施行規則第87条第2項ハの方式
ハの方式は、収納口座と保管口座を同じ口座とするため、管理業者は、通帳・印鑑を同時に保管することができません、これにより管理組合の資金が毀損するリスクが想定されないため、保証契約の締結がマンション管理業者に義務付けられていません。
 区 分 内   容
保  証  額  なし(管理組合の毀損リスクがないため)
収納・保管口座  管理業者は、印鑑・キャッシュカードを保管できない
資 金 移 動  なし(収納興亜と保管口座が一体のため)
② 資金移動の会計処理方法
 イの方式では、修繕積立金と管理費等から管理費用を支払った残額を、翌月末までに収納口座から保管口座へ移し替えるため、①と
②の仕訳を起票します。
 ㇿの方式では、管理費等から管理費用を支払った残額を。翌月末までに収納口座から保管口座へ移し替えるため、①の仕訳を起票します。
                        (単位:円)
取引区分 借方 貸方
科 目 金 額 科 目 金 額

管理費収入等から管理費用を支払った残額を管理費会計の保管口座へ移し替える
普通預金(保管口座) 50,000 普通預金(収納口座) 50,000

修繕積立金を修繕積立金会計の保管口座へ移し替える
普通預金(
保管口座)

100,000 普通預金(収納口座) 100,000
(3)管理費・修繕積立金等の会計処理方法
① 基本的な仕訳
 管理費・修繕積立金等は、納入方法や徴収時期が一様ではなく、当月払や前月払。口座振込や振込など様々な実務が行なわれていますが、基本的な仕訳としてマンション標準管理規約第60条で規定する口座振込を納入方法に採用し、適正化法施行規則第87条第2項第一号イの方法又は同号ハの方法を前提として仕訳しました。
◆口座振込により当月分の管理費を納入した場合
 例えば、ある組合員が管理費10,000円を管理組合名義の預金口座へ口座振替で納入した場合を考えて見ます。
                        (単位:円)
取引区分 借方 貸方
科 目 金 額 科 目 金 額

当月分収入を計上
未収入金 10,000 管理費収入 10,000

管理費が入金
預金 10,000 未収入金 10,000
 次に、ある組合員の管理費10,00円が、残高不足により、管理組合名義の預金口座に振り替えられなかった場合を考えます。
                        (単位:円)
取引区分 借方 貸方
科 目 金 額 科 目 金 額

当月分収入を計上
未収入金 10,000 管理費収入 10,000

管理費の振替不能が判明
仕訳なし
 管理費が振替不能の場合でも、管理費収入を未収計上しておき、滞納状況の管理簿に振替不能となった旨を備考に記載します。
◆口座振込により翌月分の管理費を納入した場合
 次に、翌月分の管理費10,000円が、前月25日に口座振替により管理組合名義の預金口座に入金した場合を考えて見ます。翌月以降の管理費を先に受け取った場合には。受け取った日に。先ず「前受金」勘定に計上します。翌月になったら、前受金から未収入金に振り替えます。
                        (単位:円)
取引区分 借方 貸方
区分 科目 金 額 区分 科目 金 額
③ 
×月25日
翌月分の管理費が入金
預金 10,000 前受金 10,000

翌月×日
当月分収入を計上
未収入金 10,000 管理費収入 10,000

翌月×日
前受金を未収入金に振替
前受金 10,000 未収入金 10,000

(4)駐車場・駐輪場等収入の会計処理方法
 自転車・バイクの駐輪場や自動車の駐車場が附属史枝津としてあり、これを組合員が使用しているというマンションも多いと思います。この自転車・バイクの駐輪場や自動車の駐車場の使用料は、使用契約の有無に拘わらず納めるものではなく、使用契約している特定の組合員のみ納める使用料収入になりますので、使用者の管理、どの区画を誰がどの期間使用しているのかを管理することが必要となります。この使用状況が正確に管理されていないと、誰からいくら納めてもらえばよいのかわかりません。このため、管理費・修繕積立金の管理と一緒に、住戸別・年月別の台帳と区画別の使用状況の台帳を作成しておくことが必要です。
        未収入金明細表
住戸番号
氏名
内 訳 ×年△月 ×年△1月 ×年△2月 ×年△3月
101号 管理費 ××× ××× ××× ×××
××△△ 修繕積立金 ××× ××× ××× ×××
  駐車場使用料 ××× ××× ××× ×××
  駐輪場使用料 ××× ××× ××× ×××
 前述の未収入金明細書に項目を追加して、入金状況を管理します。駐車場・駐輪場については、区画単位の管理票を作成します。
        駐車場区画別使用状況一覧
区画番号 住戸番号    氏名 ×年△月 ×年△1月 ×年△2月 備考
101号 ××△△ ××× ××× △1月で解約
201号 □□×× ××× △2月でより
 ×××号 ・・・・ ××× ××× ×××
 上記のように。駐車場・駐輪場の区画番号ごとに、使用者の移動がわかるように記載し、特に、月半ばで変更となった場合の精算方法(日割計算するのか、それとも1カ月分全額もらうのか等)を備考欄に明記し、過不足なく徴収するよう注意します。
 駐車場・駐輪場の使用料収入は、使用区画数によって収入総額が変動しますので、予算で見込んだ収入額と実際計上した収入額が一致するとは限りません。駐車場・駐輪場の使用料収入の場合は。1年間ずっと駐車場・駐輪場の区画全てに使用者画いる(空き区画がない)とはかぎりません。多くの場合、予算の作成時には、稼働率を過去の使用状況に基づき、満車時の収入に一定の割合を乗じて使用料収入の予算を計算していることから、実際の使用状況(稼働率)とは必ずしも一致せず、予算と実績に乖離が生じます。駐車場・駐輪場の貸出しを行って入り場合には、できるだけ空き区画が発生しないように、発生しても最低限に抑えるように使用状況を管理することが大切です。
◆ 税務上の留意点
 管理組合は、営利目的の団体ではないため、基本的に、法人税、事業税。及び地方特別法人税の税金を納める必要はないと考えられます。ただし、穂人税法に定める収益事業に該当する事業を営んでおり、課税所得が発生した場合には納税する義務が生じます。
 例えば、管理組合では、次のようなケースが収益事業に該当すると考えられます、
① 駐車場の空き区画を組合員以外の外部の第三者に貸し出して使用料収入を得ている場合
② マンションの屋上に通信事業者の基地局を設置してあり。場所の使用料をもらっている場合
③ マンションの入り口付近に自動販売機を設置して、設地した業者から売り上げに応じた手数料をもらう場合
 管理組合が区分所有者に貸し出す駐車場は、国税庁のホームページに掲載されている質疑応答例「団地管理組合等が行う駐車場の収益事業判定」において、収益事業に該当するかどうかを判定する要件が示されています。
① 管理組合の組合員である区分所有者を対象とした共催的事業であること
② 駐車料金は区分所有者がマンションの附属施設である駐車場の敷地を特別に利用することによる管理費の割増金と考えられること
③ 駐車場の使用料収入は、区分所有査に分配されることなく、管理組合において駐車場の管理に要する費用を含む管理費又は修繕積立金の一部に充当されること
 この3つの要件を満たす場合は、区分所有者に対して行うマンション駐車場の貸出しは、収益事業である駐車場には該当しないと解されます。

(5)受取利息の会計処理方法
 普通預金・定期預金は、残高にに応じて所定の期日に預金利息が入金しますので。利息を受け取ったら仕訳を起票します、
                        (単位:円)
取引区分 借方 貸方
区分 科目 金 額 区分 科目 金 額
④ 
×月25日
普通預金の利息が入金
預金    80 受取利息    80
 定期預金の場合には、金融機関から期日や利息の案内通知が届き、実際に口座に入金する前に受取利息が発生したことが分かるものと思われますが、普通預金の場合には、こうした利息の通知はありません。このため、あくまでも通帳を記帳してみて、受取利息が発生していることに気付くことになりますので、定期的に通帳は記帳し。利息の計上漏れや計上遅れが無いように注意が必要です。
(6)受取保険金の会計処理方法
 万が一の災害に備えて、マンションの共用部分の建物について保険に加入しています。例えば、漏水事故が発生した場合などに、被害を受けた階下の住戸の修繕費について申請を行い、保険金を受け取った場合の仕訳はどうなるでしょうか。
                       (単位:円)
取引区分 借方 貸方
区分 科目 金 額 区分 科目 金 額
⑤ 
×月×日
漏水事故の修理費を支払
修繕費    50,000 預金    50,000

×月×日
漏水事故の保険金が入金
預金 47,000 受取保険金 47.000
 保険金については、保険会社へ保険金の給付申請手続をした時点では、未収入金を計上する必要はありません。保険会社で審査を行い、加入している保険の対象事故に認定されて初めて、保険金を受け取る権利が発生しますので、保険金の受取通知などで受取保険金の受取が確実となった時点(会計実務上は、保険金が入金した時点を採用する場合が多い。)で仕訳を起票します。また、漏水事故の修繕費は予算上、見込んでおらず、予算で承認されていない費用は総会で承認されないと原則執行できないため、受け取った保険金と修繕費を相殺するとかと考える方もいますが、現在の会計理論では、収入と支出を相殺してしまうと、収入の総額と支出の総額が正しく把握できなくなるため、収入と支出は相殺せずに発生した総額で記帳する「総額主義」という考え方を採用していますので、収入と支出にそれぞれ計上することが適切な会計処理となります。
 自然災害などによる突発事故の対応費用は、予算では、発生額を予測できず、費用を計上していない事例が見受けられますが、こうした臨時費用も含めて、修繕費の予算に一定の余裕を持たせておく、あるいは臨時費用に対応するため予備費として予算計上しておくことが考えられます。
※出典/転載/引用:『マンション管理組合会計の手引き』(公益財団法人マンション管理センター著)

ゼロから学ぶマンション会計 マンションの長期修繕計画とは(3)?



ゼロから学ぶマンション会計

マンシンの長期修繕計画とは(3)?
はじめに
 前2回にわたり、マンションの長期修繕計画を学びましたが、マンションは身近な存在ですが、その設備や機能については知られていないことが意外と多いようです。快適な生活を叶えるマンションは、どのような背景や造り方でできているのでしょうか。その中身を知ることで、マンション選び方や、いっそう充実した暮らしに役立てばと思います。近年、分譲にあたって「100年マンション」などとうたう分譲マンションが見られます。「鉄筋コンクリート造」のマンションの寿命は、いったいどれくらいなのでしょうか。分譲マンションで最も多く採用される構造形式が「鉄筋コンクリート造=RC造」です。圧縮する力に対して強いコンクリートと、引っ張る力に強い棒状の鋼材(鉄筋)を、互いのメリットを生かして組み合わせた構造で、19世紀半ばにフランスで発明されました。堅牢で耐久性や耐火性、また遮音性に優れますが、日本では100年以上に渡って使い続けられたRC造のマンションはあるのでしょうか。産業革命遺産のひとつとして世界遺産に登録された、通称「軍艦島」に現存するRC造の集合住宅は、大正5(1916)年完成。107年の建物ですが、人が住まなくなってから40年以上が経ちます。「100年マンション」というときは、軍艦島の建物のように「崩れずに建っている」ことを意味しているわけではありません。「居住者がいて、安全に不自由なく住み続けられる」ことが求められます。安全に住むためには、まず建物の骨組みがしっかりとしていなければなりません。それには柱や梁に使われる、鉄筋コンクリート自体の品質が重要です。コンクリートは固まると同じように見えますが、その品質は一定ではありません。コンクリートは基本的に、セメントに水を加えたセメントペーストを接着剤として、骨材と呼ばれる砂や砂利などを混ぜ合わせてつくられます。セメントと水が化学反応を起こしてガラス質の結晶をつくり、これが砂や砂利を接合して固まるのです。使われる骨材の種類や、含まれる水の量によって、コンクリートの硬さや強度が異なってきます。さらに、コンクリートはプラスチックのような工業材料とは異なり、工事の仕方や環境など、さまざまな要件が絡み合ってつくり出されます。流動性のある「生コン」がコンクリートミキサー車で工事現場に運搬され、ポンプによって鉄筋を納めた型の中に圧送され、人力によって鉄筋や型の隅々まで充填する作業が行われます。工事期間中の気温や湿度、天候もさまざまです。現在では要所でのチェックが厳しくなっているとはいえ、品質管理が難しいことに変わりありません。かつて1970年代には、質の悪いコンクリートで建物や高架橋などが急いでつくられた結果、短期間のうちにコンクリートが劣化して社会問題になったことがありました。例えば、骨組みをつくるとき、コンクリートを型に流し込みやすくするために所定の量より水を多く入れると、化学反応で硬化しても、空隙が内部に多く含まれたコンクリートになります。そうすると、強度や耐久性の面で性能が低くなり、劣化が早く進んでしまいます。また、骨材に塩分を含んだ海砂が使われるとコンクリートの性質が変わり、内部に入れられた鉄筋が腐食してしまう例も見られました。これもやはり、コンクリートのひび割れや強度不足を招き、建物の耐久性を下げる要因です。鉄筋コンクリートの品質を確保するための技術的な指針には、次のような指針があります。まず、コンクリートの強度は、ニュートンという単位を使い、N/mm2という値で表示されます。1N/mm2とは、最大で1平方メートル当たり100トンまで耐えられる強度をもつことを意味します。日本建築学会の定める基準では、65年は大規模修繕が必要ない一般的な建物では24N/mm2に対して、100年は大規模修繕が必要ないとされる建物では30N/mm2以上が示されています。また、コンクリートの強度は、水の量を少なくすることで高まります。セメントに加える水の量の割合が、一般的な建物で使用されるコンクリートでは50~60%程度のところ、100年大規模修繕の必要がないとされるコンクリートでは50%以下とされることが多いようです。そして、鉄筋の上にコンクリートが覆う「かぶり厚さ」について、品質確保促進法の劣化対策等級3で定められる数値を確保することが求められます。特定のマンションのコンクリートの強度などを知るには、「設計図書」を閲覧します。新築マンションではモデルルームに置いてあり、中古マンションの場合は仲介業者に依頼すれば見せてもらえるはずです。適切な素材を選び、少ない水量の固い生コンを使い、コンクリートを型に流し込むときには内部の空気や水を追い出すように叩くなどして密に固め、成型後に乾燥を防ぐよう養生されたコンクリートは黒っぽくなり、表面にガラス質の層ができ、ひび割れを起こす可能性は低いようです。こうした密実で固いコンクリートでは、内部に水分が入りにくく、丈夫で長持ちします。外部の気候条件やメンテナンスの具合にもよりますが、条件が揃えば100年は安全に使えるでしょう。「不自由なく住み続けられる」ことが100年マンションの条件ですが、マンションの老朽化では、骨組み自体が劣化する進み具合に加えて、給排水や設備の劣化が早いためです。一般的な給排水管などの配管設備の寿命は、25~30年といわれています。分譲マンションの黎明期には、配管をコンクリートの中に埋め込んでしまう建物もありましたが、更新やメンテナンスが困難です。しっかりとした構造躯体であることに加えて、設備や内装を分離したスケルトン・インフィルという工法(SI工法)で計画するほうが、100年マンションでは有効です。具体的なスケルトン・インフィルという工法の例をあげると、天井と床を2重構造にして床下に給排水管、天井裏に配線を回すことなどがあります。こうした仕様とすることで、設備の更新がしやすく、間取りが変更しやすいなど、ライフスタイルの変化に合わせて柔軟に対応することができます。「100年マンション」は、設計段階からの計画や仕様、確実な工事が重要です。もちろん、定期的なマンション全体での修繕など、適切なメンテナンスも、長期にわたって美観や機能を保つには不可欠です。戸建住宅に比べて規模の大きくなるマンションは街の風景を形づくるため、マンションができるだけ長く、健全な状態で住まれためです。100年後のマンションの姿と街並みを想像してみると、マンション選び方の視点が変わってくるかもしれません。
長期修繕計画の作成方法
1 長期修繕計画の構成 
 長期修繕計画の構成は、次に掲げる項目を基本とします。
① マンションの建物・設備の概要等
② 調査・診断の概要
③ 長期修繕計画の作成・修繕積立金の額の設定の考え方
④ 長期修繕計画の内容
⑤ 修繕積立金の額の設定
〈コメント〉
◆ 長期修繕計画の標準的な構成として必要とされる項目は、次のとおりです。 (・長期修繕計画の見方)
① マンションの建物・設備の概要等 建物の概要、設備・外構等の概要、関係者、管理・所有区分、維持管理の状況、会 計状況、設計図書等の保管状況
② 調査・診断の結果の概要 劣化の現象と原因、修繕(改修)方法の概要
③ 長期修繕計画の作成・修繕積立金の額の設定の考え方 長期修繕計画の目的、計画の前提等、計画期間の設定、推定修繕工事項目の設定、 修繕周期の設定、推定修繕工事費の算定、収支計画の検討、計画の見直し及び修繕積 立金の額の設定の考え方
④ 長期修繕計画の内容
 a) 計画期間の設定
 b) 推定修繕工事項目の設定
 c) 修繕周期の設定
 d) 推定修繕工事費の算定
 e) 収支計画の検討
⑤ 修繕積立金の額の設定
  修繕積立金の積立方法、修繕積立金の額の設定方法、住戸タイプ別月当たりの修繕 積立金の額
〈参考〉
◆ 標準管理規約 第32条(業務)関係コメント①~③
① 建物を長期にわたって良好に維持・管理していくためには、一定の年数の経過ごとに計画的に修繕を行って いくことが必要であり、その対象となる建物の部分、修繕時期、必要となる費用等について、あらかじめ長期 修繕計画として定め、区分所有者の間で合意しておくことは、円滑な修繕の実施のために重要である。
② 長期修繕計画の内容としては次のようなものが最低限必要である。
 1 計画期間が30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれ  
  る期間以上とすること。
 2 計画修繕の対象となる工事として外壁補修、屋上防水、給排 
  水管取替え、窓及び玄関扉等の開口部の改良 等が掲げられ、 
  各部位ごとに修繕周期、工事金額等が定められているものであ
  ること。
 3 全体の工事金額が定められたものであること。 また、長期 
  修繕計画の内容については定期的な見直しをすることが必要で
  ある。
③ 長期修繕計画の作成又は変更及び修繕工事の実施の前提とし 
 て、劣化診断(建物診断)を管理組合として併せて行う必要があ  
 る。
2 長期修繕計画標準様式の利用
 長期修繕計画は、標準様式を参考として作成します。 なお、マンションには様々な形態、形状、仕様等があるうえ、立地条件も異なっていることから、これらに応じた適切な長期修繕計画とするため、必要に応じて標準様式の内容を追加して使用します。
〈コメント〉
◆ 分譲時における分譲会社、又は見直し時において管理組合から依頼を受けた専門家は、 標準様式を参考として、長期修繕計画を作成します。 また、作成に当たっては、別添の「長期修繕計画標準様式記載例」(以下「記載例」という。)を併せて参考にしてください。
◆ 標準様式は、標準的な構成に次のように対応しています。

① マンションの建物・設備の概要等→ 【様式第1号】
② 調査・診断の概要       → 【様式第2号】
③ 長期修繕計画の作成の考え方 → 【様式第3-1 号】
④ 長期修繕計画の内容
 ・計画期間の設定       → 【様式第3-1 号】
 ・推定修繕工事項目の設定   → 【様式第3-2号】   
 ・修繕周期の設定       → 【様式第3-2号】
 ・推定修繕工事費の算定    → 【様式第4-3号、第4-4号】       
 ・収支計画の検討】      → 【様式第4-1号、第4-2号】
⑤ 修繕積立金の額の設定    → 【様式第5号】
◆ マンションには、様々な形態、形状、仕様等がありますので、これらに応じた適切な長期修繕計画の内容とするために、必要に応じて内容を追加して使用します。追加した場合は、その内容を明示します。
3 マンションの建物・設備の概要等
 敷地、建物・設備及び附属施設の概要(規模、形状等)、関係者、管理・所有区分、維持管理の状況(法定点検等の実施、調査・診断の実施、計画修繕工事の実施、長期修繕計画の見直し等)、会計状況、設計図書等の保管状況等の概要について示すことが必要です。
 特に、管理規約及び設計図書等に基づいて、長期修繕計画の対象となる敷地(団地型マンションの場合は土地)、建物の共用部分及び附属施設の範囲を明示することが重要です。
 また、建物及び設備の劣化状況、区分所有者の要望等に関する調査・診断の結果について、その要点を示すことも必要です。
〈コメント〉
◆ 長期修繕計画の対象となるマンションの敷地(団地型の場合は土地)、建物の共用部分及び附属施設の概要とこれらの維持管理の現状などについて確認し、その状況を示しておくことが必要です。 特に、組合管理部分である敷地、建物の共用部分及び附属施設(団地型の場合は、土地、団地共用部分及び附属施設並びに各棟ごとの建物の共用部分)について、所有区分・使用区分・管理区分のそれぞれの範囲を、管理規約、設計図書等に基づいて、明示しておくことが重要です。
◆ また、調査・診断の結果について、建物や設備の劣化の現象とその原因、区分所有者の要望など、これらに対する修繕(又は改修)の方法などに関して、推定修繕工事項目別に要点をまとめて示します。なお、同趣旨の記載がある調査・診断報告書の概要をまとめたもので代えることもできます。

* 建築確認が必要な昇降機の設置・改修工事を行う場合には、「戸開走行保護装置」、「地震時管制運転装置」の設置等が義務付けられていますのでご留意ください。
4 長期修繕計画の作成の考え方
 長期修繕計画の作成の目的、計画の前提等、計画期間の設定、推定修繕工事項目の設定、修繕周期の設定、推定修繕工事費の算定、収支計画の検討、計画の見直し及び修繕積立金の額の設定に関する考え方を示すことが必要です。
〈コメント〉
◆ 長期修繕計画を作成する目的、計画の前提等、長期修繕計画の内容(計画期間の設定、推定修繕工事項目の設定、修繕周期の設定、推定修繕工事費の算定、収支計画の検討)、計画の見直し及び修繕積立金の額の設定に関して、作成に当たっての基本的な考え方を整理しておきます。
◆ 長期修繕計画を作成する目的と計画の前提等に関しては、本ガイドラインの第2章第1節の1と2、長期修繕計画の内容や修繕積立金の額の設定に関しては、本章の第1節と第2節を参考にします。

                【ガイドラインの該当箇所】
①長期修繕計画の目的       → 【第2章第1節の1】
②長期修繕計画の前提等      → 【第2章第1節の2】
③長期修繕計画の内容
 ・計画期間の設定        → 【第3章第1節の5】
 ・推定修繕工事項目の設定    → 【第3章第1節の6】
 ・修繕周期の設定        → 【第3章第1節の7】
 ・推定修繕工事費の算定     → 【第3章第1節の8】
 ・収支計画の検討        → 【第3章第1節の9】

④修繕積立金の額の設定      → 【第3章第2節の3】
5 計画期間の設定
 計画期間は、30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とします。
〈コメント〉
◆ 計画修繕工事の実施時において修繕積立金が不足することがないように、多額の推定修繕工事費が見込まれる年度を含むように計画期間を設定する必要があります。 したがって、新築時は、経年が30年程度において実施が見込まれる昇降機設備の取替えなどを含めた期間以上とします。また、外壁の塗装や屋上防水などを行う大規模修繕工事の周期は部材や工事の仕様等により異なりますが、一般的に12~15年程度ですので、見直し時には、これが2回含まれる期間以上とします。 ただし、新築時に計画期間を30年とした場合であっても、窓のサッシ等の建具の取替えや給排水管の取替えなどは、修繕周期が計画期間を上回り、計画期間内に含まれていないことがありますので、見直しの際には注意が必要です。
◆ 毎月積み立てる修繕積立金の額は、できる限り一定額としたいものです。そのためには、計画期間をさらに長期間とし、見込まれる多額の推定修繕工事費をすべて包含することが考えられますが、計画の作成時点で非常に長期間の劣化状況や推定修繕工事費を推定することには限度があります。

◆ ついては、多額の推定修繕工事費が見込まれる年度を含む計画期間を30年以上かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とし、一定期間(5年程度)ごとに見直すこととしています。
〈参考〉
◆ 標準管理規約 第32条関係コメント② 1
② 長期修繕計画の内容としては次のようなものが最低限必要である。
1 計画期間が30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とすること。
6 推定修繕工事項目の設定
 推定修繕工事項目は、新築マンションの場合は、設計図書等に基づいて、また、既存マンションの場合は、現状の長期修繕計画を踏まえ、保管されている設計図書、修繕等の履歴、現状の調査・診断の結果等に基づいて設定します。 なお、マンションの形状、仕様等により該当しない項目、又は修繕周期が計画期間に含まれないため推定修繕工事費を計上していない項目は、その旨を明示します。 また、区分所有者等の要望など必要に応じて、建物及び設備の性能向上に関する項目を追加することが望まれます。
〈コメント〉
◆ 推定修繕工事項目は、標準様式第3-2号(推定修繕工事項目、修繕周期等の設定内容)を基本としますが、設計図書などに基づいて項目を追加し、漏れがないようにします。小項目は、補修と取替(撤去・新設)の区分、また、部位別に分けることが考えられます。 さらに、部位別の仕様レベルまで詳細に項目を設定することも考えられますが、作成の費用が増加するため、どこまでの精度を求めるかは、費用対効果の面からの判断が必要です。
◆ 中項目に仮設工事を設けています。例えば、大規模修繕工事における複数の計画修繕工事に用いられる仮設足場などの直接仮設工事と、現場事務所や資材置き場などの共通仮設工事の費用を計上します。ただし、設備関係の専門工事のように単独で行われることが多いものについては、必要とする仮設工事の費用をその推定修繕工事項目(小項目)の単価に含めます。
◆ 新築時に計画期間を30年とした場合において、修繕周期が計画期間を上回る場合、「修繕周期に到達しないため推定修繕工事費を計上していない。」旨を明示します。なお、計画期間内に修繕周期に到達しない項目に係る工事について、参考情報として当該工事の予定時期及び推定修繕工事費を明示するとともに、多額の費用を要するものは修繕積立金を計画的に積み立てる観点から、計画期間に応じた推定修繕工事費を計上しておくことも考えられます。 また、例えば、外壁等がすべてタイル張りであれば、「外壁塗装の塗替」の項目は「該当なし」とします。
◆ 計画修繕工事は不確定要素が多く、施工時において予想外の劣化や施工条件の制約などにより工事費が増加することがあります。計画修繕工事における想定外の工事の発生や数量の増加、物価や工事費価格の上昇等による費用の増加、災害や不測の事故などによる緊急の費用負担などの対応として、その都度一時金を徴収することが考えられますが、推定修繕工事項目として「予備費」を設定し、例えば、各年度ごとに推定修繕工事費の累計額に定率を乗じた額を計上しておくことも考えられます。

◆ 区分所有者等からの要望などに応じて、建物・設備の性能・機能を向上させる改修工事を行うことが望まれます。長期修繕計画にその項目を設定して必要な工事費を計上し、修繕積立金を増額することが必要です。特に、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付されたマンションで、耐震診断の結果により耐震改修が必要となった場合において、耐震改修工事の費用が負担できないなどの理由によりすぐに実施することが困難なときは、推定修繕工事項目として設定することが考えられます。 なお、改修工事については、「マンション耐震化マニュアル」、「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」や、外壁の仕上塗材などにアスベストが含まれている場合には「現居住共同住宅外壁修繕工事における石綿含有仕上塗材対応ガイドライン」などを参考にして検討します。
〈参考〉
◆ 標準管理規約 第32条(業務)関係コメント② 2
② 長期修繕計画の内容としては次のようなものが最低限必要である。
 2 計画修繕の対象となる工事として外壁補修、屋上防水、給排 
  水管取替え、窓及び玄関扉等の開口部の改良等が掲げられ、各 
  部位ごとに修繕周期、工事金額等が定められているものである  
  こと。
◆ 改修工事の参考資料
① 改修 「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」(令和3年9月改訂 国土交通省)  「現居住共同住宅外壁修繕工事における石綿含有仕上塗材対応ガイドライン」 (令和元年6月発刊 一般社団法人マンション計画修繕施工協会)
② 耐震 「マンション耐震化マニュアル」(平成26年7月改訂 国土交通省) 
③ 省エネルギー 「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」 (平成27年7月8日公布、最終改正 令和元年6月14日)「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令」 (平成28年1月29日公布、最終改正 令和2年9月4日)
④ バリアフリー 「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」 (平成18年6月21日公布、最終改正 令和2年6月10日) 「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」(平成21年改正 国土交通省) 
⑤ 防犯(セキュリティ) 「共同住宅に係る防犯上の留意事項及び防犯に配慮した共同住宅に係る設計指針」 (平成18年4月改正 国土交通省) 
⑥  ICT(情報通信技術) 「インターネットアクセスの円滑化に向けた共同住宅情報化標準」(平成14年7月 国土交通省) 「既存共同住宅のインターネット接続環境の整備に係る合意形成マニュアル」(同上) 「既存共同住宅のインターネット接続環境の整備に係る技術指針」(同上)
7 修繕周期の設定
 修繕周期は、新築マンションの場合、推定修繕工事項目ごとに、マンションの仕様、立地条件等を考慮して設定します。また、既存マンションの場合、さらに建物及び設備の劣化状況等の調査・診断の結果等に基づいて設定します。 設定に当たっては、経済性等を考慮し、推定修繕工事の集約等を検討します。
〈コメント〉
◆ 修繕周期は、劣化する建物の部位や設備の性能・機能を実用上支障がない水準まで経済的に回復させることができなくなるまでの期間をいいます。
◆ 修繕周期は、マンションの仕様、立地条件等に応じて設定します。また、見直しの際は、建物及び設備の劣化状況などの調査・診断の結果に基づいて設定することが必要です。さらに、部材や工事仕様、設備や工法等の技術革新によっても適切な修繕周期が変わる可能性がある点にも留意する必要があります。
◆ 修繕工事の時期は、早過ぎると不要な修繕となりますし、遅すぎても劣化が進み計画修繕工事費を増加させます。また、修繕工事を集約すると、直接仮設や共通仮設の設置費用が軽減できるなどの経済的なメリットがあります。なお、集約を過剰に行うと、修繕積立金が一時的に不足することにもつながりますので、注意が必要です。設備及び建物の劣化状況に関する調査・診断の結果を踏まえた上で、修繕工事の必要性や実施時期、工事内容等を検討することが重要です。

8 推定修繕工事費の算定
(1) 数量計算の方法
   数量計算は、新築マンションの場合、設計図書、工事請負契約による請負代金内訳書、数量計算書等を参考として、また、既存マンションの場合、現状の長期修繕計画を踏まえ、保管している設計図書、数量計算書、修繕等の履歴、現状の調査・診断の結果等を参考として、「建築数量積算基準・同解説(平成 29年版)((一財)建築コスト管理システム研究所発行)」等に準拠して、長期修繕計画用に算出します。
〈コメント〉
◆ 標準様式第4ー4号(推定修繕工事費内訳書)では、推定修繕工事項目ごとに推定計画修繕工事費を算定するための欄を設けていますが、具体的な部位別の項目の設定や項目ごとの数量の算出については、作成者に委ねています。何により、どのような方法で算出したかを明示します。
◆ 新築マンションの場合、(一社)不動産協会が会員の分譲会社に対し、長期修繕計画の作成に関する指針(「長期修繕計画の作成および適正な修繕積立金の設定について(改訂版)」)を示しています。 この指針に基づき、設計図書のほか、工事請負契約により施工会社から提出された請負代金内訳書、数量計算書などを参考として、長期修繕計画用に概算の数量を算出します。 なお、長期修繕計画の見直しの際に利用するため、工事請負契約による数量計算書が設計図書と併せて管理組合に引き渡されることが望まれます。
◆ 既存マンションの場合、適正化法第103条第1項の規定により分譲会社から引き渡された設計図書のほか、保管している修繕等の履歴、現状の調査・診断の結果などを参考として、長期修繕計画用に概算の数量を算出します。 なお、建物や設備は、工事中に設計変更が行われることがありますが、同法施行規則では「工事が完了した時点の」とされており、竣工時の設計図書が引き渡されることになっています。 また、同法の施行以前に引き渡されたマンションにおいて、設計図書(又は工事が完了した時点の設計図書)が引き渡されていないときは、現状の調査・診断の結果などを参考とし、長期修繕計画用に概算の数量を算出します。
◆ 具体的な数量計算の方法については、「建築数量積算基準・同解説(平成29年版)((一財)建築コスト管理システム研究所発行)」等に準拠して行います。

〈参考〉
◆ 「長期修繕計画の作成および適正な修繕積立金の設定について(改訂版)」 (一社)不動産協会

1 建設会社との関係
(1)工事請負契約等について 長期修繕計画の策定に当たっては、自ら関連する資料の取りまとめを行い、作成の準備をする必要 がある。また、自ら資料収集が整わない場合は、建設会社との工事請負契約または設計会社との設計 契約に、修繕計画の原案作成または関連資料を提出する内容の特約条項を盛り込む必要がある。 (2)具体の対応 具体的には、当該マンションの修繕計画に必要な工事項目、単価、数量、耐用年数等について、重 要事項説明書の作成時期までに建設会社から提出させる旨、特約すべきである。 2 管理会社との関係
(1)長期修繕計画の作成方について 長期修繕計画の作成に当たっては、管理会社と連携して作成するのが望ましい。
(2)長期修繕計画の見直し 長期修繕計画の一定期間(5年程度)における見直しの必要性については管理会社にその旨説明し ておく必要がある。
◆ 「建築数量積算基準・同解説〈平成29年版〉」((一財)建築コスト管理システム研究所発行)
 官民合同の「建築工事建築数量積算研究会」(事務局:(一財)建築コスト管理システム研究所、(公社)日本建築積算協会)で制定されたものです。主に建物の新築工事を対象にしていますが、改修工事に係る数量計算の方法も示されています。 ・「公共建築数量積算基準」(平成29年改定)第7編改修(「建築数量積算基準」と同じ内容です。)
(2) 単価の設定の考え方
 単価は、修繕工事特有の施工条件等を考慮し、部位ごとに仕様を選択して、新築マンションの場合、設計図書、工事請負契約による請負代金内訳書等を参考として、また、既存マンションの場合、過去の計画修繕工事の契約実績、その調査データ、刊行物の単価、専門工事業者の見積価格等を参考として設定します。 なお、現場管理費・一般管理費・法定福利費、大規模修繕瑕疵保険の保険料等の諸経費および消費税等相当額を上記とは別途設定する方法と、前述の諸経費について、見込まれる推定修繕工事ごとの総額に応じた比率の額を単価に含めて設定する方法があります。 また、単価には地域差があることから、これを考慮することも重要です。
〈コメント〉
◆ 標準様式第4-4号(推定修繕工事費内訳書)では、推定修繕工事費を算出するための部位別の項目ごとの具体的な単価の設定については、作成者に委ねています。何に基づき、どのような構成の単価を設定したかを明示します。
◆ 修繕工事は、発生する数量、作業の条件(時間、場所等の制約)、既存部分の養生、既存部分の除去・処分などが新築工事と異なります。したがって、新築の単価を利用する場合はこれらを考慮することが必要です。
◆ 長期修繕計画において推定修繕工事費を算定するために採用されている単価には、過去の計画修繕工事の契約実績、その調査データ、刊行物の単価、専門工事業者の見積価格などがあります。
◆ 仮設工事(共通仮設及び直接仮設)について、複数の部位の推定修繕工事を集約して行うこととした場合は推定修繕工事項目(中項目)として設定しますが、設備関係の専門工事のように単独で行うこととした推定修繕工事においては、必要とする仮設工事の費用をそれぞれの推定修繕工事項目(小項目)ごとの単価に含めます。
◆ 諸経費を見込まれる推定修繕工事ごとの総額に応じた比率の額を単価に含めて設定する場合、計画修繕工事を実施する際の見積りにおいては、項目を立て内訳が示されます。

◆ 国土交通省において、現場作業員の社会保険加入対策の一環として、法定福利費を見積書に内訳明示する事を推進しております。法定福利費とは、法律によって定められた福利のために使用する事業者が義務的に負担する費用であって、健康保険、厚生年金保険及び雇用保険のほか、中小企業退職金共済法の規定に基づく建設業退職金共済制度の加入事業者である場合は同制度の掛金相当額が含まれます。
◆ 大規模修繕瑕疵保険とは、計画修繕工事の請負契約に伴う保険で、住宅瑕疵担保履行法に基づき国土交通大臣が指定する住宅瑕疵担保責任保険法人(保険法人)が引き受けるものです。具体的には、工事を請け負った工事業者が加入申込みを行い、保険法人の検査員が現場検査を行った上で保険を引き受け、工事終了後に瑕疵が見つかった場合、補修に要する費用等が支払われます。
◆ 単価の地域差について、材料費や仮設材のリース費等については地域差がほとんどない一方、労務費は一定の地域差があります。特に、大規模修繕工事においては主要な3工種(とび工(仮設工事)、防水工(防水・シーリング工事)、塗装工(塗装工事))の労務費の地域差について、必要に応じて考慮することも重要です。

〈参考〉
◆ 長期修繕計画における推定修繕工事費の算定に参考となる単価
① 新築時の建設費(契約価格)に基づいた単価 (例)「建築物のライフサイクルマネジメント用データ集改訂版」/R2.3(公財)ロングライフビル推進協会発行 「建築物のライフサイクルコスト 第2版」/R1.5 (一財)建築保全センター発行
② 計画修繕工事費の実績(契約価格)の調査に基づいた単価 (例)「長期修繕計画の作成および適正な修繕積立金の設定について(改訂版)」/H14.7(一社)不動産協会
③ 計画修繕工事費の実績(契約価格)を調査・分析したマクロデータの単価 (例)「改修工事(集合住宅)のマクロ的価格傾向に関する研究(その7)」/R2.6(一財)建設物価調査会
④ 計画修繕工事費に関する調査結果をまとめた刊行物の単価 (例)「積算資料ポケット版マンション修繕編」(一財)経済調査会発行
⑤ その他 メーカー、専門工事業者等の見積価格、カタログ掲載単価(×一定率)
◆ 単価の地域差の考慮に際し参考となる指標
① 大規模修繕工事における工事費のうち労務費の地域差を基に算出された指標 (独)住宅金融支援機構「マンションライフサイクルシミュレーション~長期修繕ナビ~の解説書」 には、都道府県別の地域係数が公表されています。((独)住宅金融支援機構 ホームページ)
②地域別・工種の労務単価 国土交通省では、都道府県別・工種別の公共工事設計労務単価を毎年公表しています。
(3) 算定の方法
 推定修繕工事費は、推定修繕工事項目の詳細な項目ごとに、算出した数量に設定した単価を乗じて算定します。 修繕積立金の運用益、借入金の金利及び物価変動について考慮する場合は、作成時点において想定する率を明示します。また、消費税は、作成時点の税率とし、会計年度ごとに計上します。
〈コメント〉
◆ 標準様式第4-4号(推定修繕工事費内訳書)により、「推定修繕工事項目の設定」により設定した推定修繕工事項目の小項目ごとに、「数量計算の方法」により算出した数量に、「単価の設定の考え方」により設定した単価を乗じて、小項目ごとの推定修繕工事費を算定します。
◆ 次に、「修繕周期の設定」により小項目ごとに設定した修繕周期を基に、標準様式第4-3号(長期修繕計画表)の推定修繕工事項目ごとに該当する年度(周期)に小項目ごとの推定修繕工事費を入れ、推定修繕工事項目別及び年度別の合計額を算出します。物価変動について考慮する場合は、作成時点において想定する率を明示します。
◆ 標準様式第4-3号(長期修繕計画表)の推定修繕工事項目の中項目別及び年度別の推定修繕工事費を基に、標準様式第4-1号(長期修繕計画総括表)及び標準様式第4-2号(収支計画グラフ)を作成します。修繕積立金の運用益及び借入金の金利の変動について考慮する場合は、作成時点において想定する率を明示します。
◆ 消費税は、標準様式第4-3号(長期修繕計画表)において、年度別の推定修繕工事の合計額に対する税率分を計上します。

9 収支計画の検討

 計画期間に見込まれる推定修繕工事費(借入金がある場合はその償還金を含む。以下同じ。)の累計額が示され、その額を修繕積立金(修繕積立基金、一時金、専用庭等の専用使用料及び駐車場等の使用料からの繰入れ並びに修繕積立金の運用益を含む。以下同じ。)の累計額が下回らないように計画することが必要です。 また、推定修繕工事項目に建物及び設備の性能向上を図る改修工事を設定する場合は、これに要する費用を含めた収支計画とすることが必要です。 なお、機械式駐車場があり、維持管理に多額の費用を要することが想定される場合は、管理費会計及び修繕積立金会計とは区分して駐車場使用料会計を設けることも考えられます。
〈コメント〉
◆ 収支計画は、計画期間中に見込まれる推定修繕工事費の累計額と修繕積立金の累計額の関係が把握できるように示されていることが必要です。 計画期間の終期における推定修繕工事費の累計額が示され、その額を修繕積立金の累計額が下回らないように計画することが必要です。修繕積立金が下回ると、計画修繕工事を実施できなくなることも懸念されます。
◆ 推定修繕工事費は、消費税を含めた各年度ごとの合計額と累計額が示されること、また、年度ごとの収支のほか、次年度繰越金(年度ごとの修繕積立金の残高)が示されることが必要です。
◆ 支出としては、推定修繕工事費のほか、実施した計画修繕工事のための借入金がある場合は償還金を含めます。また、収入としては、修繕積立金のほか、専用庭等の専用使用料や駐車場等の使用料などからの繰入金、修繕積立金の運用益のほか、分譲時に負担する修繕積立基金や必要に応じて徴収する一時金も含めます。
◆ 推定修繕工事項目に建物及び設備の性能を向上する改修工事に係る項目を設定する場合には、その費用を含めた収支計画とします。
◆ 二段式、多段式等の機械式駐車場があり、その点検や修繕に多額の費用を要することが想定される場合は、平置駐車場を含めて、管理費会計及び修繕積立金会計とは区分して駐車場使用料会計を設けることも考えられます。 その場合の長期修繕計画の作成については次の方法が考えられます。
 ① 全体の長期修繕計画とは別に、駐車場単独の長期修繕計画を 
  作成する。
 ② 駐車場単独の長期修繕計画及び保守点検の計画等に基づき、 
  駐車場使用料の額を算定 する。
 なお、長期修繕計画の作成にあたっては、保守点検業者等を通じて機械式駐車場のメーカー又は保守会社が作成する「長期保全計画」を入手し、当該計画やこれに基づく設計耐用年数及び取扱説明書等の記載等を参考にします。
◆ 駐車場数が住戸数の 100%未満で、駐車場使用料で駐車場の点検や修繕の費用が賄えないときは、収支計画の見直しが必要となりますが、近隣の駐車場使用料がマンション内よりも低く駐車場使用料の値上げが難しい場合や、駐車場の稼働率の低下が恒常的であり、駐車場使用料収入の改善が見込まれない場合には、機械式駐車場の除却の検討も必要となります。 

10 長期修繕計画の見直し
 長期修繕計画は、次に掲げる不確定な事項を含んでいますので、5年程度ごとに調査・診断を行い、その結果に基づいて見直すことが必要です。なお、見直しには一定の期間(おおむね1~2年)を要することから、見直しについても計画的に行う必要があります。また、長期修繕計画の見直しと併せて、修繕積立金の額も見直します。
① 建物及び設備の劣化の状況
② 社会的環境及び生活様式の変化
③ 新たな材料、工法等の開発及びそれによる修繕周期、単価等の 
 変動
④ 修繕積立金の運用益、借入金の金利、物価、工事費価格、消費
 税率等の変動
〈コメント〉
◆ 長期修繕計画は、作成時点において、計画期間の推定修繕工事の内容等に関して計画を定めるものであり、本文に掲げる不確定な事項を含んでいますので、5年程度ごとに調査・診断を行い、その結果に基づいて見直すことが必要です。
◆ 例えば、新築後15年目以降の見直しでは、新築当初の30年の計画期間では推定修繕工事費を計上していなかった給排水管の取替えなどについても計上が必要となる場合があります。これに伴って計画期間の推定修繕工事費が増加しますので、修繕積立金の額の見直しも必要となります。
◆ 長期修繕計画の見直しは、大規模修繕工事と大規模修繕工事の中間の時期に単独で行う場合、大規模修繕工事の直前に基本計画の検討に併せて行う場合、又は、大規模修繕工事の実施の直後に修繕工事の結果を踏まえて行う場合があります。 したがって、その時期は、おおよそ大規模修繕工事の直前又は直後とその中間程度となります。
◆ 建物・設備の劣化状況等の現状を踏まえた見直しを行うために、事前に調査・診断を行います。大規模修繕工事の中間の時期に単独で行う場合は、目視等による簡易な調査・診断を行いますが、大規模修繕工事の直前又は直後に行う場合は、その基本計画を作成するために行う詳細な調査・診断の結果によります。

※出典/転載/引用:長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント(全文)(PDF)

ゼロから学ぶマンション会計 マンションの長期修繕計画とは?



ゼロから学ぶマンション会計

マンションの長期修繕計画とは?
はじめに
 前回は、「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」をテキストに基礎的知識である「総則」を学習しました。今回は、長期修繕計画の作成の基本的な考え方」をテーマに学習します。
 さて、マンション管理適正化法の改正・施行により令和4(2022)年4月から始まったマンション管理計画認定制度において、東京都板橋区の高島平ハイツが同年6月16日に全国初の認定を受けました。その取り組みは、修繕積立金と修繕工事のコスト削減で、リスペクトです。平成4(1992)年から修繕積立金の額を値上げしないで、大規模修繕工事を12年毎に定期的に実施し、そのほかにもエントランス改修工事、バリアフリー工事、ペアガラス交換工事等も実施してきました。これらの工事はすべて管理組合主導で行っています。予算書の作成から見積り依頼業者の選定、施工業者の技術提案とヒアリング等を実施して競争原理を働かせて業者選定を行ってきたことが修繕工事費の大幅な削減につながったものと考えています。今後世代交代が進み、本マンションの生き字引のような方々が引退し、管理組合主導で修繕工事を実施できなくなることを懸念しています。

● 長期修繕計画の作成の条件
 ◆会計処理
 管理組合は、修繕積立金に関して、次に掲げる事項により会計処理を行うことが必要です。
① 修繕積立金は管理費と区分して経理する。
② 専用庭等の専用使用料及び駐車場等の使用料は、これらの管理に要する費用に充てるほか、修繕積立金として積み立てる。
③ 修繕積立金(修繕積立基金を含む。)を適切に管理及び運用する。
④ 修繕積立金の使途は、標準管理規約第28条に定められた事項に要する経費に 充当する場合に限る。

◆ 表 マンションの維持管理と経費

点検
建物、給・排水、消防、電気、昇降機などの設備、外構について、法令に基づく点検、保守契約による点検など
管理費
調査・診断
 
計画(大規模)修繕工事の実施や長期修繕計画の見直しの前に行う調査・診断
修繕積立金 (注)
長期修繕計画の 見直し
5年程度ごとに、調査・診断を行いその結果に基づいて計画を見直す。
修繕積立金 (注)
経常的補修
摩耗など通常の使用による劣化、予測しがたい破損や故障の補修工事(ガラス、建具、機器の破損等)
管理費
計画(大規模)修繕
経年による劣化に応じて計画的に行う(比較的大規模な)修繕工事(屋上防水、外壁塗装、給・排水管取替等)
修繕積立金
特別修繕
不測の事故や自然災害(台風、大雨、大雪等)による被害の復旧など、特別な事由による修繕工事
修繕積立金
(注) 標準管理規約 第32条(業務)関係コメント④によれば、長期修繕計画の作成(又は見直し)に要する経費及びそのために事前に行う調査・診断に要する経費は、管理組合の財産状態等に応じて管理費又は修繕積立金のどちらからでも充当することができます。 しかし、計画的に行うためには長期修繕計画に費用を計上し、修繕積立金から充当することが必要です。
◆ 専用庭等の専用使用料や駐車場等の使用料などを徴収している場合は、それらの管理に要する費用に充当する額を差し引いた額を修繕積立金会計に繰り入れます。
◆ 積み立てた修繕積立金は、計画修繕工事に要する経費に充当する場合に取り崩すことができます。また、災害や不測の事故に伴う特別の修繕等やマンションの建替えを目的とした調査等に要する経費に充当する場合にも取り崩すことができます。
◆修繕積立金の取崩しは、標準管理規約では、総会の決議事項と規定しています。したがって、修繕積立金を取り崩して行う長期修繕計画の見直しや事前に行う調査・診断に係る費用については、事業計画(案)及び収支予算(案)に含めて、総会で決議する必要があります。(なお、不測の事故や自然災害による被害の応急的な復旧に備えて、少額の予備費の支出についてあらかじめ総会で決議しておくことも考えられます。)点検についても同様に、共用設備の保守維持費、委託業務費などとして、毎年度、管理費の支出に含めておきます。 
〈参考〉
◆ 区分所有法 第19条(共用部分の負担及び利益収取)
第19条 各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。
◆ 適正化指針(2 マンションの管理の適正化のために管理組合が留意すべき事項 (4) 管理組合の経費)
 管理組合がその機能を発揮するためには、その経済的基盤が確立されている必要がある。このため、管理費及び修繕積立金等について必要な費用を徴収するとともに、管理規約に基づき、これらの費目を帳簿上も明確に区分して経理を行い、適正に管理する必要がある。(以下略)
◆ 標準管理規約 第28条(修繕積立金)第1項
第28条 管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次 の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。
 一 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
 二 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
 三 敷地及び共用部分等の変更
 四 建物の建替え及びマンション敷地売却(以下「建替え等」と
    いう。)に係る合意形成に必要となる事項の調査
 五 その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の
    利益のために特別に必要となる管理 (以下略)
◆ 標準管理規約 第28条(業務)関係コメント①
① 対象物件の経済的価値を適正に維持するためには、一定期間ごとに行う計画的な維持修繕工事が重要であるので、修繕積立金を必ず積み立てることとしたものである。
◆ 標準管理規約 第32条(業務)関係コメント④
④ 長期修繕計画の作成又は変更に要する経費及び長期修繕計画の作成等のための劣化診断(建物診断)に要す る経費の充当については、管理組合の財産状態等に応じて管理費又は修繕積立金のどちらからでもできる。 ただし、修繕工事の前提としての劣化診断(建物診断)に要する経費の充当については、修繕工事の一環としての経費であることから、原則として修繕積立金から取り崩すこととなる。 (以下略)
◆ 標準管理規約 第25条(管理費等)
第25条 区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」と いう。)を管理組合に納入しなければならない。
 一 管理費
 二 修繕積立金
2 管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。
◆ 標準管理規約 第60条(管理費等の徴収)第6項
6 組合員は、納付した管理費等及び使用料について、その返還請求又は分割請求をすることができない。
◆ 標準管理規約 第61条(管理費等の過不足)
第61条 収支決算の結果、管理費に余剰を生じた場合には、その余剰は翌年度における管理費に充当する。
2 管理費等に不足を生じた場合には、管理組合は組合員に対して第25条第2項に定める管理費等の負担割合により、その都度必要な金額の負担を求めることができる。
(3)設計図書等の保管
 管理組合は、分譲会社から交付された設計図書、数量計算書等のほか、計画修繕工事の設計図書、点検報告書等の修繕等の履歴情報を整理し、区分所有者等の求めがあれば閲覧できる状態で保管することが必要です。なお、設計図書等は、紛失、損傷等を防ぐために、電子ファイルにより保管することが望まれます。
〈コメント〉
◆ 長期修繕計画の見直しや大規模修繕工事を行うに当たっては、専門家に調査・診断を依頼し、建物や設備の現状を把握する必要があります。その際は、新築時の設計図書、過去に実施した計画修繕工事の図面や書類、法定点検等の報告書、調査・診断の報告書など修繕等の履歴情報が大変有用なものとなります。(整備されていると専門家の作業が軽減され、負担する費用が削減できます。)したがって、これらを整理し、区分所有者又は利害関係者が閲覧できる状態で保管することが必要です。
◆ マンションの建設工事が完了した日が、適正化法の施行日(平成13年8月1日)以降の場合、同法第103条第1項に基づいて設計に関する図書が交付されていますので、保管しているか確認してください。 また、標準管理規約第32条関係コメント⑤及び⑥に掲げられている図書も修繕に有用な図書や書類ですので、整理して管理員事務室などに大切に保管しておきます。必要な図書がない場合は、分譲会社に写しの提供を依頼するか、計画修繕工事の修繕設計の際などに必要な図面を整備しておくことが望まれます。

◆ 新築時の設計図書や修繕工事の図面は、閲覧や貸出による傷みや紛失を防ぐために、原本は厳重に保管し、コピー(紙)や電子ファイル化の上、閲覧や貸出に応じることが望まれます。なお、公益財団法人マンション管理センターが運営する「マンションみらいネット」を活用し、電子ファイルにより保管する方法(バックアップ用の電子ファイルを保管)もあります。
〈参考〉
◆ 適正化指針(2 マンションの管理の適正化のために管理組合が留意すべき事項 (5) 長期修繕計画の策定及び見直し等)
(略)管理組合の管理者等は、維持修繕を円滑かつ適切に実施するため、設計に関する図書等を保管することが重要である。また、この図書等について、マンションの区分所有者等の求めに応じ、適時閲覧できるようにすることが重要である。(以下略)
◆ 適正化法 第103条(設計図書の交付等)第1項
第百三条 宅地建物取引業者(略)は、自ら売主として人の居住の用に供する独立部分がある建物(略)を分譲 した場合においては、国土交通省令で定める期間内に当該建物又はその附属施設の管理を行う管理組合の管理 者等が選任されたときは、速やかに、当該管理者等に対し、当該建物又はその附属施設の設計に関する図書で 国土交通省令で定めるものを交付しなければならない。
◆ 適正化法施行規則 第102条(法第103条第1項の国土交通省令で定める図書)
第百二条 法第103条第1項の国土交通省令で定める図書は、次の各号に掲げる、工事が完了した時点の同項の建物及びその附属施設(駐車場、公園、緑地及び広場並びに電気設備及び機械設備を含む。)に係る図書とする。
 一 付近見取図
 二 配置図
 三 仕様書(仕上げ表を含む。)
 四 各階平面図
 五 二面以上の立面図
 六 断面図又は矩計図
 七 基礎伏図
 八 各階床伏図 
 九 小屋伏図
 十 構造詳細図
 十一 構造計算書
◆ 標準管理規約 第32条(業務)第五号、第六号
第32条 管理組合は、建物並びにその敷地及び附属施設の管理のため、次の各号に掲げる業務を行う。
 五 適正化法第103条第1項に定める、宅地建物取引業者から 
  交付を受けた設計図書の管理
 六 修繕等の履歴情報の整理及び管理等
◆ 標準管理規約 第32条(業務)関係コメント⑤及び⑥
⑤ 管理組合が管理すべき設計図書は、適正化法第103条第1項に基づいて宅地建物取引業者から交付される竣工時の付近見取図、配置図、仕様書(仕上げ表を含む。)、各階平面図、2面以上の立面図、断面図又は矩計図、基礎伏図、各階床伏図、小屋伏図、構造詳細図及び構造計算書である。ただし、同条は、適正化法の施行(平成13年8月1日)前に建設工事が完了した建物の分譲については適用されないこととなっており、これに該当するマンションには上述の図書が交付されていない場合もある。 他方、建物の修繕に有用な書類としては、上述以外の設計関係書類(数量調書、竣工地積測量図等)、特定行政庁関係書類(建築確認通知書、日影協定書等)、消防関係書類、給排水設備図や電気設備図、機械関係設備施設の関係書類、売買契約書関係書類等がある。 このような各マンションの実態に応じて、具体的な図書を規約に記載することが望ましい。
⑥ 修繕等の履歴情報とは、大規模修繕工事、計画修繕工事及び設備改修工事等の修繕の時期、箇所、費用及び工事施工者等や、設備の保守点検、建築基準法第12条第1項及び第2項の特殊建築物等の定期調査報告及び建築設備(昇降機を含む。)の定期検査報告、消防法第8条の2の2の防火対象物定期点検報告等の法定点検、耐震診断結果、石綿使用調査結果など、維持管理の情報であり、整理して後に参照できるよう管理しておくことが今後の修繕等を適切に実施するために有効な情報である。
◆ 標準管理委託契約書 第3条(管理事務の内容及び実施方法)
※出典/転載/引用:長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント(全文)(PDF)


ゼロから学ぶマンション管理組合の会計とは?(第14話)マンションの長期修繕計画(第1章)とは(第1章


ゼロから学ぶマンション管理組合の会計とは?(第
14話)

マンションの長期修繕計画とは(第1章)?
はじめに
 前回は、国土交通省の「修繕積立金ガイドライン」をテキストに、修繕積立金の額は、長期修繕計画に基づいて決定するとういうロジックを学びました。また、建物のライフサイクルコストを踏まえた資金調達計画の最適化が求められていることを痛感しました。今回から修繕積立金の額を決定する根拠としての長期修繕計画について学ますが、国土交通省が令和3(2021)年9月に改訂した「長期修繕計画標準様式」及び「長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」は100ページを超える力作で、専門的知識の乏しい拙者には手に負えないことから、第3編長期修繕計画作成ガイドラ土地板イン・同コメントをテキストに学習いたします。

1 ガイドラインの目的
  このガイドラインは、マンションにおける長期修繕計画の作成又は見直し(以下「作成」という。)及び修繕積立金の額の設定に関して、基本的な考え方等と長期修繕計画標準様式(以下「標準様式」という。)を使用しての作成方法を示すことにより、適切な内容の長期修繕計画の作成及びこれに基づいた修繕積立金の額の設定を促し、マンションの計画修繕工事の適時適切かつ円滑な実施を図ることを目的としています。
〈コメント〉
◆ マンションの居住環境や資産価値を良好に維持するためには、敷地、建物の共用部分及び附属施設について、法定点検などの保守点検や軽微な破損などに対して経常的な補修を行うほか、経年劣化に対応して計画修繕工事を適時適切に実施することが不可欠です。 特に、築古のマンションは省エネ性能が低い水準にとどまっているものが多く存在していることから、大規模修繕工事の機会をとらえて、マンションの省エネ性能を向上させる改修工事(壁や屋上の外断熱改修工事や窓の断熱改修工事等)を実施することは脱炭素社会の実現のみならず、各区分所有者の光熱費負担を低下させる観点からも有意義と考えられます。
◆ 計画修繕工事の実施には多額の費用を要します。計画修繕工事の実施時にその工事に必要な費用を一度に徴収すると、区分所有者の負担能力を超えて必要な費用が徴収できず、計画修繕工事を実施できなくなることも想定されます。このような事態を避けるためには、必要な費用を修繕積立金としてあらかじめ積み立てておくことが必要です。 そのためには、適切な長期修繕計画を作成し、これに基づいて修繕積立金の額を設定し、これらについて区分所有者の間で合意しておくことが重要です。
◆ しかしながら、現状では、計画期間の不足、推定修繕工事項目の漏れなどによる不適切な内容の長期修繕計画が見受けられます。また、これに基づいて設定する修繕積立金の額も十分でないこともあり、計画修繕工事の実施時に、修繕積立金の不足が生じる原因となっています。
◆ このガイドラインは、長期修繕計画の基本的な考え方等や標準様式を使用しての作成方法を示したものです。これを参考として活用することで、長期修繕計画の作成者(分譲会社、管理組合等)が適切な内容の長期修繕計画を作成できること、また、購入予定者や管理組合が長期修繕計画の内容の理解やチェックを容易にできることにより、計画修繕工事の適時適切かつ円滑な実施を図ることを目的としています。
◆ なお、このガイドラインは、マンションの修繕をとりまく環境や状況の変化に対応したものとなるよう、5年程度ごとに見直しについて検討を行うこととしています。
〈参考〉
◆ 適正化指針(2 マンションの管理の適正化のために管理組合が留意すべき事項 (5) 長期修繕計画の策定及び見直し等)

 マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るためには、適時適切な維持修繕を行うことが重要である。特に、経年による劣化に対応するため、あらかじめ長期修繕計画を策定し、必要な修繕積立金を積み立てておく必要がある。(以下略)
◆ 標準管理規約 第32条(業務)
 管理組合は、建物並びにその敷地及び附属施設の管理のため、次の各号に掲げる業務を行う。
一 管理組合が管理する敷地及び共用部分等(以下本条及び第48条において「組合管理部分」という。)の保安、保全、保守、清掃、消毒及びごみ処理
二 組合管理部分の修繕
三 長期修繕計画の作成又は変更に関する業務
四 建物の建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査に関する業務
五 適正化法第103条第1項に定める、宅地建物取引業者から交付を受けた設計図書の管理
六 修繕等の履歴情報の整理及び管理等
七 共用部分等に係る火災保険その他の損害保険に関する業務
八 区分所有者が管理する専用使用部分について管理組合が行うことが適当であると認められる管理行為
九 敷地及び共用部分等の変更及び運営
十 修繕積立金の運用
(以下略)
◆ 標準管理規約 第32条(業務)関係コメント①
① 建物を長期にわたって良好に維持・管理していくためには、一定の年数の経過ごとに計画的に修繕を行っていくことが必要であり、その対象となる建物の部分、修繕時期、必要となる費用等について、あらかじめ長期修繕計画として定め、区分所有者の間で合意しておくことは、円滑な修繕の実施のために重要である。

2 対象とするマンション

 このガイドラインは、主として区分所有者が自ら居住する住居専用の単棟型のマンションを対象としています。 しかしながら、マンションには、様々な形態、形状、仕様等があり、立地条件も異なっていることから、これらの諸条件に応じた長期修繕計画とするため、必要に応じて内容を追加して使用します。したがって、団地型のマンションにおいても内容を追加することで使用できます。
〈コメント〉
◆ このガイドラインは、主として区分所有者が自ら居住するマンションを対象としていますが、いわゆるリゾートマンションや、一部に賃貸住宅を併設するマンション及び賃貸を目的としたマンション(投資用マンション等)にも使用できます。 なお、住宅の形態は、ファミリータイプを想定していますが、ワンルームタイプも使用できます。
◆ 単棟型のマンションを対象としていますが、必要な内容を追加することで、団地型のマンションにも適用できます。団地型マンションの形態としては「団地内の土地と集会所等の附属施設が数棟の区分所有者全員の共有となっているもの」と「土地の共有関係は各棟ごとに分かれ、集会所等の附属施設が数棟の区分所有者全員の共有となっているもの」がありますが、一般的な前者を想定しています。
◆ 建物の規模は、中高層のマンションを対象としています。例えば、階数が11階以上の場合、消防用設備や避難設備などについて考慮する必要があります。また、超高層の場合、免震構造などの躯体関係、航空障害灯などの設備関係のほか、修繕工事の仮設足場にゴンドラ等を使用するなど施工方法も異なりますので、これらについて考慮する必要があります。
◆ 複合用途型マンションは、低層階に店舗や事務所などがあり、上層階に住宅があるマンションが一般的です。店舗等の部分には、様々な形態や仕様、設備等が考えられることから、このガイドラインの対象からは除外しています。複合用途型マンションの管理区分としては、全体共用部分、住宅部分の区分所有者が共用する住宅一部共用部分及び店舗等の区分所有者が共用する店舗一部共用部分がある場合が多く、長期修繕計画を作成する場合は、これらの範囲や費用負担のあり方などに考慮する必要があります。
◆ その他、海沿いなど立地条件により、仕様や推定修繕工事の周期が異なる場合がありますので、これらについて考慮する必要があります。
3 ガイドラインの利用方法
 長期修繕計画の作成者(分譲会社及び管理組合)は、本ガイドラインを参考として、長期修繕計画を作成し、これに基づいて修繕積立金の額の設定を行います。 新築マンションにおいて、分譲会社は、本ガイドラインを参考として、長期修繕計画(案)を作成し、これに基づいて修繕積立金(修繕積立基金を含む。)の額の設定を行います。これらに関しては、購入予定者に対して内容を説明し理解を得るよう努めることが必要です。また、作成した長期修繕計画(案)は「推定修繕工事費内訳書」を含めて管理組合に引き渡すこと、及び総会(設立総会)において議決を行う場合に協力することが必要です。 購入予定者は、提示された長期修繕計画(案)の内容について、本ガイドラインを参考としてチェックすることができます。 既存マンションにおいて、管理組合は、長期修繕計画の見直し及びこれに基づく修繕積立金の額の設定に関する業務を専門家に委託(管理委託契約に含める場合を含む。)する際に、本ガイドラインを参考として依頼します。また、作成された長期修繕計画の内容を、本ガイドラインを参考としてチェックすることができます。 長期修繕計画の見直し等の業務を受託した専門家は、その成果物に関して管理組合に説明を行うことが必要です。また、総会における議決に協力することが望まれます。
〈コメント〉
◆ 分譲会社は、分譲時において修繕積立金の額とその根拠となる長期修繕計画(案)を作成して、購入予定者に説明します。また、管理組合は、その重要な業務の1つとして、長期修繕計画を作成又は見直し、これに基づいて修繕積立金の額の設定を行います。その際に、本ガイドラインを参考にすることを想定しています。
◆ 新築マンションの分譲時において、分譲会社が、本ガイドラインを参考として、長期修繕計画(案)を作成し、重要事項説明時に説明することで、購入予定者は、長期修繕計画(案)の内容や修繕積立金の額の理解、その比較検討が容易になります。また、より深く理解することにより、分譲会社からの引渡し後に開催する総会において決議が必要な場合に合意形成が進めやすくなります。 なお、長期修繕計画の「推定修繕工事費内訳書」が管理組合に引き渡されることにより、その見直しの時に作業が軽減されるため、管理組合が負担する費用も少なくなります。
◆ 管理組合は、長期修繕計画の見直しに関する業務を管理業者又は建築士事務所等に依頼する際に、本ガイドラインを参考にすることで、適切な内容に作成されることが期待できます。また、標準様式と比較することで、作成された見直し案の内容を容易にチェックすることができます。 業務の委託を受けた専門家が、このガイドラインを参考として説明することにより、管理組合は、長期修繕計画の内容や修繕積立金の額の理解が容易になり、総会における合意形成が進めやすくなります。
〈参考〉
◆ 適正化指針(3 マンションの管理の適正化のためにマンションの区分所有者等が留意すべき事項)
  マンションを購入しようとする者は、マンションの管理の重要性を十分認識し、売買契約だけでなく、管理規約、使用細則、管理委託契約、長期修繕計画等管理に関する事項に十分に留意することが重要である。(以下略)
◆ 中高層分譲共同住宅(マンション)に係る管理の適正化及び取引の公正の確保について 建設省建設経済局長・住宅局長通達(平成4年12月25日付け建設省経動発第106号・建設省住管発第5号) 
第三 長期修繕計画の策定の促進及び修繕費用の適切な積立て等
 宅地建物取引業者にあってはマンションの分譲時に、また管理業者にあっては管理受託時に、マン ションの実態に即した長期修繕計画の策定、これに基づく適切な修繕積立金の積立て及び適時の劣化診断の実施の必要性について、管理組合に対する周知に努めること。
◆ 標準管理委託契約書 第3条(管理事務の内容及び実施方法)
  管理事務の内容は、次のとおりとし、別表第1から第4に定めるところにより実施する。
一  事務管理業務(別表第1に掲げる業務)
二  管理員業務(別表第2に掲げる業務)
三  清掃業務(別表第3に掲げる業務)
四  建物・設備管理業務(別表第4に掲げる業務)
別表第1  事務管理業務  1 基幹事務
(3) 本マンション(専有部分を除く。以下同じ。)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整
一  乙は、甲の長期修繕計画の見直しのため、管理事務を実施する上で把握した本マンションの劣化等の状況に基づき、当該計画の修繕工事の内容、実施予定時期、工事の概算費用等に、改善の必要があると判断した場合には、書面をもって甲に助言する。
二  長期修繕計画案の作成業務及び建物・設備の劣化状況等を把握するための調査・診断を実施し、その結果に基づき行う当該計画の見直し業務を実施する場合は、本契約とは別個の契約とする。
三  乙は、甲が本マンションの維持又は修繕(大規模修繕を除く修繕又は保守点検等。)を外注により 乙以外の業者に行わせる場合の見積書の受理、発注補助、実施の確認を行う。 なお、「実施の確認」とは、別表第2 2(3)一に定める管理員が外注業務の完了の立会いにより確認できる内容のものをいう。
4 用語の定義
 このガイドラインにおける用語の定義は、次の各号に掲げるところによります。
一 マンション マンション管理の適正化の推進に関する法律(平成12年法律第149 号。以下「適正化法」という。)第2条第1号に規定するマンションをいいます。
二 管理組合 適正化法第2条第3号に規定する管理組合をいいます。
三 区分所有者 建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号。以下「区分所有法」という。)第2条第2項の区分所有者をいいます。
四 購入予定者 マンションの購入に係る売買契約を締結しようとする者をいいま す。
五 分譲会社 マンションを分譲する宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号) 第2条第3号に規定する宅地建物取引業者をいいます。
六 管理業者 適正化法第2条第8号に規定するマンション管理業者をいいます。
七 専門家 管理業者、建築士事務所等の長期修繕計画の作成業務を行う者をいいま す。
八 敷地 区分所有法第2条第5項に規定する建物の敷地をいいます。
九 附属施設 駐車場施設、自転車置場、ごみ集積所、外灯設備、樹木等建物に附属 する施設をいいます。
十 専有部分 区分所有法第2条第3項に規定する専有部分をいいます。
十一 共用部分 区分所有法第2条第4項に規定する共用部分をいいます。
十二 管理規約 区分所有法第30条第1項及び第2項に規定する規約をいいます。
十三 推定修繕工事 長期修繕計画において、計画期間内に見込まれる修繕工事(補修工事(経常的に行う補修工事を除く。)を含む。以下同じ。)及び改修工事をいいます。
十四 計画修繕工事 長期修繕計画に基づいて計画的に実施する修繕工事及び改修工事をいいます。
十五 大規模修繕工事 建物の全体又は複数の部位について行う大規模な計画修繕工事(全面的な外壁塗装等を伴う工事)をいいます。
十六 修繕積立金 計画修繕工事に要する費用に充当するための積立金をいいます。
十七 推定修繕工事費 推定修繕工事に要する概算の費用をいいます。
十八 修繕工事費 計画修繕工事の実施に要する費用をいいます。 十九 推定修繕工事項目 推定修繕工事の部位、工種等による項目をいいます。
〈コメント〉
◆ 長期修繕計画の作成業務を行う専門家としては、管理業者や建築士事務所などがありますが、長期修繕計画の作成や修繕積立金の積立てを含めたマンションの管理運営に関する助言、指導その他の援助業務を行う専門家としては、マンション管理士などがあります。
◆ 建物の全体又は複数の部位について行う大規模な計画修繕工事とは、例えば、全面的な外部足場が必要な外壁塗装と屋上防水等を同時に行う場合などがあります。
長期修繕計画の基本的な考え方
1 長期修繕計画の作成の目的
 マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値を維持するためには、適時適切な修繕工事を行うことが必要です。また、必要に応じて建物及び設備の性能向上を図る改修工事を行うことも望まれます。 そのためには、次に掲げる事項を目的とした長期修繕計画を作成し、これに基づいて修繕積立金の額を設定することが不可欠です。
① 将来見込まれる修繕工事及び改修工事の内容、おおよその時期、概算の費用等を明確にする。
② 計画修繕工事の実施のために積み立てる修繕積立金の額の根拠を明確にする。
③ 修繕工事及び改修工事に関する長期計画について、あらかじめ合意しておくことで、計画修繕工事の円滑な実施を図る。
〈コメント〉
◆ マンションの居住環境や資産価値を良好に維持するためには、建物及び設備の経年劣化に対応して適時適切に修繕工事を行うことが必要です。さらに、区分所有者の要望など必要に応じて、建物及び設備の耐震性や断熱性などの性能を新築時の水準から向上させる改修工事を行うことが望まれます。
◆ 修繕工事及び改修工事を適時適切に、また円滑に実施するためには、長期修繕計画を作成し、この計画を踏まえて計画修繕工事を実施することと、計画修繕工事に要する費用に充当するため、この計画に基づいて修繕積立金の額を設定し積み立てることが不可欠です。
◆ 具体的には、将来の一定期間に見込まれる修繕工事及び改修工事について、①マンションの形状、仕様などに応じた内容、②経済性(順序、集約化など)、立地条件、劣化状況などを考慮したおおよその時期、③必要となる概算の費用などを明確にします。
◆ また、区分所有者が負担する修繕積立金の額の根拠としても、その使途となる将来の修繕工事及び改修工事の内容等を明示することが必要です。
◆ 長期修繕計画の作成により、どのような工事を、おおよそいつごろ、どの程度の費用をかけて行うのか、そのためにどの程度の資金が必要かなどについて、区分所有者が十分理解し、その内容を合意しておくことによって、計画修繕工事を実施するための合意形成が円滑になると考えられます。
◆ 建物の敷地、構造及び設備の最低基準として「建築基準法」が定められています。この法律の中でマンションなどの建築物の所有者又は管理者は、敷地や建物・設備を常に関係法令に適合している状態に維持するように努め、また、必要に応じ、維持保全(点検や修繕など)に関する準則(複数の計画相互の整合性を図るもの)又は計画を作成し、その他適切な措置を講じなければならないと定められています。
〈参考〉
◆ 適正化指針(2 マンションの管理の適正化のために管理組合が留意すべき事項 (5) 長期修繕計画の策定及び見直し等)
 マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値の維持向上を図るためには、適時適切な維持修繕を行うことが重要である。特に、経年による劣化に対応するため、あらかじめ長期修繕計画を作成し、必要な修繕積立金を積み立てておく必要がある。(以下略)
◆ 標準管理規約 第32条(業務)第3号
第三十二条 管理組合は、建物並びにその敷地及び附属施設の管理のため、次の各号に掲げる業務を行う。
三 長期修繕計画の作成又は変更に関する業務及び長期修繕計画書の管理
◆ 標準管理規約 第32条(業務)関係コメント①
① 建物を長期にわたって良好に維持・管理していくためには、一定の年数の経過ごとに計画的に修繕を行っていくことが必要であり、その対象となる建物の部分、修繕時期、必要となる費用等について、あらかじめ長期修繕計画として定め、区分所有者の間で合意しておくことは、円滑な修繕の実施のために重要である。
◆ 建築基準法 第8条(維持保全)
第八条 建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない。
2  次の各号のいずれかに該当する建築物の所有者又は管理者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するため、必要に応じ、その建築物の維持保全に関する準則又は計画を作成し、その他適切な措置を講じなければならない。ただし、国、都道府県又は建築主事を置く市町村が所有し、又は管理する建築物については、この限りでない。
一 特殊建築物で安全上、防火上又は衛生上特に重要であるものとして政令で定めるもの
二 前号の特殊建築物以外の特殊建築物その他政令で定める建築物で、特定行政庁が指定するもの
3 国土交通大臣は、前項各号のいずれかに該当する建築物の所有者又は管理者による同項の準則又は計画の適確な作成に資するため、必要な指針を定めることができる。
(注)「建築物の維持保全に関する準則又は計画の作成に関し必要な指針を定める件」 (昭和60年3月19日 国土交通省告示第606号)
2 基本的な考え方
(1)長期修繕計画の対象の範囲

 単棟型のマンションの場合、管理規約に定めた組合管理部分である敷地、建物の共用部分及び附属施設(共用部分の修繕工事又は改修工事に伴って修繕工事が必要となる専有部分を含む。)を対象とします。
 また、団地型のマンションの場合は、多様な所有・管理形態(管理組合、管理規約、会計等)がありますが、一般的に、団地全体の土地、附属施設及び団地共用部分並びに各棟の共用部分を対象とします。
 なお、共用部分の給排水管の取替えと専有部分の給排水管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の給排水管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられます。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の給排水管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて管理規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要です。
〈コメント〉
◆ 単棟型のマンションの場合、標準管理規約では、敷地、建物の共用部分及び附属施設(建物の専有部分を除く部分)の管理については、「管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。」としています。
◆ また、共用部分の排水管の取替えを行うために、パイプシャフトに面した専有部分の壁を一旦撤去した後に修復することがあります。このような共用部分の修繕工事及び改修工事に伴う専有部分の修繕工事は、管理組合が費用を負担しますので、長期修繕計画の対象に含むこととなります。
◆ 計画修繕工事の実施におけるトラブルを避けるためにも、標準管理規約(単棟型)の第7条(専有部分の範囲)、第8条(共用部分の範囲)などを参考にして、建物の共用部分の範囲(所有区分、使用区分及び管理区分)を整理し、管理規約に明示しておく必要があります。
◆ 団地型のマンションの形態としては「団地内の土地と集会所等の附属施設が数棟の区分所有者全員の共有となっているもの」と「土地の共有関係は各棟ごとに分かれ、集会所等の附属施設が数棟の区分所有者全員の共有となっているもの」があります。 前者の場合、土地、附属施設及び団地共用部分を対象とした長期修繕計画と各棟ごとの共用部分を対象とした長期修繕計画を作成します。修繕積立金は、それぞれの長期修繕計画に基づいて設定した団地修繕積立金と各棟修繕積立金に区分して積み立てます。後者の場合、団地共用部分及び附属施設を対象とした長期修繕計画と各棟ごとの敷地と建物の共用部分を対象とした長期修繕計画を作成します。 なお、団地を構成する棟の数、各棟の建物の規模、構造、建物の完成時期などの差異について十分考慮する必要があります。
◆ 組合管理部分の修繕工事には、①経常的な補修工事(管理費から充当)、②計画修繕工事及び③災害や不測の事故に伴う特別修繕工事があります。このうち、長期修繕計画は、計画修繕工事を対象としたものです。
◆ 共用部分の配管給排水管の取替えに併せて、専有部分の給排水管の取替えを行う場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の給排水管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて管理規約に規定する等、区分所有者間で十分に合意形成を図っておくことが必要です。また、これらの合意形成がなされる前に工事を行った区分所有者に対しては、当該区分所有者に対する補償の有無等について留意することが必要です。 なお、修繕積立金から専有部分の工事費用として拠出する場合には、その対象を共用部分と構造上一体となった部分及び共用部分の管理上影響を及ぼす部分(いわゆる横引き配管など)に留め、これに連結された室内設備類は区分所有者の負担とすることが相当です。
〈参考〉
◆ 適正化指針(2 マンションの管理の適正化のために管理組合が留意すべき事項 (3) 共用部分の範囲及び管理費用の明確化)
 管理組合は、マンションの快適な居住環境を確保するため、あらかじめ、共用部分の範囲及び管理費用を明確にし、トラブルの未然防止を図ることが重要である。 特に、専有部分と共用部分の区分、専用使用部分と共用部分の管理及び駐車場の使用等に関してトラブルが生じることが多いことから、適正な利用と公平な負担が確保されるよう、各部分の範囲及びこれに対するマンションの区分所有者等の負担を明確に定めておくことが重要である。
◆ 標準管理規約 第21条(敷地及び共用部分等の管理)
第21条 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、バルコニー等の保存行為(区分所有法第18条第1項ただし書の「保存行為」をいう。以下同じ。)のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを 行わなければならない。
2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる。
◆ 標準管理規約 第21条(敷地及び共用部分等の管理)関係コメント
① 第1項及び第3項は、区分所有法第18条第1項ただし書において、保存行為は、各共有者がすることができると定められていることに対し、同条第2項に基づき、規約で別段の定めをするものである。
② 駐車場の管理は、管理組合がその責任と負担で行う。
③ バルコニー等の管理のうち、管理組合がその責任と負担において行わなければならないのは、計画修繕等である。
④ 本条ただし書の「通常の使用に伴う」保存行為とは、バルコニーの清掃や窓ガラスが割れた時の入れ替え等である。
⑤ バルコニー等の経年劣化への対応については、③のとおり管理組合がその責任と負担において、計画修繕として行うものである。 ただし、バルコニー等の劣化であっても、長期修繕計画作成ガイドラインにおいて管理組合が行うものとされている修繕等の周期と比べ短い期間で発生したものであり、かつ、他のバルコニー等と比較して劣化の程度が顕著である場合には、特段の事情がない限りは、当該バルコニー等の専用使用権を有する者の「通常の使用に伴う」ものとして、その責任と負担において保存行為を行うものとする。なお、この場合であっても、結果として管理組合による計画修繕の中で劣化が解消されるのであれば、管理組合の負担で行われることとなる。
⑥ バルコニー等の破損が第三者による犯罪行為等によることが明らかである場合の保存行為の実施については、通常の使用に伴わないものであるため、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、同居人や賃借人等による破損については「通常の使用に伴う」ものとして、当該バルコニー等の専用使用権を有する者がその責任と負担において保存行為を行うものとする。
⑦ 第2項の対象となる設備としては、配管、配線等がある。配管の清掃等に要する費用については、第27条第三号の「共用設備の保守維持費」として管理費を充当することが可能であるが、配管の取替え等に要する費用のうち専有部分に係るものについては、各区分所有者が実費に応じて負担すべきものである。なお、共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の配管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要である。
⑧ 第3項ただし書は、例えば、台風等で住戸の窓ガラスが割れた場合に、専有部分への雨の吹き込みを防ぐため、割れたものと同様の仕様の窓ガラスに張り替えるというようなケースが該当する。また、第5項は、区分所有法第19条に基づき、規約で別段の定めをするものである。
 承認の申請先等は理事長であるが、承認、不承認の判断はあくまで理事会の決議によるものである(第54条第1項第五号参照)。
⑨ 区分所有法第26条第1項では、敷地及び共用部分等の保存行為の実施が管理者(本標準管理規約では理事長)の権限として定められている。第6項では、災害等の緊急時における必要な保存行為について、理事長が単独で判断し実施できることを定めるものである。災害等の緊急時における必要な保存行為としては、共用部分等を維持するための緊急を要する行為又は共用部分等の損傷・滅失を防止して現状の維持を図るための比較的軽度の行為が該当する。後者の例としては、給水管・排水管の補修、共用部分等の被災箇所の点検、破損箇所の小修繕等が挙げられる。この場合に必要な支出については、第58条第6項及びコメント第58条関係⑤を参照のこと。
⑩ 災害等の緊急時において、保存行為を超える応急的な修繕行為の実施が必要であるが、総会の開催が困難である場合には、理事会においてその実施を決定することができることとしている(第54条第1項第十号及びコメント第54条関係①を参照。)。しかし、大規模な災害や突発的な被災では、理事会の開催も困難な場合があることから、そのような場合には、保存行為に限らず、応急的な修繕行為の実施まで理事長単独で判断し実施することができる旨を、規約において定めることも考えられる。更に、理事長をはじめとする役員が対応できない事態に備え、あらかじめ定められた方法により選任された区分所有者等の判断により保存行為や応急的な修繕行為を実施することができる旨を、規約において定めることも考えられる。なお、理事長等が単独で判断し実施することができる保存行為や応急的な修繕行為に要する費用の限度額について、予め定めておくことも考えられる。
⑪ 第6項の災害等の緊急時における必要な保存行為の実施のほか、平時における専用使用権のない敷地又は共用部分等の保存行為について、理事会の承認を得て理事長が行えるとすることや、少額の保存行為であれば理事長に一任することを、規約において定めることも考えられる。その場合、理事長単独で判断し実施することができる保存行為に要する費用の限度額について、予め定めておくことも考えられる。
◆ 表 標準管理規約(単棟型)による区分
所有区分 使用区分 管理区分 修繕等の手続き
専有 (第7条) 専用 (第12条) 区分所有者 (第20条) (例外:第21条第2項) 管理組合の承認 (第17条、第18条)
共有 (第9条) 専用(専用使用権) 〔バルコニー、玄関扉、窓枠、窓ガラス、専用庭など〕(第14条) 区分所有者 〔通常の使用に伴うもの〕(第21条第1項) (例外:第22条第2項)

管理組合の承認 (第17条、第18条)

共有 (第9条) 共用 (第8条) 管理組合 (第21条第1項) (第22条第1項) 長期修繕計画 計画修繕工事 (第32条、第48条)
(注)( )内は、該当条文
(2)長期修繕計画の作成の前提条件
 長期修繕計画の作成に当たっては、次に掲げる事項を前提条件とします。
① 推定修繕工事は、建物及び設備の性能・機能を新築時と同等水準に維持、回復させる修繕工事を基本とする。
② 区分所有者の要望など必要に応じて、建物及び設備の性能を向上させる改修工事を設定する。
③ 計画期間において、法定点検等の点検及び経常的な補修工事を適切に実施する。
④ 計画修繕工事の実施の要否、内容等は、事前に調査・診断を行い、その結果に基づいて判断する。
〈コメント〉
◆ 新築マンションの場合、経年に伴う物理的な劣化などにより低下する性能・機能を新築時の水準に維持、回復すること(修繕)が基本となります。
◆ 既存マンションの場合、経年に伴う生活様式や社会環境の変化等の社会的な要因などから、耐震性や断熱性など建物及び設備の性能・機能を新築時の水準から向上させること(改修)も必要となります。
◆ マンションの建物及び設備の状態を良好に保つためには、日常的又は定期的にその状態(建物各部の不具合や設備等の作動異常など)を把握し、適切にその処置(消耗品の交換、作動調整、補修など)を行い、それを記録し、整理・保管しておくことが必要です。 一定規模以上のマンションでは、建築基準法や消防法などの法令で点検等の実施と報告が義務付けられています(法定点検)。その他の点検としては、一般的には管理業者に委託して日々行う「日常点検」、エレベーターなど保守会社等との契約に基づく「保守契約による点検」などがあります。 エレベーターの「保守契約による点検」の場合、国土交通省が平成28年2月に策定した「昇降機の適切な維持管理に関する指針」に沿った点検を行うことも重要です。
◆ 長期修繕計画の推定修繕工事は、設定した内容や時期はおおよその目安ですし、費用も概算です。したがって、計画修繕工事を実施する際は、その基本計画の検討時において、建物及び設備の現状、修繕等の履歴などの調査・診断を行い、その結果に基づいて内容や時期等を判断します。なお、法定点検の結果、要是正の判定となった場合に必要となる修理や部品の交換等を速やかに行うことが重要であるため、これらの対応については、原則として長期修繕計画の推定修繕工事の対象外とすることが望ましいと考えられます。 
〈コメント〉
◆ 長期修繕計画は、作成又は見直し時点で、①計画期間において見込まれる推定修繕工事の内容、②おおよその時期の目安、③必要とする概算の費用、④修繕積立金との収支計画に関して定めるものです。
◆ 推定修繕工事の内容の設定や概算の費用の算出は、新築マンションの場合、設計図書のほか、工事請負契約書により施工会社から提出された請負代金内訳書、数量計算書などを参考にして、長期修繕計画用に設定します。また、既存マンションの場合、分譲会社から引き渡された設計図書、保管している修繕等の履歴のほか、現状の調査・診断の結果に基づいて、長期修繕計画用に設定します。
◆ 本文に掲げる事項のとおり、作成又は見直し時点で数十年先までの推定修繕工事の内容等を設定することには限度があります。したがって、長期修繕計画は、将来実施する計画修繕工事の内容、時期、費用等を確定するものではなく、計画修繕工事の実施時の見積りのように修繕設計を基にして詳細に積算することまでは求めていません。また、一定期間(5年程度)ごとに見直すことを前提としています。
(3)長期修繕計画の精度
 長期修繕計画は、作成時点において、計画期間の推定修繕工事の内容、時期、概算の費用等に関して計画を定めるものです。 推定修繕工事の内容の設定、概算の費用の算出等は、新築マンションの場合、設計図書、工事請負契約書による請負代金内訳書及び数量計算書等を参考にして、また、既存マンションの場合、保管されている設計図書のほか、修繕等の履歴、劣化状況等の調査・診断の結果に基づいて行います。 したがって、長期修繕計画は、次に掲げる事項のとおり、将来実施する計画修繕工事の内容、時期、費用等を確定するものではありません。また、一定期間(5年程度)ごとに見直していくことを前提としています。
① 推定修繕工事の内容は、新築マンションの場合は現状の仕様により、既存マンションの場合は現状又は見直し時点での一般的な仕様により設定するが、計画修繕工事の実施時には技術開発等により異なることがある。
② 時期(周期)は、おおよその目安であり、立地条件等により異なることがある。
③ 収支計画には、修繕積立金の運用利率、借入金の金利、物価・工事費価格及び消費税率の変動など不確定な要素がある。
〈コメント〉
◆ 長期修繕計画は、作成又は見直し時点で、①計画期間において見込まれる推定修繕工事の内容、②おおよその時期の目安、③必要とする概算の費用、④修繕積立金との収支計画に関して定めるものです。
◆ 推定修繕工事の内容の設定や概算の費用の算出は、新築マンションの場合、設計図書のほか、工事請負契約書により施工会社から提出された請負代金内訳書、数量計算書などを参考にして、長期修繕計画用に設定します。また、既存マンションの場合、分譲会社から引き渡された設計図書、保管している修繕等の履歴のほか、現状の調査・診断の結果に基づいて、長期修繕計画用に設定します。
◆ 本文に掲げる事項のとおり、作成又は見直し時点で数十年先までの推定修繕工事の内容等を設定することには限度があります。したがって、長期修繕計画は、将来実施する計画修繕工事の内容、時期、費用等を確定するものではなく、計画修繕工事の実施時の見積りのように修繕設計を基にして詳細に積算することまでは求めていません。また、一定期間(5年程度)ごとに見直すことを前提としています。

3 長期修繕計画の作成の条件
(1)管理規約の規定

 管理規約に、長期修繕計画の作成及び修繕積立金の額の設定に関する次に掲げる事項について、マンション標準管理規約(以下「標準管理規約」という。)と同趣旨の規定を定めることが必要です。 ① 管理組合の業務(長期修繕計画の作成、変更)
② 総会決議事項(長期修繕計画の作成、変更)
③ 管理費と修繕積立金の区分経理
④ 修繕積立金の使途範囲
⑤ 管理費と修繕積立金に関する納入義務・分割請求禁止
⑥ 専有部分と共用部分の区分
⑦ 敷地及び共用部分等の管理
 また、長期修繕計画及び修繕積立金の額を一定期間(5年程度)ごとに見直しを行う規定を定めることも望まれます。
〈コメント〉
◆ 単棟型のマンションの場合、管理規約に、長期修繕計画の作成及び修繕積立金の額の設定に関して、次に掲げる事項について、標準管理規約と同趣旨の規定を定めることが必要です。また、その管理規約を区分所有者等が閲覧できるように保管することも必要です。
① 管理組合の業務(長期修繕計画の作成、変更)
② 総会決議事項(長期修繕計画の作成、変更)
③ 管理費と修繕積立金の区分経理
④ 修繕積立金の使途範囲 【標準管理規約第32条】 【標準管理規
 約第48条】 【標準管理規約第28条第5項】 【標準管理規約第28 
 条第1項~第4項】
⑤ 管理費と修繕積立金に関する納入義務・分割請求禁止 【標準管
 理規約第25条、第60条第6項、第61条】
⑥ 専有部分と共用部分の区分
⑦ 敷地及び共用部分等の管理 【標準管理規約第7条、第8条、別表
 第2】 【標準管理規約第21条、第22条】
◆ また、長期修繕計画は、一定期間(5年程度)ごとに見直すことを前提としており、併せて、修繕積立金の額の見直しも必要です。これらの見直しの実施が確実に行われるようにするために、長期修繕計画及び修繕積立金の額を一定期間ごとに見直すことを管理規約で定めることが望まれます。
※出典/転載/引用:長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント(全文)(PDF)

ゼロから学ぶマンション会計 修繕積立金ガイドラインとは?


ゼロから学ぶマンション会計

修繕積立金ガイドラインとは?
はじめに
 前2回は、長期修繕計画に基づく修繕積立金の額の設定について学びましたが、マンションのストック総数は約675万戸(令和2年末現在)、約1,573万人が居住する、我が国における重要な居住形態のひとつとなっており、その数は着実に増加しているのですから、マンションの良好な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るためには、計画的な修繕工事の実施が不可欠ですが、修繕工事の費用は多額であり、修繕工事の実施時に一括で徴収することは困難です。このため、将来予想される修繕工事を盛り込んだ長期修繕計画を策定し、これに基づき、月々の修繕積立金の額を設定することが重要となります。 一般に、マンションの分譲段階では、分譲会社が、長期修繕計画と修繕積立金の額をマンション購入者に提示していますが、マンション購入者は、修繕積立金等に関して必ずしも十分な知識を有しているとは限らず、修繕積立金の当初月額が著しく低く設定される等の例も見られます。 また、既存のマンションでは、経年とともに給排水管、エレベーター、機械式駐車場等の大がかりな修繕工事が増加する一方、2回目・3回目の大規模修繕に向けた適切な長期修繕計画の見直しが行われていない等の例も見られます。 その結果、必要な修繕積立金が十分に積み立てられず、修繕工事費が不足するといった問題が生じているとの指摘もあります。 こうしたことを背景に、平成23(2011)年4月に策定された「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(以下「修繕積立金ガイドライン」という。)について、新築マンションの購入予定者に加え、既存のマンションの区分所有者や購入予定者においても、修繕積立金に関する基本的な知識や修繕積立金の額の目安について参照することができるガイドラインとして令和3(2021)年9月に改訂されました。 本ガイドラインが活用されることによって、購入予定者・区分所有者・管理組合の修繕積立金についての関心や理解が深まるとともに、適正な修繕積立金の設定・積立が促進され、適時適切な修繕工事を通じた良質なマンションストックの形成に寄与することを期待しています。 なお、マンションに一般的に使用される材料、設備等は、社会的な環境や生活様式の変化、技術の向上等に伴い、時代とともに変化していきます。また、修繕工事の内容や工法、修繕周期等についても、新しい工法や技術開発の進展等に伴い、異なるものとなります。本ガイドラインについては、こうした変化に対応したものとなるよう、引き続き、できるだけ多くの長期修繕計画の事例収集等を積み重ねながら、5年程度ごとに見直しについて検討を行うこととしています。今回は、「修繕積立金ガイドライン」をテキストに学びます。
1 修繕積立金ガイドラインの目的
 修繕積立金ガイドラインは、主としてマンションの購入予定者及びマンションの区分所有者・管理組合向けに、修繕積立金に関する基本的な知識や、修繕積立金の額の目安を示し、修繕積立金に関する理解を深めていただくとともに、修繕積立金の額の水準について判断する際の参考材料として活用していただくことを目的に作成したものです。
(1)修繕積立金とは?
 マンションの外壁や屋根、エレベーター等の共用部分は、マンションの購入者(区分所有者)で団体(管理組合)を構成し、維持管理・修繕を行うこととなります。 購入したマンションについて、安全・安心で、快適な居住環境を確保し、資産価値を維持するためには、適時・適切な修繕工事を行うことが必要ですが、マンションの共用部分の修繕工事は長い周期で実施されるものが多く、修繕工事の実施時には、多額の費用を要します。 こうした多額の費用を修繕工事の実施時に一括で徴収することは、区分所有者にとって大きな負担となり、区分所有者間の合意形成が困難であるほか、場合によっては、資金不足のため必要な修繕工事が実施できないといった事態にもなりかねません。 こうした事態を避けるため、将来予想される修繕工事に要する費用を、長期間にわたり計画的に積み立てていくのが、「修繕積立金」です。 このように、修繕積立金は、マンションを長期間にわたり、良好な状態に維持していくために必要なものです。 なお、修繕積立金は、共用部分について管理組合が行う修繕工事の費用に充当するための積立金であり、専有部分について各区分所有者が行うリフォームの費用は原則として含まれません。
(2)長期修繕計画とは?
 修繕積立金の額は、将来見込まれる修繕工事の内容、おおよその時期、概算の費用等を盛り込んだ「長期修繕計画」に基づいて設定されます。 一般に長期修繕計画は、修繕積立金とともに分譲会社から提示されますが、長期修繕計画の作成方法やそこに盛り込むべき内容については、国土交通省が作成・公表した「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」において説明されていますので、長期修繕計画についてより理解を深めたい場合には、そちらも適宜参考にしてください。
 なお、長期修繕計画は、将来実施する修繕工事の内容、時期、費用等を確定するものではなく、一定期間ごとに見直していくことを前提としています。例えば、修繕工事の内容は、計画作成時のマンションの現状の仕様等を踏まえて設定されますが、実際の修繕工事の実施時には、技術革新等により異なるものになることがあります。また、計画期間を何年に設定するかによって、計画に盛り込まれる修繕工事の内容も異なります(新築時の計画期間が30年の場合、修繕周期がこれを超える修繕工事項目は盛り込まれていません)。こうしたことからも、長期修繕計画は一定期間ごとに見直していくことが必要となります。
2 修繕積立金の額の目安
(1)修繕積立金の額の目安の算出方法と留意点
 修繕積立金ガイドラインでは、修繕積立金の額の水準について、購入予定者及びマンションの区分所有者・管理組合が判断する際の参考になるよう、「修繕積立金の額の目安」を示しています。 修繕積立金の額は、個々のマンションごとに様々な要因によって変動し、ばらつきも大きいことから、その「目安」の算出に当たっては、実際に作成された長期修繕計画を幅広く収集し、その事例の平均値と事例の大部分が収まるような幅として示すこととしています。 具体的には、 ① 主として区分所有者が自ら居住する住居専用のマンションを対象に、 ②長期修繕計画作成ガイドラインに概ね沿って作成された長期修繕計画の事例(366事例)を収集・分析し、 長期修繕計画作成ガイドラインに示す主要な修繕工事項目(19項目、ただし機械式駐車場は除く)が含まれており、かつ、計画期間が新築マンションは30年以上、既存マンションは25年以上であるもの、目安の算出に用いた366事例のマンションの概要については資料編をご参照ください。 ③長期修繕計画の計画期間全体に必要な修繕工事費の総額を、当該期間で積み立てる場合の専有面積(㎡)あたりの月額単価として示しています。 また、マンションに機械式駐車場がある場合は、修繕工事に多額の費用を要し、修繕積立金の額に影響する度合いが大きいことから、(2)では、機械式駐車場に係る修繕積立金を特殊要因として別に加算することとしました。 なお、上述したように、修繕積立金の額は、マンションごとに様々な要因によって変動します。(2)で示す額は、あくまでも上記のような事例調査から導き出した「目安」であり、修繕積立金の額が「目安」の範囲に収まっていないからといって、直ちに不適切であると判断される訳ではありません。「目安」の活用にあたっては、(3)の留意点についても参考にしてください。
(2)修繕積立金の額の目安(計画期間全体での修繕積立金の平均額) 
①計画期間全体における修繕積立金の平均額の算出方法(㎡当たり月単価)
(算出式)
 計画期間全体における修繕積立金の平均額(円/㎡・月)
Z=(A+B+C)÷X÷Y
A:計画期間当初における修繕積立金の残高(円)
B:計画期間全体で集める修繕積立金の総額(円)
C:計画期間全体における専用使用料等からの繰入額の総額(円) X:マンションの総専有床面積(㎡)
Y:長期修繕計画の計画期間(ヶ月)
Z:計画期間全体における修繕積立金の平均額(円/㎡・月)

②計画期間全体における修繕積立金の平均額の目安(機械式駐車場分を除く)
※機械式駐車場がある場合は後記「②機械式駐車場がある場合の加算額」も参照してください。
計画期間全体における修繕積立金の平均額の目安(機械式駐車場を除く)
地上階数/建築延床面積 月額の専有面積当たりの修繕積立金額 月額の専有面積当たりの修繕積立金額
【20階未満】 事例の3分の2が包含される幅 平均値
5,000㎡未満 235円~430円/㎡・月 335円/㎡・月
5,000㎡以上~10,000㎡未満 170円~320円/㎡・月 252円/㎡・月
10,000㎡以上~20,000㎡未満 200円~330円/㎡・月 271円/㎡・月
20,000㎡以上 190円~325円/㎡・月 255円/㎡・月
【20階以上】 240円~410円/㎡・月 338円/㎡・月
(注)・事例にはばらつきが大きいため、「平均値」とともに、事例の大部分が収まるような範囲を示すという観点から、「事例の3分の2が包含される幅」をあわせて示しています。なお、平均値とあわせて標準偏差による範囲の表現方法もありますが、事例のばらつきが正規分布とはならないため、ここでは分かりやすさを優先して中央よりの3分の2の包含幅(事例の上下6分の1を除外した幅)としました。この包含幅の値は、5円単位で表示しています。 ・超高層マンション(一般に地上20階以上)は、外壁等の修繕のための特殊な足場が必要となるほか、共用部分の占める割合が高くなる等のため、修繕工事費が増大する傾向にあることから、【地上20階以上】の目安を分けて示しています。また、【地上20階未満】のマンションについては、建築延床面積の規模に応じて修繕工事費の水準が異なる傾向が見られることから、5,000㎡、10,000㎡、及び20,000㎡で区分した上で、目安を示しています。
③機械式駐車場がある場合の加算額
= 機械式駐車場の1台あたり月額の修繕工事費(下表)×台数 ÷マンションの総専有床面積(㎡)
※駐車場の維持管理・修繕工事費や駐車場使用料について、管理費や修繕積立金と区分して経理している場合など、機械式駐車場の修繕工事費を駐車場使用料収入で賄うこととする場合には、「機械式駐車場がある場合の加算額」を加算する必要はありません。
機械式駐車場の1台あたり月額の修繕工事費

機械式駐車場の機種 機械式駐車場の修繕工事費
(1台当たり月額)
2段(ピット1段)昇降式 6,450 円/台・月
3段(ピット2段)昇降式 5,840 円/台・月
3段(ピット1段)昇降横行式 7,210 円/台・月
4段(ピット2段)昇降横行式 6,235 円/台・月
エレベーター方式(垂直循環方式) 4,645 円/台・月
その他 5,235 円/台・月
※「機械式駐車場の1台当たりの修繕工事費」は、収集した長期修繕計画の事例(117事例)から算出した数値(5円単位で表示)です。
※機械式駐車場には、屋外・屋内、地上・地下等の様々なタイプがあるため、修繕工事費は個別性が強いことに留意しつつ、適宜ご参照ください。
(3)修繕積立金の額の目安を活用するに当たっての留意点
 マンションの修繕工事費は、建物の形状や規模・立地、仕上げ材や設備の仕様に加え、工事単価、区分所有者の機能向上に対するニーズ等、様々な要因によって変動するものであり、このような修繕工事費を基に設定される修繕積立金の額の水準も、当然、これらの要因によって変化する性格のものです(「修繕積立金の主な変動要因について」をご参照ください)。 (2)で示した「修繕積立金の額の目安(計画期間全体での修繕積立金の平均額)」は、長期修繕計画作成ガイドラインに概ね沿って策定された長期修繕計画の事例から導き出したものであり、建物の規模以外の変動要因を考慮したものとはなっていません。このため、目安の設定にあたっては、平均値とともに事例の3分の2が含まれる幅をあわせて示すこととしています。 したがって、修繕積立金の額が、この幅に収まっていないからといって、その水準が直ちに不適切であると判断されることになるわけではありません。そのような場合には、長期修繕計画の内容や修繕積立金の設定の考え方、積立方法等についてチェックすることが大切です(「修繕積立金の積立方法について」をご参照ください)。 また、既存マンションも含むため、分譲会社は購入予定者に対して、長期修繕計画の内容や修繕積立金の設定の考え方、積立方法等について、本ガイドラインも参考に説明することが重要となります。
(4)専用使用料等からの繰入れに関する留意点
 専用庭等の専用使用料及び駐車場等の使用料は、それらの管理に要する費用に充当する額を差し引いた額を、修繕積立金に繰り入れます。 専用使用料等の修繕積立金会計への繰入れに際しては
① 専用使用料等の内一定額または一定割合を自動的に繰り入れる方法
② 駐車場使用料会計等の個別の修繕のための会計に繰り入れる方法
③ 一旦管理費会計に繰り入れた上で、定期的に修繕積立金会計に繰り入れる方法
 等があります。 いずれの場合においても、実際に専用使用料等として集められている金額(新築マンションの場合においては集める想定の額)を上回る金額を修繕積立金への繰入額として見込むことは避けるべきです。 なお、特に駐車場使用料については、駐車場の稼働率によりその金額が大きく変動する可能性があるため、留意する必要があります。
3 修繕積立金の積立方法
 修繕積立金の積立方法には、長期修繕計画で計画された修繕工事費の累計額を、計画期間中均等に積み立てる方式(均等積立方式)の他、当初の積立額を抑え段階的に積立額を値上げする方式(段階増額積立方式)があります。また、購入時にまとまった額の基金(「修繕積立基金」と呼ばれます。)を徴収することや、修繕時に一時金を徴収する又は金融機関から借り入れたりすることを前提とした積立方式を採用している場合もあります。 段階増額積立方式や修繕時に一時金を徴収する方式など、将来の負担増を前提とする積立方式は、増額しようとする際に区分所有者間の合意形成ができず修繕積立金が不足する事例も生じていることに留意が必要です。 将来にわたって安定的な修繕積立金の積立てを確保する観点からは、均等積立方式が望ましい方式といえます。 新築マンションの場合は、段階増額積立方式を採用している場合がほとんどで、あわせて、分譲時に修繕積立基金を徴収している場合も多くなっています。このような方式は、購入者の当初の月額負担を軽減できるため、広く採用されていると言われています。
 修繕積立金の積立方法によって、新築分譲時の修繕積立金の月額の水準は大きく異なります。分譲会社が、購入予定者に対し修繕積立金について説明を行う際には、採用した積立方法の内容について説明を行うとともに、購入予定者は、分譲会社から提示された修繕積立金が、「均等積立方式」によるものなのか、「段階増額積立方式」など将来の負担増を前提とするものなのかについて確認し、将来の負担増を前提とする場合には、その計画が自らの将来の資金計画(住宅ローンの返済計画など)との関係でも無理のないものなのかについて、よく検討しておくことが必要です。 これにより、マンションの購入時点で、修繕積立金の積立方法についての購入予定者の理解が深まり、将来、修繕積立金の増額が必要になった場合に、区分所有者間の合意形成がより円滑に進むことになることが期待されます。 なお、「均等積立方式」を採用した場合であっても、その後、修繕積立金の額の見直しが必要なくなる訳ではなく、長期修繕計画の見直しによって増額が必要となる場合もあります。経年によって必要な修繕の内容が異なるほか、マンションの劣化の状況や技術開発等によって、実際の修繕の周期や費用等は変化しますから、どのような修繕積立金の積立方法を採用していても、定期的(5年程度ごと)に長期修繕計画を見直し、それに基づき修繕積立金を設定し直すことが必要です。
4 修繕積立金の主な変動要因
 マンションの修繕工事費は、建物の形状や規模、立地、仕上げ材や設備の仕様に加え、区分所有者の機能向上に対するニーズ等、様々な要因によって変動するものであり、このような修繕工事費を基に設定される修繕積立金の額も、当然、これらの要因によって変化する性格のものです。 以下に、マンションの修繕積立金の額に影響を与える修繕工事費等の主な変動要因を示します。
◆ 建物等の形状や規模、立地、共用施設の有無等により、修繕工事費が変動します。
・建物が階段状になっているなど複雑な形状のマンションや超高層マンションでは、外壁等の修繕のために建物の周りに設置する仮設足場やゴンドラ等の設置費用が高くなるほか、施工期間が長引くなどして、修繕工事費が高くなる傾向があります。
・一般的に建物の規模が大きくまとまった工事量になるほど、施工性が向上し、修繕工事の単価が安くなる傾向があります。
・エレベーターや機械式駐車場の有無及びその設置場所、エントランスホール・集会室等の規模等により、修繕工事費が変動します。近年の新築マンションでは、空調機の設置された内廊下、ラウンジやゲストルーム等、充実した共用施設を備えたマンションがみられます。また、温泉やプールがあるマンションもあります。このようなマンションは、修繕工事費が高くなる傾向があります。
・建物に比べて屋外部分の広いマンションでは、給水管や排水管等が長くなるほか、アスファルト舗装や街灯等も増えるため、これらに要する修繕工事費が高くなる傾向があります。
・塩害を受ける海岸に近いマンションや、寒冷地のマンションなど、立地によって劣化の進行度合いや必要な修繕の内容が異なり、修繕工事費に影響を与える場合があります。
◆ 建物の所在する地域や技能労働者の就労環境の変化により、修繕工事費が変わります。
・修繕工事費のうち、材料費や仮設材のリース費等については地域差がほとんどない一方、労務費は一定の地域差があります。特に大規模修繕工事においては主要な3工種(とび工(仮設工事)、防水工(防水・シーリング工事)、塗装工(塗装工事))について、必要に応じて考慮することも重要です。
・なお、労務費は建設業の担い手不足や技能労働者の就労環境の変化等により変動する可能性がありますので、必要に応じて上昇分について考慮することも重要です。
◆ 仕上げ材や設備の仕様によって、修繕工事費や修繕周期が異なります。
・一般に高級な材料を使用している場合は修繕工事費が高くなります。ただし、材料によって必要な修繕の内容が異なったり、修繕の周期を長くできたりする場合もあります。
・外壁については、一定期間ごとに塗り替えが必要な塗装仕上げの他、タイル張りのマンションも多くみられます。タイル張りの場合は、一定期間ごとの塗り替えは必要ありませんが、劣化によるひび割れや浮きが発生するため、塗装仕上げの場合と同様に適時適切に調査・診断を行う必要があります。修繕工事費は、劣化の状況や石綿含有の部材の有無等により大きく変動します。
・手摺り等には、鉄、アルミ、ステンレスなど様々なものが用いられます。一般的に、一定期間ごとに塗装する必要のある鉄製のものの他、錆びにくいアルミ製やステンレス製のものもあります。近年の新築マンションでは、錆びにくい材料が多く使用されるようになってきており、金属部分の塗装に要する修繕工事費は少なくて済むようになる傾向があります。
・共用の給水管や排水管については、配管や継手部分の内部が腐食することから、これらを洗浄・研磨し、再度コーティングする更生工事や、更新(取替え)工事が必要になります。近年の新築マンションでは、ステンレス管やプラスチック管等の腐食しにくい材料が使われており、それにより更生工事の必要性が低下し、取替え工事の実施時期も遅らせることができるようになっていることから、給排水管に関する修繕工事費は少なくて済むようになる傾向があります。
・仕上げ材や設備については、技術的な知見が時代とともに変化するものであり、技術革新に伴い、修繕工事費が少なくて済む場合もあります。
◆ 区分所有者の機能向上に対するニーズ等によって、マンションごとに修繕工事の内容が異なり、修繕工事費も変動します。
・近年の新築マンションの中には、生活利便性や防犯性を考慮して、さまざまな種類の付加設備(ディスポーザー設備、セキュリティー設備等)が設置されているものがみられます。このような設備が多いほど、修繕工事費は増加する傾向があります。
・新築時に設置されていなくても、その後に居住者のニーズの高まりや消防法等の法制度の改正を受けて新たな設備を付加等する場合があります。また、耐震性に劣っている場合や、居住者の高齢化に対応できていない場合は、耐震改修やバリアフリー改修等を行うことが望まれます。こうした改修工事が見込まれる場合は、所要の費用を計画的に積み立てておくことが重要となります。
5 修繕積立金ガイドラインの活用
 修繕積立金ガイドラインは、マンションの購入予定者及びマンションの区分所有者・管理組合向けに、修繕積立金に関する基本的な知識や修繕積立金の額の目安を示したものです。なお、新築マンションにおいては、分譲会社から購入予定者に対し、修繕積立金の額の水準やその設定の考え方などについて、本ガイドラインを活用して説明がなされることが重要となります。こうした取組みを通じて、修繕積立金に関する購入予定者の理解がより進み、適正な修繕積立金の設定・積立ての促進につながることを期待しています。 また、長期修繕計画や修繕積立金の見直しを検討している管理組合については、本ガイドラインを参考にしていただくことにより、見直しの必要性や見直し後の修繕積立金の概ねの水準について、区分所有者間の合意形成がより促進される。

ライフサイクルコストを考える!
 ライフサイクルコストを考えることは、投資をするにあたっての費用対効果を評価する手法としては、今やあたり前になっています。特に、大きな金額を投資し、一般には長期に使い続けることになる建物の場合は、ライフサイクルコストをいかに最適化するかが、事業収支を大きく左右します。ライフサイクルコストを考えたら、いかに建物をつくるべきか?いかに維持管理をはかるべきか? 皆さまの建物管理をライフサイクルコストから見つめなおしてみてはいかがでしょう。
 ライフサイクルコストとは、製品や構造物(建物や橋、道路など)がつくられてから、その役割を終えるまでにかかる費用をトータルでとらえたものです。生涯費用と呼ばれています。建物の場合、企画・設計から建設、運用を経て、修繕を行い、最後に解体されるまでに必要となるすべての費用を合計したものです。建物を総合的に管理することで、より効率的あるいは戦略的に経営しようという手法ファシリティマネジメント(FM)においても、ライフサイクルコストを考えることが重要な課題となっています。
 ライフサイクルコストは、イニシャルコスト+ランニングコストからなります。イニシャルコストというのは、その建物をつくるためにかかる初期建設費です。ランニングコストというのは、その建物を使い続けるために必要な費用で、エネルギー費、保全費、消耗品費、税金、保険など、その内容は非常に多岐にわたります。建物のライフサイクルコストは、ランニングコストが多くのウエイトを占めます。一般的なオフィスビルでは建物を作ることにかかる費用よりも、作った後で建物を使うための費用の方が4倍近く多くなるという試算もあります。かといって建物を作る、つまり企画・設計、建設といったプロセスが重要でないというわけではありません。どんな設計をして設備を導入すれば省エネができるのか、どんなメンテナンス計画を実行すれば無駄なコストを抑えられるのか、など中長期的なプランとして建物運営を検討できるのは、作る段階にほかならないからです。同じ額の費用の投入で建物をより長く使おうという考え方をすることで、建物のライフサイクルコストを最適化することができます。それを実行にうつすと具体的にどうなるかというと、建物の修繕の定期的な実施です。竣工時に、ライフサイクルコストの視点から建物の長期修繕計画を作成することで、建物の資産価値の維持・向上をはかる企業、ビル所有者が増えています。
 建物のライフサイクルコストを考える時に、忘れてはいけないのが、「ビルや企業経営を取り巻く環境は変化する」ということです。建物の寿命は60年ともいわれますが、使用期間が長ければ長いほど、ライフサイクルコストの計算には誤差が生じてしまいます。経済環境をはじめとする外的な要因が変化するばかりでなく、「設計や指示書にミスがありメンテナンス費用が増大してしまった」「使用期間・頻度などの見込み違いによって減価償却期間にずれが生まれてしまった」など、内的な要因でも思いもよらぬ事態がおこりえます。想定外の費用が発生することを完全に防ぐことは困難ですから、企画の段階で、誤差も考慮しながら柔軟な計画を立てることが大切です。ライフサイクルコストを低減する具体的な方法には、次のようなものがあります。今すぐ皆さまのマンションに取り入れることができる取組みもあるのではないでしょうか。長寿命タイプ、高耐久性タイプの部材を使用することで、修繕や更新にかかるコストを抑制することができ、建物を長く使うことにもつながります。割安な深夜電力を昼間に利用できる蓄電システムやエコキュートを採用したり、電気の消し忘れを防止する人感センサーを設置したりすることで、資源にかかるコストの節約を図ることができます。維持管理が楽になるように、建築を設計することで、それにかかる人的コストを削減することができます。また、特殊な設備や部材を使用すると、その交換が割高となりますから、簡単に調達できる部材の採用を心掛けることもコスト削減の鉄則です。
 マンションのライフサイクルコストを抑えるには、まずは企画・計画段階から取組むことが理想的です。ただし、建物を使っている途中からでも、専門家の知恵を借りながら、より望ましいライフサイクルコストを目指して、ランニングコストを改善することは十分にできます。ライフサイクルコストの大部分を占めるランニングコストにフォーカスしたコスト削減策の検討は、経営意思決定の常識となっています。
※出典/転載/引用:マンションの修繕積立金に関するガイドライン(最終改正 令和3年9月)(PDF)

ゼロから学ぶマンションの会計(第10話)修繕積立金とは?


ゼロから学ぶマンションの会計(第10話)

修繕積立金とは?
はじめに
 前回は、「長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」をテキストに修繕積立金について学びましたが、基礎的知識を学んで、疑問に思うことは、「鉄筋コンクリート造(RC造)」の建物の寿命は、いったいどれくらいなのかということです分譲マンションで最も多く採用される構造形式が「鉄筋コンクリート造(RC造)」で、圧縮する力に対して強いコンクリートと、引っ張る力に強い棒状の鋼材(鉄筋)を、互いのメリットを生かして組み合わせた構造で、19世紀半ばにフランスで発明されたそうですが、堅牢で耐久性や耐火性、また遮音性に優れていますが日本では100年以上に渡って使い続けられたRC造の建物はないそうです。修繕積立金は、「備えあれば憂いなし」という、「前もって準備しておけば、何か起こったとしても心配ない」ための資金です。建物の寿命を想定しない資金計画では、実行性が不透明です。今回も引き続き「長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」をテキストに修繕積立金について学びます。
1 修繕積立金の積立方法
修繕積立金の積立ては、長期修繕計画の作成時点において、計画期間に積み立てる修繕積立金の額を均等にする積立方式(以下「均等積立方式」という。)を基本とします。 なお、均等積立方式による場合でも5年程度ごとの計画の見直しにより、計画期間の推定修繕工事費の累計額の増加に伴って必要とする修繕積立金の額が増加しますので留意が必要です。また、計画期間に積み立てる修繕積立金の額を段階的に増額する積立方式とする場合は、計画の見直しにより、計画の作成当初において推定した増加の額からさらに増加しますので特に留意が必要です。 分譲会社は購入予定者に対して、また、専門家は業務を依頼された管理組合に対して、修繕積立金の積立方法について十分に説明することが必要です。
〈コメント〉
◆ 計画修繕工事の実施時において、修繕積立金が不足した場合、計画修繕工事が実施できなくなることが懸念されますので、修繕積立金の額の設定に関しては、十分な検討が必要です。
◆ 修繕積立金の積立方法は、一般的に次のものがあります。 ①均等積立方式:計画作成時に長期修繕計画の期間中の積立金の額が均等となるように 設定する方式 ②段階増額積立方式:当初の積立額を抑え、段階的に増額する方式
◆ 長期修繕計画は5年程度ごとに見直しますが、一般的に経年30年から40年に高額な工事が見込まれるため、経年10年目以降の見直しにおいて、計画期間の推定修繕工事費の累計額の増加に伴って修繕積立金の額も増加します。したがって、計画の作成時においては均等であっても、見直しにより増額となることを前提としておく必要があります。
◆ 修繕積立金の積立方法と見直しの必要性、見直しによる積立額の増加などについて、分譲会社は購入者予定者に、また、専門家は業務を依頼された管理組合に対して十分に説明しておく必要があります。

2 修繕積立金の額の設定方法
 長期修繕計画における計画期間の推定修繕工事費の累計額を計画期間(月数)で除し、各住戸の負担割合を乗じて、月当たり戸当たりの修繕積立金の額を算定します。また、新築マンションにおいて、購入時に修繕積立基金を負担する場合の月当たり戸当たりの修繕積立金の額は、上記で算定された修繕積立金の額から修繕積立基金を一定期間(月数)で除した額を減額したものとします。 なお、大規模修繕工事の予定年度において、修繕積立金の累計額が推定修繕工事費の累計額を一時的に下回るときは、その年度に一時金の負担、借入れ等の対応をとることが必要です。また、災害や不測の事故などが生じたときは、一時金の負担等の対応に留意が必要です。
〈コメント〉
◆ 修繕積立金の額の算定根拠を明確にしておくことが必要です。長期修繕計画に基づいて、計画期間の推定修繕工事費の累計額(借入金があった場合は計画期間の償還金を加えた額)から、計画期間の専用庭等の専用使用料や駐車場等の使用料などからの繰入金及び修繕積立金の運用益を差し引き、見直しの場合はさらに修繕積立金の残高を差し引いて、計画期間に必要な修繕積立金の総額を算定します。これを計画期間(月数)で除し、管理規約で定める各住戸の負担割合を乗じて月当たり戸当たりの修繕積立金の額を算定します。
◆ 標準管理規約においては、各住戸の負担割合は、単棟型のマンションは各区分所有者の共用部分の共有持分(一般的には専有面積割合)、団地型のマンションの団地共用部分等は団地の区分所有者全員の土地の共有持分、各棟の共用部分は各棟の各区分所有者の共用部分の共有持分としています。
◆ 新築マンションにおいては、引渡し直後に一定額の修繕積立金を確保しておくため、購入時に修繕積立基金を負担することがあります。この場合においては、上記で算定された月当たり戸当たりの修繕積立金の額から、修繕積立基金の額を一定期間(月数)で除した(月当たり)額を減額して、修繕積立金の額とします。
◆ 例えば、大規模修繕工事の予定年度において、修繕積立金の累計額が推定修繕工事費の累計額を下回る場合は、次に掲げる対応が考えられます。 ①下回らないように修繕積立金を増額する。 ②予定年度に一時金を負担する。 ③予定年度に金融機関から借入れを行う。


3 修繕積立金の額のチェックの方法
① 標準様式を用いたチェックの方法
 分譲時において、購入予定者は、分譲会社から提示された長期修繕計画(案)の内容及び設定した修繕積立金の額を、また、見直し時において、管理組合は、専門家に依頼して見直した長期修繕計画の内容及び設定した修繕積立金の額を、標準様式を参考としてチェックすることができます。
〈コメント〉
◆ 分譲時における購入予定者、また、見直し時における管理組合は、次表のチェックの方法(標準様式)を参考として、長期修繕計画(案)の内容及び設定した修繕積立金の額をチェックすることができます。
◆ また、分譲会社又は専門家は、このガイドラインを参考として、購入予定者又は依頼した管理組合に説明を行うことが必要です。
◆表 長期修繕計画の内容及び修繕積立金の額のチェックの方法
チェック項目 チェックの方法 該当様式
マンションの建 物・設備の概要等 標準様式と同様の項目が記載されているか。 様式第1号
調査・診断の概要 標準様式と同様の項目が記載されているか。 又は、報告書の概要が添付されているか。 様式第2号
長期修繕計画の 作成の考え方 標準様式と同様の項目と内容が記載されているか。記載されていないときは理由を確認する。 様式第3-1号
計画期間の設定 30年以上かつ大規模修繕工事が2回以上含まれる期間となっているか。 様式第3-1号
推定修繕工事項目 の設定 標準様式と同様の項目が設定されているか。 推定修繕工事費が計上されていない項目があるか。あるときは理由を確認する。 様式第3-2号
修繕周期の設定 周期が適切に設定されているか。 様式第3-2号
推定修繕工事費の算定方法 標準様式と同様の内訳書があるか。 様式第4-3号
様式第4-4号
推定修繕工事費の数量計算計算 「建築数量積算基準・同解説」(注1)等に準拠して算出した旨の記載があるか。 様式第4-3号
様式第4-4号
推定修繕工事費の単価 次の資料等と比較して、大きな差異があったときは理由を確認する。 ・「マンションの改修工事費に関する調査・研究」の報告書(注2) ・積算資料ポケット版マンション修繕編 様式第4-3号
様式第4-4号
収支計画の検討
計画期間の推定修繕工事費(注4)の累計額より修繕積立金(注5)の累計額が上回っているか。 様式第4-1号
様式第4-2号
修繕積立金の額 の設定 修繕積立金の額が、長期修繕計画により算出された計画期間の推定修繕工事費の累計額を基にして算定されているか。 均等積立方式となっているか。 様式第5号
(注1) 「建築数量積算基準・同解説(平成29年版)」/(一財)建築コスト管理システム研究所発行
(注2) (一財)建設物価調査会が、社会情勢の変化や工事費価格の変動が見られた場合に適宜調査を行い、調査結果を公表しています。
(注3) (一財)経済調査会が独自の調査結果をまとめ、定期刊行物として発行しています。
(注4) 支出としては、推定修繕工事費のほか、実施した計画修繕工事のための借入金がある場合は償還金を含めます。
(注5) 収入としては、修繕積立金のほか、専用庭等の専用使用料や駐車場等の使用料などからの繰入金、修繕積 立金の運用益のほか、分譲時の修繕積立基金や必要に応じて徴収する一時金も含めます。
② その他のチェックの方法
 管理組合は、必要に応じて、現状の長期修繕計画と公益財団法人マンション管理センターが行っている「長期修繕計画作成・修繕積立金算出サービス」または独立行政法人住宅金融支援機構が提供している「マンションライフサイクルシミュレーション~長期修繕ナビ~」を利用して作成した概略の長期修繕計画とを比較して、その見直しの必要性について検討することが望まれます。 また、見直し後の長期修繕計画の内容及び設定した修繕積立金の額を、その概略の長期修繕計画と比較してチェックすることができます。
〈コメント〉
◆ 長期修繕計画の見直しの検討に当たっては、まず、現状の長期修繕計画の内容や修繕積立金の額が適切であるかどうかを判断する必要があります。
◆ 公益財団法人マンション管理センターでは、「長期修繕計画作成・修繕積立金算出サービス」を行っており、管理組合から提出されたデータを基に、標準様式に沿った概略の長期修繕計画の作成とこれに基づく修繕積立金の額を算定しています。その成果物を現状の長期修繕計画の内容と比較することで、修繕工事項目の不足や修繕積立金の過不足などの見直しの必要性の判断の参考となります。また、見直した後の長期修繕計画の内容や設定した修繕積立金の額のチェックにも利用できます。なお、対象とするマンションは、中高層、住宅専用の分譲マンションとなっており、超高層マンション、リゾートマンション、社宅、賃貸マンション等は利用できません。(複合用途型マンションは、店舗・事務所等の規模が比較的小さいものについては対応が可能です。)
◆ 独立行政法人住宅金融支援機構では、「マンションライフサイクルシミュレーション~長期修繕ナビ~」を提供しており、建物規模、築年数などに応じたマンションの「平均的な大規模修繕工事費用」、今後40年間の「修繕積立金の負担額」「修繕積立金会計の収支」などを試算することができます。大規模修繕工事の見積額が妥当かどうかを判断する材料として、ローン利用や修繕積立金の運用も視野に入れた修繕積立金の収支計画の確認のための材料として、または、長期的視点で積立金徴収計画を見直す際の検討資料として利用できます。なお、シミュレーションが想定している規模を超える範囲については、シミュレーションは可能なものの、乖離幅が大きくなる場合があります。

〈参考〉
◆「長期修繕計画作成・修繕積立金算出サービス」((公財)マンション管理センター)

 (公財)マンション管理センターでは、概略の長期修繕計画の作成と修繕積立金の算出を行っています。管理組合が長期修繕計画の見直しを行う際に、現状のもの又は見直したものと比較し、内容が適切か確認するためのおおよその目安として利用できます。
◆「マンションライフサイクルシミュレーション~長期修繕ナビ~」((独)住宅金融支援機構)
 (独)住宅金融支援機構が提供するシミュレーションでは、「平均的な大規模修繕工事費用」、今後40年間の「修繕積立金の負担額」「修繕積立金会計の収支」などを試算することができます。修繕積立金徴収額の見直しの必要性や大規模修繕工事の見積額の妥当性を判断する材料などとして利用できます。 ((独)住宅金融支援機構ホームページ)
「マンションライフサイクルシミュレーション~長期修繕ナビ~」におけるローン利用や修繕積立金の運用も視野に入れた修繕積立金の収支計画の確認、見直しの際に例示される(独)住宅金融支援機構の管理組合向けの融資(マンション共用部分リフォーム融資)、修繕積立金積立制度(マンションすまい・る債)は以下とおりです。 ((独)住宅金融支援機構 ホームページ)
※出典/転載/引用:長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント(全文)(PDF)


ゼロから学ぶマンション会計 修繕積立金とは?


ゼロから学ぶマンション会計

修繕積立金とは?
はじめに
 分譲マンションは、累計約675万戸、約1,573万人(令和2年末)が居住していると推測され、我が国における重要な居住形態であり、近年では年間約10万戸が供給されており、その数は着実に増加しています。特に、首都圏では、住宅取得者の半数以上がマンションを選択しているなど、わが国においては、主要な住宅形態として定着しています。また、マンション居住者の永住意識は、年々高まっており、現在では約6割の方がマンションを「終の棲家」と考えています。 しかしながら、一つの建物を多くの人が区分所有するマンションは、
① 共同生活に対する意識の相違
② 多様な価値観を持った区分所有者間の意思決定の難しさ
③ 利用形態の混在による権利・利用関係の複雑さ
④ 建物構造上の技術判断の難しさ
 など建物を維持管理していく上で、多くの課題を有しています。 マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るためには、建物等の経年劣化に対して適時適切な修繕工事等を行うことが重要です。そのためには、適切な長期修繕計画を作成し、これに基づいた修繕積立金の額を設定し、積み立てることが必要です。
 こうした問題意識を踏まえて、国土交通省は、平成20(2008)年6月に、長期修繕計画を作成・見直しするための標準的な様式として、「長期修繕計画標準様式」と、長期修繕計画の基本的な考え方と長期修繕計画標準様式を使用するための留意点を示した「長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」を策定しました。 その後、令和2(2020)年6月に「マンションの管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する法律」が成立・公布されたことを受け、マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針が取りまとめられ、地方公共団体によるマンション管理適正化の推進や、マンションの管理計画認定制度が創設されることとなりました。こうしたマンションを巡る政策に係る新たな動きとともに、社会経済情勢の変化や、設備や工法等の技術革新の状況を反映することを目的として、令和3(2021)年9月に、「長期修繕計画標準様式」及び「長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」の内容を見直しました。
 分譲マンションは、専有部分と共用部分で建物等が構成されており、共用部分については、区分所有者全員で団体(管理組合)を構成し管理を行うこととなります。 建物等については、経年により劣化していきますので、それに対処するためには適時適切に修繕工事等を行う必要があります。ただし、修繕工事等の費用は多額であり、修繕工事等の実施時に一括で徴収することは、区分所有者に大きな負担を強いることとなります。場合によっては、費用不足のため必要な修繕工事等が行えず、建物等の劣化を進行させることとなり、それにより、あとで大きな負担が発生するおそれもあります。 長期修繕計画は、そのようなことがないように、将来予想される修繕工事等を計画し、必要な費用を算出し、月々の修繕積立金を設定するために作成するものです。建物等の劣化に対して適時適切に修繕工事等を行うために作成する長期修繕計画は、①計画期間、②推定修繕工事項目、③修繕周期、④推定修繕工事費、⑤収支計画を含んだもので作成し、これに基づいて⑥修繕積立金の額の算出を行います。今回は、「長期修繕計画作成ガイドライン及び同コメント」をテキストに修繕積立金について学びます。
1 修繕積立金の会計処理
 マンション管理組合は、修繕積立金に関して、次に掲げる事項により会計処理を行うことが必要です。
① 修繕積立金は管理費と区分して経理する。
② 専用庭等の専用使用料及び駐車場等の使用料は、これらの管理に要する費用に充てるほか、修繕積立金として積み立てる。
③ 修繕積立金(修繕積立基金を含む。)を適切に管理及び運用する。
④ 修繕積立金の使途は、標準管理規約第28条に定められた事項に要する経費に 充当する場合に限る。
〈コメント〉
◆ マンションにおける修繕工事には、①経常的な補修工事、②計画修繕工事と③災害や不測の事故等による特別修繕工事があり、これらに充当する費用は経理上区分します。
表 マンションの維持管理と経費
区   分 内   容 費用の区分
点検 建物、給・排水、消防、電気、昇降機などの設備、外構について、法令に基づく点検、保守契約による点検など 管理費
調査・診断 計画(大規模)修繕工事の実施や長期修繕計画の見直しの前に行う調査・診断 修繕積立金(注)
長期修繕計画の見直し 5年程度ごとに、調査・診断を行いその結果に基づいて計画を見直す。 修繕積立金(注)
経常的補修 摩耗など通常の使用による劣化、予測しがたい破損や故障の補修工事(ガラス、建具、機器の破損等) 管理費
計画(大規模)修繕 経年による劣化に応じて計画的に行う(比較的大規模な)修繕工事(屋上防水、外壁塗装、給・排水管取替等) 修繕積立金
特別修繕 不測の事故や自然災害(台風、大雨、大雪等)による被害の復旧など、特別な事由による修繕工事 修繕積立金
(注) 標準管理規約 第32条(業務)関係コメント④によれば、長期修繕計画の作成(又は見直し)に要する経費及びそのために事前に行う調査・診断に要する経費は、管理組合の財産状態等に応じて管理費又は修繕積立金のどちらからでも充当することができます。 しかし、計画的に行うためには長期修繕計画に費用を計上し、修繕積立金から充当することが必要です。
◆ 専用庭等の専用使用料や駐車場等の使用料などを徴収している場合は、それらの管理に要する費用に充当する額を差し引いた額を修繕積立金会計に繰り入れます。
◆ 積み立てた修繕積立金は、計画修繕工事に要する経費に充当する場合に取り崩すことができます。また、災害や不測の事故に伴う特別の修繕等やマンションの建替えを目的とした調査等に要する経費に充当する場合にも取り崩すことができます。
◆ 修繕積立金の取崩しは、標準管理規約では、総会の決議事項と規定しています。したがって、修繕積立金を取り崩して行う長期修繕計画の見直しや事前に行う調査・診断に係る費用については、事業計画(案)及び収支予算(案)に含めて、総会で決議する必要があります。(なお、不測の事故や自然災害による被害の応急的な復旧に備えて、少額の予備費の支出についてあらかじめ総会で決議しておくことも考えられます。)点検についても同様に、共用設備の保守維持費、委託業務費などとして、毎年度、管理費の支出に含めておきます。
〈参考〉
◆区分所有法 第19条(共用部分の負担及び利益収取)
第19条 各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。
◆適正化指針(2 マンションの管理の適正化のために管理組合が留意すべき事項 (4) 管理組合の経費)
 管理組合がその機能を発揮するためには、その経済的基盤が確立されている必要がある。このため、管理費及び修繕積立金等について必要な費用を徴収するとともに、管理規約に基づき、これらの費目を帳簿上も明確に区分して経理を行い、適正に管理する必要がある。(以下略)
◆標準管理規約 第28条(修繕積立金)第1項
第28条 管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次 の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。
一 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
二 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
三 敷地及び共用部分等の変更
四 建物の建替え及びマンション敷地売却(以下「建替え等」という。)に係る合意形成に必要となる事項の調査
五 その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理 (以下略)
◆標準管理規約 第25条(管理費等)
第25条 区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」と いう。)を管理組合に納入しなければならない。
一 管理費
二 修繕積立金
2 管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。
◆標準管理規約 第60条(管理費等の徴収)第6項
6 組合員は、納付した管理費等及び使用料について、その返還請求又は分割請求をすることができない。
◆標準管理規約 第61条(管理費等の過不足)
第61条 収支決算の結果、管理費に余剰を生じた場合には、その余剰は翌年度における管理費に充当する。
2 管理費等に不足を生じた場合には、管理組合は組合員に対して第25条第2項に定める管理費等の負担割合により、その都度必要な金額の負担を求めることができる。
2 修繕積立金の額の設定の手順
 新築マンションの場合は、分譲会社が提示した長期修繕計画(案)と修繕積立金の額について、購入契約時の書面合意により分譲会社からの引渡しが完了した時点で決議したものとするか、又は引渡し後速やかに開催する管理組合設立総会において、長期修繕計画及び修繕積立金の額の承認に関しても決議することがあります。 既存マンションの場合は、長期修繕計画の見直し及び修繕積立金の額の設定について、理事会、専門委員会等で検討を行ったのち、専門家に依頼して長期修繕計画及び修繕積立金の額を見直し、総会で決議します。なお、長期修繕計画の見直しは、単独で行う場合と、大規模修繕工事の直前又は直後行う場合があります。
〈コメント〉
◆ 新築マンションの場合は、分譲会社が提示した長期修繕計画(案)と修繕積立金の額について、重要事項説明に併せて説明を受け、購入契約時の書面合意により分譲会社からの引渡しが完了した時点で決議したものとするか、引渡し後速やかに管理組合設立総会を開催し、長期修繕計画及び修繕積立金の額の承認に関しても決議することが一般的です。
◆ 長期修繕計画の見直しは、大規模修繕工事と大規模修繕工事の中間の時期に単独で行う場合、大規模修繕工事の直前に基本計画の検討に併せて行う場合、又は、大規模修繕工事の実施の直後に修繕工事の結果を踏まえて行う場合があります。

〈参考〉
◆標準管理規約 第48条(議決事項)
第48条 次の各号に掲げる事項については、総会の決議を経なければならない。
一 規約及び使用細則等の制定、変更又は廃止
二 役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法
三 収支決算及び事業報告
四 収支予算及び事業計画
五 長期修繕計画の作成又は変更
六 管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法
七 修繕積立金の保管及び運用方法
八 適正化法第5条の3第1項に基づく管理計画の認定の申請、同法第5条の6第1項に基づく管理計画の認定の更新の申請及び同法第5条の7第1項に基づく管理計画の変更の認定の申請
九 第21条第2項に定める管理の実施
十 第28条第1項に定める特別の管理の実施並びにそれに充てるための資金の借入れ及び修繕積立金の取崩し (以下略)
◆区分所有法 第39条(議事)第1項、第2項
第三十九条 集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
2 議決権は、書面で、又は代理人によつて行使することができる。
◆標準管理規約 第47条(総会の会議及び議事)
第47条 総会の会議(WEB会議システム等を用いて開催する会議を含む。)は、前条第1項に定める議決権総数の半数以上を有する組合員が出席しなければならない。
2 総会の議事は、出席組合員の議決権の過半数で決する。
3 次の各号に掲げる事項に関する総会の議事は、前項にかかわらず、組合員総数の4分の3以上及び議決権総数の4分の3以上で決する。
 一 規約の制定、変更又は廃止
 二 敷地及び共用部分等の変更(その形状又は効用の著しい変更 を伴わないもの及び建築物の耐震改修の促進に関する法律第25条第2項に基づく認定を受けた建物の耐震改修を除く。)
 三 区分所有法第58条第1項、第59条第1項又は第60条第1項の訴えの提起
 四 建物の価格の2分の1を超える部分が滅失した場合の滅失した共用部分の復旧 五 その他総会において本項の方法により決議することとした事項 (以下略)

※出典/転載/引用:長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント(全文)(PDF)

ゼロから学ぶマンション会計 マンションの管理費とは?


ゼロから学ぶマンション会計
マンションの管理費とは?
はじめに
 前回は、管理組合の会計担当理事の役割を中心に、豆知識として「専有部分」と「共用部分」について学びました。今回は。「管理費」について深掘りします。皆さんは、「入るを量りて出ずるを為す(いるをはかりていずるをなす)』という言葉はご存知でしょうか。あまり馴染が無いと思いますが、役所の予算編成では、教訓として言われる故事成語です。
由来は、礼記ー王制」で述べられている国の予算を決めるための心得です。穀物の穫り入れが済んだあと、過去30年間の収入を参考にしながら、収入の額を計算し、それに応じて支出の計画をたてるという方法です。
 分譲マンションを購入する際、つい見過ごしがちなのが、住んでからの管理費や修繕積立金、毎月必ずかかる管理費などの諸費用は、ローンの返済とともに月々の固定支出となるため、マンションの購入予算を考えるタイミングでしっかり検討しておくべきお金です。管理費とは、マンションの共用部分の日々の維持、管理のために使うお金です。代表的なものは、マンションの日常的な業務などを担う管理員の人件費です。他に、共用部分で使う掃除用具、電球やトイレットペーパーのような備品や消耗品費、照明器具や消防設備の故障など日常で発生する修繕の費用、防犯カメラやAED(=自動体外式除細動器)を設置している場合はそのレンタル料など多岐にわたります。
マンション管理費の用途
 国土交通省のマンション標準管理規約(単棟型)(以下「標準規約)という。)第25条第1項の規定により区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、管理費等を管理組合に納入しなければならないこととされています。同条第2項の規定では、管理費の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとされています。マンション標準管理規約コメントでは、共有持分の割合の基準となる面積は、壁心計算(界壁の中心線で囲まれた部分の面積を算出する方法をいう。)によるものとされています。 敷地及び附属施設の共有持分は、規約で定まるものではなく、分譲契約等によって定まるものですが、本条に確認的に規定したものです。なお、共用部分の共有持分は規約で定まるものです。
管理費は、次に掲げる通常の管理に要する用途に充当します。
① 管理員人件費
② 公租公課
③ 共用設備の保守維持費及び運転費
④ 備品費、通信費その他の事務費
⑤ 共用部分等に係る火災保険料、地震保険料その他の損害保険料
⑥ 経常的な補修費
⑦ 清掃費、消毒費及びごみ処理費
⑧ 委託業務費
⑨ 専門的知識を有する者の活用に要する費用
⑩ 管理組合の運営に要する費用
⑪  その他第32条に定める業務に要する費用(次条に規定する経費を除く。)
マンション管理費の相場
 国土交通省が発表した「平成30年度用マンション総合調査結果」によると分譲マンションの管理費の全体の平均は217円/㎡となっています。管理費は、住戸の広さで負担額が決まります。ルーフバルコニー等の特別な共用施設がついていなければ、どの階に住んでいても、同じ広さの部屋なら管理費は変わりません。ファミリータイプの70㎡の住戸で月額1万5,190円、80㎡なら月額1万7.360円となっています。調査結果をみると、マンションの総戸数が多いほど入居者が支払う管理費は安くなる傾向にあります。ただし、タワーマンションについては、戸数が多くても管理費が高くなることがあります。
マンション管理費が高いマンションの特徴をご紹介します。例えば、国土交通省のデータで言えば「20戸以下」のような全体の戸数が少ない場合、管理費を等分する戸数が少ない訳ですから一戸当たりの負担が大きくなります。また、将来的に管理費が増額になる可能性も考えておく必要があります。管理費の滞納が発生していたり予想外の支出が続くなどで管理費の不足が発生したりする場合、管理費の見直しが必要となるからです。その場合も、戸数が少なければ各戸の負担は大きくなります。一般的にタワーマンションは共有設備が充実していることが特徴です。フィットネスジムやスカイラウンジ等の豪華な共用設備の他、クリーニングやコンシェルジュなどの有人サービスが充実しているケースがあります。また、窓清掃を専門業者に依頼する必要があったり、機械式の駐車設備もメンテナンス代がかさんだりするため、駐車場使用料を含む管理費が高額になりやすい場合があります。管理費の主な用途には管理員、清掃員の人件費が大きな割合を占めています。敷地が広い、設備が多数ある物件であれば、ある程度の人手が必要となりますが、多すぎると管理費が高くなります。自分や家族にとって必要な設備かを判断するのはもちろん、それに見合った人員が配置されているかもマンション選びの重要なポイントになります。
●管理費会計の勘定科目
 決算書で開示する勘定科目の名称は、企業会計基準でも公益法人会計でも基本的に同じで、内容が明瞭に理解できる科目にする必要があります。また、大科目、中科目、小科目と3つの階層から構成されるのが一般的ですが、決算書については、大科目と中科目までを記載します。小科目は、決算書には記載しませんが、決算書を作成する元となる総勘定元帳や合計残高試算表といった帳簿には記載し、財産の状態や収支の状況を適切に把握するため、用いるものです。例えば、未収入金は中科目に相当しますが、未収管理費、未収駐車場使用料などは小科目に該当し、決算書では中科目である未収入金を記載すれば足りますが、財産目録では、その下の小科目ごとの内訳を記載することが望ましいと考えられています。 
 貸借対照表では、中科目の合計金額が開示され、その付属資料である財産目録では、小科目レベルの細目の内訳が開示されて、いれば、この2表を合わせて読むと科目ごとの内容を明瞭に把握することができます。同様に、収支計算書では、中科目の合計金額を開示し、その付属資料として、収入明細書や支出明細書を作成し、小科目レベルの細目の内訳が開示されているのが望ましい開示です。なお、企業会計原則に準じた、管理組合の決算書における勘定科目を管理費会計、修繕積立金会計に区分して、『マンション管理組合会計の手引き ~基本から仕訳を中心に~」(平成26年4月22日発行・平成29年10月16日改訂/著者:公益財団法人マンション管理センター)に掲載していますので、ご参照ください。
◆エレベーター保守料
 エレベーター内に貼られた検査済のステッカーを目にされたことがあると思います。これは、年に1回の法定点検が済んでいる印です。通常行われている1か月に1回の点検は(財)日本建築設備・昇降機センター発行の「昇降機の維持及び運行の管理に関する指針」によるものです。最近は. 多くのメンテナンス会社が、遠隔監観というシステムを採用しており、エンジニアなどが実際に行う点検は、3か月に1回程度が多くなっています。実際に行う保守点検では、エレベーターを一時停止し、機械室に入って、点検、給油、清掃、調整をするとともに、 消耗品(かご内蛍光管、押しボタンスイッチ、ランプなど)の交換をしています。使用頻度によって数年おきに、メインロープなどの交換も行われます。これはどの契約にかかわらず同様です。
フルメンテナンス契妁(FM契約)
 フルメンテナンスという契約の場合は、月々の定額科金の中に、消耗品だけでなく、劣化した部品の修理あるいは取替えも含まれています。当然、POG契約よりは料金が高く設定されています。しかし、エレベーターに関するすべてが料金内ではありません。昇降かご、扉、などの汚損・破損による取替えは費用がかかります。また、地震時管制装置、停電時自動着床装置などの改造工事も別料金です。
POG契約
 POGは、Parts(パーツ)、Oil(オイル)、Grease(グリス)の略で消耗部品の交換、オイルの補給、潤滑剤の塗布などを意味しています。定期的な点検、消耗品交換は、フルメンテナンスと同じですが、部品の修理や取替えが必要となった場合には、別途費用がかかることになります。
費用の目安
 点検回数等によっても違いはありますが、 保守点検費用は、フルメンチナンス契約では1台につき月額4~5万円台、POG契約の場合で3~4万円台が多いようです。独立系のメンテナンス会社のほうがメーカー系の場合より、多少費用が安い傾向にあります。過去から遡って最近までのエレベーターの点検報告書を理事会で確認しておきましょう。また、ぜひ一度点検に立ち会ってみることをおすすめします。
◆マンション火災保険料・地震保険料
 分譲マンションは鉄筋コンクリート造がほとんどで耐火性が高いため、火災保険に加入しても恩恵は少ないと考えている人もいるようです。しかし、火災保険がカバーする範囲は火災だけではありません。なかにはマンションの管理組合が火災保険に加入しているからといって安心している人もいますが、マンション各住戸についての補償を受けるには、個別に加入する必要があります。
 住宅ローンを組むには、ほとんどの銀行で火災保険への加入を条件としていますが、すでに住宅ローンを完済していたり、投資用マンションなどを現金で購入したりした人の中には、火災保険に未加入というケースがあります。
マンションは鉄筋コンクリート造がほとんどで耐火性に優れているため、喫煙の習慣がなかったりオール電化の場合だと、火災保険に加入する必要性があまり感じられないかもしれません。しかし、次のような点を考慮すると、火災保険には必ず加入しておくべきです自分が火事を起こす可能性はかぎりなく低くても、ほかの住人によるリスクを管理することはできません。マンションは戸建てと違って、上下や両隣の住居と密着しているのが特徴です。そのため、近所から被害を受けたり、逆にこちらが被害を与えてしまう可能性が、戸建てよりも高いといえるのです。ところが、日本では「失火責任法」(失火法)という法律によって、類焼で損害を受けても、失火の原因が故意や重過失でない場合には、火元から補償してもらえないことになっています。原状回復にかかる費用はすべて自分持ちとなります。また、仮に火による直接的な被害は少なく済んでも、スプリンクラーや消火活動によって、部屋が水浸しになる可能性もあります。このような場合でも火災保険に加入していると補償の対象となります。火災保険の補償は、特約なども含めると広範囲に及びます。近年、異常気象による災害が急増していて、豪雨を原因とする水害や竜巻などによる風災などが頻繁に起きています。これまでなかったから安全だろうと思っていても、予想を超える被害が起きうるのです。平成31(2019)年、台風19号による洪水で、都心のマンションでも床上浸水の被害が生じました。集中豪雨によって排水などがあふれる現象(内水氾濫)は各地で起きていますが、水災を補償する火災保険に加入していれば、床上浸水などや戸室内の損害については、原則、補償を受けられます。火災保険の主だった補償対象は、次のとおりです。
補償対象となる損害例
① 火災、落雷、破裂・爆発:失火や落雷での火事(含む類焼)、ガス漏れによる爆発
② 水濡れ:給排水設備などの事故などによる、自室や上階からの水濡れ損害
③ 風災、雪災、ひょう災:台風や暴風などによる損害
④ 水災:台風や豪雨などによる洪水や土砂崩れによる損害
⑤ 建物外部からの物体の落下、飛来、衝突:車が飛び込んでくるなどで発生した、建物の損害
⑥ 盗難:窓ガラスを割られるなど、盗難に伴う鍵や建物の損害
⑦ 突発的な事故による破損・汚損:家具や家電の移動中等に起きた、壁や扉、窓ガラス等の損害
⑧ 騒じょう・集団行動・労働争議に伴う、暴力・破壊行動:デモなど集団行動による暴力や破壊行為で受けた損害
 このうち、②については、マンションであれば加入しておいた方がよいでしょう。③~④は、重要なチェックポイントです。ハザードマップで居住地のリスクを確認して判断しましょう。地震が原因による住宅の損害は、火災保険では補償されません。地震による損害に備えるには、地震保険への加入が必要で、火災保険とセットで加入します。マンションには地震保険が不要だと考える人もまれにいますが、なるべく地震保険は加入すべきです。
 特にマンションの火災保険では、「火災」「落雷」「破裂・爆発」といった基本的な補償のほかに、「水濡れ」「水災」を補償範囲に加えることをおすすめします。水濡れは、水道管など給排水設備の事故により専有部分が濡れてしまった場合や、ほかの居住者が引き起こした水漏れ事故による水濡れ損害を補償するものです。例えば、上の階の人が原因で自分の住居が水濡れに遭った場合、自分の火災保険から補償を受けることができます。前述のとおり、マンションは近隣の住居が密集しているので、居住者による水漏れ事故が戸建てよりも多い傾向にあるためです。また、分譲マンションの中でも高層階に住んでいる場合、床上浸水のリスクが考えにくいことから水災補償に加入しない人がいますが、これもなるべく入っておいた方がいいでしょう。先述したように、豪雨による内水氾濫の可能性もありますし、バルコニーから部屋に浸水することもあり得ます。特約では「個人賠償責任保険」を付けておくことも重要です。自身の過失により他人に損害を与えてしまった場合は、損害賠償をしなければなりませんが、この特約を付けておけば、保険金で支払うことができます。ほかにも、「類焼損害補償特約」という、自身の過失により他の住居に損害を与えてしまった場合に、一定額の損害金を支払うといった特約もあります。失火責任法があるので、火元となった人には、被害者への法律上の支払い義務はありませんが、この特約では、火災保険による補償が不十分な被害者については、不足分の損害額を支払うことができるようになっています。逆に、充分補償を受けられる被害者に補償はありません。自分にとってどんな補償内容が適しているのか、また保険会社によってもオプションの充実度が違っているので、見積もりをする際には複数社から取るようにしましょう。
◆マンションの法定点検  
 マンションの建物・設備の点検は、居住者の安全と快適な暮らしを守るために欠かせないものです。各種点検には「自主的に行うもの」と「法律で義務づけられているもの」があります。ここでは法律で定められている「法定点検」についてご解説します。マンションの建物・設備検において法律で実施を義務づけられている「法定点検」は、点検の対象箇所によって関係する法律が異なります。建築基準法で定められているものは、次のようなものが考えられます。
① マンションの敷地・構造の調査
② 換気・給排水といった設備の検査
③ エレベーターの定期検査
 消防法では
① 消防設備の点検
 水道法では、次を行うことが決められています。
① 水質検査
② 水槽の清掃
 電気設備は、電力会社の責任で維持管理を行うのが原則ですが、電気事業法では屋外型の高圧受電設備が設置されているマンションは管理組合の責任で点検を行う、と定められています。
法定点検は資格者が行う   
 法定点検はそれぞれ実施する時期が決められています。エレベーターや消防設備、給水設備などの法定点検を行えるのは資格を持った有資格者だけです。有資格者による定期的な点検が義務づけられているものは、専門の業者に依頼して実施します。また検査結果は所定の方法で地方自治体や消防署などの機関に、一般的には「理事長名」で報告するように定められています。こうしたことから、多くのマンションでは法定点検をマンション管理業者に任せています。管理組合がそれぞれの専門業者に直接法定点検を依頼するのはかなり手間ですが、依頼することは可能です。以下が各種法定点検に関する点検資格者一覧です。
名称 点検資格者
特殊建物等定期調査 特殊建築物等調査資格者、1・2級建築士
建築設備定期検査 建築設備検査資格者、1・2級建築士
昇降機定期検査 昇降機検査資格者、1・2級建築士
消防用設備等点検 消防設備士、消防設備点検資格者
簡易専用水道管理状況検査 地方公共団体又は厚生労働大臣の登録を受けた者
専用水道定期水質検査 厚生労働大臣の指定水質検査機関
自家用電気工作物定期点検 電気主任技術者(電気保安協会などに委託)

 法定点検を理解しよう 
 法定点検は7つの種類に分けられます。点検すべき周期と内容をご紹介いたしますので、皆さんがお住まいのマンションでもきちんと点検がされているか確認してみてください。

名称(関連法) 周 期 内  容
特殊建築物定期調査(建築基準法) 3年に1回 マンションの敷地に地盤沈下や排水不良などがないか、基礎や外壁など建物の構造強度に問題はないかなどを調査します。
建築設備定期検査(建築基準法) 1年に1回 換気設備、排煙設備、非常用照明装置といった設備について検査します。地域によっては、給排水設備が検査対象になることもあります。
エレベーター(昇降機)定期検査(建築基準法) 1年に1回以上 エレベーターの機能全般を点検します。なお、マンション内にエスカレーターがある場合、これも法定点検の対象となります。
消防用設備点検(消防法) 外観のチェックなど簡単な点検は6カ月に1回、総合的な点検は1年に1回以上 消火器や消火栓、火災報知機、ガス漏れ警報器、避難器具、避難通路等の設備を点検します。消防用設備の配置や状態を外観や簡単な操作から行う機能点検。消防用設備を動作させたり、使用したりして、総合点検を行う総合点検。
簡易専用水道管理状況検査(水道法) 1年ごとに1回 受水槽の有効容量の合計が10立方メートルを超える場合、水質検査と受水槽の清掃が必要になります。
専用水道定期水質検査(水道法) 受水専用水道の水質や残留塩素の検査を毎日、水質検査を月に1回以上、受水槽の清掃を年1回以上 「受水槽が100立方メートル以上」「1日の最大給水量が20立方メートル以上、居住人口が101人以上」「口径25ミリメートル以上の導管の全長が1,500メートルを超える」のいずれかに該当する場合に、左記の検査・清掃が必要です。
自家用電気工作物定期点検 高圧受電装置(600Vを超える)の月次点検と年次点検 電気設備は電力会社の責任で維持管理を行うのが原則ですが、屋外型の高圧受電設備が設置されているマンションだけは別。管理組合の責任で点検を行うことが、電気事業法で定められています。

  多くのマンションでは法定点検をマンション管理業者が行っていますが、点検に要する費用もマンション管理業者によって様々です。実施すべき法定点検の項目を確認するとともに、費用も一度見直ししてみてください。

■水道料金の徴収方法
 マンションなど集合住宅の水道料金(下水道料金を含む)の徴収は、親メーター(上下水道局で設置したメーター)の口径により料金計算を行い、管理組合等の申請により、以下の方法をとることができます。一括徴収は、管理組合が各区分所有者から徴収して、上下水道局に一括して支払う方法です。一方、各戸徴収は、各区分所有者が直接上下水道局に支払う方法です。それぞれメリット、デメリットがあり、水道料金のレベルも自治体毎に千差万別であり、選択にに苦慮しますが、何よりも安全でおいしい水を供給する目的にコスト比較の上、判断すべきでしょう。なお、以下は、岩手県盛岡市上下水道局の例であることから、お住まいの下水道局で詳細は、ご確認ください。
一括徴収の仕組み


各戸徴収の仕組み

◆受水槽式(一括請求)集合住宅
ア 受水槽を経由して給水され、居住の用に供する2戸以上の専用住居により構成される集合住宅であること。
イ 浴室、便所、台所、食堂、洗濯室、散水栓など、入居者が共同で使用する共用施設を設置していないこと。
ウ 専用住居と事務所や店舗などの非居住部分が混在する場合は、専用住居部分への給水量を計量する公設の水道メーターとは別に、非居住部分への給水量を計量する公設の水道メーターが設置されていること。
エ ウの要件に該当しない集合住宅については、当該マンションに係る給水装置工事の設計審査を受けて管理者の承認を受けており、かつ、当該集合住宅の床面積のうち専用住居部分の床面積の占める割合が3分の2以上であること。
◆受水槽式(各戸請求)集合住宅
ア 受水槽を経由して給水され、居住の用に供する2戸以上の専用住居により構成される集合住宅であること。
イ 専用住居各戸に子メーターが設置されていること。
ウ 専用住居と事務所や店舗などの非居住部分が混在する場合は、非居住部分への給水量を計量する子メーターが設置されていること。
エ 浴室、便所、台所、食堂、洗濯室、散水栓など、入居者が共同で使用する共用施設を設置している場合は、共用施設への給水量を計量する子メーターが設置されていること。
オ 子メーターの最小口径は20ミリメートルであること。ただし、共用施設の子メーターは、使用実態に合わせた適正口径であること。
カ 各戸の子メーターによる給水量の計量を1箇所で行なうことができる集中検針盤が設置されていること。
キ 原則として集中検針盤がマンションの1階に設置され、かつ、当該集中検針盤が設置された階に郵便受箱が設置されていること。ク エ又はオの要件に該当しない集合住宅については、当該マンションに係る給水条例の規定する給水装置工事の設計審査を受けて管理者の承認を受けていること。
◆直結増圧式建物(各戸請求)
 直結増圧式は、給水装置に増圧装置(ブースターポンプ)を設置することによって、配水管から直結して蛇口まで給水する方法です。受水槽を設ける必要がないことから、受水槽設置スペースの有効活用と安全で新鮮な水道水の安定供給が可能となります。なお、対象階数は4~15階を標準としています。
◆工事について
 給水装置及び受水槽以下設備の工事申し込みは、市指定給水装置工事事業者にご依頼ください。
◆料金徴収適用について
 上記3つのマンション(または直結増圧式建物)の制度適用を受けるには、工事申込とは別に集合住宅(または直結増圧式建物)適用申請が必要となりますので、上下水道局お客さまセンターまでご連絡ください。
※給水装置及び受水槽以下設備の工事に要する費用は所有者の負担となります。
※一括計量方式から各戸計量徴収方式へ切替えるときは、適用要件に合うよう給水設備を改造する必要があります。また、料金の算定方式が変わることから、各入居者の水道料金が高くなることがあります。
都市ガスの管理?
 都市ガスを使用しているマンションでは、ガス事業者が敷設した配管から敷地内にガスを引き込んでいます。各住戸には配管を分岐させてガスを供給しています。マンションの配管は、敷地外はガス事業者、敷地内はマンションの所有物になります。敷地内の配管は、ガスメーターまでが共用部分、ガスメーターから住戸内は専有部分になるのが一般的ですが、マンションの中にはガスメーター以降でもメーターボックス内の配管は共用部分扱いとしている場合もあります。専有部分の配管の修理や交換の費用は、区分所有者が負担するのが一般的です。ガスメーターは通常10年ごと(一部は7年に一度)に取り替える必要がありますが、ガス事業者の所有物なので取り替え費用を請求されることはありません。

 ガス配管は、土の中に埋設されている部分と埋設されていない部分があります。昭和50年代後半まではいずれにも鋼管の外面に亜鉛メッキを施した「亜鉛メッキ鋼管(白ガス管)」が使用されていました。しかし、土の中では亜鉛メッキが溶け出し、時間の経過とともに配管が腐食して穴があく危険があることが判明しました。平成6(1994)年に、埋設部分の亜鉛メッキ鋼管のガス漏れによる爆発・死傷事故が相次いだことを受け、平成8(1996)年から埋設部分への亜鉛メッキ鋼管の新規使用が禁止されました。現在では、埋設部分のガス配管には鋼管の表面をポリエチレンで被覆した「ポリエチレン被覆鋼管」や「硬質塩化ビニル被覆鋼管」、「ポリエチレン管」など腐食に強い材料が使用されています。なお、昭和50年代までに建築されたマンションも、建築当初は埋設配管が亜鉛メッキ鋼管だった可能性がありますが、20年が取り換え目安なので、多くは新しい配管に交換されていると思われます。ガスメーター(マイコンメーター)は異常を検知するとガスを自動的に止める機能を備えています。ガスが止まるのは、大きな地震(震度5強相当以上)を感知した時です。シャワーの出しっぱなしやお風呂の沸かし過ぎなど、一定量のガスが所定の時間以上流れ続けた時や、ガス管破損やガス栓の誤解放で多量のガスが流れた時にも止まります。微量なガス漏れを検知するものもあります。ガス漏れなどの問題がないことが確認できた後、ガスメーターを復旧させる際は、わざわざガス会社に連絡しなくても簡単な操作を行うことで、ガスを使えるようにすることができます。
◆マンションの給湯器の交換
マンションの給湯器交換の費用や流れをご紹介しました。

簡単に要点をまとめると以下のようになります。

  • 給湯器が故障したらまずは管理会社・管理組合へ連絡
  • 給湯器交換の際には「設置タイプ」「給湯タイプ」「号数」をチェック
  • 費用は機種や工事内容によって13~35万円程度が相場
  • 業者は資格や保証などで判断して選ぼう

給湯器は概ね10年使用することになるため、機種選びや業者選びはとても大切です。
マンションの給湯器交換を行う際には、これらを吟味して依頼をしてみましょう。



ガスメーターの復帰方法豆知識

① すべてのガス機器を止めてください。ガスの元栓もしっかり締めてください。
② ガス臭くないか確認してください。
③ メーターボックスの中にあるガスメーターの復帰ボタンをしっかり押してください。表示ランプが点滅したら、手を離します。
④ 約3分間待ちます。ガスもれがないかチェックしています。
⑤ ランプの点滅が消えれば、ガスが使えます。
 器具により操作方法が異なる場合があります。

・正常に復帰しない場合は、ガス機器の消し忘れやガス栓の閉め忘れが考えられますので、もう一度よく確認ご確認ください。
・正常に復帰しない場合は、ガス漏れが考えられますので、ガス事業者へご連絡ください。ガスの種類に合ったガス機器を使わないと、ガスが正常に燃焼せず、一酸化炭素中毒などを引き起こし、大変危険です。譲り受けたガス機器を使う場合や引っ越す場合は要注意です。まず、供給されているガスの種類とガス機器が適合しているかを確認してください。ガス機器には「LPガス用」「12A用」「13A用」といったガスの種類が明記されています。新しく購入する時もよく確認しましょう。ガス給湯器は設置状況や使用頻度などにより異なりますが、10年前後が交換の目安です。「給湯温度が一定しない」「お湯がぬるい・出ない」「給湯器から異音がする」などの症状が出た場合は要注意です。マンションでは、取り付けスペースや給湯能力の制限の他、色指定がある場合もありますので交換する際は事前にガス事業者へ確認してください。
※出典/転載/引用:マンション管理ゼミナール 『ガス設備』の基礎知識 | マンション生活 | ハウズイングニュースオンライン (hn-online.jp)

ゼロから学ぶマンションの会計(第7話)マンションの会計担当理事とは?


ゼロから学ぶマンションの会計(第7話)
マンションの会計担当理事とは?
はじめに
 前回は、国や地方自治体の公会計の予算原則、企業会計の一般原則、管理組合特有の「区分経理の原則」を学びました。加えて、「継続費」、「繰越明許費」、「債務負担行為」など会計用語の豆知識も学びました。もともと会計制度の本来的な目的は、「説明責任」(アカンタビリティー)と「情報開示」(ディスクロージャー)を達成することです。あえて、民主主義の学校と言われる地方自治体の予算制度を学んだ理由です。説明責任(アカンタビリティ)は、社会に影響力を及ぼす組織で権限を行使する者が、直接的関係者だけでなく、間接的関係を持つ全ての利害関係者にその活動や権限行使の予定、内容、結果等の報告をする必要があるとする考え方です。情報開示(ディスクロージャー)は、
物事を明らかにして示すということで、財産や収支の状況といった財務内容にとどまらず、経営方針や組織、商品・サービスの内容など、企業活動全般を判断するために必要なあらゆる情報におよんでいます。例えば、銀行は皆さんのお金を預金としてお預かりしていますが、預金は預金者に返さなければならないお金であり、いわば預金者から借りているお金です。預金者は、お金を貸す相手である銀行の経営状態について知ることができなければ、安心してお金を預けることができなくなります。特に、定期預金などのペイオフが解禁された現在では、どの銀行であれば安心してお金を預けることができるかということは、預金者にとっては非常に大きな関心事です。また、銀行からお金を借りている企業なども、その銀行に万一のことがあれば、今まで受けていた融資が受けられなくなる惧れがあるなど、事業に大きな影響を受けることになります。すなわち、利用者からすれば、安心して取引ができる銀行かどうかを判断するためには、銀行の実態を知ることが必要になります。
このため、銀行は、株主などの投資家に対してだけでなく、広く一般の利用者に対しても経営内容等を開示して、銀行の経営の実態を知ってもらう必要があります。筆者は、マンション管理組合も直接的利害関係者である区分所有者のみならず間接的関係者であるマンション購入予定者、不動産業者、近隣住民など可能な限り広く情報開示し、IT・ICTを活用して「市民に開かれた安全・安心なマンションづくり」を追求すべきだと考えます。勿論、安全・安心なマンションづくりを推進するためには、一人ひとりの区分所有者が、マンションの価値及び機能の維持増進を図るため、専有部分(※1)を常に適正な管理を行うことが必要であり、管理組合が敷地及び共用部分(※2)の管理を管理組合の責任と負担において適時・適切に行うことが必要であり、車の両輪であると考えます。今回は、マンションの管理組合の会計業務の担い手である「会計担当理事」の役割について学習します。
会計担当理事の役割
 「会計担当理事になったけど、どんな仕事をするのだろう 」「管理業者に委託していれば、何もしなくていいのでは 」そんな疑問をお持ちの方のために、今回はマンション管理組合における会計担当理事の役割について解説します。国土交通省が公表している「マンション標準管理規約」第40条第3項に会計担当理事の教務内容が規定されていますが、具体的な業務を確認します。
   マンション標準管理規約
(理事)
第40条
3 会計担当理事は、管理費等の収納、保管、運用、支出等の会計業務を行う。

 マンション標準管理規約に記載されている業務は、自主管理を行うことを前提とした規定になっていますが、多くの管理組合はマンション管理の全部または一部を管理業者に委託しています。この委託業務の中に、会計業務が含まれていることから、会計業務のほとんどは委託先の管理業者が代行しています。しかし、会計業務を管理業者に委託している場合でも、会計担当理事は委託している会計業務が契約とおり適切に行われているか確認する必要があります。 
 マンションを管理するうえで切り離せないのがお金です。管理費や修繕積立金などの収入、また修繕費や管理業者への委託費などの支出を管理するのが会計です。そんな会計業務は、複式簿記の知識が必要で、管理組合がやるのはなかなか負担が大きいものです。そのため管理業者に委託するケースが多いと言えます。とはいえなかには、自分たちでやろうと考えている管理組合もあるかもしれません。そこで、会計の方法や業務内容など、最低限押さえておくべき予備知識について解説します。マンションの会計業務は「管理業者」に委託するか、「管理組合」が自主管理するかの二つが考えられます。それぞれの方法について、解説します。 
【選択1】管理業者へ委託
 マンションの会計業務は、国土交通省のマンション標準管理規約第40条第3項で「会計担当理事は、管理費等の収納、保管、運用、支出等の会計業務を行う。」と規定されています。しかし、会計の専門的な知識が必要となるために管理組合で行うことは難しく、多くの場合、管理業者に委託をしています。会計業務の一部、若しくは全部を管理業者が代わりに行っているのが現状です。

【選択2】管理組合が自主管理
 会計業務を管理業者に委託せず、理事会の会計担当理事が担当して自主管理するケースがあります。未収金や未払金、前払金などの状況を正確に把握するには、複式簿記で仕訳し、「貸借対照表」や「財産目録」などの作成が必要です。これらの業務を行うには、複式簿記の知識がなければなかなか難しいと言えます。管理業者に委託しているケースがほとんどですが、もし会計担当理事が会計業務を行うとなった場合、どんな業務が発生するのか。改めてまとめました。
業務① 月次・年次収支報告書の作成
 管理組合の収入や支出の状況を知るには、「月次収支報告書」と「年次収支報告書」を作成する必要があります。会計業務を管理業者に委託している場合、収支報告書以外に、資産のバランス状態が把握できる「貸借対照表」(=バランスシート)、管理費などの未納状況が戸別で把握できる「未収金一覧表」なども作成します。
業務② 入金・支払処理
 入金処理では納めてもらった管理費や修繕積立金、また駐車場などの使用料も含め、何号室からいくらの入金があったのかを確認し毎月通帳記帳を行います。支払処理は、共用部分の電気料や水道料、設備点検費、修繕工事などをした月はその分の費用を各業者への支払います。管理業者に委託している場合、毎月の支出に関する領収書は管理業者に一時保管し、管理組合の決算月などに、管理業者からまとめて提出してもらいます。
業務③ 未納者への督促
 毎月、区分所有者から指定期日までに修繕積立金や管理費などが入金されます。近年では入金の手間、未納を防ぐなどの理由から、口座振替を利用するマンション管理組合がほとんどです。口座振替の場合は「口座振替結果報告書」、振込みの場合は「通帳記帳」で各区分所有者からの入金を把握することができます。未納者に対しては、督促を行います。督促の方法としては「書面通知」「電話督促」「訪問督促」などです。未納の月が続いている場合などは「内容証明郵便」「支払計画書の提出の要求」「支払督促・少額訴訟」といった法的措置をとることもあります。
業務④ 小口現金の管理
 小口現金とは、少額の消耗品や雑費など、急ぎの出費のために必要な現金です。具体的には、管理組合で使用する資料のコピー代やファイル代、プリンターのインク代、清掃用具などが挙げられます。
会計担当理事は、こうした小口現金の現金出納帳で管理します。
※出典/転載/引用:
「マンション管理組合の小口現金ってどうやって管理しているの?」

業務⑤ 請求書や領収書の管理・保管
 管理業者が管理しなければならない重要書類は、収支決算書の素案、組合員別の管理費負担額の一覧表などです。このほか「見積書」「請求書」「領収証」なども保管しておくことになります。管理業者に委託している場合、管理しなければならない重要書類は管理業者が作成してくれます。中身をチェックし、書類の内容を把握します。

(※1)専有部分の豆知識
 分譲マンションには、「建物の区分所有等に関する法律」(以下、「区分所有法」)という、民法の特別法として定められた法律が適用されます。マンションを購入した人は、そのマンションの区分所有者として区分所有法とかかわっていることになります。区分所有法とは、マンションの居住者が円滑な生活を送れるよう、また、区分所有者や居住者の財産を守れるように、という目的で制定されたものです。
 区分所有法第1条では、建物の区分所有について、一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この区分所有法の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができると規定しています。「区分所有権」とは、建物の部分(管理規約で共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいいます。また、「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいい、「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいうことされています。専有部分の範囲については、国土交通省の標準管理規約第7条で対象物件のうち区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸とするとし、同条第2項で、専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおり取り扱うこととしています。
① 天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。
② 玄関扉は、錠及び内部塗装部分を専有部分とする。
③ 窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。
 同条第3項では、専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とすることとしています。「専有部分」とは。各区分所有者が自由に使っていい建物内の自分の持ち物で、マンションの各室内や、ビルなら各店舗、事務所などなどの単独で所有できる建物の一部分です。建物としての用途に供されるものに限られるので、「廊下、階段室、エレベーター室」のようなものは、専有部分にはなりえません。専有部分は、区分所有権の目的となる建物の部分と定義されます。区分所有者は、一戸建の家の所有者と同じように、自分の建物の「専有部分」を原則として、自由に売買したり、担保に入れたり、貸すなどの使用収益、処分行為ができますが、他の区分所有者を害する権利行使に対しては、制限が規定されています。なお、一般的に専有部分内にある電気の配線やガス、水道の配管は専有部分に含まれますから、注意をようします。区分所有権の目的となり得る建物の部分=専有部分とは、区分所有法第1条で規定する一棟の建物のうち
① 構造上区分され(構造上の独立性)
② 独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができる(利用上の独立性)
 数個の建物の部分で、さらに、この部分であっても、規約により共用部分とされた部分(区分所有法第4条2項)を除いた物が、専有部分です。専有部分となると、区分所有者が、排他的に支配し権利の行使ができ、原則、管理も区分所有者が行いますが、共用部分は、区分所有者の共有となり、区分所有法で定める管理方法に従うことになります。

(※2)共用部分の豆知識
 「共用部分」とは、建物の中で廊下や階段などの専有部分以外の部分であり、次の部分も、共用部分に含まれます。

① 専有部分でない建物の附属の物(電気の幹配線、ガス、水道の主配管、エレベーターなど)
② 専有部分になりえるが、規約でみんなの物とする附属の建物(集会室、物置、倉庫など)

 「共有」という用語を使用すると民法で規定する「共有」の適用を受けるため、マンションでは法律上「共用部分」の概念を定義し創設しました。なお、「共有」とは、1個の所有権を複数の人で所有することをいいます。「共用部分」は、あくまでも建物が目的で、
建物においては「専有部分以外」は必ず「共用部分」となります。 また、専有部分以外の共用部分は土地にも及ぶと誤解し易いので注意してください。
区分所有法では、区分所有されている「建物」は

① 専有部分(単独所有部分) 
② 共用部分(みんなで使う部分)
 のどちらかに属します。なお、共用部分は、次のとおり区分できます。
① 法定共用部分 
② 規約共用部分
 「共用部分」とは、区分所有法第2条第4項では、次のとおり定義しています。
① 専有部分以外の建物の部分
② 専有部分に属しない建物の附属物
③ (専有部分にもなり得るが)規約により、共用部分とされた附属の建物(専有部分にもなる得る、)
 共用部分は、別途区分所有法第4条で例示し、次のとおり規定されています。

① 法定共用部分:第2条4項前半に明示されている「共用部分」とは、「専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物」であり、具体的には、通常、建物の躯体、支柱、外壁、屋根、廊下、階段室、エレベーター室など、外部から見ても、構造上、使用上、法律上当然に居住者みんなが使う場所や構造物は共用部分となる。効用上その建物と不可分の関係にある附属物、具体的には、外部にある電気の幹配線、ガス、水道の主配管、その建物全体で使うようになっている貯水槽、冷暖房設備、消防設備、昇降機設備、テレビ受信設備など。これらは、法律上当然に共用部分となります。ただし、一般的に専有部分内にある電気の枝配線やガス、水道の枝配管は専有部分に含まれます。雑排水、水道の「本管=メインパイプ」も法律上当然に共用部分になります。しかし、「枝管」は本管と連続して室内に入るため、どこまでが、共用部分か専有部分かは議論が有ります。
② 規約共用部分:第2条第4項後段に規定される「第4条第2項の規定により共用部分とされた附属の建物」です。これは、その用途・性質から、専有部分となりえますが、区分所有者達が規約で決めれば共用部分に変更できるものです。その建物の部分は、もともとは他の人(外部の人)が見て、マンションの一室かどうか分からないものであるため規約で共用部分であることを明文化する必要があります。例えば、集会室、管理事務室などは、「専有部分」のように、独立した出入り口を備え住むことができる構造もあります。その為に規約で「共用部分ですよ」と決める必要があります。このような建物の部分は、法律上当然には共用部分にならないのです。区分所有建物に対して従物的な関係にあるもの(別棟の集会所、物置、倉庫、車庫など)は、法律上当然には共用部分にはなりません。規約で共用部分にできることに注意を要します。
 ところで、区分所有法をはじめて読む人は「専有部分」や「共用部分」という表現に戸惑うことでしょう。これは発音してみると、専有(せんゆう)でも占有(せんゆう)と同じ発音であり、法律が文の世界で規定されていることがわかります。「専」と「共」、「有」と「用」という文字は、それを組み合わせることで、「専有」/「専用」、「共有」/「共用」ができます。この4つの語は「専有」は特定の者の「所有」を、「専用」は特定の者の「使用」を、「共有」は複数の者の「所有」を、「共用」は複数の者の「使用」をそれぞれ意味すると考えてよいでしょう。そこでこの語の相互の関係を考えてみますと、「専有部分」が「専用部分」であることは当然ですが、専用に使用できる「専用部分」は、例えば、各室にあるベランダ・バルコニー等のように、「共用部分」としたものを専用的に使用する場合がありますので、当然に「専有部分」であるとは限りません。また同様に、「共用部分」が「共有部分」であることは当然ですが、「専有部分」の共有の場合のように「共有部分」が当然に「共用部分」であるとは限りません。このような関係から、建物の一定部分を正確に定義する必要があるため、1棟の建物のうち区分所有権の目的たる建物の部分を「専有部分」といい、専有部分以外の建物の部分を「共用部分」と定義しているのです。専有部分のある1棟の建物のうち専有部分を除いた残りの部分、例えば、エントランス(出入口)、廊下、エレベーターホールや屋上、外壁等を共用部分といいますが、建物には建物本体のみならず、居住者の生活に必要な電気、ガス、空調、給排水設備などが附属しています。これも附属物として専有部分の附属物を除いたものが共用部分となります。しかし、専有部分と共用部分の境界はどこかの区分が難しいのです、まず、条文としての専有部分と共用部分を説明しましたが、この区分は実務上は非常に難しいのです。例えば、専有部分(各室)に入っていくガスの配管や電気の配線等は、まず、ガス供給企業や電気会社などの外部から建物全体に対して大きな配管や配線(本管=メインパイプとか本線と呼ばれます)がなされ、それから各室に枝分かれ(枝管とか枝線と呼ばれます)をしていきます。この場合、通常、物理的に本管も別れた枝管も、1つの管(クダ)や線として連続したものであり、途中で区切られていませんから、これらについてどこまでが共用部分でどこからが専有部分になるかは多くの論争があります。常識的には、本管と枝管などの結点部分で分岐しているため、ここが責任分界点と思われますが、法律的にはその材質の物理的性質にはよらず専有部分と共用部分の接線で分けられます。この専有部分と共用部分との境界を、建物で考えた場合、物理的に一体の壁の中心で専有部分の範囲を分ける「壁芯説」と同様の考え方です。もっとも、この点は法律の条文で明確には決まっておりませんから物理的な接点で分けるという規約上の合意をしておけばそこが専有部分と共用部分の責任分界点となります。
 共用部分の定義で残るのは区分所有法第4条第2項の規定により共用部分とされた附属の建物です。「附属の建物」と「建物の附属物」は、似たような言い方ですが、意味が違います。建物の附属物は、専有部分に属さない電気の配線やエレベーターで、これらは、当然に法定共用部分です。一方、附属の建物とは、マンション本体とは別棟として建てられた集会室・車庫・倉庫・水道ポンプ室・下水道処理室等の本体建物に付随する建物をいいます。これらは主たる建物から一応独立した建物ですから当然には共用部分とはなりませんが、管理規約で共用部分とすることができます。なお、車庫は、その構造も各種あり、共用部分との判断が一概にはできませんが、下級審の判例では、専有部分と認められた例がかなりあります。管理規約で共用部分とした場合としない場合の違いは、適用される法律が民法か区分所有法かの違いとなります。管理規約で共用部分とした場合は区分所有法が適用されますからその扱いは他の共用部分と同じですが、管理規約で共用部分としない場合は民法が適用されます。民法の適用となりますと、共有関係となり、その施設の保存行為は単独で、管理行為は持分の過半数で、変更行為は全員の同意で行い、各自の持分は全て登記され持分の処分や分割請求も自由となります(参照:民法第249条以下)。従って、附属の建物の性格、用途にもよりますが、他の共用部分と同じようなマンションの全員が共同利用する施設である場合は規約で共用部分とするべきでしょう。特に、管理人室はその設備上からも、明らかに法定共用部分でない場合には、規約共用部分として、登記をして、法律上の争いを防ぐべきです。現実には、小さなマンションや古いマンションでは、登記はしていません。管理人室(管理事務所)はその構造上、専有部分か共用部分かについては、争いが多く裁判でも判断が分かれています。その判断の要素となるのは、次のとおりです。
① 居室が大部分を占めるのか、あるいは単なる休憩室なのか。
② 独立的な出入り口があるか。
③ 共用設備(消防設備、警報装置など)に簡単な補修工事を施せば、全体として居住専用の室にできるか、今のままでも居住専用として使えるか。
 バルコニー(ベランダ)については、隣接した室で相互に非常の際の避難路として使われる場合があるため、共用部分ですが、法定共用部分かまた規約で定めて共用部分にすべきかの争いがあります。通常、1階部分の柱と柱に囲まれた建物内の空間を「ピロティ」と呼びますが、ここを駐車場などにしている場合に専有部分か共用部分かの争いがあります。ピロティは居住者の集会や避難通路として使われるなら、法定共用部分と考えられます。
 区分所有法に基づき、国土交通省が各マンションの管理規約の雛形としています「マンション標準管理規約」があります。マンション管理に対する指針として、昭和57(1982)年から、関係団体に活用するよう通達され、何度かの改正を経て、現在に至っています。なお、「規約」を設定するかどうかは、そのマンションの区分所有者が自由にできるものであり、法律での強制ではありません。しかし、現在では、多くのマンションの分譲時に、この国土交通省作成の標準規約に則った規約がマンション分譲会社により作成され、各マンションの「管理規約」として、採用されています。標準規約によると、上に述べた専有部分と共用部分の区分が明確でないのをうけ、専有部分と共用部分の具体的な範囲を、国土交通省の標準規約では、第8条で、対象物件のうち共用部分の範囲は、別表第2に掲げるとおりとしています。

 別表第2 共用部分の範囲
1 エントランスホール、廊下、階段、エレベーターホール、エレベーター室、共用トイレ、屋上、屋根、塔屋、ポンプ室、自家用電気室、機械室、受水槽室、高置水槽室、パイプスペース、メーターボックス(給湯器ボイラー等の設備を除く。)、内外壁、界壁、床スラブ、床、天井、柱、基礎部分、バルコニー等専有部分に属さない「建物の部分」
2 エレベーター設備、電気設備、給水設備、排水設備、消防・防災設備、インターネット通信設備、テレビ共同受信設備、オートロック設備、宅配ボックス、避雷設備、集合郵便受箱、各種の配線配管(給水管については、本管から各住戸メーターを含む部分、雑排水管及び汚水管については、配管継手及び立て管)等専有部分に属さない「建物の附属物」
3 管理事務室、管理用倉庫、清掃員控室、集会室、トランクルーム、倉庫及びそれらの附属物

  国土交通省は、共用部分の範囲を上記のとおり明記するとともに次のとおりコメントしています。
① ここでいう共用部分には、規約共用部分のみならず、法定共用部分も含む。
② 管理事務室等は、区分所有法上は専有部分の対象となるものであるが、区分所有者の共通の利益のために設置されるものであるから、これを規約により共用部分とすることとしたものである。
③  一部の区分所有者のみの共有とする共用部分があれば、その旨も記載する。
 なお、注意すべきことは、標準管理規約では、専有部分と共用部分を区分していますが、その区分は、必ずしも費用負担と連動しないということです。例えば、下水管が詰まって、費用負担の原因が、専有部分の使用にある場合には、共用部分の配管等に故障があった場合でも、その専有部分を所有する区分所有者の責任となります。よく、判例などでも問題になっていますが、上の階からの水漏れの場合、このような事故の際のトラブルを避けるためには、配管について、どこまでが専有部分でどこまでが共用部分かを、できるだけ具体的に規約やできれば図面で明確にしておく必要があります。判例では、床下コンクリートスラブと階下天井板との間の空間に設置された階上者専用の排水管の枝管は、「専有部分に属しない建物の付属物」にあたり、区分所有者全員の共用部分にあたるとし、同排水管からの漏水について、階上者の損害賠償責任を否定した最高裁の判決が平成12(2000)年3月に出されています。
 バルコニーについては、共用部分か専有部分かで争いがないわけではありませんが、一般に避難通路の役割をしているものが多く、その種のものは共用部分と考えられています。標準管理規約は共用部分説を採用しています。なお、標準管理規約では、玄関の扉のうち、錠と内部の塗装部分は専有部分ですが、それ以外の外部などは、共用部分としています。また、窓枠及び窓ガラスも専有部分から除き、外観を構成する部分については加工等外観を変更する行為を禁止しています。具体的には、区分所有者は、玄関扉の外側の色の変更は勝手に出来ませんが、玄関扉の内側(室内側)の色の変更は、独自にできます。また、錠前も自己の負担で交換できます。
 窓枠(窓サッシ)や網戸があれば、これは勝手に変更できません。窓ガラスが壊れれば、同じガラスの入れ替えは自己負担で可能ですが、今までの透明ガラスを刷りガラスにすることは、マンション全体のデザインにも影響しますので、勝手に変更できません。
マンションに住むということは、戸建と異なり制約が多いということです。
専用使用権とは?
 特定の区分所有者が、区分所有者全員の共有部分(=共用部分)を、排他的、独占的に利用できる部分を「専用使用部分」といい、専用使用部分を使う権利を「専用使用権」とよんでいます。例えば、1階の居住者だけが使える専用庭、上層階の居住者だけが利用できる専用テラス、また特定の区分所有者だけが使える駐車場がこれに該当します。区分所有法にはない権利ですが、標準規約では、バルコニー(ベランダ)も共用部分として、専用使用権を認めています。マンションの分譲形態にもよりますが、全室に設置されているバルコニーなどでは、別途バルコニー使用料は徴収しないのが普通ですが、専用庭、専用テラス、また駐車場では、専用使用権者が別途使用料金を管理組合に支払っています。そして、通常の使用での管理は専用使用権者が行います。例えは、窓枠は共用部分で勝手に変更できませんが、窓ガラスが割れたら、その区分所有者が自分の負担で入れ替えます。
建物の敷地とは?
 区分所有法第2条第5項で規定した、この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び第5条第1項の規定により建物の敷地とされた土地をいう。」という規定を受け、建物の「共用部分」でも規約による「共用部分」があったように、敷地においても規約で「建物の敷地」にして、区分所有関係にある敷地の管理を、民法での共有から団体での「多数決」に移して簡便にしようとするものです。区分所有法第2条第5項で建物の敷地には、次のとおり定義しています。

① 建物が所在する土地
② 区分所有法第5条第1項により敷地とされる土地 
 前者①は敷地の要件が「建物が所在すること」と法定されていますから「法定敷地」と呼ばれ、後者②は規約で建物の敷地とされたので「規約敷地」と呼ばれています。現実にマンションが上に建っている土地(敷地・底地)は、外部からも見ても分かるため、区分所有法で定める「建物の敷地」に当然になるため「法定敷地」と呼ばれますが、マンションが上に建っていなくても、そのマンションで、法定敷地と一体として管理又は使用をするなら、例えば別途登記された庭、通路、駐車場、遊園地、テニスコートなどは、規約でマンションの敷地にできます。こちらは、規約により敷地となったので「規約敷地」と呼ばれます。建物の敷地となると、建物の専有部分と分離処分ができなくなります。マンションの土地(敷地)として規定すると、法定敷地と規約敷地であっても、「建物の敷地」となり、専有部分と敷地利用権の分離処分の禁止の適用を受け、もう勝手にその土地だけの処分ができず、建物の権利と共に移動すという制限を受けることになります。また、土地であっても管理も建物の共用部分と同じように「多数決」でできるようにするための準備として、ここで敷地の範囲を明確にする必要があるのです。なお、区分所有法でこの建物の専有部分とその敷地の分離処分を禁止することは、取引の安全性の面から不動産登記法の改正にもつながっています

※出典/転載/引用:区分所有法 超解説 第1章第1節 第1条~第10条 のうち 4条から10条まで (tok2.com)


ゼロから学ぶマンション会計 マンションの収支予算とは?


ゼロから学ぶ
ンション会計
マンションの収支予算とは?
はじめに
 マンションの理事会には、「今期、これだけのお金があるから、懸案になっているあれをやろう。」と理事会が決めて実行することは、権限の濫用です。理事会ができるのは、「総会で実行することが承認された事業計画」及び「管理規約で理事会に附託された日常管理業務」を粛々と執行するだけです。
理事会の主要な役割は、次の2つです。
① 前期の総会の決議事項を確実に実行すること。総会で決まったことは必ずやらなければならないし、決まっていないことをやってはいけない。なお、緊急に必要な事案が起こった場合は、臨時総会を開催すればよいのです。
② 次年度に実施する事業を計画し、予算を付けて議案化して、当期の通常総会にかけて承認を得ること。理事会の権限でできることは議案を作ることです。
 その他の日常管理業務はできるだけ管理業者に任せ、理事会は結果をチェックする程度にすればよいのです。このような考え方からマンション管理の会計は一般の企業会計とは異なります。
 企業会計では、部署ごとに年度の予算を割り当て、各部署は与えられた予算内で最大の効果を得るように自らその年度の事業を計画して実行する、という会社が多いと思います。一方、マンション会計では、年度の予算は前年度の総会で実行すると決めた事業の見積り金額の積み上げになりますので、予算の用途はすでに決まっており、理事会がその事業を実行しなかったり、違う事業に予算を使ったりすることはできません。もちろん台風被害など突発の出費に備えて多少の予備費は取っておきますが、やることをやっていれば、年度末の収支決算は±0円近くになるはずです。マンションでは、管理費会計や修繕積立金会計の年間予算を上回る繰越金が残っていますが、企業会計の考え方と混同されて、やるかどうか未定だがとりあえず予算を取って、結果、やらなかった、ということが多かったのではないかと想像しています。そこで、理事会は次年度に実施する事業を計画しその見積りを予算化するという手順を確実に実行していけば、通常総会にかける収支予算案が具体的かつ透明でわかりやすいものになるだろうと思われます。
   マンションを維持管理するためには、お金が必要です。限られた収入の中でやりくりするには、お金の使い方を管理することが必要です。「予算」は、ある時点の収入や支出を想定したものですが、お金の使い方を管理するための鍵は予算にあります。新年度
に何をするべきかを洗い出して、どのくらいの費用がかかるのかを想定することが、限られたお金を上手に使う方法です。予算上の収入・支出と決算の収入・支出を比較することで、予定どおりにお金が使われたのか、予定外の支出があったのか、予算で考えていたよりも少なく済ませられたのか、それとも多くかかったのかなどが明らかになります。予算でお金を管理するという考え方を「予算準拠主義」といいますが、この考え方は管理組合の会計ではとても重要です。「収支予算」とは、ある1年間の会計年度の事業計画を具体的に収入及び支出として金額に表し、お金の裏付けを明らかにしたものです。予算を作成することで、管理組合が実施する事業及びその規模が資金の収支として明確化されます。これにより、会計年度中における事業計画の進捗状況を把握することが可能となります。マンションの維持管理を適時・適切に行うには、長期修繕計画に基づき、1年間の事業計画を作成する必要があります。また、これまでの事業計画に取りこぼしがないか、不必要・不急な業務が含まれていないかを検討します。事業計画と収支予算は、組合員全員で検討し、総会で承認を得ることが大事です。予算が承認されていると、予算に盛り込まれた項目であれば、必要な支払いなのかを、その都度、理事会に諮らず支出できます。管理組合では、必ず「収支予算」を作成する必要があります。どのくらいの支出で事業ができるかを想定し、収支予算を作成します。定められた予算の範囲内で、いかに効率よく事業計画を達成するかを追求することが管理組合会計には求められます。予算は決算と対比することにより、予算どおりにお金を使うことができたのか、予算どおりにお金を使わなかった場合、理事会がどのような判断をしたのかなどを調べることもできます。管理組合の事業計画は、船の羅針盤ともいえます。航海には、しっかりとした予算と収支のバランスが必要です。収支決算は結果であり、収支予算はこれからの活動を見据えたものです。予算は、お金の管理だけでなく、事業計画を達成するための裏付けですので、予算編成に重点を置いた議論をすべきです。
公会計の予算原則を学ぶ?
 マンション管理組合の主な収入は、区分所有者が納めた管理費、修繕積立金で成り立っており、これらは税金に準じて納入されいるため、民主的かつ適正に使われなければなりません。マンション管理組合の予算は、管理規約や会計細則によっていくつかのルールを定められている事例もありますが、圧倒的に少なく、予算本来の目的である説明責任や情報開示が強く求められている国や地方公共団体の公会計の予算制度に学ぶべき点があります。管理組合の予算制度が国や地方公共団体の公会計が持つ予算原則が、そのまま当てはまるわけではありませんが、きわめに見習うべきことが多々あるため公会計の予算原則を解説します。
(1)会計年度独立の原則
 各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつて、これに充てなければならない。会計年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間とするというのが国や地方公共団体の公会計です。会計年度独立の原則は、各年度の歳出は、当該年度の歳入を充てるということを意味しています。その年に集めたお金は、その年に納めた住民のために使われるべきという考えに基づいているのです。また、毎会計年度の歳出予算の経費の金額は、翌年度において使用することが出来ないということも法令に明記されています。この原則の例外としは、継続費(※1)や繰越明許費(※2)などがあります。
(※1)継続費の豆知識
 継続費とは、工事、製造その他の事業で、その完成に数年度を要するものについて特に必要がある場合においては、経費の総額及び年割額を定め、予め議会の議決を経て、その議決するところに従い数年度にわたつて支出することができるという制度です。経費の内容や使用の方法が極めて複雑多岐にわたるため、すべての場合に会計年度独立の原則を適用すると、不経済、非効率となって実情に沿わないことになるためです。「会計年度独立の原則」の例外規定のひとつで、大規模な建設事業などで、あらかじめ事業の実施が2会計年度(2ヵ年)以上に渡ることが確実な場合に、全体の事業費と、各年度ごとの事業費をあらかじめ予算で定めておくことができるものをいいます。
(※2)繰越明許費の豆知識

 繰越明許費は、何らかの事情でその年度内に支出を終了することができない経費について、特別に、翌年度1年間に限り繰越して使用することができるものをいいます。これは、あらかじめ予算でその上限額を定めておかなければなりません。例えば、道路などの用地買収交渉が難航した場合に、年度内に買収契約が成立せず翌年度に渡ってしまう場合、その経費をあらかじめ確保しておいて翌年度に契約成立後に支出するなど、A年度の経費をA+1年度に支出したい場合の予算をいいます。さきにご説明した「会計年度独立の原則」の例外規定のひとつです。
なお、平成22(2010)年3月「繰越しガイドブック」を新たに作成し、財務省HPで公表するなど全面的に簡素化措置を講じるなどの改善を進め、「繰越しガイドブック」改訂版において係る記述等を追加しています。詳細については、「繰越しガイドブック」をご覧ください。
※出典/転載/引用:
繰越しガイドブック : 財務省 (mof.go.jp)
(2)単一予算主義の原則

 予算の形式についての原則で、全ての収入と支出は一つの予算に計上しなければならないというものです。予算がいくつも存在していると、財政状況など全体を把握することが難しくなり、住民にとっても理解しにくいものになってしまいます。しかし、現在の地方公共団体の事務事業は複雑で多岐にわたるため、複数の会計に区分した方が分かりやすいなど、例外も多く、複数の特別会計が存在しています。特別会計の他に、暫定予算(※3)や債務負担行為(※4)は例外です。これらは別個の予算として調製されます。
(※3)暫定予算の豆知識
 暫定予算とは、収支予算が成立するまでの間、必要な支出ができるように設けられる制度です。収支予算が承認されると暫定予算は収支予算に吸収されて失効し、暫定予算に基づく支出は収支予算に基づいて行ったものとみなされます。こうしたことから、暫定予算においては、管理組合運営上必要最小限の経費の計上にとどめるべきであり、収支予算において本来議論すべき重要な経費の計上を避けることが適当と考えられています。しかし、管理組合の場合は「予算の空白」が生じることは、現行の予算制度上確定しているものであり、 予算の空白期間中は、根拠となる収支予算が存在しない以上、いかなる支出行為も許されないのです。これでは、管理組合の円滑な運営に支障を生ずることことから、財政民主主義との関係で問題も指摘されますが、予算の空白が区分所有者をはじめ居住者の生活や経済に与える影響を回避しつつ、財政民主主義の原則を貫くためには、暫定予算制度の創設が不可欠です。しかも暫定予算期間は、収支予算が成立していれば執行可能であった標準規約第28条の修繕積立金を充当する特別な管理に要する経費の支出を可能とするなど、暫定予算が収支予算と同様の機能を持つ措置であることに留意する必要があります。
標準規約第58条第3項で,管理組合の運営上の制約から収支予算がないまま例外的な取扱いとして理事会の承認を得て経常的な経費の支出ができることとしていますが、収支予算が編成されないまま支出を可能とするという取扱いは予算制度の矮小化です。もともと、標準規約第58条は、収支予算の作成及び変更を主として規定した条文であり、収支予算に基づかずに経費の支出の可能とする規定は、則を超えています。
(※4)債務負担行為の豆知識
 債務負担行為とは、通常の歳出予算、継続費、繰越明許費などの他に、将来、地方公共団体が経費を負担すべきものについて、あらかじめその内容を定めておくものです。「会計年度独立の原則」によって2年以上にわたる契約はできませんので、例えば、大規模な工事の契約でも分割して契約を行わなければならないことになり不合理です。この債務負担行為の手続きにより、来年度以降の支払分を含めた1つの契約を締結することができます。
(3)総計予算主義の原則
 一会計年度における一切の収入及び支出は、すべてこれを歳入歳出予算に編入しなければならない。これは予算の内容についての原則で、一切の収入と支出は、歳入歳出予算にすべて計上しなければならないというものです。私生活の家計簿でいういわゆるヘソクリや帳簿外のお金は、認められません。この原則の例外としては、一時借入金(いちじかりいれきん)(※5)などがあります。
(※5)一時借入金の豆知識
 一時借入金とは、当該年度の歳出予算内の支出をするために、金融機関から借り入れる借入金ことで、 一借(いちかり)と略されいます。一時借入金の最高額は、予算でこれを定めることとされ、ある時点における一時借入金の現在高の最高額をいい、何回借りても最高額を超えない限り、予算の変更は必要ありません。また、その会計年度の歳入を以て償還しなければなりませんが、出納閉鎖期間内の歳入を以て充ててもよく、また利子については翌年度から支払っても良いこととされています。具体的には金融機関との間で当座貸越契約を結び、その範囲内で借り入れる場合と、個別に期間と金額及び利率とを定めて借り入れる場合とがあります。
(4)予算事前議決の原則
 普通地方公共団体の長は、毎会計年度予算を調製し、年度開始前に、議会の議決を経なければならない。予算の準備についての原則で、次の会計年度が始まる前に議会の議決を経なければならないというものです。予算は公開され、住民にとって安心・安全に暮らせるまちづくりにお金が使われているか、公表された資料をもとに知ることができます。住民にとって予算は行政に対する統制手段でもあるため、事後承認は望ましくないのです。例外として、首長による専決処分、原案執行権がありますが、いずれも緊急措置であり自治体運営に支障をきたすことのないよう定められています。会計年度開始前の議会による承認が困難な場合は暫定予算の措置が取られます。これが本来的な予算制度です。
(5)予算統一の原則
 歳入歳出予算は、歳入を、その性質に従つて款に大別し、かつ、各款中はこれを項に区分し、歳出を、その目的に従つてこれを款項に区分しなければなりません。これは予算の形式についての原則で、収入と支出の分類、それぞれの内容が分かりやすく、理解できるものにしなければならないというものです。予算の形式は法令で定める様式を基準に系統的に作成されることによって、統一され、自治体予算の全体像を把握することができ、過去の予算との多寡の比較や他の自治体との比較をすることができます。
(6)予算公開の原則
 普通地方公共団体の長は、予算の送付を受けた場合において、再議その他の措置を講ずる必要がないと認めるときは、直ちに、その要領を住民に公表しなければなりません。条例の定めるところにより、毎年二回以上歳入歳出予算の執行状況並びに財産、地方債及び一時借入金の現在高その他財政に関する事項を住民に公表しなければならないのです。予算は広く一般に公表・公開されなければならないというものです。予算の過程や財政状況を公表することで、自治体の予算を行政が作ってくれるものだと他人事にすることなく、住民自身が我が事として捉えるきっかけとなります。予算公開の原則に基づいて広報活動を積極的に行うことは、管理組合の予算制度を考えると大切のことです。こうして作成された予算について、外部環境の変化により当初予定していなかった支出が発生したなど不測の事態が生じた場合の措置の一つが「流用」です。歳出予算の経費の金額は、各款の間又は各項の間において相互にこれを流用することができません。ただし、歳出予算の各項の経費の金額は、予算の執行上必要がある場合に限り、予算の定めるところにより、これを流用することができます。予算は、予算統一の原則などによって、款>項>目>節の順で詳細になるよう分類されています。歳出においては、款・項・目は目的別(総務費・民生費など)に分類され、節は性質別(委託料・扶助費など)に区分されています。歳出予算の区分のうち議決科目である「款」と「項」はお互いに流用することができません。議会で決まったことを勝手に変更することはできないためです。ただし、予算の執行上必要な場合に限って、予算で定める事項については、同一の款内の各項の間であれば流用することが可能です。つまり、流用とは既定の予算において、ある支出科目からその他の支出科目に予算を充当して使用する予算執行上の処理です。各「目」、「節」間は相互に流用することができ、制限の規定はありません。法律上流用は認められていますが、目的別に計上した経費を予定外の経費として使用する以上、やむを得ないものに限り、必要最小限にとどめて行うべきものと考えられています。このため、地方自治体によっては適正な財政運営のため財務規則等において制限し、財政部署との協議を必須とするところもあります。予算は、予算事前議決の原則により、毎年度、会計年度開始前に議決され成立しますが、補正予算は、既定された予算に追加や変更を加える必要が生じたときに調製します。当初予算の調製後に生じた事由に基づくものでなければならないなど、法令て制限されています。変化する行政需要に的確かつ迅速に対応すべく、年度途中での補正予算を実施する自治体も多く見受けられ、昨今の新型コロナウイルス感染症の対策として、各自治体がさまざまな補正予算を組んだことも記憶に新しいところです。予算の原則については基本的な知識を整理し、予算は、単にお金を使う予定表ではなく、お金がどこから入ってくるのか、そのお金で何をするのかが示されていなければなりません。自治体の財源は地域住民等から各種法律による強制力に基づいて徴収している税金であるということを忘れずに、正しく予算執行していくことが重要です。緊急的措置の一つとして流用を解説しましたが、あくまでもイレギュラーな対応であるということを念頭に置く必要があります。ここまで述べてきたような予算の性質を理解し、正しく予算を見積もることが、適正な財政運営につながります。また基本的知識だけではなく、財務に関する幅広い知識を身に付けるとは、「予算」を正しく理解することにつながります。
企業会計原則とは?

 企業会計原則は、昭和24(1949)年に、旧・大蔵省の経済安定本部・企業会計制度対策調査会(現在の金融庁・企業会計審議会)によって公表されました。企業会計原則は、企業会計実務で慣習として発達した中から、一般に公正妥当と認められる基準を要約したものとされています。決算書(財務諸表)作成においてに守るべき原理原則という位置づけですが、法令ではないため、法的な強い拘束力はありません。しかし、法令でなくても、大企業、中小企業問わず、会計上遵守するべき原則として、今日まで伝わってきました。会計監査においても従うべき原則とされています。公表当初は重要な位置づけにありましたが、2001年以降は、企業会計基準委員会によるさまざまな会計基準が重視されるようになりました。さらに、2008年にアメリカのワシントンで開催されたG20のサミット以降、金融や会計の分野では、会計基準を国際財務報告基準(IFRS)に合わせて改定し、共通化すること(コンバージェンス)が図られるようになったことにより、以前ほど企業会計原則が重視されることはなくなっています。しかし、企業会計における原則的なもので、企業会計のベースとして知っておきたい知識です。企業会計は「一般原則」、「損益計算書原則」、「貸借対照表原則」及び重要性の原則などで構成されています。決算書のうち、キャッシュ・フロー計算書に関する原則ついては企業会計原則の中にはありません。一般原則は、損益計算書、貸借対照表のいずれにも共通するもので、企業会計原則の最高規範とされています。企業会計原則の中でも重要な原則であり、覚えておきたい内容です。一般原則は、以下に示すように、7つの原則で構成されいます。ここでは、企業会計原則のうち、重要度の高い一般原則を解説します。
1 真実性の原則 
 企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。一般原則の一にあたる「真実性の原則」は、企業会計原則の中でも頂点にくる原則で、不正や不当な利益操作などのない、真実な決算書(財務諸表)の作成を要請しています。この、真実性の原則において「真実」とされるのは相対的真実です。企業会計では、会計処理について複数の方法が認められているケースがありますが、時代の流れによって会計の目的などは変化していく可能性があります。そのため、真実性の原則では、絶対的な1つの真実は追求されていません。1つの真実ではなく、企業会計基準に合った適切な真実、つまり相対的真実が求められています。相対的な真実の例としてあげられるのが、固定資産の減価償却法の選択(定額法や定率法など)、固定資産の耐用期間の見積もりなどです。固定資産の例で見るように、企業は状況に合わせて減価償却方法などの選択、資産の状況にあった減価償却ができます。たとえ、同じ固定資産において、企業ごとに違う減価償却が行われていたとしても、真実性の原則における適切な真実を満たしているのであれば、その会計処理は認められることになります。
2 正規の簿記の原則
 企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。一般原則の「正規の簿記の原則」が要請するのは、正確な会計処理による、正確な会計帳簿の作成です。これを、一部ではなくすべての取引に要請しています。ここでの正確な会計帳簿とは、網羅性、検証可能性、秩序性を備えた会計帳簿のことです。具体的には、すべての取引を網羅して記録すること、検証可能な客観的な証拠により記録すること、秩序をもってすべての取引を記録するこです。複式簿記(※1)による記録とは明記されてはいませんがが、正規の簿記の原則を実現する記録は、実務上は複式簿記が該当します。
単式簿記と複式簿記とは?
 簿記とは、「特定の経済主体の活動を、貨幣単位といった一定のルールに従って帳簿に記録する手続き」であり、報告書(決算書等)を作成するための技術です。記帳方式により、「単式簿記」と「複式簿記」に区別されます。単式簿記は、経済取引の記帳を現金の収入・支出として一面的に行う簿記の手法(官庁会計)であり、複式簿記は、経済取引の記帳を借方と貸方に分けて二面的に行う簿記の手法(企業会計)で、複式簿記ではストック情報(資産・負債)の総体の一覧的把握が可能となります。また、複式簿記では、経済取引の記帳と同時に、固定資産台帳への記録も行います。各地方公共団体では、従前から公有財産台帳等によって公有財産を現物管理してきました。しかし、固定資産台帳では金額情報も併せて記録することとなります。金額情報を記録し、会計年度末に資産と負債を一覧表に集約する貸借対照表を作成すると、対象項目の貸借対照表の残高と固定資産台帳の残高が一致することになります。それぞれを照合することで、いずれかの間違いを探すことができる検証機能の効果も持ちます。したがって、複式簿記は「ストック情報の把握」、「検証機能」の意義を持っています。単式簿記・現金主義と複式簿記・発生主義の違いは、例えば、自動車を100万円で購入するケースを考えてみると、家計簿では、単に「100万円の支出」とだけ書くことになります。家計簿(官庁会計)は現金の増減だけを記録するものであるためです。「現金の増減」についてだけ着目するということから「単式簿記」、「現金主義」といわれます。企業会計では、「自動車という資産」の増加と「現金という負債」の減少の「両方」を記録します。これを複式簿記といい、また、「現金」ではなく「債権・債務」に着目して、費用や収益を計上することを発生主義といいます。
3 資本取引・損益取引区分の原則
 資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。一般原則の「資本取引・損益取引区分の原則」では、資本取引と損益取引の区分、資本剰余金と利益剰余金の区分を要請しています。資本取引とは、株式発行などによる増資や剰余金の配当など、資本を直接増減させる取引のことです。損益取引とは、商品売買など収益や費用の生じる取引のことをいいます。資本取引と損益取引を明確に区分するように一般原則で要請しているのは、投下資本と成果としての利益を分けるためです。また、資本取引・損益取引区分の原則では、資本剰余金と利益剰余金を混同することのないように要請しています。資本剰余金は、資本金に組み込まれなかった株主など出資者からの払い込み分(払込資本)です。利益剰余金は、営業活動などで獲得した資本増加分(留保利益)に該当します。同じ資本であっても、資本剰余金は維持拘束しなければならないもの、利益剰余金は分配可能なものであって、利益の特質が異なることから明確に区別することが要請されています。決算書において、資本にあたる部分に、資本金、資本剰余金、利益剰余金の区分があるのはこのためです。維持しなければならない資本が取り崩されないように、また、利害関係者や投資家に適切な情報を与えられるように、原則として定められています。
4 明瞭性の原則
 企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。一般原則の「明瞭性の原則」は、理解しやすい明瞭な表示、貸借対照表や損益計算書だけではわからない情報を注記することによる適正な開示を要請しています。明瞭性の原則があるのは、企業の状況について詳細に知り得ることのできない企業外部の利害関係者が、決算書の情報から判断を誤らないようにするためです。明瞭性の原則は、例えば以下のような例として適用されます。
・重要な会計方針の開示
 有価証券の評価方法や評価基準、固定資産の減価償却方法など、重要な会計方針の注記を要請している。
・重要な後発事象の開示
 火災などによる重大な損害の発生、企業の合併や重大な営業の譲渡など、貸借対照表日後発生の事象で、次期以後に重大な影響のある事象の注意を要請している。
 このほか、明瞭性の原則に基づいているのが、損益計算書の営業損益区分などの区分表示、1年基準を適用した貸借対照表の科目の分類、決算書の総額表示といったものです。
5 継続性の原則
 企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。一般原則の「継続性の原則」は、一度採用した会計方針について、原則、毎期継続して適用することを要請しています。継続性の原則が適用されるのは、2つ以上の会計処理を選択できる場合です。代表的な選択適用の例としては、固定資産の減価償却方法の選択(定額法や定率法など)があげられます。会計処理の継続適用が原則として定められているのは、やはり、企業外部の利害関係者に判断を誤らせないようにするためです。例えば、選択適用が可能な会計処理について、毎期変更して適用すると、経営者側による利益操作が可能になります。固定資産の減価償却費の例でいうと、利益を抑えたいときに取得したばかりの固定資産の減価償却費を定率法に変えて費用を多く計上するといったことです。継続性の原則では、このような経営者側の恣意的な利益操作は認めていません。さらに、会計処理の継続性がないと、その都度、会計処理が変わる可能性があり、企業の決算書を期間比較することも難しくなります。継続性の原則があるのは、利益操作を排除し、決算書を適切に比較できるようにするためです。しかし、会計処理については、どうしても変更が必要な場合も存在します。変更が必要な場合については、正当な理由があれば変更しても良いとされています。継続性の原則は、毎期の継続適用を求めるものですが、選択適用できる会計処理の変更を際限なく制限するものではありません。
6 保守主義の原則
 企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。一般原則の「保守主義の原則」では、適当に健全な会計処理=保守主義による会計処理を、一定の条件の下、要請しています。保守主義による会計処理とは、収益は遅く少なめに、費用は早く多めに見積もる会計処理のことです。例えば、検収基準を採用して収益を遅めに認識する、固定資産の減価償却費を定率法にして費用を大きく上げる、貸倒引当金を多めに計上して負債額を大きくする、といったことが保守主義に該当します。注意したいのは、いつでも保守主義の原則が認められるわけではないことです。利益操作につながり、一般原則の頂点にある真実性の原則をゆがめることにもつながりかねないので、企業財政に不利な影響があると認められる場合に限られます。また、例えば会計上、保守主義の原則を適用して貸倒引当金を多めに計上したとしても、引当金の繰入額について税務上の損金として認められないケースもあるので、過度な保守主義には注意が必要です。
7 単一性の原則
 株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない。一般原則の「単一性の原則」は、さまざまな目的で作成される決算書の形式が異なる場合であっても、元になるのは1つの会計帳簿であって、事実を変えてはならないという原則です。なお、形式は異なっていても、もととなる事実は同じであるということを、実質一元・形式多元とも表現しますが、いわゆる二重帳簿の存在を禁止している原則です。単一性の原則で示されている「異なる形式の財務諸表」とは、企業外部に報告するための財務諸表、金融機関に提出するための財務諸表、法人税などを申告するための財務諸表などです。外部報告や金融機関向けの財務諸表は利益を大きく、反対に税金対策としては法人税申告のための財務諸表は利益を小さく見せたいところですが、このような都合の良い財務諸表の作成は認められていないのです。形式は目的に応じて変えられるものの、会計記録の内容まで変えてはいけないと明示した原則です。
現金主義と発生主義とは?
 会計とは、「経済主体が行う取引を認識(いつ記録するか)・測定(いくらで記録するか)した上で、帳簿に記録し、報告書を作成する一連の手続き」を指しますが、取引の認識基準の考え方には「現金主義会計」と「発生主義会計」があります。現金主義会計は、現金の収支に着目した会計処理原則(官庁会計)、現金の収支という客観的な情報に基づくため、公金の適正な出納管理に資することができます。しかし、現金支出を伴わないコスト(減価償却費、退職手当引当金等)が把握できません。発生主義会計は、経済事象の発生に着目した会計処理原則(企業会計)、現金支出を伴わないコスト(減価償却費、退職手当引当金等)が把握できます。投資損失引当金といった主観的な見積りによる会計処理も含まます。
区   分 収入の計上 支出の計上
現金主義 現金の収入 現金の支出
発生主義 収入の発生事実 支出の発生事実
 現金主義は、収支の計算が現金の入出金という解り易い計上基準に基づいて行われるため、計算の簡便性・確実性・安全性等では優れていますが、収支が正しい期間に計上されないという問題点があります。例えば、『前期に仕入れた商品を当期に現金で販売した」場合を考えてみると、現金主義では。販売による収入は当期に計上され、仕入のための支出は前期に計上され、収支対応の原則に反する結果となります。発生主義は、現金の入出金に代えて、収入や支出を発生事実で認識するため、商品の販売収入と仕入費用も共に当期に計上します。しかし、発生事実の認識と収支の測定に主観的な判断の余地があり、恣意的な見積による未実現の収入が計上されてしまう欠陥があります。そこで、収入の計上基準としては、発生主義を修正して『実現主義の原則』が適用されます。
取 引 区 分 実現主義の考え方
管理費等の収入計上  管理費等は、マンション管理に要する費用を組合員全員で負担するため、管理組合に納めるものである。組合員一人ひとりが管理組合に納めた管理費等に応じたサービスの提供を受けていなくとも組合員であれば納める義務が生ずる。このため、管理組合の収入として計上すべき期間の到来とともに収入として計上する。
委託業務費等の支出計上  委託業務費等は、発生主義の原則に基づき、対価の支払いの有無によらずサービスの提供を受けた(要支払額)を支出に計上する。
 発生主義は利点がありますが、現金主義のように現金で入金した管理費収入が不明なので、発生主義に基づく収支計算書等に加えて、キャッシュフロー計算書という当期の現金による入金額と現金による支出額を表す会計報告書が作成されれば、会計情報としては、充実したものになります。管理組合にキャッシュ(現金など)が入ってくることを「キャッシュ・イン」、キャッシュが出ていくことを「キャッシュ・アウト」といいます。「キャッシュフロー」とは、キャッシュ・インからキャッシュ・アウトを差し引いた収支のことをいいます。1年間の管理組合のお金の流れ、どのような理由でお金が入ってきて、どのような理由でお金が出ていったのかをあらわした表です。貸借対照表でも前期と比較してどのくらい現金が増えたのかは分かります。しかし、より詳しく具体的に現金の増減を判別するためには、キャッシュフロー計算書を見なければなならないのです。 
企業会計原則を守らないとどうなる? 
 企業会計原則は、法令ではなく、あくまでも、企業が守るべき企業会計の原則という位置づけです。企業会計原則だけでは法的な縛りがないため、企業会計原則の違反が、直接的に罰則に値するわけではありません。しかし、注意したいのは、企業会計原則をはじめとした会計基準は、会社法や金融商品取引法、税法など、さまざまな法律と関係していることです。例えば、上場企業などが対象となる金融商品取引法では、内閣総理大臣が認める一般に公正妥当な企業会計基準に従うこととされており、中小企業も対象の会社法も同様です。株式会社は一般に、公正妥当な企業会計の慣行に従うこと、解釈や規定の適用は一般に公正妥当な会計基準や慣行に配慮し適当に処理することが定められています。つまり、企業会計原則を守らなかった場合、意図しなくても会社法など関連する法令を破る可能性があるということです。法令に違反した場合、状況によっては刑事罰や行政処分が下ることも考えられます。
マンション会計特有の原則とは?
 マンション管理組合の主たる収入は、国土交通省のマンション標準管理管理規約(単棟型)(以下「標準規約」という。)第25条第1項で規定するとおり区分所有者から徴収する管理費と修繕積立金であり、管理費等の額は、同条第2項で規定で各区分所有者の共有部分の共有部分に応じて算出されています。管理費は、通常の管理に要する経費に充当され、修繕積立金は、特別の管理に要する経費に充当されます。マンション管理組合の会計は、企業の会計とは異なり、管理組合の存在意義や会計の特性から通常の一般原則のほかに、以下の二つのマンション管理組合の会計お特有の原則が考えられます。
1 区分経理の原則
 管理組合がその機能を発揮するためには、その経済的基盤が確立されていることが必要です、このため。管理費及び修繕積立金について必要な費用を徴収するとともに、管理規約に基づいて、これらの費目を帳簿上も明確に区分して経理を行い、適正に管理する必要があります。標準規約第28条第5項では、「修繕積立金については、管理費とは区分して経理しなければならない。」と規定しており、区分経理することが原則です。管理組合の会計・簿記業務は、目的別に区分して経理することが大切です。収入と支出を目的別に対応させ、管理費会計は、日常的な維持管理、経常的な補修の関する会計、修繕積立金会計は、大規模修繕工事をはじめ建物の特別な修繕に関する会計に区分して経理する必要があります。会計帳簿を区分経理し、全ての決算書類を別々に作成するだけでなく、預金口座まで区分する必要があります。しかし、管理費と修繕積立金の預入口座の区分についてまで規定しておらず、管理費と修繕積立金を同一口座で収納・保管していたとしても、規約上誤りではないのですが、マンション会計(入門前編)の収納口座・保管口座の豆知識で解説したとおり管理費と修繕積立金を各々専用の口座の保管するこは、予算管理の間違いを防止でることや不祥事の防止から必要です。筆者が会計担当理事のとき、修繕積立金専用の保管口座が無いために、管理費と同一の収納・保管口座であった管理費会計の予算管理が困難なことから管理会社に改善を要請し、修繕積立金の保管口座を新設したことがあります。なお、機械式駐車場を有する場合は、管理費会計、修繕積立金会計とは区分して、別途駐車場会計を設定することが望まれます。区分経理の原則は、会計の本来の目的が説明責任(アカンタビリティ)と情報開示(ディスクロージャー)であるための原則です。
2 予算準拠の原則
 マンション管理組合の収入及び支出は、総会で決定した予算に基づいて行う必要があるされる原則です。管理組合は、無駄な支出を避け、限られた収入を効率的に使用することが求められるため、予算が重要な役割を果たします。予算と実績に差異が生じた場合は、その理由を分析し、次年度の予算編成の参考とすることで、より合理的で効率的な管理を行うことが可能となります。合理的で効率的かつ公平な管理を行うため。予算は、特定の組合員の恣意によらず、組合員全員の意思を問う総会の決議を経る必要があります。恣意性を排除した予算に基づいて、実際の支出が行われることが重要です。
予算超過支出の取扱いは?
 予算編成は、編成時点の情報に基づいて予算案を作成するため、自然災害や急激な経済変動など突発的な支出の発生・増加まで正確に予想することはできません。このような突発な支出の発生・増加に対応するため「予備費」という科目で一定額の予算を計上しておき、支出実績は該当科目に計上し、予算を超過を超過した金額は、予備費として計上した予算から振り替えて、予算超過を防ぐ方法が考えられます。地方公会計のように、予備費以外に予算超過の支出を防ぐ方法に『予算の流用』が考えられる。予算の流用とは、既定の予算の金額を相互に融通して使用することで、歳出予算についてのみ生じる予算執行の手段である。予算の流用は、予算の不足を補う例外的な手段であり、無制限に認められるものではなく、必要不可欠な最小限度にとどめ、支出に先だって処理すべきものである。いずれにしても「予備費」や「予算の流用」については、管理規約若しくは会計細則で明確に規定すべきです。マンション管理組合の管理費等の収納、保管、運用、支出等の会計業務は、標準規約第40条第3項が規定するとおり、「会計担当理事」が行うことされています。しかし、このマンション管理組合の会計業務は、マンション管理業者に業務委託している管理組合が大半であり、いわゆる「まる投げ」により様々な問題を発生させる原因となり、管理組合の自主性、自立性、主体性が欠如する管理組合すら生じていると言われています。平成13(2001)年8月1日に施行されたマンションの管理の適正化の推進に関する法律(平成12年法律第149号)により、マンション管理業者の登録制度の創設等、マンションの管理の適正化を推進する措置が講じられたところですが、管理業者が管理組合から委託を受けて行う出納業務において、一部の管理業者の横領事件等により管理組合の財産が損なわれる事態が発生しているのです。これを受けて、マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則(平成13年国土交通省令第110号)に定める分別管理の手法等について、所要の改正を行ったところです。その後
「マンション標準管理委託契約書」及び「マンション標準管理委託契約書コメント」が、マンションの管理をマンション管理業者に委託する際に、管理組合とマンション管理業者との間で協議がととのった事項を記載した管理委託契約書を、マンションの管理の適正化に関する法律(平成12年法律第149号)第73条に規定する「契約成立時の書面」として交付する場合の指針として作成したものであり、平成15(2003)年4月に改訂された。さらに平成21(2009)年5月1日、管理組合財産の分別管理の方法を改正することを主な内容とする「マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則の一部を改正する省令」(平成21年国土交通省令第35号。以下「一部改正省令」という。)が公布されましたが、本省令改正と整合を図る必要があること、及び管理委託契約に関するトラブルの実態等を踏まえ、前回改訂時以降の全体的な見直しを行ったところです。なお、管理会社との委託契約については、国土交通省が標準委託契約書を公表しているので参考とされたい。
※出典/転載/引用: 建設産業・不動産業:「マンション標準管理委託契約書」及び「マンション標準管理委託契約書コメント」の改訂 - 国土交通省 (mlit.go.jp)

ゼロから学ぶマンション会計 マンションの会計業務とは?



ゼロから学ぶ
ンション会計
マンションの会計業務とは?
はじめに
 これまで、複式簿記と管理組合の基礎的知識を学んできました。しかし、
マンション管理組合の会計業務ってどんなことをするのか疑問に思っている方は、意外に多いのではないでしょうか。もともと、マンションに住むことがなければ『管理組合』という言葉すら聞くことはなく、その管理組合の会計とは何と問われてもよく分からないのは当然です。実は、筆者も会計担当理事を経験するまではそうでした。このホームページは未経験からマンション管理組合の会計を学ぶ方へ向けた講座です。これを読んで、何かの役に立てていただければ嬉しい次第です。マンションの管理組合の運営の中で、『会計業務』が極めて重要な役割を果たしていることは。今さら言うまでもありません。日々の会計事務の積み重ねが、月次の会計報告や年度の決算書類としてとりまとめられます。年度の決算は翌年度の予算案や事業計画案を作成するための基礎データを提供し、毎年度の決算、予算、事業計画は、通常総会に理事長が提出して、総会の議決を経て決定しますが。日々の会計業務が適切に行われていることが、毎年度の貸借対照表や損益計算書など会計書類等の適正性を左右し、管理組合が抱える財政面での課題を正しく明らかにすることができると言っても過言ではありません。また、会計業務の適正性を保つためには、会計業務を委託した管理組合と受託した管理業者や実務現場での担当者と監督者との相互のチェックアンドバランスが有効に機能することが大事です。管理業者に所謂『まる投げ』では、様々な不祥事を発生させる原因となります。管理組合、管理業者は共にマンション管理組合の会計業務の見識を高めるよう組合員や従業員を研修する必要がある。
会計業務の重要性
 管理組合は、国土交通省の定めるマンション標準管理規約(単棟型)(以下「標準規約」という。)第1条及び第6条の規定によれば「区分所有者の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保すること」を目的にしています。区分所有者は、この目的に従い、マンションの適正な管理を行う債務(標準規約第20条)があり、敷地及び共用部分等の管理に要する費用に充当するため、管理費及び修繕積立金を納入しなければならない(標準規約第25条)とされています。
 管理組合は、企業と同様に、年1回、1年間の収入や支出がどれだけあったのか、決められた予算に対して、その範囲内でお金を使ったのか、それともオーバーしてしまったのかを組合員に報告しなければなりません。また、管理組合が様々な活動を行った結果、管理組合の財産は全体でいくらあって、金融機関に預けた預金や住宅金融支援機構の「すまい・る債」などがどれだけ残っているのか、またこれから払わなくてはいけない未払金や借入金などのお金がいくらあるのかについて報告する必要があります。これらの管理組合の会計に関する情報を貸借対照表、収支報告書(=損益計算書)その他の書類からなる会計報告書を作成し、監事の監査を受けた上で組合員に報告することが求めらます。
 決算報告には、組合員にとって有意義な情報が含まれています。管理組合に納めた管理費や修繕積立金等が目的どおりに使われたか、1年間に必要だった支出に対して足りていたのか、不足していたのか、現在管理組合の財産がどれだけあるのか。修繕積立金は予定どおり積み立てられているのか、また、管理費や修繕積立金が払われているのかなどを知る唯一の機会だからです。決算報告が行われないと、毎月管理費・修繕積立金等を支払っていても、目的どおりにに正しく使われたのか、その結果を知ることができません。また、マンションを快適に居住できるよう様々な管理業務経費の支払いを賄うだけの収入があるのか。これから必要になる工事に備えて、その工事代金を支払うだけの蓄えとなる預金がどのくらいあるのかなど、現状を把握できないため、管理費・修繕積立金等の金額が適正であるかを判断することすらできません。
会計業務のフロー
 いつからいつまでの1年間であるか、各々管理組合で決めておく必要がある。国土交通省の標準規約の第7章会計の第56条で管理組合の会計年度は、毎年〇月〇日から翌年〇月〇日までとすると規定しており、各管理組合が任意に決められるようになっています。毎年4月1日から翌年3月31日までが一般的ですが、収益事業(※1)行っている管理組合では、税務申告との関連で、毎年1月1日から12月31日までの暦年制をを採用している例も少なくありません。1年間の会計・簿記業務の大まかなフローは、次のとおりである。
決算業務
区 分 決算業務
会計期間開始日(期首) ・会計帳簿の作成と収支状況を月1回報告
・管理費等の徴収等の徴収と各種支払の実行
・資金管理と債権債務の管理
(以上は通年業務)
会計期間期末日(期末) ・現金等の実査
・残高証明書の入手
・証憑書類の整理
・帳簿の閉鎖(締切)
・勘定科目の内容検討
・決算書類の作成
・理事会で収支決算案を作成
・監事監査を実施
総会日2週間前までに ・総会開催案内に収支決算案を添付
総会日 ・総会で収支予算案を承認
予算編成
区 分 予算編成
会計期間開始日(期首)
・当期実績及び次期修繕計画等に基づき、次期収支予算案を作成
・理事会で収支予算案を作成          
会計期間期末日(期末)
総会日2週間前までに ・総会開催案内に収支予算案を添付
総会日 ・総会で収支予算案を承認       
事業計画
区 分 事業計画
会計期間開始日(期首) ・事業計画と当期の修繕箇所や実施時期を再確認
会計期間期末日(期末) ・修繕実績を確認し。長期修繕計画の修正が必要かどうかを検討する
・事業の実施状況をみて次期の事業計画案を作成
総会日2週間前までに ・総会開催案内に来期の事業計画案を添付
総会日 ・総会で事業計画案を承認
マンションの会計基準の現状
 マンション管理組合の会計については、理論的に体系付けられ、かつ当事者である管理組合の役員や組合員にとって解り易い会計基準や会計細則などがないため、管理組合に主体性が欠如し、事実上管理業者に所謂「まる投げ」の管理組合が多いのではないか思われます。筆者も会計担当理事を担当したときは、参考図書もなく、会計処理が適切であるか判断することは、区分所有法やマンション標準管理規則だけでは判断できず、暗中模索の日々でした。日本では、一般に公正妥当と認められ、かつ、マンション管理組合の会計処理を行うにあたって遵守が求められる統一的な会計基準が確立されていないからです。
 管理組合の会計業務は、自ら行っている管理組合が少数で、殆どは管理業者へ委託されています。会計業務を委託する際に、準拠すべき会計基準が設定されていないため、会計業務を行う管理業者の判断により採用された、それぞれ独自の会計の処理方法により、管理組合の会計報告が行われているのが現状です。
(※1)収益事業の豆知識
 マンションの管理組合が国税庁が定める『収益事業』の範囲に掲げる事業のいずれかに該当する事業を行う場合には、その行う事業が当該管理組合の本来の目的たる事業であるときであっても、当該事業から生ずる所得については法人税が課されることに留意する必要があります。
※出典/転載/引用:第1款 共通事項|国税庁 (nta.go.jp)
※出典/転載/引用:
マンション管理組合が区分所有者以外の者へのマンション駐車場の使用を認めた場合の収益事業の判定について(照会)|国税庁 (nta.go.jp)

(※2)
口座振替の豆知識
  『 口座振替』とは「公共料金やクレジットカードなどのサービスへの支払い代金が、預金口座から自動で引き落とされる仕組みの決済サービス」のことです。例えば、毎月の管理費、修繕積立金、水道料金が自動で口座から引き落とされているような支払い方法のことを「口座振替」といいます。使用するためには、あらかじめ区分所有者に書面やWebなどで申し込みを済ませてもらう必要がある。ちなみに「口座振替」と「振替」では意味が異なるため、こちらも区別して覚えておく必要があります。振替とは「同一銀行同一支店内の本人の口座間で資金を移動させること」をいいます。口座振替のサービスに「振替」という言葉を用いるのは、銀行・金融機関が契約に基づいて、「行内のユーザーの預金口座」から集めたお金を「行内にある各サービスへの送金用口座など」へ資金移動をするためです。主体となるのがユーザーではなく銀行・金融機関であるため、ユーザーからすると第三者宛ての資金移動であっても、銀行・金融機関においては「振替」という言葉を用います。『口座振込』は「自分の口座にある資金を、第三者の口座宛てに払い込むこと」を意味します。なお、自分の口座から他人の口座に振り込むことはもちろん、自分が持つ別の金融機関の口座に資金を移動させるときも口座振込に該当します。マンションの管理組合の口座振替は「金融機関が区分所有者の口座から自動で代金を引き落とし、管理組合に支払うサービスのこと」、口座振込は「区分所有者が管理組合の口座に資金を移動させること」であるといえます。管理組合から見た口座振替のメリットは、以下のとおりです。
・未収金を防げる
・手数料や集金コストや手間が低減される
・利用者を獲得できる
 口座振替を活用すると自動的に代金が引き落とされるため、確実に販売代金や売掛金が回収できるようになります。決められた金額を引き落とすため、過剰入金の払い戻し作業や入金不足に対する連絡業務をなくせます。さらに、銀行振込やクレジットカード決済よりも手数料が安い点もメリットです。集金コストや手間を大幅に低減できるため、費用とマンパワーを抑えつつ効率的な代金の回収ができます。銀行口座を持っていれば使用できる支払い方法であるため、クレジットカードを持っていないユーザーでも活用できる点も大きな特徴です。クレジットカードを持たない高齢者や、事情があってクレジットカードを持てない人でも、口座振替であれば使用しやすい支払方法である。また、自動で支払いが完了するという手軽さは、区分所有者の手間を大きく軽減してくれる。その結果、サービスをリピートすることに対する心理的ハードルが下がり、長期的なサービスの利用が見込める点も管理組合にとってはうれしいポイントです。区分所有者から見た口座振替のメリットは、以下のとおりです。
・支払いに手間や手数料がかからない
・入金漏れを防げる
 口座振替であれば、口座にお金を入れておけば勝手に代金の支払いが完了します。区分所有者にとっては支払いにかかる手間がなくなるため、安心してサービスを利用し続けられるようになります。また、口座振込のように区分所有者側の手数料が不要なため、「余計な手数料を支払う必要がなくて得をした」と思ってもらえます。さらに、区分所有者はわざわざ支払いのために金融機関に行かなくてもいいため、うっかり入金を忘れてしまうことを防げる点も大きな特徴です。口座振替は上述したように多くのメリットがありますが、気を付けるべきデメリットもあります。以下に口座振替のデメリットについて解説します。口座振替を導入するためにはいくつかの手続きを経なければなりません。新規の顧客であれば口座振替依頼書を顧客に郵送して必要事項を記入のうえ捺印してもらって返送してもらわなければなりません。記入事項に漏れや誤りがあったり銀行印を間違えたりしていた場合には再度郵送して記入し直してもらわなければならず、口座振替を開始するまでさらに時間と労力を要します。口座振替依頼書が無事きちんとできたら今度はそれを金融機関に送付して申請手続きをしなければなりません。個人消費者向けの場合ではWebで口座振替申請ができることもありますが、企業間取引では法人名義の口座を使うことから紙による申請が主流となります。また顧客によって口座振替の登録を行う銀行が違えばそれぞれの金融機関に申請しなければならず、登録完了後もそれぞれの金融機関に請求データを送るため運用が煩雑になりがちです。上述した口座振替依頼書を金融機関に直接若しくは決済代行会社を介して提出するいずれの場合でも、提出してから実際に引き落としが開始できるようになるまで最短でも1~2ヶ月かかる。その間は事業者への入金がないため引き落とし開始可能日よりも前に顧客から代金を徴収する必要がある場合は他の決済手段を用意しなければならない。引き落としができるようになっても顧客の口座から口座振替を実施した日から実際に事業者の口座に入金されるまで数日間のタイムラグが発生する。タイムラグの日数は金融機関や決済代行会社によって異なるが10日前後はかかるのが一般的である。商材の仕入れや関係会社への支払いなどの日程を鑑みてキャッシュ・フローの観点で問題がないかどうかを確認する必要がある。口座振替では引き落とし日になれば自動的に代金が引き落とされるため他の決済手段に比べれば回収率は高いと言える。しかしながら回収率は必ずしも100%というわけではなく、顧客が登録した銀行口座に十分な残高がなければ未回収になるリスクもある。先払いで決済するのであればこのようなリスクを低減できるが、商習慣上商材を受け渡してから決済することが標準的であるため未回収リスクは常につきまとうと言える。未回収が起きる他の要因としては振替日がいつであるかということも挙げられる。理想的には顧客の給料日の直後や取引先の締め払い日直後などの金銭的に余裕のあるタイミングがベストである。事業者にとって都合のいい振替日かどうかを前もって金融機関や決済代行会社に確認しておくことが大切である。
※出典/転載/引用:口座振替と口座振込の違いを解説!口座振替を導入する際の注意点も! | 企業のお金とテクノロジーをつなぐメディア「Finance&Robotic」 (robotpayment.co.jp)


マンション管理組合の会計業務を行う実施時期は?

 主要な会計・簿記業務を毎月行う業務、年1回決算時に行う業務に区分して解説する。
毎月行う業務
〇保管口座又は保管・収納口座から費用を支払う場合は、当月支払う請求書をまとめて理事長から承認をもらい、支払の手続を行う。
〇収納口座及び保管口座又は保管・収納口座の通帳や請求書、領収書などから必要な仕訳を起票する。
〇収納口座及び保管口座又は保管・収納口座の通帳を記帳する。
〇口座振替(引き落とし)で支払う公共料金、リース料等の支払いについて、領収書・口座振替通知書などと一致していることを確かめる。
〇収納口座及び保管口座又は保管・収納口座の通帳に記帳された入金について、内容を確認して必要な仕訳を起票する。
〇管理費等の滞納者から入金があった場合には、内容を確認し、組合員別月別の補助簿に必要な事項を記入する。
〇管理費等の滞納者に対して、督促を行う(適宜)。
〇収納口座及び保管口座又は保管・収納口座の通帳の預金残高と帳簿の預金残高が一致していることを確認する。
〇小口現金を利用している場合は、月末の現金と帳簿残高が一致していることを確認する。
〇役員等が立替えた支払があれば、精算し必要な仕訳を起票する。
〇収入・支出項目について、勘定科目の予算額と比較する(決算時にも実施)。
〇収入項目は、組合員別月別の納付状況を補助簿に記入して、納付遅れがないか確認する。
〇請求書、領収書を整理する(決算時にも実施)。
〇前払金、未収入金、未払金、前受金を、請求書等の証憑に基づき計上する(決算時にも実施)。
〇収入項目は、台帳と照合し、漏れなく計上されているか確認する(決算時にも実施)。
年1回決算時に行う業務
〇全ての預金口座について、残高証明者を入手し、帳簿の残高と一致していることを確認する。
〇理事長が交代したら、預金口座の名義人変更の手続を行う(交代時)。
〇小口現金を利用している場合には。決算月末の現金残高を実査し、監事も立ち合いチェックを受ける。
〇仮払金、立替金、仮受金、預り金の残高の内訳を調べて、精算漏れや返金遅れが無いか確認する。
〇支出項目は。定額のものは予算と一致しているか確認する。差異が生じている場合は、発生理由を調べる。
〇次期予算案を作成する。
〇総会開催日、監事監査実施日の日程を調整する。
〇会計報告書案を作成し、内容を確認する(毎月実施)。
〇理事会に報告する(毎月実施)。
〇監事の監査を受ける。
〇通常総会開催資料を発送する。
〇通常総会で報告する。
〇帳簿や会計報告者作成資料等を保管する。
〇次の担当役員へ業務の引継ぎを行う(交代時)。

(※3)収納口座・保管口座の豆知識
 マンション管理業者が管理組合から受領した管理費用等を分別して管理するための口座の種類である。管理の目的に応じて収納口座、保管口座に区分されるが、二つの目的を有する保管・収納口座もある。保管口座は、受領した修繕衝立金及び収納口座から移し換えられた費用を預貯金として管理するための口座で、名義人は管理組合である。マンション管理業者は、保管口座に係る管理組合の印鑑や預貯金の引出用のカードなどを管理してはならないことされている。管理費等保証制度を行っている、一般社団法人マンション管理業協会が管理組合に対して送付した書面が、保管口座・収納口座の取扱いを理解するうえで、参考となるので紹介する。
 『マンションの管理の主体は、マンションの区分所有者等で構成される管理組合にあります。とりわけ、管理組合財産の管理は最も重要であるといえます。ここでは、管理組合が管理会社と管理委託契約を締結している場合でも、管理組合としてご留意いただきたい事項や、管理費等保証制度の免責事項についてお伝えするものです。※以下 「印鑑等」とは、管理組合名義で開設されている口座の印鑑および預貯金引出用のカードその他これらに類するものを指します。
1.保管口座の印鑑等の管理
 保管口座の印鑑等と、同口座に保管されている金銭については、管理組合に管理責任があります。「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」では、保管口座の名義は管理組合名義としなくてはならず、管理会社が保管口座の印鑑等を管理することを禁じています。保管口座の印鑑等と、同口座に保管されている金銭は管理組合の責任において管理して下さい。 当協会は、管理組合が保管口座の印鑑等および同口座に保管されている金銭の管理責任を怠った以下のケースに起因する損害については保証の責任を負いませんので、保管口座の印鑑等および同口座で保管する金銭は管理組合において厳重に管理して下さい。
2.収納口座の印鑑等の管理
 管理委託契約で、管理組合名義の収納口座の印鑑等を管理組合が保管することとなっている場合、同口座の印鑑等と、同口座に収納されている金銭については、管理組合に管理責任があります。管理委託契約において、管理組合名義の収納口座の印鑑等を管理組合で保管することとなっている場合、同口座の印鑑等は管理組合で管理しなくてはなりません。当協会は、管理委託契約に定める印鑑等の管理責任を怠った以下のケースに起因する損害については保証の責任を負いませんので、収納口座の印鑑等および同口座に収納されている金銭は管理組合において厳重に管理して下さい。
保証責任を負わない場合とは?
①管理組合が管理すべき保管口座の印鑑等と、同口座通帳の双方を管理会社に管理させるなど、管理組合の印鑑等の管理責任を怠ったとき。
②管理委託契約の定めに基づき管理組合が管理すべき管理組合名義の収納口座の印鑑等と、同口座通帳の双方を管理会社に管理させるなど、管理組合の印鑑等の管理責任を怠ったとき。
③管理会社に管理委託契約の目的に該当しない金銭の払出しを承認したとき、またはその金銭を引き渡したとき。
④管理会社と共謀して管理費等を費消したとき。
3.管理費等の移し換えの確認について
 管理費等の収納状況および管理組合会計の収支状況を確認すると共に、管理費等の残額、修繕積立金が保管口座へ移し換えられているか確認して下さい。「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」では、管理会社は、管理組合の委託を受けて管理費等を管理会社名義の収納口座または管理会社が通帳および印鑑等の双方を管理する管理組合名義の収納口座で徴収する場合、「その月分として徴収した管理費等のうち、当該月中の管理事務に要した費用を控除した残額、修繕積立金について、翌月末日までに収納口座から保管口座に移し換えること」と規定しています。なお、管理組合名義の収納口座に管理費等が区分所有者等から直接預入され、管理会社もしくは管理会社から委託を受けた集金代行会社が管理費等を徴収せず、管理組合名義の収納口座の印鑑等を管理会社が管理しない場合であって、「その月分として徴収した管理費等のうち、当該月中の管理事務に要した費用を控除した残額、修繕積立金について引続き管理組合名義の収納口座で管理すること」を管理組合が承認している場合には、当該金銭を翌月末日までに収納口座から保管口座に移し換え管理しているものと解して差し支えありません。 また、管理会社は、管理費等の収納状況、管理組合会計の収支状況について、毎月管理組合に報告しなければなりません。管理組合の皆様も、管理費等の収納状況、管理組合会計の収支状況、管理費の残額、修繕積立金の移し換えについて確認するよう心がけて下さい。
4.保証機構へ届出された管理組合について
 保証機構は、保証対象の管理組合に対する保証委託契約受諾証明を協会ホームページ上に掲載いたします。この閲覧に必要な、管理組合ごとの個別のIDとパスワードについては、管理会社を介し、管理組合に通知されます。このIDとパスワードがわからない場合には、管理委託先の管理会社にお尋ね下さい。』

※出典/転載/引用:管理組合の皆様へ|一般社団法人 マンション管理業協会 (kanrikyo.or.jp)

(※4)小口現金の豆知識
 小口現金とは、文房具や交通費など細かい経費の支払いのために管理組合内に置いておく現金のことである。
切手を購入するため、管理員に小口現金から現金を渡して購入してきてもらった。
・管理のためにかかった交通費を管理員に小口現金から払って経費精算をした。
・新聞代の徴収に来た人に、小口現金から支払った。
 このように、管理組合で生じる細かい経費について現金を支払うために、小口現金の管理の実務を紹介する。
1 朝、管理員室に着いたら小口現金の手提げを金庫から出して前日の残高と合っていることを確認する。
2 管理員の経費精算の対応、小口現金出納帳に記帳する。
3 業務時間の終わりに、小口現金出納帳と実際の小口現金残高があっていることを確認する。
4 小口現金を金庫にしまう。
 小口現金は、小銭ごとに管理できる専用の手提げに入っていて、カギがかかるものが多い。手提げごと金庫に保管して盗難・紛失が起こらないようにしっかり管理する。
※出典/転載/引用:マンション管理会社│管理組合会計の仕事とは? | もっとわくわくマンションライフ|マンションライフのお役立ち情報 (anabuki-m.
管理組合の会計基準とは?
 拙者が会計担当理事を拝命されたのは、両親の介護生活が終了した平成25(2013)年であった。管理組合の先駆者である隣人から切望されたためと、介護生活がひと段落し、精神的に余裕がでてきたために引き受けたのだが、しかし、就任すると、課題が多すぎることが判明し、安請け合いをしたことを後悔した。
 日本においては、管理組合の会計業務は、自主運営している管理組合は少なく、殆どは管理会社へ業務委託されているのが実態です。もともと、マンション管理組合の会計業務を行う場合の準拠すべき会計基準がないため、管理組合又は管理会社の判断で採用された独自の処理方法により会計報告が行われているのが現状です。拙者の所属する管理組合も御多分に漏れず管理業者に委託し、管理業者の判断で企業会計基準に近い会計処理方法(以下「企業会計型」という。)が用いられています。公益法人の会計基準は「公益法人会計基準」といいますが、同基準の近い会計処理方法(以下「公益法人型」という。)が用いられている場合、加えて、企業会計基準と公益法人会計基準の折衷した基準に近い会計処理方法(以下「折衷型」という、)の3つが見受けられる。
 企業会計型、公益法人型及び折衷型の会計報告書では開示される様式の種類、用語や会計構造が大きく異なっています。このうちマンション管理組合の会計実務では折衷型の会計報告が多くみられます。
【企業会計型】
<開示様式>
・収支計算書
・貸借対照表
・剰余金処分案
(注)収支計算書は、会計区分ごとに、貸借対照表は管理組合全体を作成・開示
<用語>
 企業会計会計原則に準拠のため資産から負債を差し引いた部分を資本とし、管理費会計は剰余金、修繕積立金は繰越金とする。
【公益法人型】
<開示様式>
・貸借対照表
・正味財産計算書
(注)それぞれ会計区分ごとに作成・開示
<用語>
 公益法人会計基準に準拠のため資産から負債を差し引いた部分を正味財産という。
【折衷型】
<開示様式>
・貸借対照表
・収支計算書
(注)それぞれ会計区分ごとに作成・開示する場合が多いが貸借対照表は管理組合全体を開示する場合もある。
<用語>
 折衷型のため収入から支出を差し引いた部分を当期収支差額とし、資産から負債を差し引いた部分を繰越金という。
【公会計型】(※5)
 総務省から要請された平成29年度末までに、ほぼ全ての地方公共団体において、統一的な基準による財務書類の作成及び固定資産台帳の整備が完了し、公会計制度は一定の進展が見らており、マンション管理組合の会計基準の設定に参考となるものである。
●会計基準は何を重視すべきか?

 会計は、企業や公益法人を問わずの財政状態や経営状況を正しく判断するために、お金の流れを記録し管理する業務で、会計本来の目的は、次の2点に集約されます。
①利害関係者に説明責任(アカンタビリティ)を果すこと。
②利害関係者の意思決定にあたり、適時に有用な情報開示(ディスクロージャー)を行う。
 管理組合の目的は、国土交通省の標準規約第1条で明らかなように「区所有者の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保する」ことである。管理組合は、良好な住環境を確保するために、敷地及び共用部分等の管理に必要となる費用を事業計画に従って見積り、その費用を区分所有者全員から管理費や修繕積立金として公平に賦課している。
管理組合は、これらを徴収して、維持修繕費用やマンション管理会社への業務委託費用などに使う。管理組合は、営利を目的する企業とは異なり、お金儲けを目的にしない非営利目的であり、企業であればいくらお金を儲けたかを示す損益計算書が必要であるが、非営利目的の管理組合には損益計算書を作る必要がないのです。非営利法人のための最も一般的な公益法人会計基準があるが、平成16(2004)年に企業会計の考え方を取り入れて、もっと解かり易い決算書に取り入れている。
(※5)公会計型の豆知識
 筆者が長らくたずさわってきた地方公共団体は、厳しい財政状況の中で、財政の透明性を高め、住民に対する説明責任をより適切に果たすとともに、財政の効率化・適正化を図るため、現金主義・単式簿記による予算・決算制度を補完するものとして、財務書類(貸借対照表、行政コスト計算書、純資産変動計算書及び資金収支計算書等)の開示が推進されている。 発生主義・複式簿記を採用することで、現金主義・単式簿記だけでは見えにくい減価償却費、退職手当引当金といったコスト情報、資産・負債といったストック情報の把握が可能になり、また、発生主義・複式簿記による財務書類を作成し、開示することにより、減価償却費等を含むコスト情報・ストック情報が「見える化」され、住民や議会への説明責任をより適切に果たすとともに、財政マネジメント等へ活用していくことが期待されいる。統一的な基準では、固定資産台帳の整備を前提としているため、資産の情報を網羅的に把握することにより、公共施設マネジメント等への活用も期待されている。
 地方公会計の整備については、平成12年及び平成13年に、決算統計データを活用した普通会計のバランスシート、行政コスト計算書等のモデル(総務省方式)が総務省から示され、本格的な取組が始まった。筆者も平成12(2000)年には、地方自治体のバランスシートづくりに挑戦していたころであり、右往左往しながら先駆的な取組みを行った。平成18年には、複式簿記の導入と固定資産台帳の整備を前提とした「基準モデル」と、総務省方式に固定資産台帳の段階的整備を盛り込んだ「総務省方式改訂モデル」が総務省から示されるとともに、「行政改革の重要方針」(平成17年12月24日閣議決定)及び平成18年に施行された行政改革推進法(平成18年法律第47号)において、資産・債務改革の推進を図る観点等から、地方公共団体に対し、財務書類等の作成が要請された。 地方公共団体においては、各団体の財政運営上の必要に応じて基準モデル又は総務省方式改訂モデルによる財務書類等の作成が進められ、地方公会計の整備は着実に推進されてきたが、一方で、財務書類の作成方式が選択方式であり、かつ、独自の基準により財務書類を作成する地方公共団体もあったことから、比較可能性を確保するため、作成基準の統一が課題となった。また、地方公共団体における公共施設等の老朽化対策が喫緊の課題となる中で、どの団体においても固定資産台帳を整備し、資産を網羅的に把握することが求められるようになり、 このため総務省において、平成22年から「今後の地方公会計の推進に関する研究会」が開催されて議論が進められ、平成26年にとりまとめられた同研究会報告書において、固定資産台帳の整備と複式簿記の導入を前提とした財務書類の作成に関する統一的な基準が示された。また、平成27年度から平成29年度までの3年間で、全ての地方公共団体において統一的な基準による地方公会計を整備するよう、総務省から各地方公共団体に要請された。 総務省から要請された平成29年度末までに、ほぼ全ての地方公共団体において、統一的な基準による財務書類の作成及び固定資産台帳の整備が完了し、地方公会計の整備については一定の進展が見られたところである。
※出典/転載/引用:統一的な基準による地方公会計マニュアル(令和元年8月改訂)
(※6)マンション管理士の豆知識
 マンション管理士は、平成13(2001)年8月に施行されたマンション管理の適正化の推進に関する法律により創設されたマンション管理士制度による独占資格名称です。マンション管理組合のコンサルタントに必要とされる一定の専門知識を有している事を証明する国家資格であり、マン管とも呼ばれています。マンション管理士は、専門知識をもってマンションの運営、大規模修繕等を含む建物構造上の技術的問題、その他マンションの適切なコンサルティング業務を行います。マンション管理士になるには、マンション管理士試験に合格し、マンション管理士として登録することが必要です。マンション管理士は「名称独占資格」であるため、マンション管理士以外の者がマンション管理士又はこれに紛らわしい名称を使用(名刺にマンション管理士と記載したり、看板でマンション管理士と表示)することは、その方法を問わず認められておりません。なお、名称の使用制限に違反して、マンション管理士でないのに、マンション管理士又はこれに紛らわしい名称を使用した者は、30万円以下の罰金に処せられます。ただし、マンション管理士は独占業務ではなく、2004年に約1,500人のマンション管理士に対して、他に所有している資格を調査したところ、宅地建物取引士(当時は宅地建物取引主任者)が81.6%、管理業務主任者が73.9%であったと報告されています。筆者は、マンション管理士は、玉石混淆であり、会計・簿記業務のコンサルを依頼するなら、公認会計士、税理士などの専門家に依頼するのが得策でないかと思います。
 以上、会計・簿記業務がどんなものあるのか、会計基準はどうしたらいいのかを学びました。次回は、管理組合の会計原則などを学習します。よろしくお付き合いください。
※出典/転載/引用:
公益財団法人マンション管理センター|マンション管理士とは? (mankan.org)


ゼロから学ぶマンション会計 マンション会計の勘定科目とは?


ゼロから学ぶマンション会計

マンション会計の勘定科目とは?
はじめに
 マンション会計の勘定科目とは、管理組合の取引による資産・負債・資本の増減及び費用・収益の発生について、その性質をわかりやすく記録するために必要な分類項目の総称です。管理組合を出入りする現金につけられた見出しのようなものだと考えるとわかりやすいでしょう。勘定科目を使うことによって、管理組合の現金がどのように入ってきたのか、またどのように現金が出ていったのかが、わかりやすくなります。勘定科目は、誰が帳簿に取引を記載しても同じように分類でき、誰が帳簿を見ても同じ理解を得られるようにする役割を果たしています。また、運営判断の材料としても役立ちます。勘定科目に沿った会計管理をすることで、「何にどのくらいの費用がかかっているのか」「そこに無駄はないか」「どの程度の収入が見込めるか」という経費の流れを把握しやすくなります。決算時に必要な「貸借対照表」と「損益計算書」を作成する際にも、勘定科目を使うことになります。勘定科目は法律で決まっているものではなく、自由に設定したり、個人で作ったりすることもできます。適当な勘定科目がない場合は「雑費」という勘定科目で処理しますが、あまりに雑費が多いとわかりにくくなるため、勘定科目を作ってもいいでしょう。ただし、組合員や債権者、取引先といった利害関係者や金融機関に理解してもらうために、基本的には世間に広く浸透している勘定科目を使用することをおすすめします。勘定科目にはたくさんの種類があるため、使用用途や意味合いがわからず混乱してしまいがちです。「どの勘定科目に分類するべきか」悩んだら、貸借対照表若しくは損益計算書のいずれかの項目に分類されるということを思い出し、該当する勘定科目を決めてもいいでしょう。また、「インターネット代は通信費」「宅配便の代金は荷造運賃費」といった具合に、一度勘定科目の分類を決めたら、それ以降は常に同じ勘定科目に分類するようにしましょう。
勘定科目の使い方
(1)管理費会計
①貸借対照表
(資産の部)
勘定科目
取扱要領
大科目 中科目
流動資産



















 
 
 
 
 
 
 
現金預金




 現金、普通預金、定期積金、金銭信託、郵便貯金を計上します。             
ただし、管理組合は、総資産に占める現金預金の割合が多いことから中科目として、上記科目を採用することできます。                   
未収入金

 管理費等のうち入金しないものが残高として計上します。
有価証券


 売買目的の有価証券及び1年以内に満期が到来する満期保有目的の債券、公社債投資信託を計上します。               
前払費用


  一定の契約に従い、継続してサービスの提供を受ける場合、今現在、提供されていないサービスに対して支払った対価を計上します。
立替金


 一時的に生じる金銭の立替を処理する勘定です。短期的な立替に用いるもので、長期間精算されない状態は好ましくありません。
前払金

 継続的なサービス提供契約によらない業務委託等の費用を前払した場合に計上します。
預け金

 取引先などに対して、一時的に預けた金銭を計上します。
仮払金




 現金等により金銭を支払ったものの、相手勘定が確定しない場合又は相手勘定は判明しているが金額が未確定の場合に一時的に処理する勘定です。このため、決算時には原則精算して残高がゼロになることが望まれます。
固定資産









    

 
 
 
 
 
投資有価証券     


 1年を超えて満期が到来する満期保有目的の債券(国債、地方債、社債、貸付信託等)やその他の有価証券を計上します。
長期性預金


 満期が決算日の翌日から起算して1年超である定期預金・金銭信託等は、流動資産ではなく固定資産に計上します。
保険積立金


 掛け捨てでない積立型総合保険の保険料払込金額のうち資産に計上すべき部分を支出した場合に計上します。
電話加入権

 管理員室等に設置した電話加入権を計上します。
差入保証金

 マンション敷地外に賃貸した駐車場等の保証金として支払った金額を計上します。
その他の固定資産  勘定科目はできるだけ、具体的な科目名を付すことが明瞭性の原則から求められます・
(負債の部)
勘定科目
取扱要領
大科目 中科目
流動負債


















 
 
 
 
未払金





 通常の取引に関連して発生するもので、発生後、短期間に支払われる場合及び固定資産などを購入した場合の未払に用います。継続的なサービス提供契約以外の取引から発生する未払を計上します。                  
                
未払費用



  一定の契約に従い、継続してサービスの提供を受ける場合は、現在、提供されたサービスに対して支払っていない対価を計上します。
前受金

 翌月の管理費等が入金した場合は、前受金に計上します。
預り金



 相手から一たん金銭等を受入れ、その後本人に返金するか又は本人に代わって第三者に支払う場合は、債務として預り金として計上します。
仮受金





 現金等により金銭を受け取ったものの相手勘定が確定していない場合又は金額が未確定の場合に一時的に処理する勘定です。このため、決算時には原則精算して残高がゼロになることが望まれます。
固定負債





 
借入金

 金融機関等から資金を借り入れた場合は、借入金として計上します。
預り保証金・敷金


 駐車場・駐輪場の敷金・補償金を徴収した場合は、契約期間に応じて1年以内の契約であれば流動負債に、1年超であれば固定負債に計上します。

②収支計算書
(収入の部)

勘定科目
取扱要領
大科目 中科目
管理費等収入     
 



 
 
 
 
 
 
管理費収入 管理費収入を計上します。
特別管理費収入  管理費以外に徴収する収入があれば、その具体的な名称を付けて計上します。       



 
 

専用庭使用料収入
トランクルーム使用料収入           
駐車場使用料収入
駐輪場使用料収入
水道料使用料収入
××××収入
資産運用益

    
受取利息


 管理費会計で運用している普通預金、定期預金等の運用の果実である利息を計上する。          
  受取保険金

 保険事故が発生し、受け取った保険金を計上する。
他会計からの受入

〇〇会計からの受入


 管理費会計以外の会計から資金を受入れた場合に計上します。
雑収入





   上記の収入科目に該当しないものを計上します。金額が多額になっている場合や毎月発生する項目については、雑収入ではなく、独立の科目として計上します。    

(支出の部)

勘定科目 取扱要領
大科目 中科目
管理運営費





















 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 給与手当  管理員、警備員を雇用している場合は支払った給与を計上します・


 管理員
 警備員
委託業務費
 管理業者に委託する場合の委託費、一部業務を外部業者へ委託した場合に計上します。
 


 ××業務費
 〇〇業務費
設備管理業務費  設備管理業務費は、小科目の内訳を記載します。

















 昇降設備保守費
 消防用設備保守費
 〇〇設備保守費
 特殊建築物点検費
 建築設備点検費
 清掃費
 排水管清掃費
 貯水槽清掃費
 電波障害対策費
 設備点検費
 水質検査費
 植栽委託業務費
 ××費
その他設備管理業務費         
水道光熱費  




 電気料
 水道料
 ガス料
 ××料
保険料




 積立マンション保険料          
 火災保険料
 施設賠償責任保険料
 個人倍賞責任保険料
諸経費








 備品消耗品費
 リース料
 通信費
 租税公課
 修繕費
 支払手数料
 ××費
 雑費
専門家活用費




 マンション管理士報酬
 弁護士報酬
 建築士報酬
 〇〇報酬
組合活動費  理事会の活動費用や総会開催費用、役員の報酬規程を定めている場合には、規程に基づき支給された報酬を計上します。           



 役員報酬
 役員活動費
 組合運営費
他会計へ繰入

〇〇会計へ繰入


 管理費会計から修繕積立金会計などその他の会計へ資金を移動する際に計上します。        
雑損失    前期に計上すべき費用を支払った場合などに計上します。
予備費     予算上計上する科目で、実績は計上しないのが原則です。予算策定時に、予測不能な費用を予備費として予算計上するものです。          

(2)修繕積立金会計
①貸借対照表
(資産の部)
定科目 取扱要領
大科目 中科目
流動資産











 
 
 
現金預金





 現金、普通預金、定期積金、金銭信託、郵便貯金を計上します。ただし、管理組合は、総資産に占める現金預金の割合が多いことから中科目として、上記科目を採用することできます。             
未収入金

 修繕積立金のうち入金しないものを計上します。
前払金

 修繕費等の費用を前払した場合に計上します。
有価証券



 売買目的の有価証券及び1年以内に満期が到来する満期保有目的の債券、公社債投資信託を計上します。
固定資産
 








 
 
保険積立金



 掛け捨てでない積立型総合保険の保険料払込金額のうち資産に計上すべき部分を支出した場合に計上します。
その他の固定負債

 勘定科目は、具体的な科目名を付すことが明瞭性の原則から求められます。
修繕積立資産



 将来の修繕工事に備えて、その工事代金を積み立てる目的で預入れた預金及び有価証券を計上します、
(負債の部)
勘定科目 取扱要領
大科目 中科目
流動負債










 
 
未払金





通常に取引に関連して発生するもので、短期間に支払われる場合及び固定資産を購入した場合の未払に用います。             

             
前受金

 翌月の積立金が入金した場合は、前受金に計上します。
預り金




 相手から一たん金銭等を受入れ、その後本人に返金するか。又は本人に代わって、第三者に支払う場合は、債務として預り金を計上します。
固定負債

借入金

 金融機関等から資金を借入れた場合には、借入金を計上します。

②収支計算書

(収入の部)
勘定科目 取扱要領
大科目 中科目
修繕積立金等収入









修繕積立金収入   修繕積立金等の収入をそれぞれ項目ごとに名称を付して計上します。           
 







修繕積立基金収入
駐車場使用料収入
基地局設置料収入
××収入
資産運用益

受取利息

 預入れた預金等の果実を計上します。     
他会計からの受入


〇〇会計からの受入


 修繕積立金会計以外の会計から資金を受入れた場合に計上します。            

(支出の部)
勘定科目 取扱要領
大科目 中科目
管理費 














修繕費  



 建物の維持修繕のため一定年数の経過毎に実施した修繕費と不測の事故その他の理由により必要となった修繕費を机上します、
建物診断費


 長期修繕計画に従い、修繕工事の必要性等を検討するため行った建物診断費を計上します。
諸経費

 金融機関に対する融資申込にかかる印紙や振込手数料当を計上します。           


 租税公課
 支払手数料
支払利息

 金融機関から借入れを行った場合に支払った金利を計上します。
他会計へ繰入

〇〇会計へ繰入

 管理費会計などその他の会計へ資金を移動する際に計上する。             
※出典/転載/引用:『マンション管理組合会計の手引き』(公益財団法人マンション管理センター著)


ゼロから学ぶマンションの会計 社会人の知恵・複式簿記を学びます(2)



ゼロから学ぶ
マンションの会計(第2話)
社会人の知恵・複式簿記を学びます
はじめに
 マンション管理組合の
財政状況を的確に把握するためには、複式簿記の基礎知識無くしてはできません。初心者・未経験者を対象に、ゼロから簿記3級程度の知識をマスターしようとするものです。なぜ左側を「借方」と呼び、右側を「貸方」と呼ぶのか。借方/貸方を英語でDebit/Creditと言いますが、これを最初に日本語に翻訳したのは、福沢諭吉が活躍していた明治時代初期頃の人と言われています。福沢諭吉は、友人から入手したアメリカの簿記教科書を翻訳し、独自に加筆して『帳合之法』という複式簿記の本を書きました。この本によって日本に初めて西洋式の複式簿記が紹介されました。日本では江戸時代に大福帳(売掛金元帳)など算盤使用に適した独自の帳簿システムが確立しており、近江商人などが複式簿記に近い手法を考案していましたが、本格的な複式簿記の導入は欧米からの導入によるもので、明治6(1873)年に福沢諭吉がアメリカの簿記教科書を翻訳した『帳合之法』が刊行され,同年に大蔵省紙幣寮でアレキサンダー・アラン・シャンド(1844年~1930年)の講義を翻訳した『銀行簿記精法』が刊行され、明治12(1879)年福沢諭吉が創設した簿記講習所で簿記教育が始まり、以後次第に洋式の複式簿記にとって代わったと言われています。複式簿記の歴史を振りかえりながら、身近なマンションの管理組合の財政状況を分析できるノウハウやスキルとして『複式簿記』を学習する私たちにとっては『なぜ左側を貸方と呼び、右側を借方と呼ぶのか』を追求しても得るものがないので、とにかく『左側は借方、右側は貸方』と覚えましょう。
会計とは何かを復習
 前回、学習した複式簿記は、初心者向けのゼロから学ぶ基礎的な知識でした。特に、「会計とは何か?」につては、何度も復習し、確認する必要があります、会計とは何かについては、
①企業の取引・活動(仕入、生産、販売、給料支払いなど)を帳簿に記入することとそのルール
②帳簿を世間一般の人(銀行、税務署、株主など)に見せることとそのルール
③企業内での様々な管理のために用いられる数値データを計算することとそのルール
 ということでした。そして、①は「簿記」②は「貸借対照表」と「損益計算書」③は「経営分析」などが該当するというものでした。次に、複式簿記初級編(3級程度)に必要な知識を問答法で確認します。
Q1:簿記の5つの概念は?
 資産、負債、純資産、費用、収益
 できれば「資産=負債+純資産」という算式も言えるよういしてください。
Q2:資産が増加したときは、借方or貸方?
 借方 
 仮方は、「かかた」のとおり「」のはらいが左側です。
Q3:負債が増加したときは、借方or貸方?
 貸方
 貸方は、「かかた」のとおり「」のはらいが右側です。
Q4電気代800円を現金で支払ったときの仕訳は?
 (借)水道光熱費800(貸)現金800
 水道光熱費という費用が発生したので借方へ、貸方は資産の減少です。
Q5:銀行と借金100万円の契約を結び、普通預金に入金されたときの仕訳は?
(借)普通預金100万(貸)借入金100万
 普通預金という資産が増加したので借方へ、借入金という負債が増加したので貸方へ仕訳します。なお、契約しただけでは。簿記的には取引ではないので。まだ仕訳をしてはいけません。
Q6:三分法を採用している場合の商品売買で用いる3つの勘定科目名は?
 仕入、売上、繰越商品
 「繰越商品」は、決算の時にしか用いられない勘定科目です。
Q7:商品100円を掛けで仕入れたときの仕訳(三分法)は?

(借)仕入100(貸)買掛金100
Q8:売値150円の商品を掛けで販売したときの仕訳(三分法)は?
(借)売掛金150(貸)売上150
Q9:決算で作成される2つの財務諸表の名前は?
 貸借対照表(たいしゃくたいしょうひょう)
 損益計算書(そんえきけいさんしょ)
英語名かで、それぞれB/S(ピーエス=バランスシート)P/L(ピーエル)と呼んでいます。
Q10:資産、負債、純資産、費用、収益のうち。B/S=バランスシートに記載されるのは?
 資産、負債、純資産
Q11:資産、負債、純資産、費用、収益のうち。P/L=損益計算書に記載されるのは?
 費用、収益
Q12:次の文章を完成させるため『 』に入る語句を答えてください。貸借対照表は、一時点n『(1)』を明らかにし、損益計算書は、一期間の『(2)』を明らかにする表です。損益計算書には収益と費用が集計されており、その結果、収益合計と費用合計との差額である『(3)』が算出されている。
(1)財政状況
(2)経営状態
(3)当期純利益(又は当期純損失)
 簿記人門編の入門編の復習の最後に、再度、仕訳の仕組みを説明します。例えば、電気代800円を現金で支払った時の仕訳は。以下の通りです。
借方 金額 貸方 金額
水道光熱費 800 現金 800
 貸方は、費用の発生です。一方貸方は資産の減少です。金額はともに800円です。このように、一つの仕訳で借方の金額と借方。金額は一致します。『水道光熱費』のような、簿記特有の勘定科目名に慣れることも大切です。自動車は『車両運搬具』、机やパソコンは『備品』など、これらは覚えるしかありませんが、学習が進むにつれて見につくと思います。貸借の金額が同額になることは。たとえ勘定科目が多くなっても変わりません。例えば事務所用として20万円のパソコンを購入し。5万円はその場で現金で払い、残額をツケとした場合では
借方 金額 貸方 金額
備品 200,000 現金 50,000
未払金 150,000
 このとおり、貸借の金額は同額です。簿記上級になると、1個の仕訳で借方貸方ともに4~5個の勘定科目を書くこともあります。なお、『ツケ』を表す勘定科目は、取引の対象が『商品』なのか『商品以外』なのかで変わりますが、この例では備品(商品ではない)なので『未払金』ですが。商品であれば『買掛金』です。簿記では、勘定科目を使い分けます。次に、『決算』について。簿記初級を見据えて説明します。企業は勿論のこと。マンションの管理組合も1年に1度、決算を行う必要があります。決算とは、『1年間で収支はいくらなのか』などを計算することです。そのため決算作業の時期になると、1年間(1会計期間、1会計年度といいます。)の仕訳を集計します、その結果を貸借対照表と損益計算書にまとめます。貸借対照表と損益計算者を作ることが、『簿記』の、そして『決算』の大きな目標です。そこに向かって日々の仕訳をし、決算では仕訳を集計するのです。日本の多く企業が、4月1日から翌年3月31日の1年間を1会計期間(1会計年度)としています。例えば、この場合、4月1日を期首、3月31日を期末日(決算日)といい、期末日の翌日4月1日から経理部門では、以下のような決算作業がスタートし、1年間の仕訳の集計で最も多忙な時期となります。
〇4月1日から3月31日までの1年間の仕訳のうち、収益の累計額と費用の累計額がそれぞれいくらで、その差額がいくらなのかを算出します。収益累計>費用累計であれば利益(黒字)、逆であれば損失(赤字)です。また同様に1年間の仕訳を集計して資産、負債、純資産がそれぞれいくらあるかを算出します。
〇その結果に基づいて、それぞれ損益計算書と貸借対照表を作成します。また、決算にしか作成しない仕訳(『決算整理仕訳』といいます。)もいくつかあります。決算では、4月1日から翌年3月31日まで(期中)に生じた仕訳を集計するのは勿論、決算作業で作成した決算整理仕訳も集計の対象とします。
 決算になったら、経理部門では、
①3月31日までの1年間の期中仕訳をいったん集計する。
②決算整理仕訳をつくる。
③決算整理仕訳をおりまぜて仕訳を再集計する。この作業の最後に利益を算定する。
④貸借対照表と損益計算書をつくる。
 ①~④の決算作業は、期末日3月31日の翌日4月1日以降に行います。そのため決算整理仕訳が作成されるのは4月1日以降であっても伝票上に記入する日付は3月31日となります。
※出典/転載/引用:ホントにゼロからの簿記3級 『ふくしままさゆきのホントに』シリーズ Kindle版
※出典/転載/引用:『世の中の真実がわかる!明解会計学入門』(高橋洋一著)
※出典/転載/引用:『マンション管理組合会計の手引き』(公益財団法人マンション管理センター著)


『現金』とは?
 手元にある硬貨や紙幣を『現金』という勘定科目を用いて仕訳します。手元とは、経理部門の出納係が管理している金庫内にあるお金です。預金ではありません。あくまでも現金です。『現金』は資産ですので、受け取ったら手元現金が増加するので借方、支払ったら手元現金が減少するので貸方へ仕訳します。以下の仕訳で確認してください。例えば、「電気代8千円を現金で支払った」
(借)水道光熱費8,000(貸)現金8,000
「売掛金8千円を現金で回収した。」
(借)現金8,000(貸)売掛金8,000
と仕訳していきます。
 出金したら『現金』を貸方へ、入金したら『現金』を借方へ。その都度、仕訳していきます。『現金』については、仕訳を毎日繰り返すことが仕訳の中心です。『現金』は、硬貨と紙幣が対象ですが、すぐにお金に換金できるものも簿記では『現金』扱いします。『配当金領収書』や『郵便為替証書』はすぐにお金に換金できますので、『現金』と同じ扱いをします。配当金領収書な、株式を保有していると送付されてくるもので、金融機関に持参するとお金(配当金)に換えてくれます。郵便為替証書も郵便局へ持っていけばお金に換えてくれます。これらを通貨代用証券と呼びます。」
※出典/転載/引用:ホントにゼロからの簿記3級 『ふくしままさゆきのホントに』シリーズ Kindle版
※出典/転載/引用:『世の中の真実がわかる!明解会計学入門』(高橋洋一著)
※出典/転載/引用:『マンション管理組合会計の手引き』(公益財団法人マンション管理センター著)


『預金』とは?
 日常生活では、『預金』と言えば普通預金と定期預金を指しますが、簿記では、このほか良く出てくるのが『当座預金』(とうざよきん)です。どんな預金なのかは後述します。知らないと、小切手取引を理解することができません。『預金』に関する仕訳を例示します。
『銀行に行って現金50万円を普通預金に預け入れた。』
(借)普通預金500,000(貸)現金500.000
 現金が普通預金に姿を変えました。
『銀行に行って現金50万円を当座預金に預け入れた。』
(借)当座預金500,000(貸)現金500,000
普通預金10万円を定期預金に振り替えて
(借)定期預金100,000(貸)普通預金100,000
『普通預金に利息100円がついた、
(借)普通預金100(貸)受取利息100
『手元にある5千円の郵便為替証書を普通預金に預け入れた。』
(借)普通預金5,000(貸)現金5,000
 郵便為替証書は『現金』が勘定科目名です。
当座預金と小切手取引の仕組みと流れを知ろう!
 そもそも当座預金とはどんな預金だしょうか?銀行などで当座預金口座を開くと、小切手や手形を使えるようになります。これが当座預金の大きな特徴ですが、小切手や手形を使いたいために当座預金口座を開きます。しかし。当座預金は誰でも開設できる口座ではなく、開設するためには銀行側による審査を受けることになります。筆者のような庶民では断られます。小切手は、様々の支払いに使うことができますので、手元に現金を持つ必要がなくなるというメリットがあります。例えば
①A商店はB商店(パソコンショップ)から、A商店の事務所内で使用するためのパソコンを30万円で購入し、小切手に金額を記入してB商店に渡します。(『小切手を振り出す』と言います。)
②B商店は、その小切手を銀行窓口へ持っていくと、窓口で現金を受け取ることができます。この現金は、A商店の当座預金口座残高から引かれたものです。
 このように小切手が使えるようになると、キャッシュレスでモノを購入することができ、これがメリットです。一方でデメリットもあります。当座預金には利息がつきません。ちなみに当座預金には通帳もありません。小切手取引の仕訳を例示します。仕訳のタイミングと勘定科目に注意してください。小切手を振り出したとき、振り出した側は振り出した時点で当座預金が減少しものと考えます。先ほどの例では①の段階での仕訳で、貸方に『当座預金』を記帳します。一方、小切手を受け取った側は、相手から小切手を受け取った時点で『現金』をもらったものと考えます。小切手は硬貨でも紙幣でもないのですが、「通貨代用証券」の一つ(他人振出の小切手」です。すぐ現金に換金できるものですから、会計上は『現金』とするわけです。前述した例①A商店はB商店(パソコンショップ)から、A商店の事務所内で使用するためにパソコンを30万円で購入し、小切手に金額を記入してB商店に渡した を仕訳してみます。
A商店側の仕訳
(借)備品300,000(貸)当座預金300,000

B商店側の仕訳
(借)現金300,000(貸)売上300.000
②B商店は、その小切手を銀行窓口へ持っていかず、C商店への商品仕入代金30万円の支払いのためにC商店に渡した
A商店側の仕訳
『仕訳なし』(無関係です)
B商店側の仕訳
(借)買掛金300,000(貸)現金300,000
貸方の勘定科目は「他人振出の小切手」なので『現金』です、①で借方で『現金』としたものを②で貸方に記入しただけです、
③C商店は、A商店からの借入金の返済のため、B商店から受け取った小切手をA商店に渡した。
A商店側の仕訳
(借)当座預金300,000(貸)貸付金300,000
A商店は小切手を受け取ったので,借方は『当座預金』です。A商店は小切手を振り出したときに、貸方に『当座預金』を記帳しました。小切手を振り出したので、当座預金が減少するとみなおしたわけです。ところが、その小切手を受け取ったわけですから、今度は借方に『当座預金』を計上することになります。減少するとみなしたことが、実は減少しなかったということです。小切手を受け取ったら『現金』というわけではなく、他人振り出しの小切手を受け取ったら『現金』、自己振り出しの小切手を受け取ったら『当座預金』です。当座預金は、以上ですが、当座預金と小切手の仕組みを理解することが大切です。
当座預金とは?
 辞書で「当座」を調べると、「①その場。即座。②しばらくの間。当面。さしあたり」と載っています。
当座預金は、預けるのではなく、「すぐに使う資金を一時的に置く」という意味が近いようです。当座預金の特徴は、次のとりです。
〇企業や個人事業主が手形や小切手の支払の決済を行うための口座です。

〇無利息です。法律(臨時金利調整法)で利息を付けることが禁じられています。
〇払戻(出金)は、小切手や手形、口座振替で随時行えます。ATMや振込支払は行えません。
〇預入(入金)は、当座預金入金帳で随時行えます。
〇預入は、1円以上1円単位です。
〇通帳は有りません。一定期間ごとに取引状況照合表(取引の明細書)が届きます。
〇公共料金の自動支払いや、株式配当金の自動受け取りが行えます。
〇金融機関が破綻しても「決済用預金」として、預金保険制度により全額保護されます。
 上記のような特徴をもつ当座預金を利用するメリットは、以下の鳥です。
便利なATMが使えず利息もつかないのに何故、当座預金を利用するのでしょう。それは、次の4つの点で企業や個人事業主にとって使いやすいのだと言われています。
①小切手や手形で支払決済を行う。
 支払側も受取側も多額の現金を持つ必要がありません。当座預金口座を利用すれば、その場で支払が必要となった場合でも小切手や手形で支払うことができます。(小切手や手形の受取側は当座預金口座がなくても利用できます。)
②引出限度額の制限がない。
 普通預金では、1日当たりの引出し額には制限(個人:100万円、法人:1,000万円)が有ります。企業間の取引では取引金額が大きいこともあり、多くの企業が限度額制限のない当座預金を利用します。
③引出の手数料が掛からない。
 当座預金では、ATMや振込支払は行えませんのでATM手数料や振込手数料が掛かりません。振込金額に応じて変わる手数料、金額が大きいと手数料が数万円になることも有りますし、たとえ1回分が数百円でも回数が多くなると大きな額になってしまいます。
④当座借越が利用できる。
 当座預金口座開設のときに金融機関と「当座借越契約」を結び借越限度額の設定を行っておくと、支払の際に当座預金残高が不足した場合には借越限度額を上限として自動的に融資がおこなわれます。例えば、口座の残高が250万円あります。300万円の支払が必要となった場合 250万円 - 300万円 = -50万円 】つまり、50万円足りませんので支払ができないということになります。しかし、当座預金口座に借越限度額の設定を行っておくと、不足分が限度額内なら支払が行えます。250万円の当座預金残高で300万円の小切手を作成できるのです。不足分は一時的に借入をした状態で、残高がマイナス(-)で記載されます。これが「当座借越」です。その後、入金があったときに自動的に返済が行われます。
当座預金を開設するには? 
 金融機関で所定の審査があります。審査に通り「当座勘定取引契約」を結ぶことで当座預金口座が開設されます。審査内容は、金融機関により異なりますが一般的な内容は次のような項目となることが多いようです。
〇会社の実態(登記簿謄本、印鑑証明書)
〇過去の預金取引等の実績
〇過去の不渡り事故の有無
〇事業内容や事業状況
〇会社決算(売上、利益など)
〇手形取引の必要性
〇代表者の経歴・信用力(中小企業の場合)
当座預金に関わる手数料は?
 金融機関で異なりますが、主なものとして次の4つが有ります。〇当座預金口座開設手数料
〇小切手用紙発行手数料
〇手形用紙発行手数料
〇手形や小切手の交換手数料
小切手・手形とは?
 当座預金を利用するメリットの1つにもなっている小切手・手形での支払決済について説明します。手形には「約束手形」と[為替手形]がありますが、「為替手形」は現在では主として輸出業者が輸入業者から代金を取立てるために使用されていますので、基本的な性格や銀行(金融機関)での取扱いに共通点の多い「小切手」と「約束手形」について説明します。
小切手・約束手形の特徴は?
〇1枚の紙で済むので、持ち運びに便利。
〇現金を持つ必要がないので、安全。
〇紛失や盗難などにあった場合も、被害を防ぎやすい。
〇銀行(金融機関)に支払の記録が残り、届く取引の明細書が経理処理上で役立つ。
〇支払の際、確認のため現金を数える必要がなくなり手間が省ける。
約束手形・小切手を使用する方法は?
1 「当座勘定取引契約」を結び当座預金口座を開設したときに、約束手形用紙や小切手帳の交付を受けます。(有料)
2 約束手形用紙や小切手帳に必要事項を記載し、控え分から切り離して支払う相手に手渡します。これを「振り出す」といいます。
3 受取った人が、銀行(金融機関)に持参して支払を受けます。
約束手形の仕組みは?
 基本的には小切手のしくみと同じです。ここでは小切手と異なる点を挙げておきます。
当座預金残高 支払のための呈示 現金化のしやすさ
小切手 振出す際振出す金額以上必要 振出日の翌日から10日間(最終日が銀行の休業日にあたった場合は、翌営業日まで延長される) 支払の呈示から数日で現金化可能
約束手形 支払期日までに振出し額以上を入金すればよい 支払期日を含めて3日間(3日間に銀行の休業日があった場合は、その日数だけ延長される) 支払期日が来ないと現金化不可(注1)

(注1)手形によっては、支払期日までの利息分(割引料といいます)を差し引いた額で銀行に買取ってもらい、支払期日前に現金化することができます。これを「手形を割引いてもらう」といいます。

小切手とは?
 小切手はどのような流れで処理が行われていくのでしょう。小切手の流れをみてみましょう。
①「小切手の振り出し」:必要事項を記載した小切手を支払先に手渡します。当座預金の残高が小切手金額より多く有ることを確認しましょう。受け取った小切手は、振出日の翌日から10日以内に支払銀行に見せることが必要です。(期間を過ぎると現金化できないこともあります)これを「支払のための呈示」といいます。呈示方法には2つの方法が有ります。
②「直に呈示」:直接、支払銀行へ小切手を持参し支払の請求を行います。
③「取立の委任(依頼)」:自社の取引銀行に持っていき入金手続きの代行を依頼します。通帳と銀行備え付けの「入金票」に記入し、裏に住所氏名を記入した小切手を添え銀行窓口へ提出します。入金まで2日から1週間前後かかります。「取立の委任(依頼)」をされた銀行の処理は、支払銀行が自分の銀行か他の銀行かにより異なります。
〇行内交換 支払銀行が自分の銀行の他支店の場合、銀行内で「支払のための呈示」が行われ、支払処理が行われます。
〇手形交換 支払銀行が他の銀行の場合、手形交換所で相互に小切手の交換を行います。(各銀行間の差額については、日本銀行などに各銀行が置いている当座預金の振替により最終的に決済されます。)
④「小切手の持ち寄り」:委任(依頼)された小切手を各銀行が持ち寄ります。
⑤「小切手の持ち帰り」:相互に交換した自分の銀行の小切手を持ち帰ります。
⑥「当座預金口座から引落し」:支払銀行は、振出人(A社)の当座預金口座から小切手金額を引落します。
 そのときに当座預金残高が1円でも不足しているとその小切手の支払はできません。その小切手は「不渡手形」として支払銀行 ⇒ 手形交換所 ⇒ 持出銀行 ⇒ 受取人(B社)へと返されます。受取人に迷惑をかけるだけでなく、振出人の信用にもかかわる「不渡手形」を出さないためにも、口座開設の際に「当座借越契約」を結んでおくのです。
⑦「引落し終了の連絡」:支払銀行は、振出人に引落しの終了を連絡します。
⑧「支払」:受取人(B社)へ現金、または口座への振込入金などで支払が行われます。
 小切手は「小切手法」、手形は「手形法」という法律により記載事項から支払、受取方法まで定められています。この規定に違反するとその小切手・手形は無効となってしまったり、支払ってもらえないこともあります。「文言証券性」:振出人は、小切手や手形に記載されたとおりに支払わなければなりません。たとえ金額を「¥100,000」と書いたつもりが「¥1,000,000」間違えて記載してしまった場合、その小切手・手形は100万円として通用することになります。「小切手・手形の譲渡」:受取人は振出人の承諾を得ることなく、その小切手・手形を代金の支払いなどに使い他の人に渡すことが可能です。振出された小切手・手形は振出人の知らないうちに、人から人へ現金のように渡っていきます。金融機関により様式は異なります。小切手は、記入した金額の現金と同じように取り扱われる事となるのです。しっかりと正確に記入しましょう。

※出典/転載/引用:ホントにゼロからの簿記3級 『ふくしままさゆきのホントに』シリーズ Kindle版
※出典/転載/引用:『世の中の真実がわかる!明解会計学入門』(高橋洋一著)
※出典/転載/引用:『マンション管理組合会計の手引き』(公益財団法人マンション管理センター著)

※出典/転載/引用:当座預金と小切手についての基礎知識と取り扱いについて (setsuzeinoki.com)



ゼロから学ぶマンション会計 社会人の知恵複式簿記を学びます(3)?



ゼロから学ぶ
ンション会計
会計学は社会人の常識です
複式簿記を学び賢く暮らしたい


 
 複式簿記がよくわからないと言う方も多いことと思います。簿記検定3級をとるために勉強しているわけではなく、社会人として最低限の複式簿記の知識を身につけるために学習しているのですから焦ったり、諦めたりすることはありません。マイペースで学べばいいのです。複式簿記は、覚えることが非常に細かく、苦労しますが、知っていても損はない知識です。会計の知識は、世界では「知ってい当たり前の常識」です。
『商品売買』とは?
 まずは、5つの概念を復習します。『資産の増加は借方。費用の発生は借方、負債の増加は貸方、純資産の増加は貸方。収益に発生は貸方』です。これを踏まえて仕訳を例示します。例えば、『8百万円のビルを事務所用として購入し、引き渡しも受けた。代金は小切手3百万円を振り出し、残額は月末払いのツケとした。』
借方 金額(万) 貸方 金額(万)
建物 800 当座預金 300
未払金 500
 複式簿記では、取引の対象が『商品なのかどうか』がとても大切で、このケースでは、購入したのは「事務所用のビル」、であり「商品」ではないので「未払金」という負債の勘定科目名を用います。「商品」をツケで購入したときは『買掛金』(かいかけきん)です。『8千円の商品を購入し、代金は小切手3千円を振り出し、残額は月末払いのツケとした。』
借方 金額 貸方 金額
商品 8,000 当座預金 3,000
買掛金 5,000
 取引の対象が商品の場合は、負債の勘定科目は『未払金』ではなく『買掛金』を用います。一方『商品』という資産が増加したので借方に記帳されます。『8千円で仕入れた商品を1万円で販売して、代金は月末払いとした』
借方 金額 貸方 金額
売掛金 10,000 商品 8,000
商品売買益 2,000
 取引の対象が商品の場合は、『売掛金』です。商品でなけらば『未収入金』という勘定科目になります。一方貸方は、8千円の商品を販売したので、手元から商品がなくなり、資産が減少しました。よって『商品』8千円が貸方です。また、販売価格との差額2千円が収益となり、勘定科目は『商品売買益』となります。このように、商品を仕入れたときに借方『商品』、売ったときに貸方『商品』、儲け分を貸方『商品売買益』に仕訳するのが商品売買取引の仕訳です。この記帳方法は、商品取引を『商品』と『商品売却益』に分けて記帳するので分記法(分割記入法)と呼ばれています。商品売買は、毎日何十個、何万個と仕入・販売が行われ、商品の種類もたくさんあり、同じ商品でも仕入れる日によって仕入値が異なることもあるので、分記法では、販売したときに仕入値を貸方に記入する必要があり、非常に煩雑なために記帳方法が別途考案されています。
『三分法』とは?
『三分法』(さんぶんぽう)と呼ばれる記帳方法では、商品を購入したときは、借方に『仕入』、販売したときは、貸方に販売価格で『売上』を記帳します。決算のときは『繰越商品』という勘定科目も用います。商品取引を3つの勘定科目を用いて仕訳するので、三分法と呼ばれています。『8千円の商品を購入し、代金は小切手3千円を振り出し、残額は月末払いのツケとした。』
借方 金額 貸方 金額
仕入 8,000 当座預金 3,000
買掛金 5,000
『8千円で仕入れた商品を1万円で販売して、代金は月末払いとした』
借方 金額 貸方 金額
売掛金 10,000 売上 10,000
 上記のとおり、三分法は簡単な記帳方法です。商品を買ったら『仕入』、売ったら『売上』です、ただし、デメリットもあります。このままではいくら儲けたかわからないので、決算作業のときに算出することになります。日常作業(期中)では、『仕入れたら借方仕入、売ったら貸方売上』を繰り返し、決算作業(期末)に『それまで販売した商品の原価を一気に算出する』のです。この際に『繰越商品』という勘定科目を用います。三分法を採用している場合は、決算において三分法用の決算整理仕訳が必要になります。三分法は、備品、固定資産、株式などを売買したときには用いられず、分記法が用いられます。三分法はあくまでも商品売買のための記帳方法です。
付随費用とは?
 仕入にかかった諸費用は、会計上、経費などの費用とはせずに、『仕入』に参入します。例えば、『商品300円を掛けで仕入れた。その際、引取手数料として現金10円を払った』
借方 金額 貸方 金額
仕入 310 買掛金 300
現金 10
 310円の商品を仕入れてのと同じです。『ブツを買うためにかかった諸費用は、そのブツの取得原価に含める』という考え方です、固定資産や有価証券でもそうです。
返品など仕訳は?
 買った商品を返品した、売った商品を返品された場合の仕訳は、買ったときの仕訳・売ったときの仕訳の逆仕訳をするだけです。掛けで買った商品を返品したら
(借)買掛金○○ (貸)仕入○○
 掛けで売った商品を返品されたら
(借)売上○○ (貸)売掛金○○
 例えば『6月2日、単価200円の商品を5個掛けで仕入れた。』
(借)仕入1,000(貸)買掛金1,000
『6月3日、昨日仕入れた商品のうち1項が品違いであったため返品した。』
(借)買掛金200(貸)仕入200
 返品ではなく『値引き』の場合も同様で、逆仕訳するだけです。
商品有高・原価の算定方法とは?
 商品有高や原価の算定方法は、例えば『6月1日、単価200円の商品を10個仕入れた。6月10日、単価220円の商品を10個仕入れた。6月20日、商品1個を250円で販売した。では、6月20日に販売した商品の仕入単価はいくらでしょうか?
『200円』と考えるのが、先入先出法(さきいれさきだしほう)です。さきに仕入れたものから先に払いだす、と考えるわけです。一方、『210円』と考えるのが、移動平均法です。仕入れた都度、平均値を算出する、考えるわけです。その他いくつか算定方法がありますが簿記初級編では、先入先出法と移動平均法が大切です。
前受金・前払金とは?
 商品売買の場合、前もって代金の全額又は一部を払って置く場合があります。内金や手付金などです。その場合の仕訳は、例えば『10万円の商品販売で、手付金として前もって1万円が当座預金に入金された。』
借方 金額 貸方 金額
当座預金 10,000 前受金 10,000
『その後、商品を引渡した。残りの代金は月末払いとした、』
借方 金額 貸方 金額
前受金 10,000 売上 100,000
売掛金 90,000
この「前受金」は負債で、商品を引き渡す義務、お金を返済する義務を表しています。まだ商品を販売していないので、売上は計上できません。購入者側の仕訳を見てみましょう。
『10万円の商品購入に、手付金として前もって1万円を当座預金から支払った、』
借方 金額 貸方 金額
前払金 10,000 当座預金 10,000
『その後、商品の引渡を受けた。残りの代金は月末払いとした。』
借方 金額 貸方 金額
仕入 100,000 前払金 10,000
買掛金 90.000
この「前払金」は資産で、引渡しを受ける権利、お金を返済してもらう権利を表しています。まだ購入していないので、仕入は計上できません・
『手形・電子記録債権』とは?
 手形は、代金の支払いに用いられたり、お金を貸すときの借用証書の代わりに用いられます。手形には約束手形と為替手形の2種類です。2者間で用いられるのが約束手形、3者間で用いられるのが為替手形です。『商品の売買に手形と用いる』とは、例えば、
①A商店が商品をB商店から仕入れたとき、約束手形を作成して、B商店に渡します。
②B商店は、この手形を銀行に預けます。
③この手形が『サイト90日』の手形であれば、作成日から90日後(この期日は手形紙面上に記入されています。)に入金されます。つまりA商店の預金口座から手形代金が引き落とされ(決済され)、B商店の預金口座に振り替えられます。では、手形取引の仕訳を解説します。
①A商店は、B商店から商品5千円を仕入れました。代金は手形(期日は90日後)を作成してB商店に渡しました。
A商店の仕訳
(借)仕入5千(貸)支払手形5千
B商店の仕訳
(借)受取手形5千(貸)売上5千
 このとおり、A商店の仕訳の貸方は『支払手形』です。これは、買掛金と同様負債ですが、『買掛代金ではなく、手形額面代金を支払わなければならない』という債務を表す勘定科目です。
   B商店の仕訳の借方は『受取手形』です。これは、売掛金と同様に資産ですが、『売掛金ではなく、手形額面代金を受け取ることができる』という債権を表す勘定科目です、
②B商店は手形を銀行に預けました。
 仕訳は必要ありません。手形を受け取ったら、なるべくすぐ持っていきます、実務では当然行われることで『手形を取り立て依頼に出す』と言います。手形を手元で大切に保有しているだけではお金は入ってきません。銀行に預けて期日に資金振替処理をしてもらうよう依頼しなければなりません。
③手形の決済期日になり無事決済となり、B商店の当座預金口座に手形代金が入金された。
A商店の仕訳
(借)支払手形5千(貸)当座預金5千
 決済されたので負債が減ります。預金も減ります。
B商店の仕訳
(借)当座預金5千(貸)受取手形5千
 決済されたので債権が減ります、
 基本的な手形の仕組みは以上のとおりです。手形取引で、裏書(うらがき)と割引(わりびき)が大切です。他人から受け取った手元にある手形は、さらに他人(第三者)へ譲り渡すことができます。
例えば、『Aさんから受け取った額面10万円の約束手形を、Bさんへの10万円の買掛金の決済手段として譲る』場合などです。このBさんへの譲渡の仕訳を例示すると
(借)買掛金10万(貸)受取手形10万
となります。手形代期を受け取る権利が消滅し、買掛債務を払う債務も消滅します。手形代金を受け取りのはBさんで、Bさんは銀行ㇸの取立依頼をします。これが手形の『裏書』(うらがき)です。手形を他人に譲渡することです。他人へ譲渡するときに、手形の裏面に記名・押印をするから『裏書』と言われています。他人から裏書された手形を受け取った場合は『受取手形』を借方に仕訳します。手形の裏書は以上のとおりですが、手形が無事決済されないリスクもあります。手形の期日になったときに手形債務者の当座預金口座残高がなかった場合には決済されません。手形が決済されないことを『不渡り』と言います。
  売掛金や買掛金、未収入金や未払金などの債権・債務は、電子記録債権・電子記録債務に変えることができます。例えば、『5月20日に80万円の商品を掛けで売って(掛け代金の期日は翌月末)、5月1日に先方が買掛金を電子記録債務に変更し、5月31日に80万円が支払われる』という事例です。販売者側の仕訳は、『4月20日、80万円の商品を掛け販売した。』
(借)売掛金80万(貸)売上80万
『5月1日、購入者側が電子債権記録機関に対して、買掛金を電子記録債務に変更する請求を行い。その旨が通知された。』
(借)電子記録債権80万(貸)売掛金80万
『5月31日、決済され、当座預金に入金された。』
(借)当座預金80万(貸)電子記録債権80万
次に、購入者側の仕訳は、『4月20日、80万円の商品を掛けで購入した。』
(借)仕入80万(貸)買掛金80万
『5月1日、電子債権記録機関に対して、買掛金を電子記録債務に変更する請求を行った。販売者側にも通知した、』
(借)買掛金80万(貸)電子記録債務80万
『5月31日、当座預金から決済された。』
(借)電子記録債務80万(貸)電子記録債務80万
 電子記録債権を利用するには、電子債権記録機関にその都度登録(記録の請求)をする必要があります。ただし実務で
『従来から手形を振り出していた取引はすべて電子記録債権に変更します)という旨の契約を取引先と予め締結していますので、その場合には債務者側が電子記録の請求をしてくれます。通常は債務者側が記録の請求をします。債権者側から発生記録の請求を行うこともできますが、その場合には債務者の承諾が必要となります。電子記録債権は、手形や売掛金を電子化したものではなく、新種の金銭債権です。まだ。導入・本格稼働されてから数年しか経っていません。
『クレジット売掛金』とは?
 購入者がクレジットカードで支払う場合の仕訳を考えてみましょう。購入者がクレジットカードで購入した場合、信販会社(クレジットカード会社)を介することになります。これまではB商店がA商店に販売するという2者間での取引でした。クレジットカードを用いた場合、B商店とA商店との間に第三者(信販会社)C社が入るわけです。A商店がクレジットカード払いでB商店から10万円の商品を購入したら、C社からB商店へその代金(たとえば2%のC社手数料分を引いて98,000円)が支払われ、A商店はその後10ケ月間C社に毎月10,000円を払う、という仕組みです。これは、クレジットカードで分割払いにしたときのことです。A商店は分割払いではなく一括で支払うこともあります。A商店はクレジットカードで買った商品の代金を、信販会社(クレジットカード会社」に返済するわけです。C社は、A商店の代わりに商品代金をB商店に立替払い㋾した』ということになり、A商店は、『C社に一括あるいは分割で返済する』ということなります。クレジットカードの場合には『クレジット売掛金』という勘定科目を用います。

『固定資産』とは?

 不動産である土地や建物は。固定資産の代表例です。不動産以外でも工場の機械設備や事務所の備品、自動車も固定資産です。これらの固定資産を購入したときは、該当する勘定科目を借方に仕訳します。例えば『事務所用に20万円のパソコンを月末払いで購入した。』
借方 金額 貸方 金額
備品 200,000 未払金 200,000
『現金250万円で社用車を購入した』
借方 金額(万) 貸方 金額(万)
車両運搬具 2,500 現金 2,500
『3千万円の建物を購入し、小切手で支払った』
借方 金額(万) 貸方 金額(万)
建物 3,000 当座預金 3,000
『6月1日、5千万円の土地を購入し、代金は小切手を振り出して支払った』
借方 金額(万) 貸方 金額(万)
土地 5,000 当座預金 5,000
『9月1日、6月1日に購入した5千万円の土地を6千万円で売却し。代金として先方振出の小切手を受け取った』
借方 金額(万) 貸方 金額(万)
現金 6,000 土地 5,000
固定資産売却益 1,000
 このとおり、商品でないので分記法です。固定資産の売買での損益は『固定資産売却損』『固定資産売却益』という勘定科目を用います。固定資産の会計処理は、期中は非常に簡単です。固定資産の会計処理で大切なのは。決算に行われる『減価償却』です。これは決算整理仕訳の一つで、年に1度の決算で行うものです。
固定資産の減価償却とは?
例えば『A商店は、期首である4月1日に20万円の事務所用のパソコンを現金で購入した』
(借)備品20万(貸)現金20万
 パソコンの帳簿上の値段(簿価といいます)は20万円です。では、このパソコンは、A商店にとって永久に20万円の価値があるのでしょうか?そんなことはなく、帳簿上の価値(簿価)を減少させます。それを決算で行います。例えば、『この20万円のパソコンは5年で使い果たす(耐用年数が5年である)』と見積もったとします。単純計算で、1年当たり4万円分の価値を使うことになります。帳簿上の価値(簿価)がその分だけ減ります。仕訳をして帳簿上の価値を1年当たり4万円ずつ減少させるわけです。これを減価償却(げんかしょうきゃく)といいます。
 1年目の決算では
(借)減価償却4万(貸)備品4万
 と仕訳します。これが減価償却の仕訳です。これで『備品』の簿価は200,000円-40,000円=160,000円になりました。2年目以降も同様の仕訳をします・減価償却の仕訳は、原則として、保有している固定資産すべてについて各々行います。固定資産が多いとその分減価償却の仕訳も多くなります。
 減価償却には、記帳方法が2種類ありますが、上記の仕訳は『直接法』と呼ばれる記帳方法です。しかし。主に用いられるのは、以下のような間接法です。
(借)減価償却費4万(貸)減価償却累計額4万
 貸方の勘定科目として、対象となる資産を仕訳するのではなく、このように減価償却累計額という勘定科目を用いる記帳方法です。間接法の場合、簿価を知るためには、買ったときからの値段(20万円)から減価償却累計額(4万円)を差し引かないといけませんが、このやり方が一般的です。「減価償却累計額」は負債ではなくマイナスの資産です。年に1度の決算で減価償却を行うのですが、実務では、期首の時点で「1年後の決算では減価償却費がいくらくらいになるか」予め見積もっておき、その12分の1を毎月計上していく方法を採用することも多くあります。月次決算では毎月見積値で仕訳しておき、何度末の決算では1年間の正確な減価償却費を計算し、それまで計上してきた減価償却費合計との差額を計上します。例えば、『5月1日になったので4月の月次決算を行う、当期1年間の減価償却は240万円になると見積もられた、』場合には、4月月次の減価償却として
(借)減価償却費20万(貸)減価償却累計額20万
と仕訳します。5月以降も同様に仕訳します。建物や備品は減価償却を行いますが。固定資産の中でも土地に関しては減価償却をしません。
その他の債権・債務とは?
 誰かに何かを請求できる権利を『債権』、誰か何かをしなければならないことを『債務』といいますが、これまで学習してきた債権は。売掛金、クレジット売掛金、未収入金。受取手形、電子記録債権、前払金、債務は、買掛金。未払金、支払手形。電子記録債務、前受金です。この他に簿記初級編で学習する債権・債務は、貸付金借入金、立替金、預り金です。
貸付金と借入金とは?
 企業は、必要に応じて資金を貸し借りしますが、銀行から借りる場合でけではなく、取引先やグループ会社から借りることもあります。複式簿記では、資金を貸したら『貸付金』(資産)、借りたら(借入金』(負債)を記帳します。例えば、『A商店はB商店に対して、当座預金から300万円を貸し、B商店の普通預金口座に入金した。』
A商店の仕訳
(借)貸付金300万(貸)当座預金300万
B商店の仕訳
(借)普通預金300万(貸)借入金300万
 資金の貸付には利息が発生します。例えば、『B商店は、借入金の利息とした、A商店に3万円を現金で支払った。』
A商店の仕訳
(借)現金3万(貸)受取利息3万
B商店の仕訳
(借)支払利息3万(貸)現金3万
立替金とは?
 他人が支払うべき債務を代わりに支払った場合は、『立替金』の勘定科目を用います、立替えた分は、元の債務者に請求できますので債権です。例えば、『B商店は,A商店に対して買掛金30万円を負っている、この買掛金についてC商店がB商店の代わりにA商店に現金30万円を支払った。』
C商店の仕訳
(借)立替金30万(貸)現金30万
B商店の仕訳
(借)買掛金30万(貸)未払金30万
 例えば、『D商店は、E商店から10万円の商品を掛けで仕入れた。その際、D商店は引取運賃5千円を運送業者に現金で支払った。なお引取運賃は売主であるE商店が支払う契約である。』
D商店の仕訳
(借)仕入10万(貸)買掛金10万
(借)立替金5千(貸)現金5千
 引取費用をD商店が支払う契約であれば、引取費用5千円は『仕入』に含むことができるので、借方は「仕入10万5千」となります。付随費用は、取得価額に含むことができるからです。
預り金とは?
 従業員にとっては、給料はもらうものですが、企業側からすると支払うもので費用です。実際には、給料を支払う場合は、所得税や社会保険料を控除した金額で支払います。例えば、『A社は、従業員の給料20万円を支給した。給料にかかる所得税・住民税及び社会保険料合計4万円を予め控除した金額で当座預金から支払った、』
借方 金額 貸方 金額
給料 200,000 当座預金 160,000
預り金 40,000
 実際には、給与支給時に所得税等を差し引いた金額で支給します、毎月の給与及びボーナスは、支給時に所得税等を差し引いた金額で支給します。年収103万円以上の給与・賞与には所得税がかかります。この所得税の支払いは。従業員本人ではなく、給与支払者である企業が給料・賞与から差し引きます。徴収した所得税は、翌月に税務署に納付します。健康保険料・年金保険料や住民税も同様です、所得税の徴収を『源泉徴収』、健康保険料・年金保険料や住民税の徴収を『特別徴収』と呼んでいます。従業員の給与。賞与から強制的に差し引かれている税金・保険料は、企業から見れば。『預り金』です。
純資産とは?
資本金を考える?
 資本金は、企業に出資されたお金の累計金額を表す数値です。例えば、『Aさんが商店を始めるために。300万円の開業資金を用意します。この300万円は、実際に商店を開業するときに商店のものになります。』これを『元入』(もといれ)と言います。
(借)現金300万(貸)資本金300万
 これが商店の仕訳です。あくまでも帳簿上の勘定科目である『資本金』の残高が300万円だということです。この商店がこれまでに受けた出資の合計金額が300万円だということを意味するだけです。貸借対照表の純資産の部に資本金を記載しなければならないのですが、例えば『資本金300万円』と書かれていても、手元に現金・預金が全く無いこともありえます。『資本金』の金額は、企業の規模を測る一つの指標にすぎず、単なる数値です。純資産は、「資産と負債の差額』であると定義されています。収益と費用の差額が儲けです。例えば、当期の収益合計が5千万円、費用合計が2千万円であった場合、儲けは差額の3千万円です。決算で、この儲け(当期純利益)を資本金に振り替えます。当期純利益は資本金の増加となります。当期純利益が3千万円と算定されたら
(借)損益3,000万(貸)資本金3,000万
と仕訳します。逆に、当期純損失だった場合は、資本金の減少となります。例えば、『収益合計が3千万円、費用合計が4千万円であった場合
(借)資本金1,000万(貸)損益1,000万
と仕訳して資本金を減少させます。

費用と収益とは?
受取家賃と支払家賃とは?
 家賃を支払ったときは、『支払家賃』(費用)勘定、家賃を受け取ったときは『受取家賃』(収益)勘定で仕訳します。例えば、『テナントから家賃10万円が当座預金に振り込まれた。』
(借)当座預金10万(貸)受取家賃10万
『大家さんに家賃10万円を現金で支払った。』
(借)支払家賃10万(貸)現金10万
受取地代と支払地代とは?
 家賃(建物の賃貸料)ではなく地代(土地の賃貸料)のときは『支払地代』(費用)勘定、『受取地代』(収益)勘定で仕訳します。
受取手数料と支払手数料とは?
手数料を支払ったり受け取ったりしたときは、各々『支払手数料』(費用)勘定、『受取手数料』(収益)勘定を用います。例えば、
『A社に新規取引先としたB社を紹介した、この紹介に対して、A社は紹介手数料として10万円を当座預金に振り込んでくれた。』
(借)当座預金10万(貸)受取手数料10万
『ATMで普通預金口座から現金2万円を払い出した。その際手数料が100円かかった。』
(借)現金20,000(貸)普通預金20,100
(借)支払手数用100
消耗品とは?
 消耗品とは、金額の比較的小さなもので、使用することで姿・形がなくなるものをいいます。例えば、消しゴム、付箋、封筒などです。このようなものは。購入時に全額を費用として処理します。例えば、『現金で、1本10円の鉛筆を100本購入した』
(借)消耗品費1,000(貸)現金1,000
その他の費用は?
 その他の費用は、勘定科目名を覚えるだけです。従業員などが業務で利用した交通費は『旅費交通費』(費用)勘定を用います。通信に係る費用は『通信費』(費用)勘定で仕訳します。これには電話代や切手だいが含まれます。運賃を運送業者に現金で支払った場合は、『発送費』(費用)勘定、新聞に公告を掲載した料金は。『広告宣伝費』(費用)勘定、建物の火災保険料は、『保険料』又は『支払保険料』、建物の修繕費用は『修繕費』、少額な費用は『雑費』とすることもあります。
税金の取扱いは?
 モノを購入・消費すれば消費税がかかり、モノを所有すると固定資産税など税金がかかります。領収書や契約書を作成すれば収入印紙税がかかります。
印紙税とは?
一定金額以上のレシートや領収書を発行したときや、一定内容の契約書を締結した場合には、収入印紙を貼付します、例えば、『10万円分の収入印紙を現金で購入し、直ちに契約書に貼付した。』
(借)租税公課10万(貸)現金10万
 企業は、収入印紙を予め大量に購入し、収入印紙を貼付しなければならない場合に取り出して貼ることも多いと思われます、その場合は、購入時は『貯蔵品』として、貼付時に『租税公課』に替えることも考えられます。
固定資産税とは?
 固定資産税は、毎年1月1日時点で所有している固定資産にかかる税金です。前1年間で購入・売却・廃棄した固定資産を役所等に申告し、役所が固定資産額を計算し、企業に納税額を通知してきます。固定資産税の納付は、4回に分割して納付します。例えば『市役所から年間8万円の固定資産税である旨の納税通知書が届いた。』
仕訳なし
『第1期分固定資産税2万円について小切手を振り出して納付した。』
(借)租税公課2万(貸)未払固定資産2万
あと3回納付を行います。
消費税の取扱いは?
消費税法で『何かモノを購入すると本体価格の他に10%の消費税がかかる』ことになっています。商品を仕入れたり、消耗品や固定資産を購入すると、消費税も支払います。したがって、消費税を仕訳に反映させる必要があります。消費税の会計処理には、従来から税込経理方式と税抜経理方式がありましたが、平成30(2018)年3月30日に収益認識に関する包括的な会計基準となる「収益認識に関する会計基準」が公表され、税抜経理方式に一本化された。
簿記では、支払った消費税は『仮払消費税』(かりばらいしょうひぜい)という資産勘定を用います。例えば、『200円の商品を掛けで仕入れた。』
借方 金額 貸方 金額
仕入 200 買掛金 220
仮払消費税 20
※出典/転載/引用:『マンション管理組合会計の手引き』(公益財団法人マンション管理センター著)


いまさら聞けない介護保険の基礎知識を学び、見識を広めよう!~総合事業とは?



いまさら聞けない介護保険の基礎知識を学び、見識を広めよう!~総合事業とは?
 
「総合事業」とは、介護予防・日常生活支援総合事業のことを言います。市町村が中心となって、地域の実情に応じて、住民等の多様な主体が参画し、多様なサービスを充実することにより、地域の支え合いの体制づくりを推進し、要支援者等に対する効果的かつ効率的な支援等を可能とすることを目指すものです。高齢化が進み、人手不足の時代が続く中、本人の力や住民相互の力を引き出して介護予防や日常生活支援を進めていくこと、ひいては地域づくりを進めることはとても重要です。地域づくりの現状は自治体により大きな違いがあるなかで、どうすれば地域づくりを進めていけるのか、実際に地域づくりに取り組む自治体の意見をとりまとめ、「これからの地域づくり戦略」として、今後、地域づくりのために何ができるか、議論するためのコミュニケーションツールとして活用できるものです。総合事業については、以下の利用の流れに沿いサービスが利用可能です。
みんなで「総合事業」の正しい知識を学ぶことが大切です。なお、筆者は、団塊世代の「石辺金吉」こと『ざ~やん』で浅学菲才な上、遠視で小さな文字が読みにくいため文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。今回は、「総合事業とは?」を学習します。
最終改訂:令和4年8月30日

いまさら聞けない介護保険の基礎知識を学び、見識を広めよう!
総合事業とは?
総合事業のサービスを受けるには?
 まずは、お住まいの市町村の窓口に相談下さい。ここでの相談は、希望するサービスや要介護認定等の申請も含む広い意味での相談になります。窓口担当が具体的に総合事業の利用か要介護認定を受けるかなどについて幅広い視点で相談を受けます。この場合の窓口の多くは地域包括支援センターのことを意味します。もちろん市町村の窓口でも受付は出来ますが具体的な内容相談は地域包括支援センター等の専門職が家族を含む相談者の具体的相談を受けます。総合事業では、既存の介護予防の訪問介護事業者や通所介護事業者がみなし指定事業者として利用可能な他、住民主体のサービス等、多様なサービスを選択することが可能になります。

●サービス利用までの流れ

総合事業(サービス事業)の利用の流れ)
(留意事項)
●基本チェックリストは、従来のような二次予防事業対象者の把握のためという活用方法ではなく、相談窓口において、必ずしも認定を受けなくても、必要なサービスを事業で利用できるよう本人の状況を確認するツールとして用いる。
●介護予防ケアマネジメントでは、利用者本人や家族との面接にて基本チェックリストの内容をアセスメントによって更に深め、利用者の状況や希望等も踏まえて、自立支援に向けたケアプランを作成し、サービス利用につなげる。
<現行のサービス利用手続>

<総合事業実施後の利用手続>

厚生労働省※出典/転載/引用:介護予防・日常生活支援総合事業のサービス利用の流れ | 介護保険の解説 | 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」 (mhlw.go.jp)



いまさら聞けない介護保険の基礎知識を学び、見識を広めよう!
介護サービス情報公表システムとは?

 介護保険法に基づき、平成18年4月からスタートした制度で、利用者が介護サービスや事業所・施設を比較・検討して適切に選ぶための情報を都道府県が提供する仕組みです。この「介護サービス情報公表システム」を使って、インターネットでいつでも誰でも気軽に情報を入手することができます。現在、全国約21万か所の「介護サービス事業所」の情報が検索・閲覧できます。
正式には介護サービス情報公表制度と言い、介護サービスを利用しようとしている方が事業所選択を支援することを目的として、日本全国の約21万か所の「介護サービス事業所」の情報を、都道府県がインターネット等により公表するしくみです。
※介護サービス事業所を選択する際に必要な情報を、24時間、365日、誰でも気軽に情報を入手することができます。
介護サービス情報制度

公表までの流れ
 事業所の情報は、皆様がお住まいの都道府県が公表しています。公表の流れは以下のとおりです。

公表までのフロー図
①各事業所は直近の事業所情報を都道府県に報告
②都道府県は内容を審査
③都道府県はホームページに事業所情報を掲載
※ただし、事業所の報告内容を確認するため、都道府県知事が調査を行う必要があると認める場合には、都道府県又は都道府県が指定した調査機関による訪問調査を行うこととなっています。
公表されている事業所情報の内容
基本的な項目
●事業所の名称、所在地等
●従業者に関するもの
●提供サービスの内容
●利用料等
●法人情報
 事業所・施設を構成する客観的な事実が確認できます。
 事業所運営にかかる各種取組
利用者の権利擁護の取組
●サービスの質の確保への取組
●相談・苦情等への対応
●外部機関等との連携
●眞事業運営・管理の体制
●安全・衛生管理等の体制
●その他(従業者の研修の状況等)
 事業所の管理運営体制や利用者への権利擁護の取組、サービスの質の確保にかかる取組などが確認できます。
 公表されている情報の内容を確認するため、都道府県知事が必要と認める場合に調査を行うことができます。
                                                                                                                                            
「介護サービス情報の公表」制度における調査に関する指針策定のガイドラインについて
                                 具体的な調査の内容、時期、頻度等については、国のガイドラインを参考とし、地域の実情に応じて都道府県知事が調査指針を定め、公表することとなっています。



●「介護サービス情報の公表」制度における調査に関する指針策定のガイドライン
調査を実施すべきと考えられる事項
●新規申請時又は新規指定時
(調査項目の例) 新規申請時に調査することが必要と判断される項目を中心に調査
●新規申請又は新規指定時から一定期間(毎年実施)
(一定期間の例) 新規申請から3年間は毎年実施
(調査項目の例) 運営情報の項目を中心に調査
●事業者自ら調査を希望する場合
(調査項目の例) 事業者の希望に応じ、全ての項目若しくは運営情報を調査
※公表システムにおいて、自主的に調査を受けた事業所であることを明示し公表する。
調査を行わないなどの配慮をすることが適当と考えられる事項
●第三者評価など、第三者による実地調査等が行われている場合(配慮の例)
・福祉サービス第三者評価を定期的に実施している事業所については、調査を行わないこととする。
・外部評価が義務付けされている地域密着型サービス事業所については、調査を行わないこととする。
●1事業所において複数サービスを実施している場合
(配慮の例) 主たるサービスの調査を実施することにより、他のサービスについては、調査を行わないこととする。
●更新申請時
(調査項目の例) 更新申請時に調査することが必要と判断される項目を中心に調査
●調査による修正項目の割合に応じ実施
(調査実施の例) 新規申請から3年間は毎年実施
・修正項目の割合が一定以上の場合には、次年度も調査を実施
・修正項目の割合に応じ調査頻度を設定し実施
●一定年数毎に実施
(調査間隔の例) 2年ごとに調査

◆他制度等との連携等より効率的に実施することが可能と考えられる事項
●報告内容に虚偽が疑われる場合
(調査方法等の例) 疑いのある項目を中心に調査
(状況に応じ指導又は監査と連携し調査)
●公表内容について、利用者等から通報があった場合
(調査方法等の例) 通報があった項目を中心に調査
(状況に応じ指導又は監査と連携し調査)
●実地指導と同時実施
(調査方法等の例) 実地指導の内容を考慮のうえ、連携し調査
●状況に応じて、調査する項目を選定して実施
●その他必要に応じて実施する場合
(調査方法等の例) 食中毒や感染症の発生、火災等の問題が生じた場合に、必要な項目について管内の事業所を調査
(状況に応じ行政指導等と連携し調査)
厚生労働省
※出典/転載/引用:介護サービス情報公表制度とは | 介護保険の解説 | 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」 (mhlw.go.jp)

いまさら聞けない介護保険の基礎知識を学び、見識を広めよう!~地域包括ケアシステムとは?


いまさら聞けない介護保険の基礎知識を学び、見識を広めよう!~地域包括ケアシステムとは?
 日本は、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行しています。65歳以上の人口は、現在3,500万人を超えており、2042年の約3,900万人でピークを迎えますが、その後も、75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されています。このような状況の中、団塊世代が75歳以上となる2025年(令和7年)以降は、国民の医療や介護の需要が、さらに増加することが見込まれています。このため、厚生労働省におい生活ては、2025(令和7)年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。
みんなで介護保険の正しい知識を学ぶことが大切です。なお、筆者は、団塊世代の「石辺金吉」こと『ざ~やん』で浅学菲才な上、遠視で小さな文字が読みにくいため文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。今回は、「地域包括ケアシステムとは?」を学習します。
最終改訂:令和4年8月30日


いまさら聞けない介護保険の基礎知識を学び、見識を広めよう!
地域包括ケアシステムとは?
   厚生労働省は、団塊世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を実現していきます。今後、認知症高齢者の増加が見込まれることから、認知症高齢者の地域での生活を支えるためにも、地域包括ケアシステムの構築が重要です。人口が横ばいで75歳以上人口が急増する大都市部、75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町村部等、高齢化の進展状況には大きな地域差が生じています。地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要です。
地域包括ケアシステム構築のプロセス
 市町村では、 2025年に向けて、3年ごとの介護保険事業計画の策定・実施を通じて、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じた地域包括ケアシステムを構築していきます。

地域包括ケアシステム構築のプロセス

地域包括ケアシステム構築へ向けた取組事例
 各自治体における取組事例を全国で共有して、取組みを推進することを目的に、全国の自治体から収集した先駆的な事例(地域包括ケア全般にわたるものの他、医療・介護・予防・生活支援・住まいなど、特色ある分野の取組を中心とした事例)の中から、他の自治体の参考になると考えられる取組事例をモデル例としてとりまとめました。
 日本地図から全国の事例を検索                 
地域包括ケアシステム構築モデル例」(一括)[4,808KB]
事例を通じて、我がまちの地域包括ケアを考えよう 「地域包括ケアシステム」事例集成~できること探しの素材集~[37,637KB]
「地域包括ケアシステム構築モデル例」(個別)
●(平成25年度老人保健健康増進等事業 地域包括ケアシステム事例分析に関する調査研究事業)


地域包括支援センターについて
地域包括支援センターは、地域の高齢者の総合相談、権利擁護や地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助などを行い、高齢者の保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とし、地域包括ケア実現に向けた中核的な機関として市町村が設置しています。現在、全国で5,270か所が設置されています。(ブランチ(支所)を含めると7,305か所)※令和3年4月末現在地域包括支援センターの概要
地域包括支援センターにおける業務実態や機能のあり方に関する調査研究事業(三菱総合研究所)
地域包括支援センターの事業評価を通じた取組改善と評価指標のあり方に関する調査研究事業(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
介護離職防止のための地域包括支援センターと労働施策等との連携に関する調査研究事業(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

全国の地域包括支援センターの一覧(都道府県のホームページへリンク)

厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課調べ(令和3年4月時点)
※ 都道府県でのホームページ更新等に伴い、掲載ページが変更になっている可能性があります。



地域ケア会議について  
 地域包括ケアシステムを構築するためには、高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時にすすめることが重要です。厚生労働省におきましては、これを実現していく手法として「地域ケア会議」を推進しています。
●地域包括ケアの実現に向けた地域ケア会議実践事例集 ~地域の特色を活かした実践のために~
( 全体版 [37,527KB])
( はじめに~第一章 [2,428KB])
東京都国分寺市 [1,431KB])(山梨県南アルプ市 [871KB])(岩手県宮古市 [1,112KB])(兵庫県朝来市 [2,388KB])(宮城県女川市 [1,536KB])( 千葉県千葉市 [1,263KB])(青森県青森市 [820KB])(鹿児島県霧島市 [1,188KB])(奈良県生駒市 [1,349KB])(大分県豊後高田市 [822KB])(参考資料~奥付 [2,088KB])
地域ケア会議の概要[783KB]
「地域ケア会議におけるQ&Aの送付について(平成25年2月14日事務連絡)[1,589KB]
地域ケア会議運営マニュアル(長寿社会開発センター)

医療と介護の連携について
 疾病を抱えても、自宅等の住み慣れた生活の場で療養し、自分らしい生活を続けられるためには、地域における医療・介護の関係機関が連携して、包括的かつ継続的な在宅医療・介護の提供を行うことが必要です。厚生労働省においては、関係機関が連携し、多職種協働により在宅医療・介護を一体的に提供できる体制を構築するための取組を推進しています。
在宅医療・介護の連携推進の方向性[177KB]
平成24年度在宅医療連携拠点事業の取組[682KB]
在宅医療の推進について

生活支援サービスの充実と高齢者の社会参加 
 今後、認知症高齢者や単身高齢世帯等の増加に伴い、医療や介護サービス以外にも、在宅生活を継続するための日常的な生活支援(配食・見守り等)を必要とする方の増加が見込まれます。そのためには、行政サービスのみならず、NPO、ボランティア、民間企業等の多様な事業主体による重層的な支援体制を構築することが求められますが、同時に、高齢者の社会参加をより一層推進することを通じて、元気な高齢者が生活支援の担い手として活躍するなど、高齢者が社会的役割をもつことで、生きがいや介護予防にもつなげる取組が重要です。
生活支援サービスの充実と高齢者の社会参加[614KB]
地域における生活支援サービスのコーディネーターの育成に関する調査研究事業(日本能率協会総合研究所)[25,443KB]
平成26年度中央研修(生活支援コーディネーター指導者養成研修)資料(日本能率協会総合研究所)
生涯現役社会の実現に向けた就労のあり方に関する検討会
地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集(保険外サービス活用ガイドブック)(全体版)[21,656KB]
地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集(保険外サービス活用ガイドブック)(分割版1)[4,234KB]
地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集(保険外サービス活用ガイドブック)(分割版2)[7,894KB]
地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集(保険外サービス活用ガイドブック)(分割版3)[7,252KB]
地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集(保険外サービス活用ガイドブック)(分割版4)[4,994KB]

関係情報

地域包括ケアシステムに関する主な報告書
地域包括ケア研究会報告書(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)
「<地域包括ケア研究会>地域包括ケアシステムの深化・推進に向けた制度やサービスについての調査研究事業-2040年:多元的社会における 地域包括ケアシステム ―「参加」と「協働」でつくる包摂的な社会―(平成31年3月)
「<地域包括ケア研究会>地域包括ケアシステム構築に向けた制度及びサ-ビスのあり方に関する研究事業-2040年に向けた挑戦-(平成29年3月)」
「<地域包括ケア研究会>地域包括ケアシステム構築に向けた制度及びサービスのあり方に関する研究事業-地域包括ケアシステムと地域ケアマネジメント-(平成28年3月)」
「<地域包括ケア研究会>地域包括ケアシステムを構築するための制度論等に関する調査研究事業」(平成26年3月)
「<地域包括ケア研究会>地域包括ケアシステム構築における今後の検討のための論点」(平成25年3月)
「地域包括ケア研究会報告書」(平成22年3月
「地域包括ケア研究会報告書 ~今後の検討のための論点整理~」(平成21年5月22日)
高齢者介護研究会報告書「2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~」(平成15年6月26日)


いまさら聞けない介護保険の基礎知識を学び、見識を広めよう!~介護保険とは?  


いまさら聞けない介護保険の基礎知識を学び、見識を広めよう!~介護保険とは?
 介護保険制度は、高齢化や核家族化の進行、介護離職問題などを背景に、介護を社会全体で支えることを目的として平成12(2000)年に創設されました。現在では、約674万人の方が要介護(要支援)認定を受け、介護を必要とする高齢者を支える制度として定着しています。介護保険への加入は40歳以上とし、40歳から64歳の方については、ご自身も老化に起因する疾病により介護が必要となる可能性が高くなることに加えて、ご自身の親が高齢となり介護が必要となる状態になる可能性が高まる時期であり、また老後の不安の原因である介護を社会全体で支えるために、保険料を負担しています。みんなで介護保険の正しい知識を学ぶことが大切です。なお、筆者は、団塊世代の「石辺金吉」こと『ざ~やん』で浅学菲才な上、遠視で小さな文字が読みにくいため文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。今回は、「介護保険とは?」を学習します。
最終改訂:令和4年8月29日


いまさら聞けない介護保険の基礎知識を学び、見識を広めよう!
介護保険とは?
 介護保険制度は、平成12年4月からスタートしました。介護保険制度の基本的な考え方は、以下のとおりです。
① 自立支援
 単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするということを超えて、高齢者の自立を支援することを理念とする。

② 利用者本位
 利用者の選択により、多様な主体から保健医療サービス、福祉サービスを総合的に受けられる制度

③ 社会保険方式
 給付と負担の関係が明確な社会保険方式を採用
 皆様がお住まいの市区町村(保険者といいます。)が制度を運営しています。私たちは40歳になると、被保険者として介護保険に加入します。65歳以上の方は、市区町村(保険者)が実施する要介護認定において介護が必要と認定された場合、いつでもサービスを受けることができます。また、40歳から64歳までの人は、介護保険の対象となる特定疾病により介護が必要と認定された場合は、介護サービスを受けることができます。平成27(2015)年4月からは介護保険の予防給付(要支援の方に対するサービス)のうち介護予防訪問介護と介護予防通所介護が介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」という。)に移行され、市町村の事業として実施されています。総合事業には、従前の介護予防訪問介護と介護予防通所介護から移行し、要支援者と基本チェックリストで支援が必要と判断された方(事業対象者)に対して必要な支援を行う事業(サービス事業)と、65歳以上の方に対して体操教室等の介護予防を行う事業(一般介護予防事業)があります。
※40歳以上の方は、介護保険料を毎月支払うこととなっており、この保険料は、介護保険サービスを運営していくための必要な財源になります。
●介護保険サービスの対象者等
 40歳以上の人は、介護保険の被保険者となります。
①65歳以上の人(第1号被保険者)
②40~64歳までの医療保険に加入している人(第2号被保険者)


●介護保険のサービスを利用できる人
①<65歳以上の人>(第1号被保険者)
 寝たきりや認知症などにより、介護を必要とする状態(要介護状態)になったり、家事や身じたく等、日常生活に支援が必要な状態(要支援状態)になった場合。
②<40歳~64歳までの人>(第2号被保険者)
 初老期の認知症、脳血管疾患など老化が原因とされる病気(※特定疾病)により、要介護状態や要支援状態になった場合。
※介護給付や予防給付のサービスを利用するには要介護(要支援)認定を受ける必要があります。
※特定疾病は次の16種類です。
筋萎縮性側索硬化症 脳血管疾患
後縦靭帯骨化症 進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
骨折を伴う骨粗しょう症 閉塞性動脈硬化症
多系統萎縮症 慢性関節リウマチ
初老期における認知症 慢性閉塞性肺疾患
脊髄小脳変性症 脊柱管狭窄症
糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
早老症 末期がん

サービス利用までの流れ

実際にサービスを受けるには?  
 実際にサービスを受けるにはどうしたらいいのでしょうか。
要介護認定の申請

 まずは、お住まいの市区町村の窓口で要介護認定(要支援認定を含む。以下同じ。)の申請をしましょう。申請後は市区町村の職員などから訪問を受け、聞き取り調査(認定調査)が行われます。また、市区町村からの依頼により、かかりつけのお医者さんが心身の状況について意見書(主治医意見書)を作成します。

 その後、認定調査結果や主治医意見書に基づくコンピュータによる一次判定及び、一次判定結果や主治医意見書に基づく介護認定審査会による二次判定を経て、市区町村が要介護度を決定します。介護保険では、要介護度に応じて受けられるサービスが決まっていますので、自分の要介護度が判定された後は、自分が「どんな介護サービスを受けるか」「どういった事業所を選ぶか」についてサービス計画書(ケアプラン)を作成し、それに基づきサービスの利用が始まります。
※要介護認定において「非該当」と認定された方でも、市区町村が行っている地域支援事業などにより、生活機能を維持するためのサービスや生活支援サービスが利用できる場合があります。お住まいの市区町村又は地域包括支援センターにご相談下さい。



●サービス利用までの流れ
 サービス利用までの流れをご確認いただけます。

①要介護認定の申請
要介護等認定の申請

 介護保険によるサービスを利用するには、要介護認定の申請が必要になります。申請には、介護保険被保険者証が必要です。
40~64歳までの人(第2号被保険者)が申請を行なう場合は、医療保険証が必要です。


②認定調査・主治医意見書
訪問調査・主治医意見書

 市区町村等の調査員が自宅や施設等を訪問して、心身の状態を確認するための認定調査を行います。主治医意見書は市区町村が主治医に依頼をします。主治医がいない場合は、市区町村の指定医の診察が必要です。
※申請者の意見書作成料の自己負担はありません。

③審査判定
審査判定

 調査結果及び主治医意見書の一部の項目はコンピューターに入力され、全国一律の判定方法で要介護度の判定が行なわれます。(一次判定)一次判定の結果と主治医意見書に基づき、介護認定審査会による要介護度の判定が行なわれます。(二次判定)

④認 定
認定

 市区町村は、介護認定審査会の判定結果にもとづき要介護認定を行ない、申請者に結果を通知します。申請から認定の通知までは原則30日以内に行ないます。認定は要支援1・2から要介護1~5までの7段階および非該当に分かれています。

【認定の有効期間】
■新規、変更申請:原則6ヶ月(状態に応じ3~12ヶ月まで設定)■更新申請:原則12ヶ月(状態に応じ3~24ヶ月まで設定)
※有効期間を経過すると介護サービスが利用できないので、有効期間満了までに認定の更新申請が必要となります。
※身体の状態に変化が生じたときは、有効期間の途中でも、要介護認定の変更の申請をすることができます。
⑤介護(介護予防)サービス計画書の作成
介護(介護予防)サービス計画書の作成

 介護(介護予防)サービスを利用する場合は、介護(介護予防)サービス計画書(ケアプラン)の作成が必要となります。「要支援1」「要支援2」の介護予防サービス計画書は地域包括支援センターに相談し、「要介護1」以上の介護サービス計画書は介護支援専門員(ケアマネジャー)のいる、市区町村の指定を受けた居宅介護支援事業者(ケアプラン作成事業者)へ依頼します。依頼を受けた介護支援専門員は、どのサービスをどう利用するか、本人や家族の希望、心身の状態を充分考慮して、介護サービス計画書を作成します。
※「要介護1」以上:居宅介護支援事業者(ケアプラン作成事業者)※「要支援1」「要支援2」:地域包括支援センター

⑥介護サービス利用の開始
介護サービス利用の開始

 介護サービス計画にもとづいた、さまざまなサービスが利用できます。

介護保険で利用できるサービスの種類と内容



●ケアプランとは?

ケアプランイメージ

 ケアプランとは、どのような介護サービスをいつ、どれだけ利用するかを決める計画のことです。
 介護保険のサービスを利用するときは、まず、介護や支援の必要性に応じてサービスを組み合わせたケアプランを作成します。ケアプランに基づき、介護サービス事業所と契約を結び、サービスを利用します。

【要介護1~5と認定された方】
■在宅のサービスを利用する場合→居宅介護支援事業者(介護支援専門員)に介護サービス計画(ケアプラン)を作成してもらいます。
■施設のサービスを利用する場合→施設の介護支援専門員がケアプランを作成。
【要支援1~2と認定された方】
 ケアプランは、地域包括支援センターに作成を依頼することができます。
※地域包括支援センターはお住まいの市町村が実施主体となっています。詳しくは、最寄りの市区町村にお問合せ下さい。


サービスにかかる利用料

利用料
介護サービスイメージ 介護保険サービスを利用した場合の利用者負担は、介護サービスにかかった費用の1割(一定以上所得者の場合は2割又は3割)です。仮に1万円分のサービスを利用した場合に支払う費用は、1千円(2割の場合は2千円)ということです。介護保険施設利用の場合は、費用の1割(一定以上所得者の場合は2割又は3割)負担のほかに、居住費、食費、日常生活費の負担も必要になります。ただし、所得の低い方や、1ヶ月の利用料が高額になった方については、別に負担の軽減措置が設けられています。
※居宅サービスを利用する場合は、利用できるサービスの量(支給限度額)が要介護度別に定められています。

●サービス利用者の費用負担等

要支援1 50,320円
要支援2 105,310円
要介護1 167,650円
要介護2 197,050円
要介護3 270,480円
要介護4 309,380円
要介護5 362,170円

<居宅サービスの1ヶ月あたりの利用限度額>
 居宅サービスを利用する場合は、利用できるサービスの量(支給限度額)が要介護度別に定められています。
(1ヶ月あたりの限度額:表のとおり)
 限度額の範囲内でサービスを利用した場合は、1割(一定以上所得者の場合は2割又は3割)の自己負担です。限度額を超えてサービスを利用した場合は、超えた分が全額自己負担となります。

<施設サービス自己負担の1ヶ月あたりの目安> 
 個室や多床室〔相部屋〕など住環境の違いによって自己負担額が変わります。
※介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の1ヶ月の自己負担の目安

要介護5の人が多床室を利用した場合

施設サービス費の1割 約25,200円(847単位×30日=25,410)
居住費 約25,650円(855円/日)
食費 約43,350円(1,445円/日)
日常生活費 約10,000円(施設により設定されます。)

要介護5の人がユニット型個室を利用した場合

施設サービス費の1割 約27,900円(929単位×30日=27,870)
居住費 約60,180円(2,006円/日)
食費 約43,350円(1,445円/日)
日常生活費 約10,000円(施設により設定されます。)
合計 約141,030円

●利用者負担の軽減について 
 利用者負担が過重にならないよう、所得に応じた区分により次の措置が講じられています。
<特定入所者介護サービス費(補足給付)>
 介護保険施設入所者等の人で、所得や資産等が一定以下の方に対して、負担限度額を超えた居住費と食費の負担額が介護保険から支給されます。なお、特定入所者介護サービス費の利用には、負担限度額認定を受ける必要がありますのでお住まいの市区町村に申請をしてください。

補給給付の支給の対象

設定区分 対象者 負担の上限額(月額)
第1段階 生活保護を受給している方等 15,000円(個人)
第2段階 市町村民税世帯非課税で公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下 24,600円(世帯)
15,000円(個人)
第3段階 市町村民税世帯非課税で第1段階及び第2段階に該当しない方 24,600円(世帯)
第4段階 ①市区町村民税課税世帯~課税所得380万円(年収約770万円)未満
②課税所得380万円(年収約770万円)~690万円(年収約1,160万円)未満
③課税所得690万円(年収約1,160万円)以上
①44,400円(世帯)
②93,000円(世帯)
③140,100円(世帯)

●介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、短期入所生活介護の場合(日額)
  基準費用額(日額) 負担限度額(日額)【】はショートステイの場合
第1段階 第2段階 第3段階① 第3段階②
食費 1,445円 300円 390円
【600円】
650円
【1,000円】
1,360円
【1,300円】
居住費 ユニット型個室 2,006円 820円 820円 1,310円 1,310円
ユニット型個室的多床室 1,668円 490円 490円 1,310円 1,310円
従来型個室 1,171円 320円 420円 820円 820円
多床室 855円 0円 370円 370円 370円
●介護老人保健施設、介護療養型医療施設、短期入所療養介護の場合(日額)
  基準費用額(日額) 負担限度額(日額)【】はショートステイの場合
第1段階 第2段階 第3段階① 第3段階②
食費 1,445円 300円 390円
【600円】
650円
【1,000円】
1,360円
【1,300円】
居住費 ユニット型個室 2,006円 820円 820円 1,310円 1,310円
ユニット型個室的多床室 1,668円 490円 490円 1,310円 1,310円
従来型個室 1,668円 490円 490円 1,310円 1,310円
多床室 377円 0円 370円 370円 370円

<高額介護サービス費>
月々の利用者負担額(福祉用具購入費や食費・居住費等一部を除く。)の合計額が所得に応じて区分された上限額を超えた場合、その超えた分が介護保険から支給されます。支給を受けるためには、市区町村に申請することが必要です。

設定区分 対象者 負担の上限額(月額)
第1段階 生活保護を受給している方等 15,000円(個人)
第2段階 市町村民税世帯非課税で公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下 24,600円(世帯)
15,000円(個人)
第3段階 市町村民税世帯非課税で第1段階及び第2段階に該当しない方 24,600円(世帯)
第4段階 ①市区町村民税課税世帯~課税所得380万円(年収約770万円)未満
②課税所得380万円(年収約770万円)~690万円(年収約1,160万円)未満
③課税所得690万円(年収約1,160万円)以上
①44,400円(世帯)
②93,000円(世帯)
③140,100円(世帯)

※「世帯」とは住民基本台帳上の世帯員で、介護サービスを利用した方全員の負担の合計の上限額を指し、「個人」とは介護サービスを利用したご本人の負担の上限額を指します。
※第4段階における課税所得による判定は、同一世帯内の65歳以上の方の課税所得により判定します。

<高額医療・高額介護合算制度> 
 同じ医療保険の世帯内で、医療保険と介護保険両方に自己負担が生じた場合は、合算後の負担額が軽減されます。決められた限度額(年額)を500円以上超えた場合、医療保険者に申請をすると超えた分が支給されます。
●負担上限額(世帯単位)

75歳以上 70~74歳 70歳未満
介護保険+後期高齢者医療 介護保険+被用者保険または国民健康保険
年収約1,160万円 212万円
年収約770~約1,160万円 141万円
年収約370~約770万円 67万円
~年収約370万円 56万円 60万円
市町村民税世帯非課税等 31万円 34万円
市町村民税世帯非課税
かつ年金収入80万円以下等
本人のみ 19万円
介護利用者が複数 31万円

間取り図の基本:略語や数字の意味と間取りのタイプはこれが決定版だ!(前編)


マンション間取り図の読み方、略語や数字の意味と間取りのタイプはこれが決定版だ!(前編)
   マンション購入やリフォーム決定版を検討しているの皆様が、自分のライフスタイルにあう間取りを選ぶためのコツやポイントを解説します。今回は、間取り図の基本について確認してみましょう。最終更新:令和4年8月27日


意外と知らない?間取りに出てくるアルファベットの意味を解説します 
 間取りの図面をみると、たくさんのアルファベットが出てきます。間取りを表すときによく使われる「3LDK」などの「数字+アルファベット」の文字ですが、どんな意味か学びましょう。

 
 これは居室の数とそれ以外の場所を示す略語を組み合わせたものです。「3」という数字が居室の部屋数を表し、次に続くアルファベットが居室以外の場所についての略語になっています。例えば「
L」は「リビング(居間)」、「Ⅾ」は「ダイニング(食事室)」、「K」は「キッチン(台所)」を表します。
この3室の組み合わせにより、3室一体化した空間「LDK」、居間を独立、食事と台所を一体化した「L・DK」、台所を独立、居間と食事室を一体化した「LD・K」、それぞれを独立させた「L・D・K」などがあります。つまり「3LDK」は3つの居室と、一体化したリビング・ダイニング・キッチンを有する間取りであることがわかります。この「DK」又は「LDK」という略語の始まりは、戦後の住宅難の時代に建設された集合住宅(公団アパート)で「ダイニングキッチン」(=DK型)が取り入れられたことが始まりでした。「DK型」は、限られた面積の中で「食寝分離」を実現させるために最も有効であると考えられ、同時に床に座って食事をするスタイルから椅子に座るスタイルへの転換を推し進めました。その後、家族の公の場であるリビング(居間)と個人の生活の場(個室)を分けて家族それぞれのプライバシーを尊重したいという要求から「
LDK型」の間取りが広く取り入れられるようになり、現在に至っています。
間取り図に「DK」または「LDK」と表記するために最低必要な広さの目安については、これまで不動産会社によって広さが異なるなどの問題が生じていました。そのため、不動産公正取引協議会連合会が2011年11月に次のような最低限の基準を定めています。例えば「2DK」なら2つの居室と6畳以上のDK、「2LDK」なら居室2室に10畳以上のLDKという間取りとなります。なお、一畳あたりの広さは1.62㎡以上となります。
(社)首都圏不動産公正取引協議会「DK(ダイニング・キッチン)及びLDK(リビング・ダイニング・キッチン)の広さ(畳数)の目安となる指導基準」より

「3LDK」を探していたら出会う「2LDK+S」の正体とは? 
 「2LDK+S」という表記を見かけるますが、このSの正体は、「サービスルーム」のことを指します。3LDKと表記せず、2LDK+Sと表記する理由は居室の定義が法律で決まっているからです。建築基準法で居室は以下のように定義されています。
・採光に必要な開口部(窓)が、床面積の1/7以上
・換気に必要な開口部が床面積の1/20以上 
 つまり、サービスルームと表記されている部屋に窓はあるが、採光や換気の観点で法律の基準を満たしていない部屋ということになります。法律上、1部屋として数えられないものの、実際に見学をして違和感がなければ住み心地は3LDKと同等と言っても差し支えない場合もあります。3LDKをお探しの方は、2LDK+Sで探してみてもいいのではないでしょうか。中には納戸に等しいくらいの窓なしの物置スペースもSと表記する場合もあるので、間取り図で部屋の大きさや窓の有無は確認しましょう。


 アルファベットで表記される室名がまだまだあります。 
LDK」の他にも、アルファベットで記載されている室名はたくさんあります。

図2】略語と意味

 実際にこれらの略語が使われている間取り図と、略語が示す場所の参考写真を見ながら説明しましょう。

「LDK」の他に「N」「DEN」などもよく使用されます。「N」は納戸、「DEN」は書斎や仕事部屋などに使う「多目的の小部屋」を示します。

「N(納戸)」
「DEN(書斎や仕事場)」

 室名ではありませんが、「MB」「WIC」「PS」「SK」なども見かける機会が多いでしょう。「MB」はメーターボックスの略で、中には電気や水道、ガスのメーターなどが格納されています。他人が検針するため、共用廊下の玄関近くに設けられます。MBの面積は専有面積には含められません。

「MB(メーターボックス)」

「WIC」はウォークインクローゼットを示します。ハンガーにかけた洋服を収納する一般的なクローゼットは奥行が55センチ~60センチですが、ウォークインクローゼットは扉の中に一歩入ってモノをしまうため、奥行はより広くなります。

「WIC(ウォークインクローゼット)」

 「PS」はパイプスペースの略で、中には給水管や排水管が通っており、キッチンの流しやユニットバス、トイレの近くに設けられます。将来、これらの水回りを移動するような大がかりな間取り変更リフォームの予定がある人は、このPSの位置が重要になってきます。

「PS(パイプスペース)」

 「SK」はスロップシンクの略で、蛇口と深いシンクがセットになっています。マンションではバルコニーに設けられることが多く、ガーデニングの水やりや掃除の際にぞうきんを洗ったりと、あると便利な設備のひとつです。

「SK(スロップシンク)」

 住まいを購入する時に必ずチェックする「間取り図」ですが、その中に表記された数字や記号には、ひとつひとつに意味があることをご理解いただけたと思います。これらを知っておくことで、間取り図を正しく読み取ることができ、購入の際の比較検討にも役に立つでしょう。これからの連載の中で本日ご紹介した略語が出てくる場面が多々あるかと思います。住まいさがしにおいて間取り図を見る時にもぜひ参考にしてください。

井上恵子(いのうえ・けいこ)

井上恵子(いのうえ・けいこ)
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所主宰/一級建築士/インテリアプランナー

総合建設会社の設計部で約14年間、主にマンションの設計・工事監理、性能評価などを担当。2004年の独立後は生活者の視点から「安心・安全・快適な住まい」「間取り研究」をテーマに、webサイトでの記事執筆、新聞へのコラム掲載、マンション購入セミナーの講師として活動。
著書に「住宅リフォーム計画」(学芸出版社/共著)「大震災・大災害に強い家づくり、家選び」(朝日新聞出版)などがある。夫と子ども2人との4人暮らし。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所 http://atelier-sumai.jp/
※出典/転載/引用:間取りの基本:略語や数字の意味と間取りのタイプ | マンションデータPlus【トレンド・コラム】byノムコム (nomu.com)


マンション間取り図の読み方、見方とチェックポイントを知ろう?


マンション間取り図の読み方、見方とチェックポイントはこれが決定版だ!(後編)
   前回は主な間取りのタイプや、略語についてご紹介しました。間取り図からは、住戸の向き(方位)、住戸の形、部屋の構成、各室の広さ、窓や扉の位置と開き勝手、バルコニー形状、家具や家電を置くスペースなどの情報を読み取ることができます。今回は、イザという時役に立つマンションの間取り図の読み方、見方とチェックポイントを解説します。
最終改訂:令和4年8月27日
 次の【図1】は一般的なファミリータイプのマンションの間取り図です。まずは住戸の向き(方位)と形を確認しましょう。

間取り図から住戸の方位と形を確認する

【図1】間取り図の例

 図中「17.方位記号」を見ると、北を示す「N」が右方向を指しているためバルコニーは東向きで、すなわちこの住戸は「東向き住戸」ということになります。一般的に日本では日当たりのよい南向き住戸が好まれる傾向がありますが、最近では、朝早くから活動する人は東向き、洗濯物を遅い時間に干し始める人は西向き、夫婦共働きで家には寝に帰る程度という人は北向きなど、ライフスタイルによって好む向きはさまざまになっています。【図1】の住戸の形に注目するとバルコニー面(間口)が短辺となる長方形をしています。この間口が狭い長方形の住戸は低層~高層の外廊下型マンションの中住戸によく見る形です。住棟の両端にある角住戸はもう少し複雑な形が増えてきます。

部屋の広さの確認方法 
 間取り図には、各室の広さが明記されています。和室の場合、1帖(畳)の広さは不動産の表示ルールで1.62m2以上とされており、今回の間取り図のように5.5帖と明記されている場合は8.91m2以上あることを示しています。間取り図ではこの和室には畳が6枚あるように見えますが、面積としては5.5帖分ということになります。一枚当たりの畳の大きさが基準より小さい等の理由が考えられます。
窓や扉の位置と開き勝手、バルコニー形状
 間取り図で黒い太線の部分は壁を示し、白抜きの部分は窓や扉、もしくは手すりやパネルなど壁以外のものを示しています。窓や扉には開き戸と引き戸があり、図の表現方法の違いで見分けます。

【図2】扉の種類

 例えば「5.引き戸」は扉が開く軌跡を示した1/4円が描かれておらず、横にスライドして開く引き戸であることがわかります。
 「6.(10.)開き戸」は、浴室方向に90度の角度で開く開き戸がついていると読み取ることができます。
 「13.引き違い扉」は左右どちらでも開閉できる引き戸が2枚あることを、「14.3本引き戸」は引き戸が3枚あることを示しています。開き戸の場合、扉の軌跡上にはモノが置けないので注意が必要です。

ウォークインクローゼットの引き戸
浴室の方に90度開く開き戸
和室とリビングを仕切る3本引き戸(写真左)

 最近では、バルコニーは単なる物干しスペースではなく、植物や野菜を植えてガーデニングを楽しんだり、イスやテーブルを置いてアウトドアリビングとして活用する人もいます。その場合は、バルコニーの形状や広さなどもチェックしてみてください。

家具や家電を置く場所のチェック

【図3】家具や家電を置く場所

 マンションの間取りは、家具や家電を置く場所をある程度想定してスペースを取っています。例えば「8.洗濯機置き場」「21.冷蔵庫置場」「22.食器棚置場」などが該当します。実際に内見すると、洗濯機置き場には給水のための蛇口と洗濯パン、冷蔵庫置場には冷蔵庫用のコンセントが設置されています。食器棚置場のスペースは空間だけで何もないことも多いのですが、炊飯ジャーや電子レンジを置く予定の人は、コンセントが近くにあるかどうか確認したいところです。

洗濯パン参考

間取り図のチェックポイント1
 動線(どうせん)
 動線とは、日常の生活で人が動く経路のことです。例えば、毎日の洗濯と食事作りを同時にする人は、洗濯機置き場とキッチンが近くにあると便利ですし、買い物に行く回数が多い人は、玄関と冷蔵庫の距離が近いほうがいいでしょう。このように、よく使う動線の経路が短いと、家事時間を短縮し、効率的に行うことができます。
間取り図のチェックポイント2
 家具のレイアウト
 先ほど、洗濯機や冷蔵庫、食器棚など、必要最低限の家具家電の設置スペースについては触れましたが、そのほかの家具、例えば、リビングセットやダイニングセット、テレビや本棚、ベッド、勉強机などについてはご自身で置けるかどうかチェックをしてみてください。特に、一戸建てからマンションに引っ越す場合は以前使っていた家具が入り切れないケースも多々見られます。地震対策の面からみても、置き家具はなるべく減らしたいところです。せっかく新居に引っ越すのですから、スッキリ暮らせるように家具は厳選してみてはいかがでしょうか。

より詳細な図面もしくは内見時には詰めのチェックを忘れずにします 
 今回は間取り図の見方を中心に解説をしました。新築マンションのパンフレットに掲載される間取り図では、梁の位置やエアコン、コンセントの設置位置など、より詳しい情報が盛り込まれていることがあります。インターネット上では見やすさを重視して簡略化することが多いため、分譲時の詳細な間取り図を入手することができるのか営業担当者に確認をしたり、内見時に位置やサイズをチェックしておくこともポイントです。間取り図の読み方がわかると、そこでの生活がより具体的にイメージできるようになりますね。住まい探しの際にも、間取り図を読み解くことで、ご自身の求める暮らしが実現できるかどうか、有力な判断材料となりうるのではないでしょうか。

井上恵子(いのうえ・けいこ)

井上恵子(いのうえ・けいこ)

住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所主宰/一級建築士/インテリアプランナー
総合建設会社の設計部で約14年間、主にマンションの設計・工事監理、性能評価などを担当。2004年の独立後は生活者の視点から「安心・安全・快適な住まい」「間取り研究」をテーマに、webサイトでの記事執筆、新聞へのコラム掲載、マンション購入セミナーの講師として活動。
著書に「住宅リフォーム計画」(学芸出版社/共著)「大震災・大災害に強い家づくり、家選び」(朝日新聞出版)などがある。夫と子ども2人との4人暮らし。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所 http://atelier-sumai.jp/
※ 出典/転載/引用:マンション間取り図の読み方、見方とチェックポイント | マンションデータPlus【トレンド・コラム】byノムコム (nomu.com)


いっしょに検証!公的年金(第1話)~「はじめに」を学習します。



いっしょに検証!公的年金(第1話)~「はじめに」を学習します。

 『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』か厚生労働省のホームベージに公開されています。筆者は、団塊世代の『ざ~やん』(ニックネーム)こと浅学菲才な高齢者ですが、日々の生活の糧である公的年金制度の正しい知識を学びたいと思います。
公的年金制度は、いま働いている現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方を基本とした財政方式で運営されています。また、日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっています。つまり、日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっています。筆者は、『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』を転載しますが、文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。今回は、第1話「はじめ」を学習します。
最終改訂:令和4年11月1日












  公的年金のこと、どのくらい知っていますか?

 皆さんは、公的年金についてどのくらいご存じでしょうか。難しい、よく分からないといった印象を持たれたり、ニュースや新聞などでいろいろな話題を見聞きしたりして、ご自分が受け取る年金に不安のある方もいらっしゃるでしょう。また、少子高齢化で年金財政が厳しいという話を聞き、不安が大きくなっている方もいらっしゃるでしょう。確かに少子高齢化により年金財政は厳しくなりますが、今の年金制度にはその対策も組み込まれており、年金額がゼロになることも、公的年金制度がなくなることも決してありません。過度に恐れず、将来を適切に考えていくため、正しく公的年金について知ることが大切です。

 公的年金はこんなに大事

 現在、日本国内における高齢者世帯の収入のうち6割を年金が占め、高齢者世帯の約半数については収入の全てが公的年金・恩給になっています。

 日本全体でみると、国民の3人に1人が年金を受給しており、年金総額は50兆円を上回っています。これは国民所得比で14%前後に相当し、年金が家計消費の2割を超える地域もあります。このように、公的年金制度は、高齢期の生活のかなりの部分を支えるものとして、極めて重要な役割を果たしています。また、現役世代にとっても、公的年金によって、親の経済的な生活の心配をすることなく安心して暮らすことができるようになっています。さらに、高齢になって働けなくなった場合だけでなく、障害を負った場合や、配偶者やお子さんを残して現役のうちに亡くなってしまったなどの事態にも対応しており、皆さんが安心して毎日を過ごすためにも必要不可欠です。

ガイド少子高齢化が進む中、高齢者が生活に使う公的年金は経済の活性化にも重要だニャ



 公的年金の健全性をチェックする仕組み、「財政検証」 
 公的年金制度は、予測できない生活上のリスクに備えるための仕組みであり、皆さんの生活を支えるとても大切な制度です。このため、公的年金制度を維持するために、国ではさまざまな取り組みを行っています。そして、公的年金が健全に運営されているかについて、財政検証という仕組みで定期的にチェックすることになっています。財政検証は、少なくとも5年に一度、公的年金財政(保険料収入や給付に必要な額の収支)の健全性を検証する仕組みです。この財政検証では、今後の日本の人口や経済の見通しをもとに、これからの約100年間、公的年金の財政状況がどのように推移するかを計算します。財政検証の結果はレポートとして公開されており、今後の公的年金の給付水準の見通しなどを知ることができます。

 このサイトの目的 
 このサイトでは、公的年金制度を長期にわたって維持するための仕組みと、公的年金財政をチェックする「財政検証」を中心に、年金の基本的な考え方や、年金に関係するいろいろなデータを分かりやすく紹介しています。

ガイド公的年金のこと、財政検証のこと、もっと知ってほしいニャ!



厚生労働省
※ 出典/転載:はじめに | いっしょに検証! 公的年金 | 厚生労働省 (mhlw.go.jp)

いっしょに検証!公的年金(第2話)~公的年金と貯蓄の違いを学習します



いっしょに検証!公的年金(第2話)~「公的年金と貯蓄の違い
」を学習します。
 『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』か厚生労働省のホームベージに公開されています。筆者は、団塊世代の『ざ~やん』(ニックネーム)こと浅学菲才な高齢者ですが、日々の生活の糧である公的年金制度の正しい知識を学びたいと思います。公的年金制度は、いま働いている現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方を基本とした財政方式で運営されています。また、日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっています。つまり、日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっています。筆者は、『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』を転載しますが、文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。
今回は、第2話「公的年金と貯蓄の違い」を学習します。
最終改訂:令和4年11月1日











 どうして公的年金制度があるの?。誰にでもある「人生のリスク」に対応するためです
 人生には、さまざまなリスクがあります。高齢によって働くことができなくなる、思いがけない事故や病気で障害を負ってしまった、一家の大黒柱が亡くなってしまった……など、安定した収入を得られず生活できなくなるリスクは予測できません。そうした「もしものとき」に備えるため、生命保険や医療保険などに入る方や貯蓄をする方もいらっしゃいます。でも、その備えが「いつ」「どれだけ」「いつまで」必要なのかは、誰にも分かりません。誰にでも起こり得ることなのに、すべての人が、あらゆる事態を予測して、十分に備えることは困難なのです。こうした「人生のリスク」にすべての人が備えられるよう、公的年金は国が公的制度として運営しています。

 公的年金で対応できる人生のリスクって?

 公的年金は、大きく「老齢」「障害」「死亡(遺族に対する保障)」というリスクに備えています。

 公的年金の種類(基礎年金の場合)

老齢基礎年金 障害基礎年金 遺族基礎年金
65歳から終身給付を受けることができる年金。「年金」というとこの老齢年金を指す場合が多い 加入中、病気やけがなどで一定の障害を負った場合に支給される。また、20歳前の障害にも対応している 年金受給者や被保険者が亡くなったとき、原則18歳以下(※1)の子がいる配偶者(※2)か子が給付を受けられる
※1 18歳になった年度の3月31日まで
※2 夫が遺族基礎年金を受けられるのは、妻の死亡が平成26(2014)年4月1日以降の場合

※より詳しい支給要件、給付水準や
厚生年金の内容については、
日本年金機構のサイトでご確認ください

日本年金機構(外部サイト)

 公的年金の特徴 
 公的年金は、一般的に老後の生活資金として考えられていますが、老後に備えて個人で貯蓄した場合と比べて、以下のような特徴があります。

1.生涯にわたって受給できる

 誰でも、何歳まで生きるか分かりません。老後に備えて貯蓄をしていても、それを使い切ってしまう可能性もあります。逆に、老後への不安から現役時代に過度な貯蓄をしようとすると、若いときの消費が低くなってしまいます。それに対して公的年金は、終身で(亡くなるまで)受給できる仕組みです。これによって現役時代に過剰な貯蓄を行う必要がなくなりますし、なによりも、長生きして生活資金がなくなるという事態に備えることができるのです。

 何歳まで生きる?

 老後にどれくらいお金がかかる?

2.物価変動や賃金上昇など、経済の変化に比較的強い

 将来、急激なインフレや給与水準の上昇によって、貯蓄の価値がなくなってしまうかもしれません。また、緩やかな上昇であったとしても、次第に貯蓄の価値が低下してしまうことが起こり得ます。公的年金は生活を支えるために、その時々の経済状況に応じた
実質的な価値が保障された給付を行っています(「実質的な価値」について詳しくは、マンガで読む公的年金制度 第5話をご覧ください)。

 現在の公的年金制度は、経済の変動に比較的強い仕組みなのです。

 将来の物価はどうなる?

 将来の賃金はどうなる?

3.重度の障害を負った/一家の大黒柱が亡くなったときに対応できる

 突然の事故や病気などで障害を負ってしまうかもしれません。また、家計の担い手が小さな子どもと配偶者を残して亡くなってしまう可能性もあります。こうした事態に備えるため、公的年金は老後に対する備えだけでなく、障害を負った人や遺族への保障も行っています。

 予測できないリスク

 公的年金のメリットってなに?
 公的年金は広義の保険であり、老齢・障害が残るようなけがや病気・死亡などに対してみんなで支えあう仕組みです。公的年金に加入して保険料を納めていくことで、生涯にわたって安心を得ることができます。公的年金が皆さんに提供するもっとも大きな価値は、金額ではなくこの安心です。そのため、制度を維持し、皆さんがずっと安心して暮らしていけることが、公的年金の最大の意義ともいえます。このように、経済的な損得ではなく、公的年金のメリットである生涯にわたる安心に、もっと目を向けてもいいのではないでしょうか。

ガイド たとえば、みんな国民健康保険、協会けんぽや組合健保の保険料を払っていると思うニャ。だけど、こうした公的医療保険は、けがをしたり、病気になったりしなければ給付は受けられないニャ。これを損だと思うかニャ?

ガイド いつ病気になるかはわからないし、万一のことを考えると安心できるから、病気にならなかったからといって損だ
とは思わないよね



 ガイドそうニャ。公的年金も同じで、予測できない事態に備えて、『安心』を得られることが一番のメリットなんだニャ。安心というのはお金に換算できないものだニャ。でも、それこそが公的年金の最大の価値といえるから、金額の損得だけに着目すると、本質を見逃してしまう恐れがあるニャ

ガイドもともと、経済的に得をするための制度ではないってことよね


ガイドそうニャ、公的年金に限らず、社会保障制度はどれも社会全体で支えあい、みんなで『安心』を得るためのものだニャ


 まとめ

 公的年金は、予測することができない人生のリスクに備え、すべての人が安心して暮らせるように国が制度化している。財政検証の詳しい結果はこちら2019(令和元)年財政検証結果


いっしょに検証!公的年金(第3話)~私的扶養と社会扶養を学習します



いっしょに検証!公的年金(第3話)~私的扶養と社会扶養を学習します。

 『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』か厚生労働省のホームベージに公開されています。筆者は、団塊世代の『ざ~やん』(ニックネーム)こと浅学菲才な高齢者ですが、日々の生活の糧である公的年金制度の正しい知識を学びたいと思います。公的年金制度は、いま働いている現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方を基本とした財政方式で運営されています。また、日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっています。つまり、日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっています。筆者は、『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』を転載しますが、文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。
今回は、第3話「私的扶養と社会的扶養」を学習します。
最終改訂:令和4年11月1日











 扶養には2つの仕組みがあります

 扶養とは、「自立して生きていくのが難しい人を援助する」という意味です。扶養の形態には、大きく分けると「私的扶養」と「社会的扶養」という2つの仕組みがあります。それぞれの仕組みがどういうものか詳しく見ていきましょう。

 私的扶養って? → 自分で自分の家族を支える仕組みです

 私的扶養とは、高齢者や障害者など働くことのできない人を家族・親族で養うという考え方です。私的扶養の場合、主に扶養する側とされる側が、同居もしくは近居であることが特徴です。公的年金が成熟する前はこの私的扶養が一般的でしたが、扶養される親の寿命や健康状態、支える側の家族・親族の人数などはさまざまで、各世帯の負担にばらつきがありました。

 社会的扶養って? → 社会全体で支え合いをする仕組みです

 社会的扶養は私的扶養と異なり、働くことのできない人を社会全体で支えるという考え方です。日本の公的年金制度はこの社会的扶養を基本としており、現役世代が年金保険料を納め、国を通じて高齢者へ年金を支給する仕組みです。このため、子や親族と離れた土地にいる高齢者だけの世帯でも、経済的な不安が軽減され、より良い暮らしがしやすくなります。また、社会的扶養は、すべての人が等しく保険料を負担するため、私的扶養にみられる「世帯、個人の負担のばらつき」をある程度軽くすることができます。

ガイドわたしが一人で暮らしていけるのは、社会的扶養の仕組みがあるからなんだね

私的扶養と社会的扶養の違い

私的扶養 社会的扶養
暮らし方 主に家族の同居や近居を前提 高齢者だけの世帯で生活可能
経済的支援 仕送りや同居など家族・親族が負担 国を通じて社会全体で負担

 私的扶養、いまの日本では難しい?

 私的扶養の場合、扶養する相手(親など)と同居したり、近くに住んで生活を支えたりすることが必要になります。ですが、戦後の日本では、地方から都会に出てサラリーマンになる若い人が増え(都市化)、都市部に人口が集中していきました。また、その人たちが都市部で家庭を持ち、親と離れて夫婦と子どもだけ(核家族)で暮らすことが一般的になったため、親と同居もしくは近居して扶養することが難しくなっていったのです。同時に、高齢者だけの世帯が増えたことで、送迎や宅配などさまざまなサービスが発展し、高齢者だけでも生活がしやすくなりました。また、昔と比べて、医療の技術が発達し、衛生状態が改善するなど、高齢者が健康に生活できるようになりました。このため、平均寿命が延び、親を扶養する期間が長くなってきており、子どもが引退して年金受給が始まった後も両親がまだご健在である場合も珍しくなくなってきました。このような場合、私的扶養では孫世代が両親だけでなく祖父母の扶養まで負うことになり、特に一人っ子には重い負担になるおそれがあります。一方、高齢者からみた場合、不幸にして子どもに先立たれてしまった場合などには、私的扶養を前提にしていると生活が困難な状況となってしまいます。

長女私たちが田舎に住むのも難しいし、おばあちゃんが都会にくるのも大変。近くで面倒を見るのってハードルが高いよね



 だから、公的年金は社会的扶養なんです  
 上記のような都市化・核家族化によって、同居や近居での私的扶養が難しくなると同時に、平均寿命が延びたため親を養う期間も次第に長くなり、子世代にかかる負担が大きくなってきました。こういった変化のなかで、社会全体で高齢者を支える仕組みが公的年金制度として整ったのです。現役世代は、年金保険料を納めることで親の生活を心配することなく生活ができ、高齢者は、公的年金によって、自分の子どもに過度な負担をかけず、経済的に自立した生活が送れます。親と遠く離れて暮らすことの多い現代の日本では、社会的扶養が扶養する側にもされる側にも安心できる制度なのです。また、このように社会全体で支えていく仕組みの方が、個人や家族だけで支えるよりも確実で効率的であるといえます。

参考:家族をめぐる代表的な変化

  昔(1970年) 現代(2020年)
三世代同居世帯数 485万世帯 160万世帯
高齢単身世帯数 39万世帯 672万世帯
家族の人数 3.69人 2.21人
平均寿命 男性 69.31歳
女性 74.66歳
男性 81.56歳
女性 87.71歳
平均余命(65歳時) 男性 12.50年
女性 15.34年
男性 19.97年
女性 24.88年
サラリーマンの割合 64.9% 89.5%

出典:「国勢調査」(総務省)、「完全生命表」(厚生労働省)、「労働力調査」(総務省)


 まとめ

〇 扶養には、自分で両親や親族を養う「私的扶養」と高齢者や障害者への支援を社会全体で負担する「社会的扶養」がある。
〇 ライフスタイルや家族構成の変化によって、私的扶養が次第に難しくなってきた。
〇 公的年金は社会的扶養の考え方をベースにしている。
〇 公的年金が社会的扶養であることで、扶養する側もされる側も安心して自分の生活を送ることができる。
厚生労働省※ 出典・転載:私的扶養と社会的扶養 | いっしょに検証! 公的年金 | 厚生労働省 (mhlw.go.jp)


いっしょに検証!公的年金(第4話)~日本の公的年金は 2階建てを学習します



いっしょに検証!公的年金(第4話)~日本の公的年金が2階建てを学習します。

 『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』か厚生労働省のホームベージに公開されています。筆者は、団塊世代の『ざ~やん』(ニックネーム)こと浅学菲才な高齢者ですが、日々の生活の糧である公的年金制度の正しい知識を学びたいと思います。公的年金制度は、いま働いている現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方を基本とした財政方式で運営されています。また、日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっています。つまり、日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっています。筆者は、『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』を転載しますが、文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。
今回は、第4話「日本の公的年金が2階建て』を学習します。
最終改訂:令和4年11月1日






















公的年金の仕組み
 日本の公的年金は、日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金(基礎年金)」と、会社などに勤務している人が加入する「厚生年金」の2階建てになっています。また、3階部分として、企業が任意で設立し社員が加入する企業年金や、国民年金の第1号被保険者が任意で加入できる国民年金基金などがあります。

 働き方、暮らし方で変わる年金加入の形 
 20歳以降のライフスタイルによって、加入する年金や保険料が変わります。公的年金制度では、それを下の表のように区別しています。

被保険者の種別 第1号被保険者 第2号被保険者 第3号被保険者
職業 自営業者・学生・無職など 会社員・公務員など 専業主婦(夫)など
加入する制度 国民年金のみ 国民年金と厚生年金 国民年金のみ

 国民年金とは
 国民年金(基礎年金)は、日本に住んでいる20歳から60歳未満までのすべての人が加入します。国民年金のみに加入する人(第1号被保険者)が月々納付する年金保険料は定額(2022(令和4)年度時点で16,590円)です。2004(平成16)年度から保険料が段階的に引き上げられてきましたが、2017(平成29)年度に上限(2004(平成16)年度価格※で16,900円)に達し、引き上げが完了しました。また、2019(平成31)年4月から第1号被保険者に対して産前産後期間の保険料免除制度が施行されることに伴い、2019(令和元)年度分より、2004(平成16)年度価格で保険料が月額100円引き上がり、17,000円になりました。

※2004(平成16)年度の賃金水準での価格です。実際には、その時々の賃金の状況に応じて変わります。
 国民年金(基礎年金)の支給開始年齢は65歳で、納付した期間に応じて給付額が決定します。20歳から60歳の40年間すべて保険料を納付していれば、月額約6.5万円(2022(令和4)年度)受給することができます。

年金の受給開始時期を変えることもできます。(繰上げ受給、繰下げ受給)
 60歳から65歳になるまでの間でも、希望すれば給付を繰り上げて受けること(繰上げ受給)ができます。ただし、繰上げ受給の請求をした時点に応じて年金が減額され、年金額は減額されたまま一生変わりません。逆に、65歳で請求せずに66歳から70歳までの間で老齢基礎年金を繰下げて請求すること(繰下げ受給)もできます。この場合、繰下げの請求をした時点に応じて年金額が増額されます。なお、2020(令和2)年の年金制度改正で、2022(令和4)年4月から繰下げ受給できる年齢の上限が70歳から75歳になりました。
年金の繰上げ受給(日本年金機構)
年金の繰下げ受給(日本年金機構)

 国民年金の納付猶予と免除制度 
 学生のときや、失業や所得が低いなどの理由で保険料を納めることが難しい人に対しては、保険料の納付を一時的に猶予したり、納付を免除したりする制度があります。猶予された期間と免除された期間はどちらの場合も年金を受け取るために必要な期間受給資格期間)に算入されますが、受け取れる年金額は、保険料を全額納付した場合と比べて少なくなります。猶予や免除された期間は、申請をして猶予・免除期間分の保険料を後から納めることができます(後で納付した分は、年金額の計算をする際、保険料を全額納付した場合と同様に扱われます)。なお、猶予と免除では年金額に違いがあります。猶予された期間は年金額へ反映されませんが、免除された期間は年金額へ一部反映されます。また、2019(平成31)年4月から第1号被保険者に対して産前産後期間の保険料免除制度が施行されました。他の免除制度とは異なり、この免除期間中の保険料を後から納める必要はなく、免除期間分の年金額が少なくなることもありません。どの制度も、利用するには手続きが必要です。制度の利用条件や手続きに必要なものについては、以下で紹介する日本年金機構のサイトをご覧ください。

ガイド手続きをしないと、もしものときに年金が給付されない可能性があるニャ。必ず手続きしてくださいニャ!納付猶予と




 保険料免除はここが違う

  老齢基礎年金 障害基礎年金
遺族基礎年金
受給資格期間への算入 年金額への反映 受給要件
納付
納付猶予
学生納付特例
×
全額免除 ○(※2)
一部免除(※1) ○(※3)
産前産後期間の
保険料免除
未納 × × ×

※1 一部免除の承認を受けている期間については、一部納付の保険料を納付していることが必要です。
※2 2009年4月分以降は、2分の1が国庫負担されます。
(2009(平成21)年3月分までは3分の1が国庫負担)
※3 4分の1納付の場合は「5/8」が年金額に反映します。
(2009(平成21)年3月分までは1/2)
 2分の1納付の場合は「6/8」が年金額に反映します。
(2009(平成21)年3月分までは2/3)
 4分の3納付の場合は「7/8」が年金額に反映します。
(2009(平成21)年3月分までは5/6)
注.納付猶予、学生納付特例、全額免除、一部免除は、10年以内であれば、猶予や免除された期間分の保険料を後から納めることができます。その場合、老齢基礎年金の額を計算するときに、保険料を全額納付した場合と同様に扱われます。ただし、猶予や免除されたときから2年を超えて納める場合は、その当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされます。

猶予、免除を受けたい! 自分でも申し込める?

【学生納付特例制度】
20歳以上で大学などに在学しており厚生年金に加入していない方で、本人の所得が一定以下の場合に、在学中の保険料納付が猶予されます。
国民年金保険料の学生納付特例制度(日本年金機構)

【納付猶予制度】
20歳以上50歳未満の厚生年金に加入していない方で、本人と配偶者の前年の所得が一定以下の場合、保険料の納付猶予を申請することができます。
(2025(令和7)年6月までの時限措置)
国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度(日本年金機構)

【保険料免除制度】
 厚生年金に加入していない方で、本人・世帯主・配偶者の前年の所得が一定以下の場合、保険料の免除を申請することができます。
免除は全額・4分の3・半額・4分の1の4種類があり、所得に応じて利用できる種類が異なります。
国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度(日本年金機構)

厚生年金とは  
 厚生年金は、会社などに勤務している人が加入する年金です。保険料は月ごとの給料に対して定率となっており(2017(平成29)年度以降18.3%)、実際に納付する額は人により異なります。また、厚生年金は事業主(勤務先)が保険料の半額を負担しており(労使折半)、実際の納付額は、給与明細などに記載されている保険料の倍額となります。従来の支給開始年齢は60歳でしたが、段階的に引き上げられ、2025(令和7)年度(女性は2030(令和12)年度)には65歳になります。

特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢の引上げについて(日本年金機構)

年金の受給開始時期を変えることもできます(繰上げ受給、繰下げ受給)。

厚生年金も基礎年金と同様に、受け取る時期を繰り上げたり繰り下げたりすることができます。このとき、繰上げ受給すると年金額が減額され、そのまま一生変わらないこと、繰下げ受給すると年金額が増額されることも基礎年金と同じです。

年金の繰上げ受給(日本年金機構)

年金の繰下げ受給(日本年金機構)

ガイド厚生年金は、会社で働いていれば20歳前でも加入するんだね。高校を卒業してすぐに入社したうちの新人も、もちろん加入しているわ

                                           


 厚生年金の年金額
 厚生年金は、働いていたときの給料と加入期間に応じて給付額が決められます。また、現役時代に納付する保険料には国民年金保険料も含まれているため、国民年金分と厚生年金分の両方を受け取ることができます。

※もっと詳しく知りたい方は、日本年金機構が提供するねんきんネットのサービスを利用してください

 基礎年金と厚生年金の合計額は現役時に得た総賃金により異なる 
 厚生年金の年金額は、現役時に得た総賃金によって異なり、総賃金が高いほど高くなりますが、現役時の賃金水準ほどは差がつかない仕組みになっています。これは、厚生年金は現役時に得た賃金に比例するのに対し、全国民共通の基礎年金は、納付期間が同じであれば、賃金の多寡によらず定額であるためです。現役時に高所得であった世帯は個人年金や貯蓄などで老後に備えることができますが、所得の低い世帯は、現役時のうちに十分な老後の備えをすることが困難かもしれません。そのため、基礎年金により、賃金が低い方にも配慮がある仕組みとなっています。このような背景を踏まえ公的年金では、世帯構成や現役時代の所得の違いを軽減するように設計されています。これを「所得の再分配」ということもあります。また、所得の高い人ほど税金を多く払っていますが、その税金の一部は国庫負担として年金に投入され、受給者に還元されています。このように、高所得者から低所得者に対して、間接的に所得の分配が行われているのです。

 企業年金、国民年金基金など 
 年金制度には他にも、企業が任意で設立し社員が加入する企業年金や、国民年金の第1号被保険者が任意で加入できる国民年金基金などがあります。これらはそれぞれ厚生年金、国民年金(基礎年金)に上乗せされて受給することができます。

 まとめ
●公的年金は2階建て(1階部分「国民年金(基礎年金)」、2階部分「厚生年金」)
●国民年金は日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入。厚生年金は会社などに勤務している人が加入。
●国民年金の保険料は原則として全員が同じで定額。厚生年金の保険料は収入に対して定率(額は収入に応じて変わる)。
●現役時代の所得が高いほど基礎年金と厚生年金を合わせた年金額が高くなるが、基礎年金が所得の多寡によらず定額であるため、現役時ほどは差がつかない。公的年金制度が持つこのような機能を所得再分配機能という
●公的年金の上乗せとして、企業年金、国民年金基金などの制度があり、年金額を増やすことができる。



いっしょに検証!公的年金(第5話)~賦課方式と積立方式を学習します



いっしょに検証!公的年金(第5話)~賦課方式と積立方式を学習します。

 『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』か厚生労働省のホームベージに公開されています。筆者は、団塊世代の『ざ~やん』(ニックネーム)こと浅学菲才な高齢者ですが、日々の生活の糧である公的年金制度の正しい知識を学びたいと思います。公的年金制度は、いま働いている現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方を基本とした財政方式で運営されています。また、日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっています。つまり、日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっています。筆者は、『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』を転載しますが、文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。
今回は、第5話「賦課方式と積立方式」を学習します。
最終改訂:令和4年11月1日










 年金の財政方式 
 年金制度は、長い期間にわたって財政のバランスが取れるように運営していかなければなりません。このとき、どのように年金制度を運営していくかによって、大きく2つの財政方式があります。それは「賦課方式」と「積立方式」というもので、受給者に年金を支払うために必要な財源を用意するための方法が異なります。

 賦課方式とは 
 賦課方式は、年金支給のために必要な財源を、その時々の保険料収入から用意する方式です。現役世代から年金受給世代への仕送りに近いイメージです。現役世代が高齢になって年金を受給する頃には、その下の世代が納めた保険料から自分の年金を受け取ることになります。

 積立方式とは 
 積立方式は、将来自分が年金を受給するときに必要となる財源を、現役時代の間に積み立てておく方式です。


 日本の公的年金は「賦課方式」を基本にしています
 現在の日本の公的年金は、基本的に「賦課方式」で運営されており、現役世代が納めた保険料は、そのときの年金受給者への支払いにあてられています。その理由は、公的年金の実質的な価値を維持することにあります。年金の実質的な価値=決まった額ではなく、物価、所得水準に応じた「経済的価値」です。なぜ、賦課方式のほうが公的年金の実質的な価値を維持できるのか、賦課方式と積立方式の特徴をみていきましょう。

 賦課方式と積立方式の特徴

 積立方式の特徴
●民間保険と同様に、現役時代に積み立てた積立金を原資とすることにより、運用収入を活用できる。
インフレによる価値の目減りや運用環境の悪化があると、積立金と運用収入の範囲内でしか給付できないため、年金の削減が必要となる
 賦課方式の特徴
●社会的扶養の仕組みであり、その時の現役世代の(給与からの)保険料を原資とするため、インフレや給与水準の変化に対応しやすい(価値が目減りしにくい)。
 現役世代と年金受給世代の比率が変わると、保険料負担の増加や年金の削減が必要となる。少子高齢化で生産力が低下した影響はいずれも受けるが、積立方式は運用悪化や物価上昇など市場を通して、賦課方式は保険料収入の減少などを通して受ける。)

 積立方式の特徴~価値の目減りとは 
 将来受け取る予定の年金として、現時点で一定の額を積み立てておいても、急激なインフレや給与水準の上昇があると、その額の価値が著しく減少してしまう可能性があります。これを価値の目減りといい、多額の積立金を必要とする積立方式では、このような事態が起こり得るのです。

参考:1965年と2020年の物価の違い

品目 1965年 2020年
鶏肉 100g 71.8円 128円(1.8倍)
牛乳 瓶1本 20円 133円(6.6倍)
カレーライス 1皿 105円 714円(6.8倍)
コーヒー(喫茶店) 1杯 71.5円 512円(7.2倍)
ノートブック 1冊 30円 162円(5.4倍)

出典:小売物価統計調査

ガイド昔は100円でおつりがきたけど、今じゃ100円では買えないものも多くなったのう。物価が上がってお金の価値が下がってしまうことが、長い間には起こりうるんじゃな


 このように価値の目減りが起こってしまうと、現役時代に貯めた年金額が十分な価値ではなくなる恐れがあります。そうなると高齢者の生活を支えるという公的年金の役割が果たせなくなってしまいます。
また、株価の大幅な下落や為替の変動などの影響を受けて、積み立てていた年金の運用結果がマイナスに転じた結果、積立金が減少して将来受け取れる年金額が減ってしまうことも考えられます。

 積立方式における世代間格差 
 上記のように、積立方式の場合でも、納められた保険料をそのままにしておくことはありません。より十分な給付のために、保険料を運用し、その利益も給付に充てていくことになります。ただし、こうした資産運用は、市場の変化による影響を大きく受けやすく、市場からどのような影響を受けるかは、世代によって異なります。たとえば、1980年代後半のバブル景気の頃と、2008年のリーマン・ショック後を比べると、その差は明らかです(リーマン・ショックは各国の経済に大きな打撃を与え、世界中で資産価値の暴落が起きました)。積立方式だからといって、世代による差がなくなるとは言い切れないのです。

参考:日経平均株価の推移

注 各月末の終値である。
 日経平均株価は日本経済新聞社の著作物です

 少子高齢化の影響
 少子高齢化で社会全体の生産力(GDP)が低下すると、その影響は賦課方式でも積立方式でも受けることとなりますが、その影響を受ける経路が異なります。賦課方式は、保険料収入の減少という形で影響を受けます。一方、積立方式は、低成長による運用悪化やインフレによる年金の実質価値の低下など、市場を通して影響を受けます。

 賦課方式の場合
 賦課方式では、社会的扶養の仕組みであるため、その時々の現役世代が負担する保険料を財源として、年金を給付します。少子高齢化が進行すると、保険料を負担する現役世代の人数が減り、年金を受け取る高齢者の人数が増加していきます。このため、賦課方式のもとで年金の給付水準を維持しようとすると、現役世代の保険料負担が増えてしまうことになります。逆に、現役世代に保険料負担がかかりすぎないようにすると、年金の給付水準が下がってしまいます。

 積立方式の場合
 積立方式の場合でも、少子高齢化で社会全体の生産力(GDP)が低下するとその影響を受けます。積立方式でも、現役世代が生産した財やサービスを、公的年金を通して高齢者が消費する仕組みは変わりません。少子高齢化で生産力が低下すると、高齢者に回せる分も減ることになります。その影響は、低成長に伴う運用悪化やインフレによる年金の実質価値の低下など、市場を通して受けます。

 少子高齢化の影響を軽減する年金積立金
 下の図のように、賦課方式では、年金給付の財源は現役世代からの保険料が主なものとなります。しかし、このまま少子高齢化が進み、年金の給付に必要な額を現役世代からの保険料収入だけで用意しようとすると、収入が不足し、十分な年金給付を行えなくなる可能性があります。そこで、現在の公的年金制度では一定の年金積立金」を保有し、それを活用することで、こうした少子高齢化の影響を軽減するようにしています。年金積立金の詳細についてはマンガで読む公的年金制度 第6話をご覧ください。

 公的年金が賦課方式を基本としている理由
 公的年金は、皆さんが安心して暮らしていくための保険であり、高齢で働くことが困難になったときなどの生活を支えるという役割も担っています。そのため、年金としての価値が下がる可能性がある積立方式のリスクは、無視することができません。逆に、賦課方式の場合は納められる保険料がそのときの給与水準に応じたものであるため、給付に関してもその時々の経済状況に対応しやすいというメリットがあります。国民年金の保険料は個々人の収入によらず定額ですが、社会全体の給与水準の変動に応じて、毎年度の具体的な金額は変動します。また、厚生年金の保険料は給料に対する定率なので、個人の給与水準が変化すれば、納める保険料も変化します。アメリカやドイツなど諸外国の財政方式をみても、最初は積立方式で始まったものの、予測できない社会や経済の大きな変化に事後的に対応していくなかで賦課方式を基本とする財政運営に変わっていきました。日本の公的年金制度は、賦課方式を基本としながらも、積立金を保有するメリットも生かした財政運営を行っています。今の日本では、これが公的年金制度に最も適した財政方式ではないでしょうか。

 まとめ
●保険料をそのときの年金受給者への支払いに充てるのが「賦課方式」
●保険料を自分が将来受け取る年金として積み立てておくのが「積立方式」
●賦課方式は経済変動に強い
●積立方式は運用収入を活用できるが、経済変動に弱い(目減りの可能性がある)
・公的年金の財政方式は、賦課方式を基本とした財政方式である。   

 これは賦課方式と積立方式のよいところを組み合わせる方式で、積立金を活用することによって、賦課方式のデメリットを補っている。


いっしょに検証!公的年金(第6話)~積立金の役割を学習します。



いっしょに検証!公的年金(第6話)~積立金の役割を学習します。

 『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』か厚生労働省のホームベージに公開されています。筆者は、団塊世代の『ざ~やん』(ニックネーム)こと浅学菲才な高齢者ですが、日々の生活の糧である公的年金制度の正しい知識を学びたいと思います。公的年金制度は、いま働いている現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方を基本とした財政方式で運営されています。また、日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっています。つまり、日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっています。筆者は、『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』を転載しますが、文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。今回は、第6話「積立金の役割」を学習します。
最終改訂:令和4年11月1日










 年金積立金の目的 
 日本の公的年金制度は現役世代の保険料負担で高齢者世代を支えるという考え方を基本としています。そのため、年金給付を行うために必要な資金を、事前にすべて積み立てておくわけではありません。しかし、現在の日本では少子高齢化が急激に進んでおり、現役世代の保険料だけで年金給付を賄おうとすると、保険料の引き上げまたは給付水準の低下が避けられない状態になっています。そこで公的年金制度では、一定の積立金を保有し、その運用収入や元本を活用する財政計画を立てています。 2004年の年金制度改正において、積立金はおおむね100年をかけて、計画的に活用することになりました。

 年金積立金の水準(積立度合)の見通し
 積立金をどの程度保有しているかを見るための指標として積立度合というものがあります。これはおおよそ積立金が支出の何年分あるのかを示しています。令和元(2019)年財政検証の結果によると、以下のような見通しとなっています。

ガイド経済成長と労働参加が進むケースⅠ~Ⅲでは、2040年代頃まで積立度合が上昇し、その後、積立金を活用することによって1に向かっていくニャ。でも、経済成長が低いケースⅣやⅤでは、積立度合も ほとんど上昇せず、 ケースⅥでは、積立金が途中でなくなってしまう(積立度合が0となる)見通しだニャ。

ガイドたし所得代替率みると、ケースⅢなら50%を上回るけど、ケースⅥなら36~38%程度まで低くなっちゃうんだよね・・・



ガイド言い換えると、経済が成長せず、万が一積立金を使い切ってしまうようなことがあっても、30%台の所得代替率を維持できる見込みではあるってことだニャ


5年ごとに行う財政検証において、そのつど、年金積立金は100年かけて使っていく想定をしています。
公的年金においては、保険料収入に加え、国庫負担とこの積立金が財源となっています。ただし、積立金は被保険者から納められた保険料の一部であり、将来の給付財源となることに注意して運用しなければなりません。したがって、積立金の運用は、被保険者の利益のために、長期的な観点から、安全かつ効率的に行っています。こうした運用により、将来にわたって公的年金制度の運営が安定するように積立金を役立てています。

 年金財政の見通し  
 公的年金の財政検証では、保険料収入、国庫負担、積立金の運用による収入と支出のおおむね100年にわたる見通しを作成しています。令和元年(2019)年財政検証のケースⅠ、Ⅲ、Ⅴについて、厚生年金国民年金収入、支出および積立金の見通しは次のとおりでした。令和97(2115)年度の積立度合が1となる、すなわち令和97(2115)年度開始時の積立金が令和97(2115)年度における支出の1年分となるような給付水準調整を行った上で、おおむね100年にわたる財政見通しを示しています。

国民年金の財政見通し令和元(2019)年財政検証)

厚生年金の財政見通し(2019(令和元)年財政検証)

ガイド2050年あたりから積立金が一気に減少する見通しだけど、これはどうして?

ガイド給付水準が下がりすぎないように、人口構成が最も高齢化する時期に集中的に年金の支給にあてるんだニャ



 年金積立金の運用状況
厚生年金と国民年金の積立金は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)等によって管理・運用されています。国内外の債券と株式が主な資産内訳です。

出典:「2020年度業務概況書」(年金積立金管理運用独立行政法人)

ガイドどうして積立金を債権や株式で運用するの? そのまま積み立てておけばいいんじゃないの?


ガイドそういう意見もあるニャ。だけど、積立金の運用収益も給付に使うことによって将来の年金水準を高める効果もあるニャ。運用がマイナスになる年もあるけど累積でみれば運用実績はプラスになっているニャ

ガイドそうか、長期でみればプラスなのね





 GPIFの運用実績については、単年度で見るとマイナスの年度もありますが、公的年金は長期にわたって財政の均衡を図っていく制度なので、ある程度の期間でみて評価するべきといえます。そこで、自主運用を開始してからの累積でみると、運用実績はプラスの収益となっています。

2001年度(自主運用開始)からの累積収益額  95兆3,363億円
2001年度(自主運用開始)からの平均収益率     3.61%

出典:「2020年度業務概況書」(年金積立金管理運用独立行政法人)

運用資産の細かい内訳や運用状況、今後の方針などにつきましては、GPIFのサイトをご覧ください。
年金積立金管理運用独立行政法人

年金財政には「実質的な運用利回り(スプレッド)」が大事 
 公的年金は、給付も負担も賃金水準に応じて変動します。そのため、年金財政を見るときは、賃金上昇率を上回った分の「実質的な運用利回り」と言われる利回りが重要になります。

ガイド2019年財政検証の経済前提マンガで読む公的年金制度 第8話と比べて、GPIFの運用実績は大丈夫なの?



ガイド公的年金は、給付も負担も賃金水準に応じて変動するニャ。だから、年金財政を見るときには賃金上昇率を上回った分の「実質的な運用利回り(スプレッド)」が重要になるニャ。この「実質的な運用利回り(スプレッド)」は、2019年財政検証の前提を上回っているんだニャ

「実質的な運用利回り(スプレッド)」とは? 
 公的年金の年金額は、長期的にみると、賃金水準が上がるにつれて増えていきます。また、保険料収入も賃金に一定の保険料率を掛けて計算するため、賃金水準の上昇とともに増加します。ですから、公的年金の財政にとっては、積立金の運用で得られる収入のうち、賃金上昇を上回る分が、実質的な収益となります。このため、実際の運用結果を評価するときには、運用利回りから賃金上昇率を差し引いた「実質的な運用利回り(スプレッド)」を考えます。
実質的な運用利回り=運用利回り-賃金上昇率
 この「実質的な運用利回り」の実績と財政検証の前提とを比較して、年金財政への影響を評価します 。令和元(2019)年財政検証では、実質的な運用利回りを0.4%~1.7%と設定しており、これを実現できるかどうかが重要になります。そして、実際の運用結果をみてみると、実質的な運用利回りは、平成13(2001)年度から令和2(2020)年度までの平均で3.78%となっています。このように、実質的な運用利回りでみると、実際の運用結果は財政検証の前提を上回っているので、公的年金の財政にとってはプラスになっていることがわかります。
参考:公的年金の積立金運用(厚生労働省)
参考:
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)
参考:
最新の運用情報(年金積立金管理運用独立行政法人)

年金の財源のうち、積立金は約1割
 我が国の公的年金制度は、賦課方式を基本とした財政方式をとっているため、年金を給付するための財源は、保険料が中心となっています。また、主に基礎年金の給付を賄うために国庫負担があり、保険料と国庫では賄いきれない部分を積立金で補っています。保険料、国庫負担、積立金それぞれの財源の見通しを以下に示していますが、長期的にみると、保険料が全体の財源の約7割、国庫負担が約2割、積立金が約1割となっています。

 まとめ
●少子高齢化が進行しても安定して年金を給付するため、年金積立金を活用(元本と運用収入の利用)している。
●年金積立金は、おおむね100年かけて使っていく想定で運用
●年金積立金(厚生年金・国民年金)は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)によって債券や株式などで資産運用がされている。
●実質的な運用利回り(運用利回りから賃金上昇率を差し引いたもの)は、令和元(2019)年財政検証の前提を上回っている。
●年金積立金が長期的な給付の財源に占める割合は約1割
厚生労働省※ 出典/転載/引用:積立金の役割 | いっしょに検証! 公的年金 | 厚生労働省 (mhlw.go.jp)


いっしょに検証!公的年金(第7話)~に給付と負担をバランスさせる 仕組みを学習します



いっしょに検証!公的年金(第7話)~給付と負担をバランスさせる仕組みを学習します。

 『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』か厚生労働省のホームベージに公開されています。筆者は、団塊世代の『ざ~やん』(ニックネーム)こと浅学菲才な高齢者ですが、日々の生活の糧である公的年金制度の正しい知識を学びたいと思います。公的年金制度は、いま働いている現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方を基本とした財政方式で運営されています。また、日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっています。つまり、日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっています。筆者は、『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』を転載しますが、文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。
今回は、第7話「給付と負担をバランスさせる仕組み」について学習します。
最終改訂:令和4年11月1日













 少子高齢化が進んでも、公的年金制度はなくなりません
マンガで読む公的年金制度 第5話で紹介したように、現在の日本の公的年金の財政方式では、現役世代から納められる保険料が、そのときの公的年金の主な財源になります。そのため、少子高齢化が進行して保険料を納める現役世代が少なくなると、財源となる保険料収入も減少し、支出(年金を給付するために必要な額)とのバランスが取れなくなる可能性があります。そういった事態を避けるために、現在の公的年金制度には、将来にわたって制度を安定させるための仕組みが導入されています。

 公的年金財政を持続させる仕組み

 平成16(2004)年に改正する前の制度では、5年ごとに給付水準を固定した上で、保険料の段階的な引上げ計画を再計算する「財政再計算」が行われてきました。また、この財政再計算の実施に併せて、公的年金の財政バランスを取るために、負担水準と給付水準どちらも見直すような制度改正を実施してきました。

 段階保険料方式と賦課方式
 厚生年金の前身である労働者年金保険を創設した当初の保険料率は、月収の10%程度に設定され、将来にわたって一定水準の保険料率とする見込みでした。これは、積立方式を基本とする考え方となります。しかし、戦後、当時の混乱期における被保険者と事業主の負担能力を考慮して、暫定的に低い保険料率(3%)を設定したことから、保険料率を将来に向けて段階的に引き上げていく段階保険料方式を採用することとなりました。さらに戦後の経済成長に合わせて年金の充実が図られてきましたが、このときも保険料は直ちに引き上げるのでなく、将来に向けて段階的に引き上げていくこととされたため、将来の保険料の引上げ幅が大きくなるとともに、賦課方式を基本とする財政方式に変わっていくこととなりました。

しかし、想定以上のスピードで少子高齢化が進行したため、財政再計算のたびに保険料の引上げが前回の想定以上に必要となり、そのたびに給付水準も引き下げてきました。そこで、2004(平成16)年に年金財政の枠組みを抜本的に改正し、保険料の引上げスケジュールを固定した上で、自動的に財政のバランスを取る仕組みを導入しました。

  • 1. 上限を固定した上での保険料の引き上げ
  • 2. 基礎年金国庫負担割合の2分の1への引上げ
  • 3. 積立金の活用
  • 4. 財源の範囲内で給付水準を自動調整する仕組み(※マクロ経済スライド)の導入

 平成16(2004)年制度改正の詳細

(1)上限を固定した上での保険料の引き上げ
●平成29(2017)年度以降の保険料水準の固定(保険料水準は、引上げ過程も含めて法律に明記)
●厚生年金: 18.3%(労使折半)(平成16(2004)年 10月から毎年0.354%引上げ)
●国民年金: 16,900円 ※(平成16(2004)年度価格(2(平成17(2005)年4月から毎年280円引上げ)
※ 平成31(2019)年4月から、第1号被保険者に対して産前産後期間の保険料免除制度が施行されることに伴い、平成16(2004)年度価格で国民年金保険料が月額100円引き上がり、17000円となりました。
(2)基礎年金国庫負担割合の2分の1への引上げ 
 平成21(2009)年度以降、基礎年金給付費に対する国庫負担割合を2分の1とする。
(3)積立金の活用
 おおむね100年間で財政均衡を図る方式とし、財政均衡期間の終了時に給付費1年分程度の積立金を保有することとして、計画的に積立金を活用し、後世代の給付に充てる。積立金についてはマンガで読む公的年金制度 第6話をご覧ください。
(4)財源の範囲内で給付水準を自動調整する仕組み(※マクロ経済スライド)の導入  
 現役世代の人口減少とともに年金の給付水準を調整。モデル年金の給付水準について、今後の少子高齢化の中でも、年金を受給し始める時点で、現役サラリーマン世帯の平所得の50%を上回る見通し。
※モデル年金の現役サラリーマン世帯の平均所得に対する割合(所得代替率
61.7%【(令和元(2019)年度】→ 50.8%~51.9%【(令和28(2046)~令和29(2047)年度以降令和元(2019)年財政検証結果(ケースⅠ~Ⅲ))】
 こうした制度改正により厚生年金の保険料率および国民年金の保険料に上限を設けられたため、保険料収入や国庫負担、積立金からの収入が固定され、その固定された財源の範囲内で給付水準を自動的に調整することで、給付と負担の均衡が図られる財政方式に変わっていったのです。そして、平成16(2004)年改正までの「財政再計算」に代わり、少なくとも5年ごとに、おおむね100年という長期の財政収支(保険料収入や給付費等の収支)の見通しや、マクロ経済スライドに関する見通しを作成し、公的年金財政の健全性を検証する「財政検証」を行うこととなりました。

 平成16(2004)年改正前と改正後の比較

  改正前 改正後
保険料

財政再計算において、給付設計(見直す場合もあり)を賄うことのできる保険料の将来見通しを作成

次期再計算までの間の保険料(率)を、当面の間の保険料(率)として法律に規定

将来の保険料水準の上限を固定

保険料水準の引き上げ過程も含めて法律に明記することにより、毎年、自動的に引上げ

※保険料水準の引上げは2017年度に上限に到達し終了

年金額改定

平成元(1989)年以降は、年金額は消費者物価指数に基づき完全物価スライド(制度改正は不要)

賃金上昇等を踏まえた年金額改定については、5年に一度の再計算時に法律改正して年金額に反映。(賃金再評価や基礎年金額の改定) ※平成12年改正により既裁定者に関しては物価スライドのみ

新規裁定者は賃金変動率、既裁定者は物価変動率に基づき改定を原則とした上で、給付水準調整期間は、マクロ経済スライド調整分を控除

毎年度、自動的に改定

財政フレーム
(給付と負担の均衡を図る仕組み)

再計算における保険料負担の見通しを踏まえて必要となる場合には、その都度、給付設計等の見直しを実施

財源の範囲内で給付水準を自動的に調整する仕組み(マクロ経済スライド)により、給付と負担の均衡を自動的に図る

積立金

原則として、その「運用収入」を活用し、高齢化が進んだ将来の保険料負担を抑制するためのもの

今後、約100年間の高齢化に対応するため、運用収入のみならず原資についても給付費に充てる

制度(法律)上の財政再計算と財政検証の役割

将来の保険料の見通しを作成した上で適切な保険料を設定する

給付と負担の均衡を自動的に図る仕組みの下で、マクロ経済スライド調整の適用期間の見通しを作成し年金財政の健全性を検証するとともに、マクロ経済スライド調整の終了年度を決定する

マクロ経済スライドってなに?
 マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役世代の人口減少平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。

 マクロ経済スライドについて
 マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役世代の人口減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。

 マクロ経済スライド導入の経緯
 平成16(2004)年に改正する前の制度では、将来の保険料の見通しを示した上で、給付水準と当面の保険料負担を見直し、それを法律で決めていました。しかし、少子高齢化が急速に進む中で、財政再計算を行う度に最終的な保険料水準の見通しは上がり続け、将来の保険料負担がどこまで上昇するのかという懸念もありました。そこで、平成16(2004)年の制度改正で、将来の現役世代の保険料負担が重くなりすぎないように、保険料水準の上限を定めるとともに、上限に到達するまでの毎年度の保険料水準を法律で決めました。また、国が負担する割合を引き上げ、積立金も活用していくことにより、公的年金財政の収入を決めることとしました。この収入の範囲内で給付を行うため、「社会全体の公的年金制度を支える力(現役世代の人数)の変化」と「平均余命の伸びに伴う給付費の増加」というマクロでみた給付と負担の変動に応じて、給付水準を自動的に調整する仕組みを導入したのです。この仕組みを「マクロ経済スライド」と呼んでいます。

具体的な仕組み
(1)基本的な考え方
 年金額は、賃金や物価の上昇に応じて増えていきますが、一定期間、年金額の伸びを調整する(賃金や物価が上昇するほどは増やさない)ことで、保険料収入などの財源の範囲内で給付を行いつつ、長期的に公的年金の財政を運営していきます。5年に一度行う財政検証のときに、おおむね100年後に年金給付費1年分の積立金を持つことができるよう、年金額の伸びの調整を行う期間(調整期間)を見通しています。その後の財政検証で、年金財政の均衡を図ることができると見込まれる(マクロ経済スライドによる調整がなくても収支のバランスが取れる)場合には、こうした年金額の調整を終了します。

(2)調整期間における年金額の調整の具体的な仕組み
 マクロ経済スライドによる調整を行う間は、賃金や物価による年金額の伸びから、「スライド調整率」を差し引いて、年金額を改定します。「スライド調整率」は、現役世代が減少していくことと平均余命が伸びていくことを考えて、「公的年金全体の被保険者の減少率の実績」と「平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)」で計算されます。

(3)名目下限の設定
 現在の制度では、マクロ経済スライドによる調整は「名目額」を下回らない範囲で行うことになっています。詳しい仕組みは、下の図を見てください。
※平成30(2018)年度以降は、「名目額」が前年度を下回らない措置を維持しつつ、賃金・物価の範囲内で前年度までの未調整分の調整を行う仕組みとなります。

(4)調整期間中の所得代替率
 マクロ経済スライドによる調整を行う間は、所得代替率は低下していきます(所得代替率について詳しくは、マンガで読む公的年金制度 第9話をご覧ください)。調整期間が終わると、原則、所得代替率は一定となります。

財政検証は定期的に実施しています
 公的年金の財政バランスは、人口構成や社会・経済情勢の変化によって刻々と変わります。あらかじめ100年先まで収入や支出などの見通しを立てていても、実際に見通しどおりになるとは限りません。そこで、「財政検証」では、少なくとも5年ごとに人口や経済の実績を織り込んで、新しい見通しを作成します。

ガイド公的年金の財政バランスは、人口構成や社会・経済情勢によって刻々と変わるニャ。財政検証は、いわば公的年金の定期健康診断だニャ


 まとめ
●平成16(2004)年度まで行われていた「財政再計算」は、給付水準を維持する場合に必要な保険料を算定するもの
●平成16(2004)年に少子高齢化が進行しても財源の範囲内で給付費をまかなえるよう、制度を改正。財源にあわせて給付の水準を自動調整する仕組み(マクロ経済スライド)を導入し、長期的に財政のバランスをとる枠組みを構築
●平成16(2004)年改正に伴い「財政再計算」は、将来の収支見通し等を作成し、公的年金財政の検証を定期的に行う「財政検証」へ移行

厚生労働省※ 出典/転載/引用:給付と負担をバランスさせる仕組み | いっしょに検証! 公的年金 | 厚生労働省 (mhlw.go.jp

いっしょに検証!公的年金(第8話)~公的年金財政の重要な要素を学習します



いっしょに検証!公的年金(第8話)~公的年金財政の重要な要素を学習します。

 『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』か厚生労働省のホームベージに公開されています。筆者は、団塊世代の『ざ~やん』(ニックネーム)こと浅学菲才な高齢者ですが、日々の生活の糧である公的年金制度の正しい知識を学びたいと思います。公的年金制度は、いま働いている現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方を基本とした財政方式で運営されています。また、日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっています。つまり、日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっています。筆者は、『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』を転載しますが、文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。
今回は、第8話「公的年金財政の重要な要素」について学習します。
最終改訂:令和4年11月1日







 財政検証では、おおむね100年という長い期間にわたって、公的年金財政の見通しを立てています。そして、この見通しを作成するには、人口や経済といった社会の状況がどのように推移するかという前提が必要になります。ただし、社会の状況は変化し続けていて、不確実なものです。そのため、財政検証の前提は、一種類だけではなく、幅広く複数のケースを設定しており、その上で将来見通しの作成を行っています。ですので、財政検証の結果は将来を正確に予測するものではありません。完全に見通しどおりにはいかないことを前提に、ある程度の幅をもって解釈する必要があります。このため、少なくとも5年ごとに実績を織り込んで、新しい見通しを作成しています。令和元(2019)年財政検証結果については、第9話からご紹介していますが、まず、このページでは、 令和元(2019)年財政検証の前提となった人口と経済の見通しをご紹介します。
人口の前提
 2019(令和元)年財政検証では、将来の人口の見通しについて、以下のデータを使用しました。
●「日本の将来推計人口(2017(平成29)年4月推計)」(国立社会保障・人口問題研究所

ガイド2019年財政検証のいろいろな見通しは、この「高位」「中位」「低位」の各前提を使って作ったニャ



 参考:最近の人口の動向

ガイド出生率は、一人の女性が一生に産む子どもの数を表しているのよね  

                                   


1990年から2065年までの人口構成の推移

ガイド2065年には、20歳未満の数が1割ちょっとしかいなくなっちゃう見通しなんだね




ガイド日本はもう何年も前から高齢化世界一って言われてるけど、この見通しだともっと進むのか……




ガイド財政検証では、こうした厳しい見通しを前提に計算しているんだニャ

労働力率の前提
 令和元(2019)年財政検証では、労働力率の前提は、以下のデータに準拠しています。
・2019年3月にとりまとめられた「労働力需給推計」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)に準拠して設定
・将来の経済状況の仮定に応じ、 「経済成長と労働市場が進むケース」、「経済成長と労働参加が一定程度進むケース」、「経済成長と労働参加が進まないケース」のいずれかを使用
労働力率・就業率の推移と見通し
 「労働力需給の推計(平成31(2019)年3月)」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)

お義姉さん私が働くようになると、労働力率が上がることになるのね





ミーコもっと女性や高齢者が働けるように、長く多様な形で働ける社会をつくっていくことが重要だニャン


被保険者数の将来見通し
 被保険者数の将来推計は、このような人口の推移や労働力率の見通しを基礎データとして使用しています。令和元(2019)年財政検証では、被保険者数の将来推計は、以下のデータを基礎として算出しました。
人口:「日本の将来推計人口(平成29(2017)年4月推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)
労働:「労働力需給推計(平成31(2019)年3月)」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)

マクロ経済スライドの調整率は、公的年金全体の被保険者の減少率の実績に、平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)を加えたものに基づいています。令和元(2019)年の財政検証における公的年金被保険者数の減少率、マクロ経済スライドの調整率の見通しは上表のとおりとなります。なお、この調整率は令和元年(2019)年財政検証における見通しであり、マクロ経済スライドの実際の値はそのときの被保険者数に基づいて計算されます。
経済の前提
 財政検証で用いる経済の前提は、賃金上昇率物価上昇率運用利回りについて、一定の前提を置いています。また、こうした経済前提の設定には客観的な見方が求められるため、2019年財政検証では、社会保障審議会年金部会に設置された年金財政における年金財政における経済前提に関する専門委員会で、経済・金融の専門家による議論を踏まえて設定しました。その結果、足下の前提については、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算(令和元(2019)年7月31日)」の「成長実現ケース」、「ベースラインケース」に準拠して設定し、長期の前提については、内閣府試算を参考にしつつ、長期的な経済状況を見通す上で重要な全要素生産性(TFP)上昇率を軸とした、幅の広い複数ケース (6ケース)を設定しました。

ガイド冒頭の、「人口の高位・中位・低位」と、この「6ケースの経済の前提」を組み合わせていろいろなパターンの見通しができたんだニャ


 令和11(2029)年度以降の長期の経済前提   
 令和元(2019)年財政検証では、内閣府試算を参考にしつつ、長期的な経済状況を見通す上で重要な全要素生産性(TFP)上昇率を軸とした、幅の広い複数ケース (6ケース)を以下のとおり設定しました。

 令和10(2028)年度までの足下の経済前提 
 令和元(2019)年財政検証では、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算(令和元(2019)年7月31日)」の「成長実現ケース」、「ベースラインケース」に準拠して設定しました。

 令和10(2028)年度までの足下の経済前提の数値

参考: 最近の物価、賃金や運用利回りなどの経済の動向
こちらの表をご覧ください。

 まとめ
●令和元(2019)年財政検証の前提となる人口と経済は、人口は「高位・中位・低位」、経済は「ケースⅠ~ケースⅥ」を設定し、各パターンを組み合わせて、年金財政について幅広く複数の見通しを作成
●人口の前提は、国立社会保障・人口問題研究所が取りまとめた結果に基づいて設定
●経済の前提は、客観性を確保するため、外部の金融・経済の専門家による専門委員会の検討結果に基づいて設定


いっしょに検証!公的年金(第9話)~所得代替率と年金の 実質価値を学習します



いっしょに検証!公的年金(第9話)~所得代替率と年金の実質価値を学習します。

 『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』か厚生労働省のホームベージに公開されています。筆者は、団塊世代の『ざ~やん』(ニックネーム)こと浅学菲才な高齢者ですが、日々の生活の糧である公的年金制度の正しい知識を学びたいと思います。公的年金制度は、いま働いている現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方を基本とした財政方式で運営されています。また、日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっています。つまり、日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっています。筆者は、『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』を転載しますが、文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。
今回は、第9話「所得代替率と年金の実質価値」を学習します。
最終改訂:令和4年11月1日










 自分の公的年金は、いったいどのくらい給付されるのか。それは、多くの方が関心を持っている事柄だと思います。その前に、まず公的年金の給付水準はどのようなものさしで考えるのか、それを見ていきましょう。
公的年金はモデル年金をものさしとして使用するモデル年金とは
 夫が厚生年金に加入して平均的な男子賃金で40年間就業し、その配偶者が40年間にわたり専業主婦の夫婦である場合の2人分の基礎年金と夫の厚生年金の合計額のことです。実際に受給できる年金額は、現役期の働き方により一人一人異なります。このため、財政検証では加入期間や賃金について上記の仮定を置いたモデル年金をものさしとして使っています。なお、令和4(2022)年度のモデル年金の年金額は、月額22.0万円となっています。モデル年金の年金額(月額)
老齢基礎年金(一人分)①  64816円
老齢厚生年金 ②      89961
合計(①×2+②)    219593円               

 公的年金の給付水準は「所得代替率」で考える
 「所得代替率】とは、年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合か、を示すものです。たとえば、所得代替率50%といった場合は、そのときの現役世代の手取り収入の50%を年金として受け取れるということになります。

ガイド「所得代替率」は主に厚生年金に対して使われているニャ




 公的年金において単純に「所得代替率」といったときには、モデル年金の男子の平均的な手取り賃金に対する比率を意味します。
今回の財政検証の足下の給付水準となる令和元(2019)年度の所得代替率については、以下のとおりとなっています。

 

なぜ所得代替率が必要か 
 公的年金の特徴に、額ではなく一定の価値を保障するというものがあります。年金の「金額」を固定すると、インフレや給与水準の上昇があったときに、年金の価値が下がってしまう(※)恐れがあります(価値が減少することについては、マンガで読む公的年金制度 第5話をご覧ください)。すなわち、年金の名目額はインフレ等を踏まえると、年金の実質価値を表しておらず公的年金の水準を図る指標としては適切ではありません。このため、公的年金ではモデル年金と所得代替率を設定し、給付開始時の現役世代の手取り収入と比べてどの程度の年金額を受け取れるか、という指標(ものさし)を設けているのです。この指標は、現役世代の賃金に対する年金の相対的な水準を測るものになります。
※これを避けるために、公的年金は、年金額が賃金や物価の変動に応じて改定される仕組みがあります。
所得代替率は所得で異なる
 所得代替率は、世帯の所得水準によって異なり、世帯の一人あたりの所得が低いほど高くなります。高所得の世帯は個人年金や貯蓄などで老後に備えることができますが、所得の低い世帯は、現役時代のうちに十分な老後の備えをすることが困難かもしれません。そのため、一人当たりの平均所得が高い世帯ほど所得代替率が低くなります。このような背景を踏まえ公的年金では、世帯構成や現役時代の所得の違いを軽減するように設計されています。これを「所得の再分配」ということもあります。所得の再分配については、マンガで読む公的年金 第4話をご覧ください。

ガイドもちろん、実際に支給される厚生年金は現役時代の収入に基づいて算出するから、現役時代の所得が高い世帯の年金額が、所得の低い世帯の年金額より低くなるということはないニャ

将来の年金額は実質的な価値でみます
 仮に将来の年金額が現在の倍になっていたとしても、物価も同様に現在の倍になっていた場合、購買力については現在も将来も変わりません。このように、将来の年金額をみる場合は、名目額でみるのではなく、その実質的な価値でみる必要があります。将来の年金額を実質化する際には、その年金額でどの程度購入できるかが重要な指標となるため、物価水準に応じた経済的価値でみることが一般的です。財政検証においても、将来の年金額については、物価上昇率を用いて現在の価値に割り戻した値で示しています。所得代替率は現役世代の賃金に対する年金の相対的水準を測るものですが、所得代替率が同じ(すなわち賃金に対する年金の比率が同じ)であっても、賃金の実質価値が上昇し、現役世代の購買力が上昇すれば、年金の購買力は上昇します。そこで、将来の年金水準を確認する際には、所得代替率に加え、物価上昇率を用いて現在の価値に割り戻した年金額も示しています。物価上昇率を用いて現在の価値に割り戻した年金額は購買力の絶対的水準、所得代替率は現役世代の賃金に対する相対的水準を表すものとなり、財政検証においては、その両方で年金の水準を確認しています。
まとめ
●公的年金の給付水準を表すものさしとして「所得代替率」を使っている。
●所得代替率とは、給付開始時における年金額の現役世代の手取り収入に対する割合
●※モデル年金:夫婦2人の基礎年金と夫の厚生年金の合計額
●現役時代の所得が高いほど所得代替率は低くなり、所得が低いほど所得代替率は高くなる。公的年金制度が持つこのような機能を所得再分配機能という。
●将来の年金額については、名目値ではなく、物価水準に応じた実質的な価値でみる必要がある。


いっしょに検証!公的年金(第10話)~給付水準の将来見通しを学習します



いっしょに検証!公的年金(第10話)~給付水準の将来見通しを学習します。

 『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』か厚生労働省のホームベージに公開されています。筆者は、団塊世代の『ざ~やん』(ニックネーム)こと浅学菲才な高齢者ですが、日々の生活の糧である公的年金制度の正しい知識を学びたいと思います。公的年金制度は、いま働いている現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方を基本とした財政方式で運営されています。また、日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっています。つまり、日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっています。筆者は、『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』を転載しますが、文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。今回は、第10話「給付水準の将来見通し」を学習します。
最終改訂:令和4年11月2日









将来の年金額は実質的な価値でみます
 仮に将来の年金額が現在の倍になっていたとしても、物価も同様に現在の倍になっていた場合、購買力については現在も将来も変わりません。このように、将来の年金額をみる場合は、名目額でみるのではなく、その実質的な価値でみる必要があります。将来の年金額を実質化する際には、その年金額でどの程度購入できるかが重要な指標となるため、物価水準に応じた経済的価値でみることが一般的です。財政検証においても、将来の年金額については、物価上昇率を用いて現在の価値に割り戻した値で示しています。所得代替率現役世代の賃金に対する年金の相対的水準を測るものですが、所得代替率が同じ(すなわち賃金に対する年金の比率が同じ)であっても、賃金の実質価値が上昇し、現役世代の購買力が上昇すれば、年金の購買力は上昇します。そこで、将来の年金水準を確認する際には、所得代替率に加え、物価上昇率を用いて現在の価値に割り戻した年金額も示しています。物価上昇率を用いて現在の価値に割り戻した年金額は購買力の絶対的水準、所得代替率は現役世代の賃金に対する相対的水準を表すものとなり、財政検証においては、その両方で年金の水準を確認しています。
所得代替率と実質的な年金額の見通し
 
2019(令和元)年財政検証のケースⅠ、Ⅲ、Ⅴにおける、モデル年金の給付水準の見通しは次のとおりでした。

ガイド年金額や手取り収入は物価上昇率で割り戻した金額だから購買力を表しているのね




ガイド実質賃金の上昇がある程度あれば、マクロ経済スライド調整があってもモデル年金の購買力は低下しないのね


                                              


ガイド基礎年金のマクロ経済スライド調整期間が長くて調整が大きいのが課題だニャ



 このように、2019(令和元)年財政検証では2019(令和元)年度の所得代替率が61.7%ですが、マクロ経済スライドによる給付水準の調整が行われる結果、最終的な所得代替率はケースⅠで51.9%、ケースⅢで50.8%となる見込みです。一方、年金額は、2019(令和元)年度には22.0万円でしたが、それぞれのケースでマクロ経済スライドによる給付水準調整が終了する年度でみるとケースⅠの場合、2046(令和28)年度で26.3万円、ケースⅢの場合、2047(令和29)年度で24.0万円になる見込みです。また、マクロ経済スライドは、報酬比例部分(厚生年金部分)についてはケースⅠの場合は調整を行う必要がなく、ケースⅢの場合は、2025(令和7)年度で終了する見通しとなっています。また、基礎年金部分については、ケースⅠの場合2046(令和28)年度、ケースⅢの場合は2047(令和29)年度に終了する見通しです。一方、ケースⅤの場合、マクロ経済スライドによる給付水準の調整によって、2043(令和25)年度に所得代替率が50%に到達する見込みです。仮に、その後も財政のバランスが取れるまで機械的に給付水準調整を進めた場合、報酬比例部分は2032(令和14)年度、基礎年金部分は2058(令和40)年度に調整が終了する見通しで、所得代替率は44.5%、2058(令和40)年度の年金額は20.8万円となる見込みです。
マクロ経済スライドって?
 マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。マクロ経済スライドについてはマンガで読む公的年金制度 第7話の「マクロ経済スライドってなに?」をご覧ください。なお、次の財政検証までに所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、「調整期間の終了について検討を行い、その結果に基づいて調整期間の終了その他の措置を講ずる」こととされていますが、2019(令和元)年財政検証はこれに該当していませんでした。(次の財政検証の予定時期(2024(令和6)年度)における所得代替率は50%を下回る見込みとはなっていませんでした。)2019(令和元)年財政検証では、人口や経済については複数の前提を設定しており、それぞれの前提における最終的な所得代替率は次のとおりでした。

ガイド人口や経済が変わると、所得代替率も結構変わってくるのね




賃金水準別の給付水準
 2019(令和元)年財政検証において、モデル年金の給付水準だけでなく、賃金水準が異なる世帯における給付水準をケースⅠ、Ⅲの場合で示したものが以下の図です。年金額は世帯の賃金水準が高いほど上昇することを示しており、右上がりの直線(赤線)となっています。一方、所得代替率は世帯の賃金水準が高いほど低下するため、右下がりの曲線(緑線)となっています。

公的年金の負担と給付の構造

ガイドこうやってグラフで見ると、賃金水準が上がる(右にいく)ほど所得代替率が下がるのが、よくわかるわね




ガイドでも、給付額をみると、賃金水準が高いほど給付額も高くなっているんだね




 まとめ
●公的年金の給付水準を表すものさしとして「所得代替率」を使っている。
●所得代替率とは、給付開始時におけるモデル年金額の現役世代の手取り収入に対する割合
●モデル年金の所得代替率は、一定の経済成長を仮定するケース(ケースⅠ~Ⅲ)では将来も5割を上回る見通し
●一方、より低い成長を仮定するケース(ケースⅣ~Ⅵ)では財政のバランスを取るようにすると5割を下回る見通し
●※モデル年金:夫婦2人の基礎年金と夫の厚生年金の合計額
●現役時代の所得が高いほど所得代替率は低くなり、所得が低いほど所得代替率は高くなる。
●実質的な年金額は物価や賃金の伸びに応じて上昇していく見込み。



いっしょに検証!公的年金(11話)~年金を充実させるためにを学習します



いっしょに検証!公的年金(11話)~年金を充実させるためにを学習します。

 『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』か厚生労働省のホームベージに公開されています。筆者は、団塊世代の『ざ~やん』(ニックネーム)こと浅学菲才な高齢者ですが、日々の生活の糧である公的年金制度の正しい知識を学びたいと思います。公的年金制度は、いま働いている現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方を基本とした財政方式で運営されています。また、日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっています。つまり、日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっています。筆者は、『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』を転載しますが、文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。
今回は、第11話「年金を充実させるために」について学習します。
最終改訂:令和4年11月2日














現役世代はもっと働かないといけないの? 
 財政検証
結果をみると、経済成長と労働参加が進まないケースに比べ、経済成長と労働参加が進むケースの方が、年金財政にプラスであることが分かりました。ただ、この結果をみて、年金制度を支えるために現役世代がもっと働かないといけないのか、と思う方もいらっしゃったのではないかと思います。まずは、長く働くことが自分自身の年金額にどういう影響を与えるかをみていきましょう。長く働くことによる年金額への効果
 令和元(2019)年財政検証結果をみると、ケースⅢの場合、所得代替率については、2019年度は61.7%ですが、マクロ経済スライドによる給付水準の調整により、令和29(2047)年度には50.8%まで低下する見込みとなっています。ただし、この見込みは、20歳から59歳までの40年間就労し、65歳から年金を受給した場合のものであることに注意が必要です。このとき、令和元(2019)年度と同水準の所得代替率を確保するためには、何歳まで就労すればいいかについて確認したのが下記の図になります。この場合、60歳以降も66歳9月まで就労し、その間、繰下げ受給を選択すれば、現在の水準と同程度の所得代替率となることとなります。これを経済前提がより厳しいケースⅤの場合でみても、70歳まで働けば、今よりも高い所得代替率を確保できる見通しとなっています。我が国の高齢者は以前に比べ,平均余命が伸びるに伴い、健康寿命も伸びている傾向にあります。また、少子高齢化が進展し、現役世代の人口の減少が見込まれるなか、高齢者の労働力は今後ますます貴重なものになってくると思われます。高齢者になってもその人らしく、いきいきと働ける社会を構築することが重要ではないでしょうか。

 長く働くことは我が国の経済や社会保険制度にもメリット 
 高齢者になっても可能な限り長く働くようになると、高齢者も日本経済を支えることになるため、日本経済が大きくなります。一方、公的年金が日本経済に占める割合は変わらないため、日本経済が大きくなると公的年金の給付に使える金額も大きくなります。

ガイド同じ1切れでも、MサイズのパイよりLサイズのパイの方がたくさん食べられるニャ!



 このように、長く働き、働く人が増えれば、その人の年金額は長く働くことによる年金額の増に加え、日本経済が大きくなることによる年金額の増の影響も受けることになります。働く人が増えること以外でも、景気が良くなり、日本経済が活性化することによっても、給付水準が改善することが十分に考えられます。みんなで、子どもを産み育てやすい社会にしながら、同時に日本経済をより良くしていくことが大切ではないでしょうか。そのためにも、皆さんが安心して生活できる仕組みである公的年金制度を長期にわたって持続していくことが重要になります。
まとめ
●公的年金の所得代替率は低下する見通しとなっているが、経済成長や労働参加が進まないケースでも、より長く働くことにより、今よりも高い給付水準の年金額を確保することも可能な見通し
●長く働くことは、その個人の年金額が増えるだけではなく、日本経済がより成長することにより、年金財政が良くなるメリットもある。


いっしょに検証!公的年金(12話)~これからの年金制度を学習します



いっしょに検証!公的年金(12話)~これからの年金制度を学習します。

 『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』か厚生労働省のホームベージに公開されています。筆者は、団塊世代の『ざ~やん』(ニックネーム)こと浅学菲才な高齢者ですが、日々の生活の糧である公的年金制度の正しい知識を学びたいと思います。公的年金制度は、いま働いている現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方を基本とした財政方式で運営されています。また、日本の公的年金制度は、「国民皆年金」という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造になっています。つまり、日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっています。筆者は、『いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~』を転載しますが、文字を大きくしたり、年号を和暦・西暦に加工したりすることがあること了承いただきたいと思います。
今回は、第12話「これからの年金制度」を学習します。今回で、最終回です。ご苦労様でした。
最終改訂:令和4年11月2日







オプション試算について
 今回の財政検証結果をみると、経済成長と労働参加が進むケース(ケースⅠ~Ⅲ)では所得代替率は50%を確保できるものの、経済成長と労働参加が一定程度進むケース(ケースⅣ、Ⅴ)では所得代替率が50%を割り込むことが確認されました。

ガイド経済成長の度合いによっては、所得代替率が40%近くまで下がるのか……経済成長が低くても、年金の水準が低くなりすぎないようにできるのかな?


ガイドこうした背景もあって、国では、今後、社会状況や経済状況が変わっていっても、十分な年金が受け取れるようにするには、どんな制度にしていけばいいかを考えているんだニャ

 こうした背景の下、今回の財政検証では「もし年金制度が変わったら、将来の姿はどうなるか」という視点に基づいて、試算を行いました。これが「オプション試算」と呼ばれるものです。
オプション試算の内容
 オプション試算では、次の2つのオプション試算と参考試算について行っています。
オプションA 被用者保険の更なる適用拡大
 働き方の多様化が進む現在の日本において、働き方にかかわらず年金の2階部分(厚生年金)を受け取れることは、公的年金の意義から見ても非常に重要です。そのため、オプションAとして、より多くの労働者が厚生年金の適用を受けられるようになった場合の試算を行いました。現行の制度では、厚生年金に加入できるのは正社員(正規職員)、または正社員に近い労働時間・労働内容のパートやアルバイトに加え、2016年10月からは、ⅰ週労働時間20時間以上、ⅱ月額賃金8.8万円以上、ⅲ勤務期間1年以上見込み、ⅳ学生以外、ⅴ従業員501人以上の企業等の要件を満たす短時間労働者となっています。オプションAでは、この制限を緩和し、

A―① 現行の企業規模要件を廃止した場合(約125万人の拡大を想定):
A―② 現行の企業規模要件、賃金要件を廃止した場合(約325万人の拡大を想定)

ただし、学生、勤務期間1年未満の者、非適用事業所の雇用者は対象外
A―③ 一定の賃金収入(月5.8万円以上)がある全ての被用者へ適用拡大した場合(約1050万人の拡大を想定)
 なお、学生、勤務期間1年未満の者、非適用事業所の雇用者についても適用拡大の対象の3種類のケースで、厚生年金への適用拡大を行った場合を考えています。これは、厚生年金の加入者が増えることで、どの程度将来の年金水準が改善するかをみるものです。

オプションB 保険料拠出期間の延長と受給開始年齢の選択
平均寿命
が延び、同時に高齢者人口が増加していく中で、60歳を過ぎても働き続ける方が多くなっています。そのため、オプションBは、「より長く多様な形となる就労の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤を充実させる」という基本的な考え方のもと、就労期の長期化による年金水準の確保・充実について検討することを目的として、以下の4つの制度改正を仮定した試算となっています。また、これら4つの制度改正を全て実施した場合の試算も行っています。

B―① 保険料拠出期間の延長 
 現在の制度では、国民年金保険料を納付する期間は最大40年(20歳から60歳まで)となっています。これを45年間(20歳から65歳まで)とし、納付年数が伸びた分に合わせて基礎年金を増やす仕組みにした場合をみるものです。

B―② 在職老齢年金の見直し 
 65歳以上の在職老齢年金(高在老)の基準を緩和・廃止した場合をみるものです。

B―③ 厚生年金の加入上限の見直し
 厚生年金の加入年齢の上限を現行の70歳から75歳までに延長した場合をみるものです。

B―④ 受給開始年齢の選択 
 個人の選択により繰下げ受給や就労期間を伸ばすことで給付水準がどの変化するかをみることを目的としたミクロ試算です。他のオプション試算と異なり、給付水準調整期間が変化するなどのマクロの財政影響は生じないものとなっています。

・参考試算 平成28(2016)年年金改革法による年金額改定ルールの効果

 今回のオプション試算では、参考試算として平成28(2016)年年金制度改革法で成立した年金額改定ルールの見直しの効果を検証しました。

オプション試算の結果

●オプションA 被用者保険の更なる適用拡大 
 厚生年金の加入者が増加することにより、将来の給付水準が改善されることが分かりました。また、現在パート・アルバイトなどで国民年金にしか加入していない人でも、厚生年金に加入できるようになると将来的に厚生年金も受け取れるようになります。

A―① 現行の企業規模要件を廃止した場合

A―② 現行の企業規模要件、賃金要件を廃止した場合

A―③ 一定の賃金収入(月5.8万円以上)がある全ての被用者へ適用拡大した場合

●オプションB 保険料拠出期間の延長と受給開始年齢の選択

B―① 保険料拠出期間の延長

 どのケースも所得代替率が6~7%程度上昇し、給付水準が大幅に改善する結果となりました。保険料の拠出期間が40年から45年に延長されたことに伴い、年金額が45/40倍となるため、給付水準もおおむね45/40倍となったためです。この結果、ケースⅤの場合であっても、50%超の給付水準を確保できる見通しとなりました。

※2026(令和8)年度より納付年数の上限を3年ごとに1年延長。

※スライド調整率は、現行の仕組みの場合と同じものを用いています

B―② 在職老齢年金の見直し 
 65歳以上の在職老齢年金(高在老)について、支給要件を緩和した場合は所得代替率が0.2%程度低下し、高在老を廃止した場合は所得代替率が0.3~0.4%程度低下する結果となりました。なお、在職老齢年金制度による支給停止は厚生年金(報酬比例)が対象ですので、基礎年金への影響はありません。

B―③ 厚生年金の加入上限の見直し 
 厚生年金の加入年齢の上限を現行の70歳から75歳に延長した場合、所得代替率への影響は、ケースⅠの場合影響なし、ケースⅢの場合0.3%上昇、ケースⅤの場合0.2%上昇する結果となりました。これは、厚生年金加入者増加することで、保険料収入と将来の給付がそれぞれ増加することになりますが、給付は徐々にしか増えないため、保険料の納付から給付までの間の運用益が発生すること等によるものです。なお、70歳以上は基礎年金の算定期間ではありませんので、基礎年金の給付水準には影響がありません。

B―④ 受給開始年齢の選択 
 オプションB―④は個人の選択で繰下げ受給や就労期間を延ばすことにより、給付水準がどう変化するかを試算したミクロ試算となっています。このため、他のオプション試算とは異なり、給付水準を調整する期間が変化するなどのマクロの財政影響は生じません。試算結果をみると、マクロ経済スライドにより給付水準が抑えられていくなかで、繰下げ受給や就労期間を伸ばすことは給付水準を確保する有効な選択肢となることが分かります。例えば、ケースⅢの場合でかつ75歳まで働いて受給を開始すると、マクロ経済スライドによる給付水準調整後の所得代替率は95.2%となります。

B―⑤ オプションB―①~B―④の全てを行った場合
 オプション試算B―⑤は、オプション試算B―④に①~③の制度改正を加味した場合となっています。このため、基礎年金の加入期間が45年に延長されていることや、厚生年金の加入期間が75歳まで延長されたこと、在職老齢年金の廃止が前提となっているため、全ての年金額が繰り下げの対象となり、増額されるため、B―④とりも給付水準が高くなっています。

オプションAとBの組み合わせ試算
  オプション試算では、これまで説明した、オプションAとオプションBについて、その両方を行った場合の試算も行いました。なお、オプションAとオプションBはそれぞれ複数の試算を行っていることから、全ての組み合わせを試算すると試算結果が膨大になるため、影響が大きい「オプションA―②とオプションB―①~③」、「オプションA―③とオプションB―①~③」の2種類について行っています。 試算結果をみると、「オプションA―②とオプションB―①~③」の場合は7~8%程度、「オプションA―③とオプションB―①~③」の場合は10~11%程度、所得代替率が上昇しています。これはおおむねオプションAとオプションBの影響を合わせた結果となっています。

●参考試算 2016(平成28)年年金改革法による年金額改定ルールの効果 
 今回のオプション試算では、参考試算として、2016(平成28)年年金改革法で成立した年金額改定ルールの見直しの効果を検証しました。このため、オプション試算のように一定の制度改正を仮定した試算とは異なり、既に組み込まれている制度の効果を測定するものになっています。なお、参考試算における経済前提については、経済変動を仮定したものになっています。(物価上昇率賃金上昇率が2023(令和5)~2052(令和34)年度の30年間、10年周期の変化を繰り返し、変動幅を物価上昇率±1.1%、名目賃金上昇率±2.9%と設定)

 参考試算の一つ目が年金額改定ルールの見直しのうち、賃金変動に合わせて改定する考え方を徹底することによる効果です。改正効果としては、物価変動が賃金変動よりも高い場合であっても、賃金変動に合わせて改定することになるため、調整終了後の所得代替率は上昇する結果となっています。特に低い成長を仮定するケースでは、賃金変動率が物価変動率よりも小さくなる場合が多いため、改正の効果も大きくなっています。

 参考試算の二つ目は、年金額改定ルールの見直しのうち、マクロ経済スライド調整の見直し(キャリーオーバー)による効果です。これは現行の仕組み(キャリーオーバーを実施した場合)とキャリーオーバーの仕組みが無かった場合を比較したものです。なお、マクロ経済スライドによる調整がフルに発動される仕組みとした場合も試算しています。改正の効果としては、キャリーオーバーの仕組みにより、マクロ経済スライドの未調整分が比較的早期に解消されるため、キャリーオーバーの仕組みが無かった場合よりも調整終了後の所得代替率は上昇する結果となっています。特に低い成長を仮定するケースでは、未調整分が多く発生するため、改正の効果も大きくなっています。

令和2(2020)年の年金制度改正
 令和元(2019)年財政検証で行ったオプション試算を踏まえ、令和2(2020)年の年金制度改正では、被用者保険の適用拡大(事業所規模50人超の事業所に緩和)が行われました。その他、令和2(2020)年改正では、在職中の年金受給の在り方の見直し(在職定時改定の導入、60~64歳の在職老齢年金の支給要件の緩和)、受給開始時期の選択肢の拡大(繰り下げ受給の年齢を75歳に拡大)等が行われました。
まとめ
●今後、社会・経済状況が変わっていっても、十分な年金が受け取れるような年金制度を検討していく必要がある。
●もし年金制度が変わったら、将来の姿はどうなるかをみるための試算が行われ、それをオプション試算という。
●オプション試算は、オプションA被用者保険の更なる適用拡大 オプションB保険料拠出期間の延長と受給開始年齢の選択制が行われ、参考試算として、平成28(2016)年年金改革法による年金額改定ルールの効果についても行った。
●実際の制度改正については、被用者保険の更なる適用拡大が一部実施された。